スケアリー・モンスターズ

ユウSIDE

「「「はぁ……」」」

『ハロウィーンウィーク』5日目。

マジカメモンスターの騒ぎは一向に収まらず、たった1日で学園全体がピリピリとした空気になっていた。
一緒に食事をしているエースたちも疲れた顔をしており、とくにひどいのは運営委員のデュースたちだ。

「……みんな、大丈夫?」

「全然大丈夫じゃねーよ。なんなのアイツら、常識なさすぎでしょ」

私の問いにエースがうんざりした様子で答える。

「そっちもだけど、ウチはローズハート寮長がマジカメモンスターの首を何度もはねようとして止めるのが大変だ……」

「俺のところはレオナ先輩たちだ……ラギー先輩の手を借りても、全然止まんねぇんだ……ロゼッタさんも最初は注意してたが、その歯止めも聞かないし…ロゼッタさん自身も追いかけられて、体調崩しちまったしな‥‥」

「オクタヴィネルはフロイド先輩が毎度大暴れしてるみだいだし……スカラビアはジャミル先輩が騒ぎ起こして、カリム先輩が止めてるし……」

「僕のところはヴィルサンがいるし……ルークサンたちの手も借りてるけど、全然言うこと聞いてくれない……」

「イグニハイドだと、オルト君がマジカメモンスターに向けて魔導ビーム放とうとしてたって聞いた……」

「ディアソムニアは若様に触れようとする無礼者たちが後を絶たない!!なんて不愉快なんだ!!!!」

うーん、こうして聞いてみるとどこも大変だ。
とくにディアソムニアは、オンボロ寮に侵入してくるマジカメモンスターを追い払ったり、夜間警備までしてくれてる。

「そういえば、グリムはどうしたんだ?昼時だってのにいないなんて珍しいな」

「グリムならエースたちの部屋で寝てもらってる。夜に押しかけられたりして、寝不足なの…………ふあぁ……」

現に私もすごく眠い。
マジカメモンスターは就寝時間にも押しかけてくるし、おちおち眠ることができない。

ゴーストたちも日中はなるべく姿を消しているが、ゴーストはいないと言ってもマジカメモンスターは勝手に寮の中に入ってくる。
リリア先輩に教えてもらった魔法は今も使っており、寝室とお風呂場、そしてキッチンは侵入できないようにしている。

(でも、このままってわけにはいかないよね……)

マジカメモンスターの迷惑行為は、他のゲストにも被害を被っている。
先生たちはそれの苦情に対応しているが、マジカメモンスターの行為は悪化していくばかり。

そんな時だった

「おはよう・・・」

「ロゼッタさん!?」

ロゼッタさんが私たちのところへやってきた。顔色が相当悪い‥‥

「みんなの疲労は知ってるわ。毎日、見回ってるから…最終日はパーティーもある…どうすればいいのかしら?」

「それよりも、レオナ先輩から部屋出るなって言われてたっすよね?」

「レオナさんに頼み込んで、散歩がてら、みんなの様子を見ているの」

「顔色悪いんだから休んでください。倒れてしまってからでは遅いんですよ?」

「まだ数か所行きたいところg『ダメです!!』

全員意見が一致した

「私も寝不足ですから、一緒に保健室で寝ましょう、ね?」

「みんながそこまで言うなら…」

「レオナ先輩には俺から言っておきます」

正直、寝不足のせいで頭が痛い。

私たちは保健室へ向かう。

保健室は誰もおらず、きちんとシーツがかけられたベッドが並んでいる。
さすがにマジカメモンスターも、保健室に無断で入らないよね……。

ふと、ロゼッタさんの方を見ると、もう寝てしまっていた。相当疲れているのだろう‥‥うわさは聞いた。ロゼッタさんの仮装の姿の写真を撮れば…

そんなわけないのに・・・・ロゼッタさんが貴族だってこと知らないのかな?恐れ知らずにもほどがある


そう思いながら、布団をかぶると洗剤のいい匂いがして、私の意識はゆっくりと沈んでいった……。


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「ふあぁ~……ねっむ……」

「俺もー……どっかで昼寝でもしね?」

周囲からマジカメモンスターと呼ばれている男2人は、あくびをあげながら廊下を歩く。
彼らは明け方まで宿でどんちゃん騒ぎをしており、寝不足で足取りが覚束ない。
そんな時、彼らの目の前に『保健室』のプレートを見つけた。

