熱砂の国のアリア―ブ・ナーリヤ

マレウス「なぜバイパーはあんなに嫌がっているんだ?血の繋がった兄妹なのだろう」

トレイ「家出での様子を俺たちに見せるのが、気恥ずかしいんじゃないかな。俺も弟妹がいるから、その気持ちはよーくわかる」

マレウス「そういうものか……?きょうだいというのは、複雑なんだな」

ケイト「あと、その逆もあるよね~。オレだったら、姉ちゃんたちに友だちと一緒にいるとこ見られるのも恥ずかしくてヤだな」

監督生「わかってて声をかけたんですね。まあ、ジャミル先輩の焦っているところなんてなかなか見られないから……貴重かも」

「皆さん、からかう気満々じゃないですか!」

私たちの話が聞こえて、ジャミル君は必死な顔でナジュマちゃんを追い払う。

ジャミル「今すぐ帰れ、ナジュマ!」

ナジュマ「ひっど。妹に対して冷たすぎ。信じられない。みなさんどう思いますか?」

トレイ「連れて行けばいいじゃないか、ジャミル」

ケイト「熱砂の国をよく知ってる可愛いガイドさんが1人増えたってことじゃん!」

マレウス「そうだな。それに、家族は大切にするものだ」

ジャミル「ぐっ……。ロゼッタ様はどう思いますか?」

「わ、私っ?」

まさか私に質問されて、戸惑っているとナジュマちゃんが腕に抱きついてきた。

ナジュマ「お願いします!私も一緒に連れて行ってください!」

ジャミル「失礼だぞ!!ロゼッタ様ハッキリ言ってもらって構いませんので。」

「えっと……」

4つの黒い目を向けられ、私は戸惑いながらナジュマちゃんを見る。

年は違うけど、やはり妹ということあり、一人っ子だった私にとって、妹みたいな存在が増えるのはうれしい。

「……その、無理だってことはわかってるけど、エリーゼだったころから憧れてたの、妹みたいな子…年下の友達が欲しいって……だからナジュマちゃんがお友達になってくれたら嬉しいなーって……」

ジャミル「…………」

私の言葉に、ジャミル君は何かを察したのか、諦めたようにため息を吐いた。

ジャミル「わ、わかりました。みなさんが、そうおっしゃるなら……」

ナジュマ「そう来なくっちゃ!ありがとうございます!えっと……」

「私はロゼッタ・シャーティーよ。よろしくね、ナジュマちゃん」

ナジュマ「ナジュマでいいですよ、ロゼッタさん!」

「ええ、ナジュマ」

名前を呼ぶとナジュマは嬉しそうに顔を綻ばせ、私の腕から離れてお辞儀をした。

ナジュマ「それじゃ、改めて、こんにちは。ナイトレイブンカレッジのみなさん。あれっ。お兄さんが頭に付いてる飾り、珍しいですね」

ジャミル「バッ……!!!!」

マレウス「飾り?ああ。このツノは本物だ」

ナジュマがマレウスさんのツノを見て、ジャミル君が慌てた顔をする。
当の本人はあっさり答えている横で、ケイトさんは言った。

ケイト「さっきから思ってたんだけど……みんな、マレウスくんのこと、有名なあの『マレウス・ドラコニア』だって気付いてないみたいだね。それとロゼッタちゃんも。一応熱砂の国の貴族なのに気づかれてないみたい」

トレイ「ああ。頭にバンダナを巻いているっていうのもあるだろうし……世界屈指の魔法力を持つマレウスが、のほほんと観光をしているなんて、思わないんだろう。ロゼッタはも雰囲気がいつもと違うからわかりにくくなっているんだろうな。」

監督生「まあ、変に騒がれるよりはいいですよ」

ジャミル「ナジュマ!マレウス先輩になんて失礼なことを言うんだ!」

ナジュマ「ご、ごめんなさい。悪気は無かったんです」

マレウス「そこまで謝られるほど気にしていないんだが……」

「ちょっと神経質すぎよ、ジャミル君」

ジャミル「お、俺が悪いのか、これは……!?」

マレウスさんと私の言葉に動揺するジャミル君。普段は敬語を使っているのに敬語が抜けてしまっている。

それをハーツラビュル組が笑いながら見ていた。

ケイト「あははは!ナイトレイブンカレッジに戻ってこの話をしたら、みんな、大笑いするだろうね~」

トレイ「いや。むしり真っ青になって、震えあがると思うな」

監督生「どっちもありえそうですね」

ケイト「よーし!じゃあ、ナジュマちゃんのために、けーくんがみんなのことを紹介するよ♪」

そう言ってケイトさんは、何も知らないナジュマのために私たちを紹介するのだった。

ナジュマに私たちのことを紹介するケイトさん。よく人を見ているから、紹介の仕方が上手だわ。

ケイト「……以上、ジャミルくんフレンズの紹介タイムでした!」

ナジュマ「ありがとうございます!皆さんのこと、よくわかりました!」

「ケイトさんって、他人を紹介するのが上手ですよね」

ナジュマ「各々の特徴をちゃんと伝えてくれてて、すごくわかりやすかったですしね」

マレウス「そうだな。よく観察しているよ」

ケイトさんのことを話していると、ナジュマは意外そうにジャミル君を見た。

ナジュマ「ジャミルって、こんなにたくさん友だちがいたんだね。家に帰ってきても、友だちの話は全然してくれないから心配してたんだよ」

ジャミル「いや。この方たちは学園の先輩や後輩で友だちじゃない。それにロゼッタ様を友達と呼ぶのは恐れ多い。」

ナジュマ「はいはい。そういうことにしておくよ」

2人の会話は、私がよく見かけた兄妹そのもの。

ジャミル「では、そろそろ観光の続きにいくか」

トレイ「ケイトが説明している間に食べた、シャーワルマーはおいしかったな」

ケイト「香ばしいけどさっぱりしてたよね。お肉もジューシーでサイコーだったな」

「野菜も食べてる間もずっとシャキシャキしてて、とても新鮮でしたよ」

グリム「でも、まだまだ全然食い足りないんだゾ……」

監督生「だからその胃袋どうなってるのよ」

ケイト「あ!コッチに、フルーツや野菜がたくさんある!」

ナジュマ「どれも産地直送の採れたてで鮮度抜群!色艶がよくって、味も濃厚で美味しいんですよ」

「本当ね。スーパーで見る野菜よりつやつやしてて、美味しそう」

ケイト「ここって、もともとは砂漠だったわけじゃん?フルーツや野菜が育つなんて、不思議~!」

ジャミル「むしろ、乾燥地帯だったからこそ、良質の果物や野菜が栽培できた……と言えますね。少ない水で農作物を育てると、味が濃縮されて、糖度が高くなったりするんですよ」

トレイ「ああ、フルーツトマトとかがそうだよな」
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