スケアリー・モンスターズ

ポムフィオーレ寮のスタンプラリー会場・鏡の間。
そこでは寮生たちがマジカメモンスターと対峙していた。

「醜い振る舞いの数々……もう我慢ならない!」

「決闘だ。君たち、手袋を拾いたまえ!」

「お!足元に手袋落ちてるっすよ」

「おや、すまないありがとう…………って自分で拾ってしまったじゃないか!私ではなく、君たちが拾うんだよ!」

「うぇーい、お兄さんめっちゃノリいーねー!一緒にコント動画撮ってアップしない?」

「コンビ結成記念に1枚!イエーイ!」

いつもの調子で手袋を叩きつけた手袋先輩だが、マジカメモンスターのノリに合わせて拾ってしまう。
それがさらに盛り上がり、撮影禁止の鏡の間でフラッシュが焚かれた。

「くう!この屈辱の数々……耐えがたい!」

「決闘から逃げるとは。名誉をかけて尋常に勝負しろ!」

「みんな喧嘩はノンノン!やめてくれたまえ」

「…………。なんなの、この騒ぎは!?」

決闘と騒ぐ寮生たちにルークとエペルが間に入って止める。
目の前に広がる光景に、ヴィルも目を見開いて言葉を失い叫んだ。

「寮生がみんなカンカンに怒っているし……それにあのお客さんたち、撮影禁止の鏡の間で写真を撮っているわ」

「あっ!?ヴィル先輩、どうしてここに。……来ちゃダメです!」

「え?」

エペルの言葉に首を傾げた直後、

「「「ヴィル・シェーンハイトだ――――――!」」」

マジカメモンスターたちが、ヴィルの姿を見て一斉に叫び詰め寄ってきた。

「本当に来た!その仮装ぱねぇイケてるっす!」

「足なっが!顔ちっさ!サイコーにキレー!」

「うっ!フラッシュで目がチカチカする……」

無遠慮に降って来るフラッシュに、ヴィルの目が細められる。
困惑する彼とマジカメモンスターの間に、ルークとエペルが入った。

「やめろつってんべや!!」

「キミたち。ヴィルの美は気軽に消費されていいものではないんだ。スマホをしまいたまえ」

「「「ヒュゥ~!ボディーガードがついてるとかさっすがスーパーモデル~!」」」

止めに来た2人をボディーガードと勘違いし、さらに変な盛り上がりをみせるマジカルモンスター。
それを見て、ヴィルは眉をひそめながら言った。

「……このままじゃおちおち会話もできない。エペルとルークがマジカメモンスターの盾になってくれている隙に……魔法で彼らを追い払うしかないわ!」

2人の盾とマントをうまく使いながら、ヴィルはマジカルペンを取り出した。

「はーっはっは!我らが寮長の力を見たか!」

「一昨日来たまえよ!」

ヴィルの魔法によってマジカメモンスターを鏡の間から追い出すことに成功。
高笑いしている寮生たちを無視しながら、ヴィルは改めて事情を聞くことにした。

「……で、一体なにがあったの?」

「お客さんが、撮影禁止の鏡の間で写真を撮り始めたんです!学園長にも、闇の鏡は大切なものだから撮影させてはいけないときつく言われていたのに……みんなで『やめてください』と伝えたんですけど全然言うことを聞いてくれませんでした!」

「なるほど……。大変だったのね」

エペルからの説明に大まかな事情を察したが、1つだけ納得できないことがあった。

「でも、それならどうしてすぐにハロウィーンの運営委員長であるアタシを呼びにこなかったの。あのままじゃ、いつ寮生とマジカメモンスターの間で喧嘩が始まってもおかしくなかったわ」

「それは……すみません……」

「おお寮長!フェルミエくんを叱らないであげてください」

「彼は寮長を守るために必死に戦ったんです」

「アタシを?」

「そう。彼らの一番の狙いは……ヴィル。キミだったんだよ」

寮生たちの言葉に首を傾げると、ルークは神妙な顔つきで言った。

「『ナイトレイヴンカレッジの鏡の間に行けばスーパーモデルのヴィルと一緒に写真が撮れる!』……と、マジカメでは評判になっているそうだ。彼らは、鏡の間にやって来たヴィルを激写しようと待ち構えていたんだよ。先ほどのように、否応なしにプライベート写真を撮って、アップするつもりだったんだろう」

「たちの悪いパパラッチね……」

普段から無断撮影を嫌っているヴィルにとって、さっきのような状況は何度も出くわしたいとは思わない。
そのことを知っていたからこそ、エペルはヴィルを呼ばなかったのだ。

「フェルミエくんはそれを止めようと寮長の助けを求めず懸命に頑張っていました」

「私たちも、彼の勇気に奮起されて戦ったのです!」

「……そう。エペル、アンタのおかげで不本意な写真がマジカメにアップされずにすんだ。助かったわ。ありがとう」

「い、いえ……」

ヴィルからの感謝に、エペルはどこか気恥ずかしそうにする。
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