スケアリー・モンスターズ

『ハロウィーンウィーク』6日目。
開場時間前から集まった運営委員たちの顔には疲労が浮かんでおり、クロウリーも教壇に向かう足取りが重かった。

「皆さん、おはようございます……ただいまより……『ハロウィーンウィーク』の運営委員会議を始めます……」

「2日前の生き生きとした様子とは打って変わって意気消沈していらっしゃいますね」

「学園長だけじゃないわ。朝昼晩問わずマジカメモンスターの対応に追われて……運営委員もみんな疲れ果てている」

数日前と打って変わり、クロウリーと同じように意気消沈している運営委員たち。
だけど、正確に言うと運営委員は全員ではなかった。

「……あれっ。みんなって言うけど、マレウスがいなくないか?」

「すまんが、今日の会議は欠席じゃ。今度あやつの堪忍袋の緒が切れれば、いよいよマジカメモンスターは無事ではすまぬじゃろう。本人も自覚があるのか『1人になって頭を冷やしたい』と言っておった」

「せっかくのハロウィーンなのに1人ぼっちなんて……寂しいだろうなあ」

「「……」」

カリムがそう言う横で、この事態を察していたケイトとパパラッチの対応には慣れているヴィルは静かに黙っていた。

「皆さんご存知のように、現在学園内の至るところでトラブルが相次いでおりまして……今朝は、とある生徒から苦情のご意見が届いています……」

「苦情?」

デュースが首を傾げた直後、講堂に入ってきたのは――

「やいやいテメェら~~~!」

見覚えのある毛玉だった。


『…………オレ様、もう我慢できないんだゾ!アイツらに文句言ってやる!!』

『ちょっと待って!グリム君!!』

今朝、そう言ったグリムが、ロゼッタの忠告を聞かず超特急で寮から出てしまい、慌てて追いかけたらグリムは学園長に苦情を入れていた。

学園長自身もこの事態にはかなり堪えており、普段は聞き流すはずのグリムの言葉に口を挟まず、落ち込んだ様子で聞いていた。

ロゼッタの体調も思わしくない‥‥今にも倒れそうだ

「監督生とグリム、ロゼッタじゃねえか」

「な、なんだか2人ともやつれてない?それに、ロゼッタサン顔色が‥‥」

「事実、やつれてる。例のマジカメモンスターのせいで・・・ロゼッタさんも体調が悪いですし・・・・」

「私は大丈夫です…」

誰もがそんなはずないと思っていた・・・・そして、完全にご立腹のグリムが言った。

「ハロウィーンのせいで、寮の外でも中でも追いかけ回されて大変なんだゾ!」

「ディアソムニア寮の警備もやっぱり限度があるのか……不法侵入する人が多くて、おちおち夜も眠れないらしくって」

「おう!ほらっ、オレ様も目が充血しまくってんだゾ

ハロウィーンはいいもんだって聞いてたのに……オレ様すっげー楽しみにしてたのに……全然面白くねーんだゾ!ロゼッタの体調も悪くなったんだゾ!ハロウィーンは楽しいなんて、嘘っぱちじゃねーか!」

「「「……」」」

グリム君の言葉に、全員の顔が悲しげに歪む。

それはそうだ。みんなに楽しんでもらおうと今まで頑張っていたのに、それが逆にこんな騒ぎにまで発展した。
でも……せっかくのハロウィーンを台無しにされて悲しいのは向こうも同じだ。

「……確かにお主らには悪いことをした。どうか謝らせてくれ」

「リリアさん、これはあなたが謝ることじゃないですよ」

「ロゼッタの言う通りよ。リリアが謝る必要なんてないわ」

帽子まで取って深く頭を下げるリリアさんに、私は慌てて否定する。
それに便乗するように、ヴィルさんも同じように言った。

「アタシたちハロウィーン運営委員はただ学園行事のために尽くしただけ。学園の生徒や、ゲストを喜ばすために頑張ったのは1つも悪いことじゃない」

「ええ。どなたも、ハロウィーンのお客様が増えて最初のうちは大喜びしていました。お客様が増えたのはみんなの努力の結果です。……幸か不幸か、といったところですが」

「ふぬぬ……」

「グリム君」

ヴィルさんとジェイドさんの話を聞いても納得していないグリム君に、私は彼を抱き上げて言った。

「確かに、学園のハロウィーンが注目されてもっと楽しんでもらおうとみんながちょっと頑張りすぎたのは事実よ。でも……今の状況を彼らのせいにするのは違うわ。悪いのはルールを守らないマジカメモンスターよ。それは、もわかグリム君もわかっているでしょう?」

「…………ロゼッタ…………でも、オレ様、本当に本当に楽しみにしてたんだゾ……」

「ええ」

「お菓子いっぱいもらって……写真いっぱい撮ってくれて……いろんなヤツらからキャーキャー言われて……この前まですっげー嬉しかったし楽しかったけど…………今は、全然嬉しくないし楽しくないんだゾ……」

「そうよね。一番ハロウィーンを楽しみにしてたのは、グリム君だものね」

いつしかぐずぐずと泣き出したグリム君に、私は優しく背中を叩く。
誰もが無言になる中、ケイト先輩が口を開いた。

「『もう行った?最高のハロウィーンスポットナイトレイヴンカレッジ!』『絶対に外せない!ナイトレイヴンカレッジで過ごす、とっておきの『ハロウィーンウィーク』!』……まとめ記事もたくさんできてマジカメはナイトレイヴンカレッジの話でもちきり。
 ナイトレイヴンカレッジに行かずしてハロウィーンは語れない!とまで言われてるよ。今日も含めて残り2日間。ハロウィーン目当てのゲストは増える一方だろうね」

「マジカメモンスターも次々にやってくるというわけですね」

「昨日まででも対応が大変だったのにこれ以上ひどくなるの……!?」

「気が重すぎ……」

「31日になるのがこえーな」

ケイト先輩の言葉に、みんなの顔が不安でいっぱいになる。
ジャックの言う通り、31日がなるのが怖いわね。

「……弱音を吐いている暇なんてないわ。明日のパーティーを無事に開催するためにもマジカメモンスターの対策をしないと……」

ヴィル先輩がそういった時だ。

「「「大変だあ~~!」」」

オンボロ寮のゴーストたちが血相を変えて入って来た。

「……」

「「「……」」」

しかし、講堂にいたみんなは思わず無言になる。
もう慣れちゃって感覚が麻痺してるみたい……。

「最近何度も見ているこのパターン。嫌な予感しかしませんが…………ごほん!オンボロ寮のゴーストくん。一体どうしたんですか?」

「グ……グ……グレート・セブンの像が大変なことになってるんだ!」

「「「ええっ!?」」」

「グ、グレート・セブンですって!?」

グレート・セブンの像。

尊敬し憧れている彼らの像は、傷を1つつけただけで大騒ぎになる。

まさかと思うけど、マジカメモンスターたちがあの像にも手を出したとか・・・

「みなさん、会議はいったん休止!至急メインストリートに向かいましょう」

お義父様の指示に従い、私たちはメインストリートへと向かうのだった。
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