スケアリー・モンスターズ

「……あの人間たち、マレウス様に危害を加えるつもりでしょうか」

「あのような者どもでは、マレウスに傷1つ負わせられん。その心配はいらぬが…………奴ら、いったいなにを考えているんじゃ?」

リリアが首を傾げた直後、マジカメモンスターは問いかける間もなく言った。

「いぇーい!『ドラコニアチャレンジ』成功~~~!」

「「「『ドラコニアチャレンジ』?」」」

3人が首を傾げると、マジカメモンスターたちは笑顔で語る。

「超ぱねぇ魔力を持つって噂のみんながビビるマレウス・ドラコニア!それに触ったとこ写真に撮るとか伝説級の偉業じゃん」

「『それ』……?」

「ガチガチのガチ!やらせなしの読経試し。名付けて『ドラコニアチャレンジ』!これバズり確実っしょ!」

「『度胸試し』……?」

「ひゅ~~見てるだけでドキドキしたわ~~!手に汗びっしょり」

「すごすぎ~。写真ちゃんと撮れたかな」

「俺、この写真家宝にするッス。マレウスさん、アザース!」

マレウスの眦がぴくぴくと痙攣しているのを見えていないマジカメモンスターは、スマホを片手に呑気に言う。
それを見ていたリリアとシルバーは、切れてはいけない糸が切れた音を聞いた。

「……なるほどな。お前たちがなにを大切にしているかよくわかった。命よりも、一瞬の刺激を優先するというのだな?いいだろう。ならばこの僕が、お前たちに……」

直後、オンボロ寮上空に黒い雲が生まれる。
そして、ピシャーン!と雷鳴が響いた。

「とびきりの刺激を与えてやる!!!」

「ああ、いかんいかん……これはちとまずいぞ!マレウス、そのお灸はヒトの子にはちとキツすぎる!」

「マレウス様。あの人間どもに怒りの雷をくらわせてやるのですね!このセベク、微力ながらお手伝いいたします!!!!」

「セベク!待てっ!」

さっきまで言葉を失っていたセベクは、シルバーの制止を無視して大激怒するマレウスのもとへ駆け寄る。

「……セベクも頭に血が上って俺の言うことが聞こえていないようです」

「このままでは人間たちに怪我をさせてしまう。シルバーよ。奴らにマレウスの雷が直撃する前にわしらの魔法でマジカメモンスターを追い出すぞ!」

「はっ!」

マジカメモンスターの命を守るため、2人は己の主人を止めるべくマジカルペンを握った。

マレウスの雷が当たる前になんとかマジカメモンスターを追い払ったリリアとシルバー。
しかしマレウスの怒りは収まらず、リリアが必死に宥めていた。

「ふう。なんとか人間たちを追い払ったか」

「離せリリア。……奴らを消し炭にしなくては!!」

「こら、落ち着かんかマレウス。短気は損気じゃぞ」

「落ち着け、だと?忠告を無視され、無礼な真似をされたあげくもの扱いさえ……それでも許せと言うのか?」

「……改めて言葉にすると非常にひどいことをされていますね」

いざ言葉にするとマレウスの扱いはひどく、さすがのシルバーもマジカメモンスターを擁護できない。

「マジカメモンスターたちは、珍しいものや綺麗なもの、価値のあるものを撮りたがる。だからといって……『茨の谷の王子マレウス・ドラコニア』まで撮りたがる、命知らずとは思わなんだ!」

「リリア様。あのような人間に心を砕く必要はございません!」

「そうです!ジグボルトの言う通りだ」

「寮長に無礼を働くばかりか俺たちの忠告を無視してやりたい放題……」
「ディアソムニア寮を侮ればどうなるかあの無礼者たちに身の程を思い知らせるべきです!」

「おおー。みんなぷりっぷりに怒っとるのう」

セベクを始めとする寮生たちの声に、リリアもここでかなりの悶着があったと理解する。

「シルバー。わしとマレウスが来る前になにがあったのじゃ」

「……彼らは、オンボロ寮の中に入ろうとしたのです」

「なに?寮の中に?飾り付けに庭を使わせてもらってはいるがそこは監督生たちの住まいじゃ。勝手に入られては迷惑じゃろう。マジカメモンスターたちはそれを知らなんだか?」

「俺もそう思い『民家につき建物への立ち入り禁止』の看板を立てたのですが……『こんなボロ屋敷に人が住んでいるはずなどない!』と言われ、無視されてしまいました。それどころか……」

「ふな~~~~~~~~~~~~~!」

シルバーが話を続けようとした直後、オンボロ寮からグリムの悲鳴が響き渡った。
突然の叫びに目を丸くするリリアに、シルバーは頭を抱えた。

「ああ、まただ……」

「んん?この悲鳴は……オンボロ寮の中からか?」

リリアが首を傾げた直後、また悲鳴が聞こえてきた。

「オレ様の寮に勝手に入ってくんじゃね~~~~~~~~~~~!」

「ひいい~~~~!もう写真は勘弁しておくれ~~~~~~~~!!」

「ゴーストにだってプライバシーはあるんだよぉ~~~~~~!」

「待って~~~!写真撮らせて~~~!!」

「オイ、ユウ、捕まえて追い出してやれ!……って、待て待てそのどんりく爆弾はやめるんだゾ!?ぐぬぬ……オレ様たちの寮から出てけ~~~~っ!」

グリムやゴーストだけでなくさらにマジカメモンスターらしき声も響き渡り、マレウスの顔が悲しげに歪ませる。

「……現在マジカメで、オンボロ寮はゴーストスポットとして有名になっているそうです。『ゴーストの写真を撮らなければナイトレイヴンカレッジに来た意味がない』と客人は絶えず……追い払っても、追い払っても、きりがありません」

「他人の家に勝手に入るとは無礼なことをする輩がいるものよ。色々な人間を見てきたわしもこれには驚きじゃ!」

この様子では夜になっても押しかける気配がして、リリアがディアソムニア寮生の何人かにオンボロ寮周辺の警備の依頼と愛理に鍵閉じの魔法を教えようと考えた時だ。
マレウスが険しい顔でオンボロ寮を見ていることに気付いた。

「……」

「……ん?うかぬ顔じゃな、マレウス。どうかしたか?」

「……オンボロ寮をディアソムニアのスタンプラリー会場に選んだのは、僕だ。だからこの騒ぎは、全て僕の責任といえるだろう。あの人間に、ハロウィーンを楽しんでもらおうと思っていたのだが……こんな騒動に巻き込んでしまうことになるとは」

「マレウス……」

マレウスは自分を『ツノ太郎』と呼び仲良くしてくれる1人の人間であるユウを気に入っている。
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