「ちょうど保健室あるし、そこで寝ようぜ」

「そうだな。誰が来ても具合悪くなって~って言えば問題ないっしょ」

無許可で保健室に入るマジカメモンスター。
すると、2人はベッドで寝ている生徒と女性を見つけた。

ーーロゼッタとユウだ

「この女達、どっかで見たような……」

「あっ、思い出した。確かオンボロ寮の写真に写り込んでた子じゃね?それと、妖精の仮装してる子じゃね?」

マジカメでオンボロ寮の写真が出ているが、たまにこの少女と女性が写っていることがある。

ロゼッタも監督生も写真を撮られないように気を配っていたが、それでも写り込んでいる写真がいくつも投稿されている。

2人はそれに気づき、すかさずスマホを取り出す。

「うわ、めっちゃラッキー。この寝顔撮ればバズるんじゃね?」

「だよな!#オンボロ寮の美人ちゃん#妖精チャレンジ成功 #保健室でお昼寝 #激レア寝顔……で、決まりっしょ!」

マジカメモンスターが彼女たちの寝顔をスマホで撮ろうとした直後、2人の体が茨で巻かれ浮き上がる。

「う、うわぁ―――」

悲鳴を上げる前に茨が彼らの口を塞ぎ、くぐもった声しかでない。

慌てて茨の先を見てみると、そこにいたのは、ロゼッタと契約している精霊・・・ジャック・オー・ランタンとロゼッタの母親だった。

自分たちを見つめる目は氷のように冷たい。

あまりの冷たさに、2人はひゅっと息を呑んだ。

『…それはダメじゃない?』

ランタンは、指をパチンと鳴らすと保健室から学園裏の森に転移する。
そこで口を塞いでいた茨を外した。

「ぷはぁっ!」

「な、なんだよこれ!?降ろせよ!」

マジカメモンスターは自分を吊るしている精霊に言うが、彼は冷ややかな目を向けるだけ。

静かな怒りを感じ、2人はそれ以上言葉を出すことはできなかった。

『……さすがに女の子の寝顔を写真で撮るとは思わなかったわ。私の娘と、娘が大切にしている子に手を出した罪は大きいわよ』

「な、なんだよ!それのどこが悪いんだよ!?」

「オレらのおかげでバズるんだから、むしろ感謝されるべきだろ!」

「…………」

マジカメモンスターの反論に、精霊たちの目が侮蔑へと変わる。

バズるはよくわからないが、少なくとも紳士の多いツイステッドワンダーランドで女性の寝顔を撮る男は死に値する。

怒りの表れなのか、茨が、するすると音を立てながら伸びる。

それと同時にマジカメモンスターたちを縛っていた茨が動き、彼らの足元は断崖絶壁の海へと移る。

「な、何する気だよ……!?」

『何って……海に捨てるの♪』

さらり、と。

あまりにも滑らかに、ジャック・オー・ランタンは死刑判決を下す。
その顔が嘘ではなく本気であると伝わり、マジカメモンスターたちの顔色が真っ青に変わる。

「ま、待て待て待て冗談だろ!?」

「なんでだよ!?俺ら何も悪いことしてねえだろ!?」

『本気で言ってるの?』

喚く2人に、ロゼッタの母は冷たい声で言った。

『周りの注意を聞かず好き勝手にやって、挙句の果てに女の子の写真を撮ろうとする……それが悪いことじゃないなら、何なのかしら?』

「っ……」

『心配しなくても、この海には人喰いサメがいるから、キミたちの死体は綺麗さっぱり食べてくれるよ♪。それで行方不明になっても誰も見つからない。だって、その時はもうサメの腹の中だから♪』

ガタガタと本気で震えるマジカメモンスターたち。
その顔を見て、ランタンは冷酷な笑みを浮かべながら言った。

『悪い子にはお仕置きを……それが常識でしょ?』

その言葉と共に、マジカメモンスターたちを縛る茨が緩む。
海へ落ちると思ったマジカメモンスターたちが悲鳴を上げようとした直後、彼らの体は緑生い茂る地面に落ちた。

「あ、あれっ?」

「生きてる……?」

『うふふっ、素敵な顔をありがとう。というか、もうこの海域に人喰いサメはいないわ。昔、私の夫がぜーんぶ仕留めたの。』

呆然とするマジカメモンスターたちに、ロゼッタの母親はくすくすと笑う。
だけど、あの顔と言葉は全部本気だったと、さすがの彼らも理解できた。

『今回はこれで勘弁してあげる♪。……でも、もし、もう一度同じことをしたら――わかってるよね?』

「ひ、ひいぃっ!!」

「ごめんなさい!もうしません!ちゃんとルールを守ります!」

「「だから許して―――――っ!!!!」」

顔を涙でぐしゃぐしゃにしたマジカメモンスターたちは、足をもつれさせながら去っていく。

それを見送ったロゼッタの母とランタンは、すっきりした顔をしながら魔法で保健室に転移する。

「ロゼッタ」

保健室ではロゼッタがまだ眠っており、その顔はとても穏やかだ。
小さな寝息を聞きながら、ロゼッタの母はそっと髪を撫でる。

「……あなたは頭のいい子だから、なるべくゲストを傷つけないで終わらせようと考えているでしょうね。でもね、本当に許せない時はたとえ外部の人間でもそれ相応の報復を受けさせるのも大事よ。
 せっかくのハロウィーンを台無しにされたのなら、彼らに責任を負わせる義務がある。もしその時が来たら……迷わず、全力で報復しなさい。それをやる権利は、あなたたちにはあるのだから」

それだけ伝えると、彼らは転移魔法で姿を消す。
その時、ちょうど目が覚めた監督生がぼんやりとした顔で起き上がる。

「……?今、誰かいた……?」

そう言いながら、起き上がる

監督生は、いまだスヤスヤと眠っているロゼッタを見ながら、ロゼッタ以外誰もいない保健室で1人首を傾げるのだった。
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