スケアリー・モンスターズ

「えっと……そうじゃなくて。ヴィルサンがヴァンパイアだって噂が広まったら……」

「ふふふ。ムシュー・姫林檎!キミはなんて優しいんだろう。ヴィルの仕事への影響を気にしているんだね?でも、心配はいらないよ。すでに手は打ってあるからね!」

そのの言葉にエペルが首を傾げると、ルークはスマホの画面を見せた。

「見てごらん。マジカメで『#美しすぎるヴァンパイア』というタグを検索した画面だ」

「うわ、すごい投稿数……!タグがついてるの、全部ヴィルサンの写真だ!どれもカメラ目線だしポーズも決まってる……絶対に隠し撮りじゃ無理な写真ばかりだ。でも、手は打ってあるっていうのは……?」

相変わらず美しいポーズを取るヴィルが映る写真を見て驚くが、未だ理解していないエペルに寮生たちが言った。

「僕たちポムフィオーレ寮生で寮長の写真をたくさん撮って、マジカメにタグをつけて投稿したんだ」

「全部で300件ぐらいかな?どの写真にもすごい数のいいねがついてるよ!」

「彼らが張り切ってくれたおかげで、マジカメではヴィルのヴァンパイアの仮装が大人気。今更『ヴィル・シェーンハイトは本物のヴァンパイアだ!』なんて言い触らされても……『知っているよ!』なんて返されて終わりだろうね」

「『#美しすぎるヴァンパイア』のタグが人気になったおかげで、来年のハロウィーンイベントの出演依頼が既に何件も来ているの。今年はもちろん、来年のハロウィーンもアタシの色に染めて上げてみせるわ」

「そ、それなら良かった……かな?」

マジカメモンスターだけでなくハロウィーンの話題性を利用し、さらにタグを使ってうまいこと情報操作をする。
さすが世界的スーパーモデル、いろんな意味で油断にならない。

「ふん。マジカメモンスターも、ちょっとは役に立ってくれたわね」

泣きべそをかいていたマジカメモンスターを思い出しながら、ヴィルは小さく笑った。

「みんな、今日はお疲れ様。本物のヴァンパイアはこれからが活動時間でしょうけど……アタシの眷属には、これ以上の夜更かしは禁物。ロゼッタのことが心配でしょうけど、美しさのために、もう寝ましょう」

ヴィルの言葉に寮生たちは頷いた。

「さあ、明日は最高のパーティーにするわよ。ハッピーハロウィーン!」

「「「ハッピーハロウィーン!」」」

普段静かな厳かな鏡の間に、ポムフィオーレ寮生の笑い声が響いた。
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