熱砂の国のアリア―ブ・ナーリヤ

監督生SIDE

ようやく着いたカリム先輩の家。
だけど……予想の上を行く豪華さに、ツノ太郎とロゼッタさんを除く私たちは唖然としてしまう。

ピーコックグリーンと金を基調とした白亜の宮殿。
左右対称になるよう造られたその家の前で、カリム先輩はいつものように言う。

カリム「ほら、オレの家が見えてきたぞ。学園のみんなが来てくれるなんて、うれしいなー!……あれ、どうした、みんな?黙り込んじゃって」

「「「「……で……」」」」

カリム「で?」

「「「「でかいっ!!!」」」」

思わず一斉に叫ぶ私たち。
なんか、ここに来てから一緒に驚いてばかりだけど、仕方ないだろう。

トレイ「まさか、この目の前にある宮殿が……?これが本当に個人宅なのか!?」

ジャミル「街の住人たちからは、アジーム御殿と呼ばれています」

ケイト「そりゃこんだけ大きけりゃね~!」

グリム「オンボロ寮の1億倍はデッカくてキラキラでスゲーんだゾ!」

「これとウチを比較しないで!余計に悲しくなる!」

マレウス「庭園を中心に、左右対称に造られているな、美しい建築物だ」

まさかの廃墟マニアツノ太郎もそう言うとは。
恐るべし、アジーム邸。

ケイト「白亜の豪邸かあ……眩しすぎて、キラキラが盛れるフィルターがいらないレベル」

ロゼッタ「そのまま載せても問題ないと思いますよ」

トレイ「スマホの画面に収まりきってないじゃないか。いくらなんでも、広すぎないか?」

思わず撮った写真を見ると、確かに画面に収まりきってない。
これ、全体で撮るとかなり離れた場所からじゃないと入らないのでは?

ジャミル「カリムの父親は、この国の政治や経済でも重要な公務を担っているのですが……その内のいくつかは、このお屋敷で行われます。ここは私邸でありなあが、政務や謁見、儀礼などを行う、公的な執務空間でもあるのです。ロゼッタ様の邸宅も同じようなつくりになっています。」

トレイ「なるほど。そう言われると納得できるな」

ケイト「普通の家と同じに考えちゃいけないってことか。色々たいへんだね~」

カリム先輩の父親が政治や経済でも重要ってことは……大臣に近い地位にいるのかしら?
てっきり根っからの商家だと思ってた。

ジャミル「経済の発展によって、熱砂の国全体では、近代的な高層ビルの建築も盛んです。しかし、この『絹の街』では、アジーム邸を中心に伝統的な様式の建築物が多く残っていますし……また、新たな建物を作る際にも、伝統様式が推奨されます。観光都市ですからね。歴史的景観を大事にしているんです」

そういえば、京都市も厳格な景観条例を敷いてたなあ。

グリム「この家、スカラビア寮に似てねーか?」

ロゼッタ「スカラビア寮も、熱砂の国の建築様式で、造られているからじゃないかしら。ドーム状の屋根や、シンメトリー構造など、アジーム邸と類似している点も多いのよ。」

カリム「とーちゃんが、熱砂の国の建築士に頼んだって言ってたぜ」

ジャミル「カリムが学園に編入したとき、寮全体を改装したんだ。もちろん、支払いは全てアジーム家」

グリム「どんだけ金持ちなんだ!?」

「むしろ以前のスカラビア寮がどうだったのか気になる」

図書館に昔の写真とかあるかな?帰ったら探してみよう。

トレイ「あれには驚いたよな……。当時は『一体あの新入生は何者なんだ』と噂になって大変だった。まあ、寮が新しくなってみんな喜んでいたが」

「そりゃ寮丸ごと改装ですからね、騒ぎになりますよ」

寮の改装に含めて多額の寄付金、あの学園長がアジーム家に頭が下がらないのも無理はない。

……ま、だからってやっていいことと悪いことはあるけど。

グリム「あの寮の丸っこい屋根を見てると、オレ様はいっつも玉ねぎが食べたくなるんだゾ」

トレイ「へえ。グリムは玉ねぎを食べても平気なのか?」

グリム「ふな?なんでだ」

トレイ「猫は玉ねぎを食べられないと聞いたが」

グリム「オレ様を猫と一緒にすんな!!」

ロゼッタ「言われてみれば、グリム君、玉ねぎ類食べてるかも」

そういえば、グリムってネギ類食べても平気なのよね。

狼の獣人であるジャックはネギ類ダメだけど。

ケイト「あはは。建物を見て食べ物を思い浮かべるなんて、食いしん坊のグリちゃんらしいね」

トレイ「俺はずっと、カブみたいだなと思っていた」

ケイト「えっ!トレイくんも、同じようなことを考えてたの!?」

グリム「カリムの家の屋根は、カボチャみたいだなー」

トレイ「トマトじゃないか?まだ成熟前の」

マレウス「僕には、ピーマンに見えるな」

ロゼッタ「私には赤パプリカに見えます」

「私は、成熟前のイチゴかな」

「マレウスくんと監督生ちゃん、それにロゼッタちゃんまで!?」

連想あるあるを言う私たちに、ケイト先輩は驚きっぱなし。

これもレアな光景だ。

マレウス「内装も、立派な造りになっているのだろう。早く見たいな」

グリム「そーだ、そーだ!早く入ろうぜ!」

「きっとスカラビア寮と同じくらい豪華なんだろうな」

トレイ「あぁ。俺たちは荷物を置きに来たんだしな。お邪魔させてもらうとしよう」

カリム「あ、みんな、ついでに着替えてこいよ!」

「「「「着替え?」」」」

カリム「おう。実は、みんなに熱砂の国の伝統衣装を用意したんだ」

「「「「えっ!?」」」」

カリム先輩からのまさかの言葉に、私たち全員はまたも驚くのだった。
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