スケアリー・モンスターズ

「はるか昔、学園近くの森は狼男の住処だったんです。ナイトレイヴンカレッジができたばかりの頃、生徒たちは何度も狼男に襲われ……これ以上の犠牲を出すまいと、学園の者たちは何年もかかって狼男をなんとか倒した。……こんな話を耳にした覚えはありませんか?」

「そんなおっかない話、聞いたことないですけど!?」

「でもナイトレイヴンカレッジができた頃ってことはずっと昔の話でしょ?僕たちが知らないだけなのかも……」

もちろんジャミルの話は今回の作戦のために作った作り話だ。
しかし、学園の生徒であるジャミルの話は妙な信憑性があり、マジカルモンスターたちは信じ始めていた。

「伝承によると、倒した狼男を埋めたのはこの購買部のあたり。もしかしたら、食べ物の匂いに釣られて蘇ってしまったのかもしれない!ああ、だからゴミを捨てるなと書いてあったのに!一体どこの誰がルールを破ったんだ!?」

「「ぎくっ」」

「さ、さあ?誰ですかね……」

ゴミを捨てた張本人たちが目を逸らしながらしらばっくれる。
その時、もう1人の寮生が声を上げた。

「あっ、後ろ!!」

「えっ!」

その時、マジカルモンスターたちの視界の先で何かが通り過ぎた。
四つん這いで駆ける、異国情緒の服を着た狼男――カリムを。

「い、今耳が……」

「わ、私も見えた。大きな耳!本当に狼男だ!」

マジカルモンスターたちが怯える間もカリムは彼らの視界の先を通り過ぎ、

「アオ――ン!!」

遠吠えを上げて茂みを動かす。

「も、もうそこまできてるよ!」

「ど、どうしよう……そんな凶暴な怪物と戦えるわけない!」

「でも、ナイトレイヴンカレッジの生徒ってみんな優秀な魔法士なんだよね?怪物のことは任せとけば大丈夫だよ!早く逃げよう!」

「見捨てていくなんてひどいぞ!」

「僕たち関係ないんで!それじゃっ!」

「うわ―――――――っ!!!助けてくれ――――!!」

自分たちが蒔いた種にも関わらず、そのまま逃げるマジカルモンスターたち。
彼らの後ろ姿が見えなくなる手前でジャミルは叫び声をあげた。
その叫びが木霊し終わったところで、3人は元の顔に戻る。

「……。よし、やつらはカリムのほうに向かったな?これで迷惑客は狼男の存在を完全に信じ込んだはずだ。あとは肝心のトドメだが……」

そこで言葉を切り、ジャミルはカリムのことを思い出す。

「……カリム……。『オレが最後に狼男の真似をしておどかす!』なんて、随分と自信満々だったけど……」

「仮装が仕上がった時に見せてもらった『がおー!』って鳴き声、全然怖くなかったですね」

「どちらかというと……その、子犬みたいな……」

その時を思い出して微妙な表情をする寮生たちを見て、ジャミルは頷く。

「ああ。泥棒が入ってきても尻尾を振って迎えるような、番犬にもならない狼だった。俺が役割を交代するって言ったのに、『オレに任せておけ』と言うばかり。楽観的に考えているのか?それとも……」

しばし熟考するが、やはり失敗する可能性が捨てきれない。
ジャミルはすぐさま判断を下した。

「……とにかく心配だ。いざというときにはフォローできるよう、様子を見に行こう。急いでカリムのいる場所に向かうぞ。マジカメモンスターに見つかるなよ」

「「はい!」」

そうして3人は、カリムがいる場所へと向かった。

一方、ジャミルたちを置いてきたマジカメモンスターたちは、購買部から離れた場所で息を整えていた。

「はあはあ……随分走ってきたし、もう大丈夫かな」

「さっきの悲鳴って……あの人たちもしかして狼男にやられちゃったのかな……」

「だ、大丈夫だって!それより自分たちのことを考えないと……」

そう言った直後、ガサガサッ!と、近くの茂みが激しく動いた。

「ひっ!し、茂みが揺れてる……!」

「グルルルル……ガウッ!ヴォ……ヴォ、ヴォマエラァァァ……」

低く唸るような声と共に、ガサガサガサッ!!と茂みの音が強くなった瞬間。

「ズダズタニィィィィ!!!!シテヤルゥ!!!がおーっ!!!」

「ぎゃ―――――っ!狼男だ―――――!」

「あっちいってー!」

普段の顔からかけ離れた形相を見せる狼男ことカリムの登場に、マジカメモンスターたちは悲鳴を上げた。

「ウウウーッ!ガウガウッ!ガルルルル!!ギャウギャウギャウ!!!」

マジカメモンスターたちを前で咆哮を上げるカリム。
狼男らしいその姿に、物陰で見ていたジャミルたちも息を呑むほどの迫力がある。

「ウオオオオォォォォン!!!!!」

「は、歯茎むき出しで唸ってる!本当に食べられちゃうよ!」

「二度とぽい捨てなんてしません!許してください~~~!!!」

カリムの迫力に涙目になったマジカメモンスターたちは逃げる。
それでもカリムは吠えることをやめない。

「ガウガウガウッ!!!ギャオ―――――――ン!!!ヴヴヴヴォォォオオオオオオ――――!!!!」

「……あの、寮長……?」

「ウウウウ……!」

「カ、カリム?」

「……」

ジャミルたちが恐る恐る呼びかけると、カリムは少しだけ無言になる。
そして、きょとんと目を丸くして首を傾げた。

「あれ?気付いたらお客さんがいない。帰っちゃったのか?反省してくれたんなら、仲直りして一緒に写真を撮ろうと思ったのに……残念だ」

「ああっ、いつもの寮長だ!」

「び、びっくりした……本物の狼男になっちゃったのかと思いました!」

ケロッと何事もなく元に戻ったカリムを見て、寮生たちが安堵の息を吐く。
だけど、やはりさっきの出来事が信じられないのかジャミルはカリムに詰め寄る。

「カリム、やけに本格的な狼男の演技だったな!?最初に見た時の狼の真似とは全く別物だった。一体どうやったんだ?」

「狼男の真似を見せたら、みんな『狼っぽくない』って言うからさ……ルークに特訓つけてもらったんだ!」

「ルーク先輩に?」
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