熱砂の国のアリア―ブ・ナーリヤ

ジャミル「皆さんには買い物を楽しんでいただきたいのですが、貴重品の管理はしっかりとしてください。高級品を買いに来るお客の財布を狙ってスリを行う不届き者もいますので」

監督生「スリはどの世界にもいるんだな。」

ケイト「ねぇ、あっちに人がたくさん集まっているよ。なんだろ?」

ジャミル「あの辺りは、芸人たちがパフォーマンスをするスペースになっています」

トレイ「ジャグリングにバルーンアート、パントマイム……色々な芸があって、見応えがあるな」

マレウス「ん?あそこは一際、人だかりができているぞ」

グリム「うにゃにゃ!?猿がボールに乗って、お手玉をしてる!」

「本当ね。上手だわ」

視線の先にいたのは、グリム君より少し背丈が低い猿。

器用にボールに乗って、お手玉をしている姿はとても可愛らしい。

トレイ「随分賢くて器用な猿だ。隣にいる芸人が飼い主なのかな?」

監督生「かわいい~~!」

「ふん!あんなの簡単にできるんだゾ。おい、監督生。やってみろ!」

監督生「―――は?」

グリム「ひえっ……」

ふざけたことを言った親分をユウが思わず睨みつけると、グリム君は涙目になった。

トレイ「グリムは、監督生じゃなくて自分の方が飼い主だと思っているのか……」

グリム「とーぜんだ。コイツはオレ様の子分なんだゾ」

マレウス「なんと厚かましいモンスターがいたものだ。猿の方がよほど礼儀正しいかもしれないな」

グリム「なにー!ツノ太郎のくせに生意気なんだゾ!」

「ウキキ!」

マレウスさんに反論したグリム君だが、ちょうど芸を披露していた猿が笑った。どうやら、さっきのやりとりを聞いていたようだ。

グリム「あの猿、オレ様のことを笑ったゾ!馬鹿にしやがって!」

監督生「自業自得だよ」

トレイ「まあまあ。そう怒るなよ」

ぷりぷり怒るグリム君にユウが素っ気ない態度を取るが、カリム君がその場を和ませた。

カリム「どうだ?熱砂の国は見所いっぱいだろ?」

ケイト「うんうん。レトロなテントにカラフルな野菜や果物。マジカメ映えする物ばかりでサイコー!」

トレイ「ああ、珍しい料理もたくさん食べられたしな」

マレウス「熱砂の国の人々の活気に触れることができてとても良い経験になった」

監督生「私もこの世界で初めて旅行だから不安もあったけど、それ以上にとても楽しいです」

「久しぶりに故郷に帰れて、生徒のみんなと楽しめて充実した時間になったわ。」

カリム「そっかー!良かった!ジャミルの案内のおかげだな。でも……そんなに楽しんでもらえたなら、やっぱりリリアにも来てほしかったなあ」

そうだ。本当なら、この旅にはリリアさんもいた。
だけど、急病のせいで彼は来られなくなってしまった。

カリム「急にお腹が痛くなったなんてきっとすごく残念だっただろうな」

マレウス「ああ。とても口惜しそうだった。リリアは旅行が好きなんだ。茨の谷にいた頃から、よく1人で外国に行っていた。ほとんど茨の谷を出たことのない僕にとってリリアの旅の話はとても新鮮なものだった。
 毎回変わった土産物を買ってきてくれるのも楽しみで、もらう度にとても嬉しくてな。だから今回は、僕からリリアに土産を渡したいと思っている。今までの礼だ」

監督生「それは素敵な話だね、ツノ太郎」

今までお土産をくれたリリアさんに、お礼をしたいというマレウスさんの気持ちはとても真っ直ぐだ。

だからこそ、彼の手伝いをしたいと思った。

マレウス「そう言ってくれるか。ならば是非、お前の意見も聞かせてほしい」

カリム「ロゼッタもこう言ってるんだ。オレもリリアへのお土産を渡そーっと!」

ケイト「いいね、みんなで買って帰ろうよ。リリアちゃん、きっと喜んでくれると思うな」

トレイ「そうだな。少しでも熱砂の国を感じてもらおう」

ジャミル「このザハブ市場でならいいものを見つけられると思います」

「そうしましょう!」

ジャミル「それでは、お土産探しを開始しましょう」

ここでも満場一致した私たちは、リリアさんにあげるお土産探しをすることになった。

カリム「リリアへのお土産といったら、アレじゃないか?」

ケイト「アレだよね~♪軽音部といえば……」

カリム・ケイト「「楽器!」」

ケイトさんとカリム君は、リリアさんと同じ軽音部。
だからこそ、2人が買うお土産はあっさり決まった。

カリム「よし。じゃあオレたちは楽器店に行こうぜ。ジャミルは他のみんなをお店に案内してやってくれ」

ジャミル「……わかった、気を付けろよ。なにかあったらすぐに連絡してくれ。ケイト先輩。よろしくお願いいたします」

ケイト「観光客なのに、地元の人をよろしく頼まれちゃった……でもオッケー。カリムくんと離れないようにするね♪」

カリム「よし!楽器店へレッツゴー!」

意気揚々と買いに行く2人を、ジャミル君はしっかりと最後まで見送った。

ジャミル「よし、ちゃんと楽器店の方角に向かったな。ケイト先輩の案内はカリムに任せればいいだろう。姿は見せていないが、カリムにはアジーム家の護衛もちゃんとついているし、心配ない」

監督生「え?いるんですか、護衛」

「当然だろ。ロゼッタ様にも護衛はついている」

監督生「嘘でしょ、どこにいるのか全然わからない……!」

「ふふっ。護衛の人は気配を隠すが上手だから、気付かないのは当然だわ。」

監督生「そうなんですね。」

マレウス「アジームとダイヤモンドはリリアにどんな楽器を見繕ってくるのか……ふふ、僕としても楽しみだ」

トレイ「じゃあ俺たちもリリアの土産物を探しがてらいろいろと見て回るとするか」

ジャミル「そうですね。まずどの店から行くべきか……。監督生とグリムは誰にお土産を買っていくんだ?」

グリム「とりあえずエースとデュースには買うつもりなんだゾ。アイツらに熱砂の国に行くって話したら『オレたちも行きたい』ってうるさくてよ……」

ジャミル「……どこかの誰かさんを思い出すな」

監督生「あはは……」

たしかに、グリム君が『行きたい』ってうるさく言ったからこそ、ここにいるものだものね。

グリム「ま、子分たちを労ってやるのもボスの務めだからな!美味そうなお菓子の1つや2つ、買っていってやるんだゾ!」

ジャミル「相変わらず仲がいいようでなによりだ。お土産を買う相手はそれだけか?」

監督生「他だとA組のみんなとお世話になってる先生方……あ、あとサバナクロー寮のみんなに」

ジャミル「あそこの寮生は群れとしての統率は取れているが、他所の人間はなかなか受け入れない印象がある。君が彼らと親しくしているとは、正直なところ意外だよ。いったいどうやって手懐けたんだ?」

監督生「手懐けたというか……自然に?」
29/47ページ
スキ