熱砂の国のアリア―ブ・ナーリヤ

ジャミル君による熱砂の国の歴史講座を終えると、カリム君がある提案した。

カリム「それじゃー、本格的に観光を楽しむ前に、まずはオレの家へ行こうぜ!」

グリム「カリムの家って、こっから遠いのか?オレ様暑くて疲れてきた……何時間もかかるとかはヤなんだゾ!」

カリム「そんなにかからないって。家は、ここから見える場所にあるしさ」

「へえ、近場なんですね」

トレイ「それは助かる。歩いて何分くらいだ?」

カリム「ん?歩くのか?そうすると……3、4時間くらいはかかるかな?」

ケイト「え?ここから見えるって言ってたのに、そんなに時間がかかるの?」

トレイ「見えるなら教えてくれ。いったいどれが、カリムの家なんだ?」

トレイさんの質問に、カリム君は目の前の方向を指さす。

その指の先にあったのは……この街で一際異彩を放つ宮殿のような建物。

初めて見るみなさんは驚くでしょうね

カリム「ほら、あの高台にあるのが、オレの家だよ」

「「「「……あれがっ!?」」」」

ケイト「えっ!?こんな遠くからでもハッキリ見えるよ!一体どれだけ大きいの?」

トレイ「個人の家っていうよりも、テーマパークか城って感じだ……」

監督生「私は何かの文化遺産かと思いました」

「アジーム邸は『絹の街』の象徴のような建物で、広く知れ渡っているんですよ。タクシーに乗って、アジーム邸までって言えば、連れてってくれます。」

カリム「毎日のように人が見学に来るし、観光バスが立ち寄っているよ」

トレイ「まさに観光スポットだな……そういえば、その奥に見える建物は何なんだ?」

「あれは、シャーティー家の邸宅です。」

ケイト「ロゼッタちゃんの家もデカっつ!!」

監督生「私が行った時より大きくなってる!!」

「ユウたちが帰った後、国王様が今まで苦労を掛けたお詫びにってリフォームしてくれたの」

トレイ「リフォームにしたって規模がでかいな」

「私の家のことはそこまでにして、今はアジーム家に行きましょう」

マレウス「しかし、どうたってあそこまで行くんだ?僕は空を飛んでも構わないが……」

ジャミル「迎えの車を呼んであります。安心してください」

監督生「車?」

カリム「おっ、来た来たー!さぁ、みんな乗ってくれ」

突然私たちの前に停まった車。いわゆるリムジンと呼ばれる車だ。

ケイト「……なに、このでっかい車!?」

トレイ「こんなに長い車、見たことないぞ。何メートルあるんだ!?」

ジャミル「全長15メートルです。特注で、冷蔵庫やマッサージチェアが完備してありますよ。大事な来賓をお迎えする時に使う特別仕様車ですからね。」

カリム「ロゼッタと学校の友だちを連れてくって話したら、とーちゃんとかーちゃんが用意してくれたんだ。大切な友だちを乗せるんだから、これくらい普通だろ?」

監督生「とりあえず、カリム先輩のご両親はかなり太っ腹ということはわかりました」

トレイ「貴族のロゼッタや王族のマレウスにはふさわしいかもしれないが、さすがに俺たちが乗るのは……なぁ、ケイト?」

ケイト「えー。いいじゃん、乗っちゃおうよトレイくん。こんな機械でもなきゃ、セレブ車なんて一生乗れないでしょ。何事も経験、経験」

そう言って、ケイトさんはリムジンの写真を撮った。

ケイト「うんうん!#最高のスタート #なんちゃってセレブ #キラキラ #熱砂の国……ってカンジ!あとで投稿しよ♪」

トレイ「あとで?今じゃなくていいのか」

ケイト「んー。ここは学園の外だし……ロゼッタちゃんとカリムくんとマレウスくんが一緒にいるからさ。居場所を知らせるようなリアルタイム投稿は避けといた方がいいでしょ。オレが場所を発信したせいでカリムくんがさらわれた!とかなったらジャミルくんに恨まれちゃう」

トレイ「なるほど……防犯のためか。その発想はなかったな、俺も気を付けるよ」

「私も気を付けますね」

さすがケイトさんね、SNSの怖さというのをちゃんと知っている。
レオナさんにも言われたけど、念のため、位置情報オフにしておこう。

ケイト「その分、たっぷり時間をかけて書こうしたトレイくんの写真、あとでいっぱいアップしちゃおーっと」

トレイ「いや、俺のはいいって……。また寮の奴らにからかわれる」

監督生「あはは……」

カリム「早く出発しようぜ!家まではあっという間に着くからさ」

カリム君に急かされ、私たちは周囲から写真を撮られまくっているリムジンに乗り込むのだった。

カリム君たちが手配してくれたリムジンは、とても快適だった。
空調も効いていて、本当にマッサージチェアと冷蔵庫が完備している。

カリム「車内は涼しいだろ?みんな、ゆっくりくつろいでくれ!」

トレイ「そう言われても……こんなVIP並のもてなしをされると緊張してしまう。お付きの護衛に守られ、超高級車で移動なんて、普通の学生ではありえないことだからな……」

監督生「むしろ一生縁のないのが普通ですよね」

こんな車に乗ることすら、学生の皆ならありえないでしょうね。

そんな風に話していると、ジャミル君が無言でいるマレウスさんのほうを見た。

ジャミル「どうしました、マレウス先輩。先ほどからずっと難しい顔をされていますが?……ハッ!ま、まさかここまでのことで、なにか気分を害されるような粗相がありましたか!?」

「ジャミル君、いったん落ち着いて」

従者としての感覚が根強い子ね。ジャミル君は。息抜きになると思っていたけれど…

トレイ「……というより、ぼーっとしてないか?遠くを見ているぞ」

ケイト「そういえば、車に乗ってからなにも言わないよね……」

トレイ「窓の外ばかり、ずっと見ているな……」

そこで、2人ははっとした。

トレイ・ケイト「「もしかして……車酔い!?」

カリム・ジャミル「「え――――っ!?」」

カリム「だ、大丈夫か、マレウス!?車を止めたほうがいいか!?」

ジャミル「慌てるな、カリム!こんな時のために、酔い止めの薬を用意してある!」

マレウス「……騒がしい。僕が乗り物酔いなどするわけないだろう。車というものを、ゆっくりと堪能していただけだ」

ジャミル「そ、そうですか……。安心しました」

ケイト「よく考えれば、マレウスくんが静かなのは、いつも通りだよね~」

トレイ「早とちりか……やれやれ」

グリム「んじゃツノ太郎はなにを見てたんだ?おもしろいもんでもあったのか?」

マレウス「ただ、外の景色を眺めていただけだ」

「外の景色をですか?」

マレウス「なにせ、僕は車に乗るのが初めてだからな」

「「「「「「えええ――――――っ!!!???」」」」」」
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