熱砂の国のアリア―ブ・ナーリヤ

ジャミル「熱砂の国は、自家用車の所有率が高いんです。この国の住民たちが、いくら暑さに強いといっても、歩いて行動をするには限度がありますから。車から降りずに用事を済ませることが出来るドライブスルー店が多いのも、それが理由ですね」

そんな話をしていると、リムジンの横を派手な色をした車やマジカルホイールが通った。

グリム「車もマジカルホイールも派手な色ばっかだ!目もチカチカするんだゾ」

ジャミル「人とは違うオリジナリティーを出したい連中が、カスタマイズで個性を出しているからな」

監督生「デュースとかイグニハイド寮生が見たら目を輝きそうな光景だな」

ケイト「レインボーカラーのスポーツカーだ!純金の高級車も走ってる!いっぱい写真撮らないと♪」

ジャミル「ナンバープレートの数字に、こだわりを持つ人も多いですね。若い番号やゾロ目は、目立つので人気があります。それらの数字は、道路交通局主催のオークションで、高値で取引をされていますよ」

ケイト「へぇ~。カリムくんの家の車は、どんな数字なの?」

カリム「そうだなぁ~。とーちゃんもかーちゃんも、たくさん車を持ってるけど……」

トレイ「……さすがだな」

監督生「ですね……」

カリム「たくさんいるきょうだいたちの誕生日のナンバープレートは、全部揃ってるはずだ。もちろん、オレの誕生日の数字、625もな!」

ケイト「……子ども想いのご両親だね~」

トレイ「スケールの大きな話だな……」

リムジンは賑やかな街から、緑の多い公園に入った。

トレイ「緑が多くなってきたな。さっきまでの街の喧騒が嘘のように静かだ」

グリム「オイ!でっかい公園が見えてきたんだゾ!」

監督生「本当だ。広々としてて綺麗」

カリム「みんなで散歩してみるか?ここを通り抜ければ、すぐにオレの家なんだ~」

ケイト「あ、それいいね。綺麗な公園だし、いい写真撮れそう♪」

「わかりました。車を止めてもらって、ここからは歩いて向かうことにしましょう」

多数決によって公園でリムジンから降りることになる。
リムジンから外に出ると、むわっと蒸し暑い空気が襲ってきた。

マレウス「車の外は、やはり暑いな」

トレイ「あぁ。遊歩道に屋根があって、助かったよ。日陰の場所を、快適に散歩できる」

カリム「この道をまっすぐに歩いて行けば、オレの家に着くんだ!」

トレイ「へぇ。それはわかりやすいな」

ケイト「あ、噴水がある。涼むのにちょうどよさそう。孔雀の彫刻も、かっこいいじゃん。マジカメ映えしそう♪」

監督生「スカラビア寮で見た噴水と似てる。」

孔雀の尾羽の部分から水が溢れ出す噴水。
スカラビア寮と似ているそれを見ていると、彫刻に目がないマレウスさんが反応を示す。

マレウス「おぉ!この噴水彫刻は見事だな。ガーゴイルではないが、興味深い。もっと近くで観察するとしよう」

ジャミル「あ!マレウス先輩、濡れてしまいますよ!」

トコトコと噴水に向かうマレウスさんを、ジャミルくんが後を追う。

ジャミル「俺が傘をさします!少々お待ちを……」

「ジャミル君、その傘どっから出したの?」

いつの間にか傘を持っているジャミル君に疑問を抱くも、彼は無視し噴水へ向かう。

だけど・・・

ジャミル「……ん?噴水の水しぶきがマレウス先輩をよけている!?」

マレウス「この程度魔法で造作も無い」

監督生「さすがだ」

噴水の水は見事にマレウスさんをよけていて、逆にジャミル君が濡れていく。

マレウス「それより大丈夫かバイパー。濡れねずみのようだ。いくら暑くてもそのままでは風邪を引くぞ」

監督生「ツノ太郎、それあなたが言っちゃダメなやつ」

マレウス「?」

トレイ「ジャミルは、こんなに晴れている日でも、傘を持ち歩いているのか……」

ケイト「さっすが、用意周到だね~」

カリム「わかるぜ!噴水って見てるとワクワクするよな!オレ、子どもの頃は、ジャミルと一緒にここで水遊びをしたんだ~」

ジャミル「あぁ。俺が、濡れたお前を拭くタオルや、着替えの服を用意してな」

トレイ「さっきの傘は、カリムが濡れないようにするためだったのかもな……」

「彼の苦労性は昔からみたいですね」

なんとなくオーバーブロットしてしまった原因の一端を見てしまい、非常に複雑になった。

マレウス「噴水で、孔雀の尾羽を表現しているのか。よく出来ているな」

ジャミル「毎時間、勢いよく水が吹き出します。特に、夜にはライトアップされていて、カラフルな孔雀のように見えますよ」

マレウス「面白い趣向だな」

「夜にもう一度ここに寄るのもありかもしれませんね。」

監督生『そうですね。ロゼッタさん、一緒に行きましょう!」

ライトアップされた孔雀の姿を想像していると、グリム君がもぞもぞと前足で全身を触る。

グリム「ふなぁ……さっき、海水の運河に落ちたから、身体がべとべとで気持ち悪い……。もう我慢できないんだゾ!!」

監督生「え、グリム!?」

そう言った直後、グリム君は噴水の中へ入っていった。

ザパ―――ン!と運河の時のように水柱ができた。

ケイト「あーっ!グリちゃんが噴水の周りの池に飛び込んだ!」

グリム「わははは!冷たくて気持ちいい!」

「もう……グリム君ったら、こっちいらっしゃい。汚れ落としてあげる」

グリム「おう!頼んだゾ!」

監督生「ちょっとグリム!!ごめんなさい、ロゼッタさん」

「いいのよ。」

グリム君のそばに行き、身体をマッサージするように汚れを落とす。
運河に入った時に毛の中に紛れた砂とか出てきたから、これは念入りに落とさないとダメだわ。

ジャミル「ったく……。さっき、拭いてやったばかりだというのに……」

カリム「楽しそうだなー!よし、オレも……」

ジャミル「やめろ!これ以上、面倒ごとを増やすな!」

グリム君のように噴水に入ろうとしたカリム君を、ジャミル君が怒声を上げながら止めるのだった。
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