熱砂の国のアリア―ブ・ナーリヤ

そんなこんなで、闇の鏡をくぐった先は、私にとって懐かしい場所。

白い石造りの建物に、色とりどりの布の屋根が目に入り、その前にはとても澄んだ河があり、何隻もの船が行き交っていた。

カリム「うーん!日差しがすっげー!熱砂の国に帰って来たって感じだー!」

ジャミル「お互い帰省のタイミングが無かったからな」

「懐かしい・・お母様とお父様と歩いた街並みだわ。」

監督生「ここが、熱砂の国……!」

砂漠の中に街がある。けれど、砂漠の中にあるとは思えないほど綺麗。

カリム「ロゼッタ。それにオレやジャミルの生まれ故郷だ。熱気と活気に溢れているだろ?」

ケイト「学園に比べると、やっぱり暑いね~。いきなり汗がふき出してきたよ」

ジャミル「気温もですが、日差しもかなり強いです。気を付けてください」

ケイト「たしかに。石畳の道路が日光で熱くなって、照り返しで身体中が火照ってくるカンジがする。しっかり日焼け止めを塗っておかないとね」

「ですね。念のため日傘もさした方がいいわよ、ユウ」

監督生「はい!」

トレイ「俺も帽子を被るべきだった。まいったな……」

監督生「日傘、入りますか?」

トレイ「いや、いいよ。大きさ的に入らないだろうし」

「熱砂の国は、広大な砂漠を有する熱帯気候でこの国の大部分は、海に面した大きな半島。海岸近くには、高級住宅地やリゾートホテルが軒を連ねているんですよ。この街は、熱砂の国の中心部にしていて、観光地として国内外問わず人気なんです」

マレウス「そのようだな。地図を手にしたものがたくさんいる」

監督生「あ、あっちにはガイドさんもいる!」

あちこちで見かける旅行客。観光業が盛んなだけはある。

ケイト「観光用のガイドブックだね。みんな、半そでやハーフパンツで涼しそー」

トレイ「あぁ。暑苦しい制服姿なのは、オレたちだけだ」

監督生「私はスカートなので幾分かマシですけどね。それと目線がすごいんですが…」

「きっと、みんなのことを見てるのよ。ナイトレイブンの制服を着てるから」

「「(いや、ロゼッタ/さん/様のことを見てるんだと思います)」」

私がそういうと、マレウスさん以外の人から苦笑された。どうして?

ケイト「ねえねえ。ここはなんていう街なの?」

ジャミル「ここは『絹の街』です」

カリム「オレたちの生まれた街だよ」

ケイト「ここが『絹の街』かあ。ガイドブックにも載ってたよ。評判通り、建物が白い石造りですっごくきれい。さっそく1枚♪」

スマホで建物を撮るケイトさん。その横でジャミル君が説明を続ける。

ジャミル「昔は、建築に適した木材の入手が困難だったので岩場で採掘出来る石を使った建物が出来たそうですよ。最近では様々な建築材を使えますが、石造りは暑さを凌げるので、今でも建てられ続けています」

トレイ「たしかに、熱砂の国といえば、この石造りの家や建物のイメージだな」

ケイト「まるで映画のセットみたい。オシャレだよね~♪」

カリム「建物の他に、グルメも自信を持ってオススメできるぞ!海に面した場所だから運河を通り、毎日新鮮な海産物が届くんだ。食通の間でも、『絹の街』のシーフード料理は、大人気で、星付きレストランも多いんだぜ!」

監督生「へぇ、そうなんですね。……って、あれ?グリム?」

何処にいるのかときょろきょろと周りを見渡していると、運河のほうでぴょこぴょこ跳ねている毛玉を見つけた。

グリム「おーい!こっちに川が流れてるんだゾ。涼しくて気持ちい~」

マレウス「これが、さっき話していた運河だな」

監督生「とても澄んでいて綺麗」

グリム「あ!あそこで水しぶきがあがった!魚がいるのか?」

トレイ「おい、グリム。あまり運河に近付くな。危ないぞ」

グリム「にゃははっ、バカにすんなよトレイ!オレ様、そんなマヌケじゃねーんだゾ」

トレイさんの注意を笑い飛ばしグリム君。

しかしそんな彼に天は罰を下したのか、たった1秒で足を滑らせて運河に落ちた。

ドボ――――ン!と大きな水しぶきがあがる。

グリム「うな―――――っ!!!」

ケイト「あ――っ!グリちゃんが、川に落ちちゃった!」

監督生「フラグ回収が早い!」

「大変!!追いかけなきゃ!」

慌ててグリム君を追いかけるが、運河の流れはかなり早い。しかも、グリム君の前方には大きな船が近付いていた。

グリム「ふにゃっ!?ふ、船が向かってくるんだゾ!?ひ、轢かれる―――っ!?」

「(こういう時は…)ウィンディーネ!」

ウィンディーネ『困った子ね』

私が叫んだ瞬間、ウィンディーネが水流を操り、器用にグリムを掬い上げる。グリム君をそっと地面に下した

船乗り「ペットが落ちないように気を付けるんだぞ」

監督生「以後気をつけます」

ジャミル「すみませんでした……」

船乗りに頭を下げるジャミル君とユウ。

船乗りは「おう」と言って、そのまま運河を漕ぎながら去っていった。

グリム「オレ様はペットじゃないんだゾ!」

マレウス「ほう。あれほど必死にもがいていたのにまだくちごたえをする元気があるのか」

ジャミル「運河というのは、車やマジカルホイールの行き交う道路と同じようなものだ。『絹の街』の交易の要で、ひっきりなしに船が行き来をしている。当然泳ぐのは禁止されている、危険な場所だ」

ぷんすこ怒るグリム君に、マレウスさんが見下ろし、ジャミル君は厳しい声で叱る。

カリム「船を運転していた船頭さんに助けてもらってよかったな、グリム」

グリム「よくなんてない!ドボンって落ちたら、ブワーって流されて、メチャクチャ焦ったんだゾ!足も付かないし、船はドンドン迫ってくるし!もうダメかと思った――!」

トレイ「まあ、旅先では注意をしないとダメってことだ。これに懲りて、気を付けろよ、グリム」

ジャミル「ほら、ジッとしていろ。濡れた身体を拭いてやるから。風邪をひかれちゃたまらない」

監督生「大人しくしなさい、グリム」

グリム「ぐぬぬ~~~~……っ」

「ウィンディーネが助けてくれなかったら、危険な目に遭ってたかもしれないのよ。だから、みんな怒ってるの。わかった?」

グリム「ごめんなさいなんだゾ」

「いい子ね」

監督生「どうしてロゼッタさんの言うことは聞けるのよ」
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