熱砂の国のアリア―ブ・ナーリヤ

河に落ちたグリム君の救出劇が終わると、ケイトさんは船にスマホを向けて写真を撮った。

ケイト「さっきの船、屋根がついててかっこいいじゃん、写真撮ろっと!」

マレウス「三角屋根付きとは、変わった形の船だ。漁をしているようでもないな」

「あれは、熱砂の国の伝統的な渡し舟です。ここの人たちは、あれに乗って運河を往来しているんですよ。基本的には住民の移動手段ですが、観光客向けの遊覧船としても乗られていますね」

監督生「水上バスみたいなものなんですね」

じゃみるb「さらに、この水路があるおかげで気化した水蒸気が、乾燥を抑えています。運河のない砂漠地帯は、昼は灼熱地帯ですし、夜は、0℃まで冷え込むことがあります」

ケイト「うわぁ、やっぱ砂漠って過酷……」

トレイ「暑い暑いと思っていたが、砂漠に比べれば、『絹の街』は、過ごしやすいんだな」

ケイト「それも、運河のおかげってわけね」

監督生「「まさに、運河様々ですね」

マレウス「……」

私達の会話を聞いて、何故かマレウスさんは腕を組んで黙り込む。

ケイト「どうしたの、マレウスくん?」

マレウス「いや……、僕の知っている熱砂の国の情報と、随分違っていて驚いてな」

ケイト「どんな風に聞いたの?」

マレウス「熱砂の国は雨量が乏しく、国土の大半が砂漠に覆われている。そのため、生活水にすら困窮していたと、茨の谷で学んだのだが……」

マレウスさんの話を聞いて、カリム君はニカリと笑った。

カリム「おいおい、そんなの大昔の話だぜ」

ジャミル「確かにそんな時代もありましたが、熱砂の国も長い年月の中で、発展を遂げていきました」

マレウス「なにかきっかけがあったのか?」

「熱砂の国の香辛料や調度品は、他国からとても人気があり、高値で取引をされていました」

トレイ「たしかに、熱砂の国のサフランやクミン、胡椒とかの香辛料は評判高いな。俺もよく料理で使うぞ。味を整えるのに、ピッタリの風味で気に入っている」

ケイト「カラフルな民芸品も有名だよね。オレ、美術館で見たことあるよ」

監督生「私もスカラビアで何度も見ましたけど、どれも素敵ですよね」

カリム「そこに目を付けたのが、オレの先祖なんだってさ!」

監督生「カリム先輩の?」

ジャミル「アジーム家は、熱砂の国で初めて、船を使った海洋貿易を行った家だと言われています。当時は確かな海図もなかったとか。さぞ危険を伴った後悔だったでしょう」

カリム「でもそれが、大成功したんだ!すっごいよなー!」

ジャミル「さらにアジーム家は、国に走っていた河川を人工的な運河へと改良し、船路を開発」

監督生「あ。それがさっきグリムが落ちた運河か」

グリム「オレ様が落ちたは余計なんだゾ!!」

監督生「さっきまで落ちてたのは事実でしょ」

ユウはそう言ってグリム君を軽く突っつく、ジャミル君は話を続ける。

ジャミル「運河を足がかりにして、陸路も整備。内陸にも交易の幅を広げていきました。その結果、巨万の富を築き、熱砂の国を代表する名家となったんです」

マレウス「アジームの先祖には、先見の明があったということだな」

ジャミル「アジーム家をはじめとする商家は、貿易の要としてこの『絹の街』の発展に尽力していきました。先進的なテクノロジーを積極的に取り入れて、人々が生活につかえるよう水環境を整えたんです。
 人が住むことに適さなかった砂漠地帯に、水が豊かになったことで人口が増え……交易が進み、富が蓄積され、街が豊かになり、そこから観光業も盛んになりました」

ケイト「今や世界中からツーリストが集まる、立派なリゾート地帯ってわけだね~」

「それでも、国土の大部分が、人間が暮らすには過酷な砂漠地帯なのは変わりません。生活をしていくには水が欠かせませんから」

人間だけでなく、どの生物も水がなければ生きてはいけない。

ジャミル「富裕層も庶民も運河に沿った街に集まり、やがて大きな都市となりました。貿易の主要な特産品が絹織物であったことから『絹の街』と名付けられたのです」

カリム「熱砂の国の中でも、トップクラスの大きな街なんだぜ!」

ジャミル「えぇ。首都ではありませんが、政治・経済の中心的な都市です」

マレウス「なるほど。そういうことだったのか。おばあさまに聞いた話だったのだが、熱砂の国が平和になってからは、噂を聞かなくなったのだろう。人間の営みは、時として僕の想像を超える速度で発展する。興味深いことだ」

ジャミル君の話を聞いて感心するマレウスさん。

興味深いと思ってもらえてよかった
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