熱砂の国のアリア―ブ・ナーリヤ

ユウたちも納得しているけれど、マレウスさんは理解できないのかまた小首を傾げる。

マレウス「そういうものなのか?」

ケイト「そうそう!マレウスくんも、茨の谷のどこかに可愛らしい名前を付けてみれば?」

マレウス「『がおがおドラコーンくん市場』とかか?」

マレウスさんが思いついたそれに、私たちは苦笑いするしかなかった。

『がおがおドラコーンくん』って、マレウスさんがよくやってる育成ゲームよね?

さすがに……その、ちょっと、やめた方がいいと思う。

ケイト「……そ、それは止めた方がいいかも~」

マレウス「ふっ。冗談だ」

監督生「あなたが言うと冗談に聞こえない……」

グリム「ふな~っ!オレ様は、そんな退屈な話どーでもいいんだゾ!それよりも今すぐなにか食わせろ!腹ペコで、もう限界だ!」

ケイト「確かに色々歩いてきたから、お腹が空いてきたね。屋台もたくさんあるし、なにか食べようよ」

トレイ「これ以上グリムを空腹のままにしていたら観光どころじゃなくなりそうだしな」

監督生「旅先でトラブルはごめんです」

日頃のグリム君を思い出したのか、全員が満場一致で食事に行くことを決める。その足元でグリム君は鼻先をひくひくと動かす。

グリム「くんくん……すっげーウマそうな匂いがする!」

マレウス「あそこの店先で、回っている串焼肉の香りだな」

グリム君とマレウスさんが見つけたのは、かなり大きい塊肉を焼いている店。

ジャミル「あれは、シャーワルマーですね。レストランでは皿に乗せて、野菜と一緒に食べますが……屋台ではバゲットに挟んだり、ラップサンドにしたりして食べるファストフードです。余計な油を回し落とすから、見た目よりヘルシーですよ」

ケイト「あ!このシャーワルマー、羊肉だ!オレ、好きなんだよね~♪」

「羊肉……昔食べた時、癖が強くて食べられなかったのよね……それから苦手になっちゃって」

監督生「私もです!」

ジャミル「安心してください。この国では観光客でも食べやすいように、独自の製法で臭み抜きをおこなっています。きっとロゼッタ様も食べられるはずです。」

「そう。なら安心ね。」

でも・・・食べ慣れていない羊肉をたくさん食べるのはチャレンジすぎるから、野菜多めに注文しておこう。

ジャミル「この店では、トマトやオリーブ、スライスオニオンなどを自由にトッピング出来ます」

トレイ「ソースもたくさんあるな。ヨーグルト、ガーリック、チリソース……」

「この店、ソースも組み合わせできるのね」

ジャミル「俺はひよこ豆のペーストとガーリックを合わせたソースで食べるのが、気に入っています」

トレイ「ジャミルのお気に入りなら、期待できそうだな。俺はそれにしてみようか」

先にメニュー表を見ていたトレイさんは、ジャミル君のおススメを聞いて、同じものにするらしい。

マレウス「僕はオーソドックスなものをいただこう。基本の味を味わってみたいからな」

ケイト「オレは、玉ねぎとトマトとハラペーニョ多め、ソースはマヨネーズとバジルのミックス!それと、ヨーグルトを最後にサッと掛けて♪サンドするのは……堅めのバゲットにしようかな!」

グリム「フフフッ、オレ様はトッピング全部で、ソースも全部ミックスで頼むゾ!」

監督生「まとまりがないな。注文がバラバラだ……私は、ツノ太郎と同じやつでお願いします。」

みんな思い思いの注文をしており、グリム君なんか味がおかしくなると思うほどの注文をしていた。大丈夫かしら?

だけど、ジャミル君はそれを一言一句逃さず頭に入れていた。

「ロゼッタ様はどうされますか?」

「私はマレウスさんと同じオーソドックスなもの、野菜たっぷりでお願いできるかしら。」

「わかった。それでは注文してきます。少々お待ちください。」

そう言って、ジャミル君は屋台へ走り注文を言う。

「すみません。ラップサンドを5個と、バケットサンドを1つ。トッピングとソースは……」

さすがアジーム家の従者、全員の注文を噛まずにさらさらと言えている。

トレイ「全員分の注文を、よどみなく伝えている。ちゃんと覚えているんだな」

ケイト「さすが、ジャミルくんだね~♪」

彼の背後で、トレイさんとケイトさんは感心したように言った。

「お待たせ!シャーワルマー、7つだよ!」

ジャミル君が私たちのシャーワルマーを注文して、数分後。

ようやく全員分が揃い、香ばしい匂いを漂わせたそれを器用に持つ。

ジャミル「ありがとうございます。みなさん、1つずつ取ってください」

トレイ「ありがとう、ジャミル。みんなに渡すのを手伝おう」

トレイさんが一緒になって手伝い、シャーワルマーは全員に行き渡る。

ケイト「おー、野菜とソースのコントラストがいいカンジじゃん♪」

マレウス「ファストフードの食べ歩きか……滅多にない体験だな」

グリム「ウマそー!全部入りなんて夢のようだゾ!」

「とってもいい香りね」

羊肉は香ばしく焼かれているため、漬け込んだ数種類のスパイスの香りが鼻孔をくすぐった。

グリム「いただきま―――す!!はぐっ、はぐっ!はぐっはぐっはぐっ!」

グリム君が盛大にかぶりつくのを見て苦笑しながら、私も自分のシャーワルマーを食べる。

羊肉もクセはなく、スバイスの味が口の中で広がる。野菜もどれも新鮮で、ソースの相性が抜群。

「……すごく美味しい」

思わず口元を緩ませながらもぐもぐ食べていると、肩に乗っていたサラマンダーが声をかけてきた。

サラマンダー『おいしそう‥ボクも欲しい』

トレイ「精霊って人間の食べ物食べれるのか?」

「わ、わかりません。」

サラマンダー『食べたい!』

「わかったわ。どうぞ」

サラマンダー『美味しい!!』

「よかった」

監督生「新たな新事実」

私ももう一口食べようと思ったとき、ジャミル君が一口も食べていないことに気づいた。

ジャミル「……あれ?おかしい。俺の分のシャーワルマーがないぞ」

マレウス「バイパーの分の注文が、通っていなかったのではないのか?」

ジャミル「いいえ。たしかに7個買って、受け取りました」

「私も見てたけど、ちゃんと7個あったわ」

みんなが首を傾げていると、ハーツラビュル組の視線がグリムに向いた。

ケイト「それじゃあ……どこかの腹ペコモンスターが、勝手に食べちゃったとか!」

トレイ「なるほど。その可能性は大いにあるな」


監督生「ええ。なにせ、相手はつまみ食い常習犯ですから」

グリム「な、なんでみんなしてオレ様を見るんだゾ……!?オレ様がそんなことするわけねーだろ!」

疑いの眼差しを受けて、そう反論するグリム君。

グリム「ジャミルから盗るより、屋台を襲ってまるごと盗った方が簡単だしいっぱい食える!」

ジャミル「絶対にやめろ」

監督生「やったら見捨てるよ」

ケイト「冗談だって。ごめんね、グリちゃん。えーと、シャーワルマーを持っているのは?」

トレイ「俺、ケイト、マレウス、グリム、監督生、ロゼッタ、それと……」
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