熱砂の国のアリア―ブ・ナーリヤ

なんとかタワーバゲットを食べきり、再びラクダバザールを歩いていると、ケイトさんがあるものを見つけた。

ケイト「んっ?あの青い壺ってなんだろ?」

トレイ「大小様々なサイズの物が売られているな。どんな用途で使う物なんだ?」

ジャミル「穀物やコーヒー豆、茶葉を貯蔵したり、花を飾ったり……色々ですね。そういった普段使いの容器のほかに、この壺は厄除けとしても使われています」

監督生「厄除け?」

「花火大会の伝承に出てくる青年が、追手から逃げ回っている時に……青い壺を被り、姿を隠して難を逃れたという言い伝えがあるの」

監督生「それはまた、ずいぶんと個性的な逃げ方ですね」

ナジュマ「私たちの家の前にも、この青い壺が置いてありますよ。外から来る悪い気を、跳ね除けてくれるって言われているんです」

グリム「こんな壺に、そんなすごい力があるとは思えないんだゾ」

そう言って、グリム君は青い壺によじ登って縁の周りを飛び跳ねた。

グリム「ひょいっ!ほいほいほいっ!」

サラマンダー『ボクもやる!』

「あ、こら!やめなさい!」

グリム君がやっているのを見て楽しそうだったのか、サラマンダーも真似をし始めた。

ナジュマ「壺の縁に乗ったら駄目だよ!そんなことしてると、悪いことが……」

ナジュマがそう言った直後、グリム君はズルッ!と足を滑らせた。

落ちた場所は、もちろん壺の中。

グリム「うにゃにゃ!?」

ケイト「グリちゃんが、壺の中に落ちちゃった!川に落ちたときといい、期待を裏切らないねぇ」

グリム「助けてくれ~!監督生、オレ様を引っ張り上げろ~!」

監督生「えー?」

マレウス「あまり甘やかすな。熱砂の国の人々が大切にしているものを馬鹿にした罰だろう」

ジャミル「これに懲りて、もうイタズラするなよ、グリム」

ナジュマ「ジャミルだって、人のこと言えないでしょ。小さい頃、同じように壺に入ってたじゃん」

ジャミル「うっ……!」

壺に入ったグリム君を呆れて見ていたジャミル君だったが、ナジュマの発言で顔色が変わった。

マレウス「グリムならともかく、バイパーがか……。入る理由が思いつかないな」

「普通に生活している中で、人が壺に入る理由があること自体珍しいと思いますけど」

監督生「ロゼッタさんに同意です」

ナジュマ「お母さんに怒られた時、この壺をかぶって隠れようとしたんですよ。見つからないように、逆さの壺を被ったままトコトコ歩いてて……それを見て『壺に足が生えてる!』ってすごくびっくりしたから、よ~く覚えてる」

トレイ「へぇ、今のジャミルからは想像できないな」

ケイト「ホントホント!かわいいね~♪」

ジャミル「ま、まだ小さかった頃の話ですよ!」

ナジュマ「あ!その時の写真がありますよ。見ますか?」

ジャミル「な、なぜ、そんなものが!?やめろ!見せるな!」

ナジュマ「アハハ、ウソだよー。ジャミルの子どもの頃の写真なんて持ち歩かないよ」

ジャミル「ぐぐぐ……」

完全に妹にからかわれ、呻くジャミル君。普段では見られない姿だから、すごく新鮮だわ。

グリム「そ、そんなことより出してくれー!!!」

「あ。ごめんなさい、すっかり忘れてた」

トレイ「ほら、ジッとしていろ。今、出してやるから」

まだ壺の中に入っていたグリム君をトレイさんが引っ張り上げた。
幸い、中が空だったから汚れていない。

グリム「ひ、ひどい目にあったゾ……」

ジャミル「グリムのせいで、俺までとばっちりにあったぞ。まったく……!」

とまぁ、そんなハプニングがありながらも、ラクダバザールを練り歩く、
その時、グリム君が何故かマレウスさんの後ろを歩いていた。

マレウス「……グリム」

グリム「なんだ?」

マレウス「なぜ先ほどから、僕の後を付いてくる?」

グリム「わはは~!暑いから、オマエの影に入って歩いてるんだゾ。オレ様、頭いい~!」

監督生「その知恵を勉強に回してよね……」

マレウス「…………」

直後、彼の姿が一瞬で消えた。

グリム「うにゃにゃ!?マレウスが消えたんだゾ!?」

監督生「あ、出てきた」

グリム「……あ!いつの間にオレ様の後ろに!?大人しく、オレ様を影に入れろー!」

マレウス「もちろん構わない。ただし、僕の背後に回り込むことが出来ればだが」

グリム「ふな――――っ!!!」

唐突に始まったマレウスさんとグリム君の追いかけっこ。
相手は魔法を使って移動しているから、完全に勝負になってない。

楽しそうだったのか、サラマンダーも混じっていた。

トレイ「……マレウス、グリムをからかってるな」

ケイト「マレウスくんって意外とおちゃめなところあるもんね~」

「まぁ、楽しそうでなによりです」

「サラマンダーも混じって大丈夫かしら?」

監督生「楽しそうだからいいんじゃないですか?というかほかの精霊と違って子供っぽいんですね、サラマンダーって」

「ええ。ノームが言うにはまだ若造だって」

監督生「そうなんですか」

そんな追いかけっこが3分くらい続いたが、この暑さで先にグリム君がダウンした。

グリム「ふにゃぁ~……、疲れたぁ……。めちゃくちゃ暑いんだゾ……」

サラマンダー『楽しかった』

「よかったわね」

トレイ「こらこら。調子に乗って走り回るからだぞ」

ジャミル「それに、ちょうどお昼過ぎですからね。日差しが一番強い時間です」

トレイ「汗をかくから、喉も渇いてきたな」

ナジュマ「それならココナッツジュースを飲みませんか?熱くなった身体もシャキッと冷やせますよ!」

トレイ「本場のココナッツジュースか。ぜひとも飲んでみたいな」

ケイト「ココナッツジュース大好きなカリムくんにオススメされてたんだよね~」

ジャミル「ちょうど行きつけのココナッツジュース店がある。そこで買おう」

ここでも満場一致でココナッツジュースを飲むことになり、ジャミル君が行っていたいう店に向かった。
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