スケアリー・モンスターズ

トレイ「『ハロウィーンウィーク』の間ぐらいサイエンス部の活動は休んでもいいんじゃないか?サイエンスコンテストもしばらくないし……」

ルーク「ノンノン!好奇心はどんなときも待ってはくれないよ。今日はどんな驚きに出会えるか楽しみだ!早く実験室に行こう」

廊下を寮服姿で歩くトレイとルークは、部活動のために実験室へと向かっていた。
その道中、気弱そうな男性が2人に話しかけてきた。

「あのー……」

ルーク「ん?ボンジュール、ムシュー。私たちになにかご用かな?」

「すみません、道に迷ってしまって……ナイトレイブンカレッジの生徒さんですよね。鏡の間がどこにあるのか教えてもらえませんか」

トレイ「ああ、『ハロウィーンウィーク』のお客様ですね?もちろんいいですよ。案内しますので俺たちに付いて来てください」

高校生とは思えないほどの礼儀正しさに目を丸くするも、男性はトレイとルークの後ろに付いて行くように歩く。
するとたった数分で鏡の間にたどり着いた。

トレイ「ここが『鏡の間』です」

「ああ、よかった。ありがとうございました!」

ルーク「我が学園はどこもかしこも美しいけれど……鏡の間は静かで、格調高く、足を踏み入れるだけで厳かな気持ちになれる。自らの魂の形を告げられたその時から、我々ナイトレイブンカレッジ生の特別な場所なんだ!ぜひ、鏡の間の美しさをゆっくりと堪能してくれたまえ!」

「えっ、は、はい……」

ルークの熱弁に男性が困惑するのを見て、トレイは肩を竦めた。

トレイ「ルーク、お客さんがちょっと引いてるみたいだぞ」

ルーク「おっと。つい熱が入ってしまった。すまないね」

困惑する男性にルークが謝罪している間に、鏡の間には次々とお客が入ってくる。

ルーク「それにしても随分とたくさんのお客さんが集まっているようだ。みんな鏡の間を見に来たのかな?」

「たぶんそうです。今マジカメで話題になってるんで僕も楽しみにしてたんですよ!」

トレイ「ケイトの言った通り、本当に『ハロウィーンウィーク』がマジカメで話題になってるんだな」

男性の話を聞いて感心したが、途中でその会話に矛盾があることに気付く。

トレイ「……あれ?でも鏡の間は撮影禁止じゃなかったですか?」

「はい。なので『訪問者だけの特権』と情報だけがシェアされていて……。『絶対見たほうがいい』『写真が撮れないのが残念』って評判になってるんです」

トレイ「なるほど。そうだったんですね」

理由がわかりトレイが納得すると、ルークは感激したように言った。

ルーク「嬉しいことだ。目の前のこの何十もの人が私たちの学園を楽しんでくれている。それに鏡の間は、我がポムフィオーレがスタンプラリー会場に選んだ場所!……やはり、この場所を選んだ彼の見る目は確かだったということだね」

「彼って……?」

ヴィル「失礼。後ろを通ってもいいかしら」

「あ、すみませんどうぞ……うっ眩しい!」

ルークの意味深な言葉に男性が首を傾げた直後、背後で声がした。
振り返った直後その眩しさに目がくらみ、一瞬だけ目を閉じてします。

「なにかが輝いている。一体なに……えっ!?」

男性が目を開けた直後、そこに立っていたのはヴァンパイアの仮装をしたヴィル。
目の前に現れた芸能人に、男性がひっくり返った声で叫ぶ。

「ヴィ、ヴィル・シェーンハイト!?」

「うそ!あの有名モデルの!?」

ヴィル「ハッピーハロウィーン、みなさん。我が校のハロウィーン、楽しんでくれてるかしら」

「「「は、はいっ!」」」

ヴィルの言葉にお客全員が返事をした。
タイミングを計ったわけでもないのに、全員息ピッタリだった。

「そういえばヴィルって、ナイトレイブンカレッジの在学生なんだっけ。会えるなんて超ラッキー!」

「あの、一緒に写真……あっ。でも鏡の間は撮影禁止か」

「その前に、ヴィルみたいなスーパーモデルが気軽に写真なんて撮ってくれるわけないよ」

ヴィル「いいわよ」

「「「えっ!?」」」

ヴィルからのまさかの返答に、再び息ピッタリに叫んだ。

ヴィル「鏡の間では撮れないけど撮影なら廊下ですればいいわ。一度出ましょう。……暗いから足元に気を付けて」

「は、は……はひ……」

まさかの展開に男性が夢見心地のままヴィルと一緒に廊下に出る。

その会話が聞こえてきたのか、ヴィルは答えた。

ヴィル「確かに、アタシの美貌が一過性の話題のためだけにマジカメで消費されるのはごめんよ。でも……これぐらいの誠意は見せないと来てくれた人たちに失礼だわ。みんな賢者の島の外から時間とお金をかけて来てくれてる。
 その努力に応えるのにアタシが芸能人かどうかは関係ない。ナイトレイブンカレッジの生徒として……そして、ハロウィーン運営委員長として!うちに来てくれた人たちが満足して帰れるようにアタシは全力を尽くすわ!」

「「「ヴィ……ヴィル様~~!!!」」」

ヴィルのその言葉に感銘を受けたお客は、誰もが涙を流した。

「今日でますますファンになりました!特集されてる雑誌全部3冊ずつ買います!」

「次の映画絶対に見ます!」

「コラボ商品全部買います!」

ヴィル「あら、みんな……ありがとう」

お客たちの言葉に感謝を伝えるヴィルを見て、トレイは腕を組みながら言った。

トレイ「芸能人かどうかは関係ない、か。……本当に自分の宣伝じゃないんだよな?」

そう訊いてみるが、肝心の本人はお客の対応で忙しい。

ルーク「キミたち、このロープからはみ出さないように並んでくれるかい?ヴィルが順番にサインして回るよ!」

ヴィル「ルークくん、いったいいつの間にロープなんて持ってきたの?」

ルークはどこから持ってきたのか、ロープを使いながら案内までしている始末。
ワイワイと賑わう光景に、トレイは嬉しそうに言った。

トレイ「学園中がハロウィーンのお客さんで賑わってるな。『ハロウィーンウィーク』史上最大の集客数になるんじゃないか?ずっと準備してきた運営委員としてはたくさんの人に見てもらえて嬉しいだろう」

ケイト「うん。デュースちゃんも、みんなもすっごく喜んでるみたい」

トレイ「そりゃあいい。みんなハロウィーンを楽しみにしてたからな。ハッピーハロウィーンだ」

ケイト「うん、ハッピーハロウィーン♪」

トレイに笑顔を向けるケイトだが、すぐに神妙な顔つきで呟いた。

ケイト「ただー……ちょーっと、嫌な予感がするんだよねぇ」
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