スケアリー・モンスターズ

『ハロウィーンウィーク』4日目、ナイトレイブンカレッジは未だ大盛況だった。
島外から多くの来客が訪れ、マジカメには連日『ハロウィーンウィーク』の話題で持ち切り。
講堂には報告のために集まった運営委員たち、そして満面の笑みのクロウリーがいた。

「ハッピーハロウィーン!みなさんおはようございます。今マジカメで話題沸騰!取材殺到!社会現象になっているナイトレイブンカレッジ……その学園長を務める、ディア・クロウリーですっ!今から、大人気『ハロウィーンウィーク』の運営委員会議を始めま~~~~す!」

「学園が話題になったゆえすっかり調子に乗っておるのう」

「学園長はなにもしてねえっていうのに……」

「お義父様ったら・・・・・」

「なにを言うんですか。教師と生徒が手と手を取り合って作り上げた、ハロウィーンでしょう!」

完全に浮かれているクロウリーへの苦言に、彼は平然とそう言いのける。
クロウリーの様子にすっかり慣れている面々は、面倒臭くなりそれ以上何も言わないことにした。

「さっ、楽しい『ハロウィーンウィーク』も4日目が始まります。いよいよ折り返しです。運営委員長のシェーンハイトくん。中間報告をお願いします」

「はい。全員はもう既に知っていることだとは思うけど今年のハロウィーンは……マジカメでゴースト写真が注目を浴びたことにより例年とは比べ物にならない数のゲストが来ている。会計係がまとめた数字によると。昨日までの3日間で去年の来場者数を大幅に上回っているわ」

「はい、その通りです。さらに付け加えますと……2日目、3日目と前日比約3割高で来場者数が上昇しています。大盛況ですね」

ヴィルとジェイドからの報告に、いまいちわかっていないデュースは首を傾げる。

「えーっと……それって……?」

「ざっくり言うとーお客さんの数が増え続けてるってこと♪最初にバズったゴーストとグリちゃんの写真には今や30万いいねがついてるし……ゲストが増えたことで、ナイトレイブンカレッジのハロウィーンの写真がどんどんマジカメに増えてる。
 それを見た他のユーザーが『自分も行きたい!』って思って、またゲストが増える。その繰り返しで、どんどんお客さんが増えてるんだろうね」

「へんぴな賢者の島までマジカメのためにわざわざ……!?」

「逆にへんぴなところがいいんじゃん?本気のマジカメグラマーは、誰も知らないものを先取りして、世界に発信したいワケだし♪」

驚愕するデュースにケイトが答えていると、その横でヴィルも頷いた。

「そう。これまでは、最初からナイトレイブンカレッジに興味のある人しか、うちを訪れなかった。……あ、もしくはアタシに興味のある人ね。けれど今年は違う。『いいね』を狙うマジカメユーザーたちがこぞって集うわ。きっと、これまでにこの学園が経験したことのないほどの賑わいになる」

「有名マジカメグラマーもどんどん来場報告をアップしてるし……マジで『NRCは今年のトレンド』って空気あるよ♪」

3人の会話を聞いて、カリムが嬉しそうに報告する。

「仮装をして学園を歩いてると、『写真を撮らせてくれ』って何回も声をかけられるぜ。一緒に写真を撮るとみんなすっげー喜んでくれるんだ。最終日のパーティーは賢者の島の住人じゃなくても参加できるんだろ?だったら大勢で、派手な宴が楽しめそうだな!」

「ふ……たまには賑やかなハロウィーンも悪くはない」

「あら、意外ね。お祭り騒ぎなんて興味がないのかと思ってたわ」

「……僕が一度でもそんなことを言ったことがあったか?」

「くふふ、マレウスも楽しみで仕方がないようじゃ!」

わかりづいらいがいつもより楽しそうにしているマレウスの様子にリリアは嬉しそうに笑う。
ワイワイと賑わう中、クロウリーは締めの言葉を言うために口を開いた。

「えーではみなさん、引き続き『ハロウィーンウィーク』を盛り上げて……」

最後まで言おうとした直後、講堂の扉がノックされ誰かが入ってきた。

「Hey!学園長、失礼するよっ」

「おやサムくん、どうしました?今は会議中なんですが……」

「それが急ぎの用なのさ!ちょっと『困ったこと』が起きていてね。学園長と、ロゼッタちゃんと、ハロウィーン運営委員会の小鬼ちゃんたちも、何人か来て欲しいんだけど……」

サムの口調と顔からただ事ではないと漂う雰囲気に、その場にいた全員は顔を見合わせた。

「わかったわ。それじゃ、3年生はアタシについてきて。もうすぐ10時。一般来場が始まるわ。1、2年生はスタンプラリー会場へ向かいなさい。くれぐれもお客様に失礼がないように」

「はい!任せてください」

運営委員長であるヴィルの迅速な判断に、エペルを中心とした1、2年生は頷いた。

「困ったことって何なんでしょう?」

「この僕を顎で使おうとは……」

「運営委員なんだから、トラブル対応は当然でしょう」

「うーん。まあこれだけの大盛況だしトラブルの1つや2つ覚悟しないといけないかもね」

「そう心配なさらずとも、学園長である私が冷静に対応して解決しますよ。ははは!ハッピーハロウィーン!!」

「浮かれすぎです…」

まだ浮かれ気味のクロウリーを3年生一同が白い目で見たのを知らぬまま、メインストリートへと向かう。

「こ、これはどういうことですかー!?」

到着直後、クロウリーは先ほどの自分の発言を撤回せざるを得なくなった。

「そこの君!今すぐ林檎の木から降りなさい!」

「オッケー、オッケー!用がすんだらすぐ降りまーすっ」

「すぐすみますよ~。木の上にいるアイツうちの地元じゃ名の知れた木登り名人っすから!……ま、今オレが認定したんすけどねーっ。たはーっ!」

メインストリートにある林檎の木に登るゲストの男性2人。
それをトレインが注意しても、相手は平然どころがへらへら笑うだけだ。

「ハロウィーンのゲストが林檎の木によじ登っているわ……」

「下にいる者たちも、止める気はないようだな」

「俺たちが気付いたときにはもうあの状態だったんだ」

「で、でも一体なんのために木登りを!?」

困惑するクロウリーの質問に、ゲストは笑いながら答える。

「今オレのダチが、学校のエモな写真撮るんで!楽しみにしてて~フッフゥ~!」

「写真?」

「そそ!グレート・セブンを見下ろした写真が撮れたら超イケてると思うんですよ~!」

「なるほど。そーゆーワケね……」

ゲストの言葉を聞いて、ケイトは若干冷めた表情で呟く。
その間にも他の教師たちも到着した。

「林檎はナイトレイブンカレッジの校木。手荒に扱うのはよしてもらおう」

「そんなに貧弱な上腕筋と握力で木登りなど無謀すぎる!いつ落ちるかわからんぞ!」
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