深海の商人
その日の夜_
監督生Side
その日の夕方近く、エリーゼさんは目を覚ました。エリーゼさんが目を覚ます前、部屋は混沌とした雰囲気だった。グリムは耳を垂れ下げ、泣き続け、レオナさんは威嚇したような声を抑えつつ、エリーゼさんの側を離れない。それを見るラギー先輩と私とジャック。ジャックの顔は、悔しそうだった。たぶん私もそんな顔をしていたと思う。エースとデュースもさっきまで近くにいた。なんで二人がここにこれたのかはさておき、二人とも青ざめた顔をしていたが、エリーゼさんが優しく声をかけると、少しだけすっきりとした顔で帰っていった。ケイト先輩に情報収集してくれるらしい。たぶん大丈夫だと信じよう。
エリーゼさんが起きて、時間がたった夜、今日何が起こったかレオナさんの部屋で話をした。本当は談話室で話す予定だったのだが、エリーゼさんの体調のことを考えると、歩かせるのは危険だと判断したからだ。エリーゼさんは私のことは気にせず話をしてきてくださいといったけれど、レオナ先輩がかたくなにそれを拒否したし、グリムがエリーゼさんから離れようとしないから、部屋で話をすることになったのだ。
ラ「え?君らマジで珊瑚の海に行ったんスか?それで、エリーゼちゃんが大変な目に…」
エリーゼ「そんなに心配されるようなことでは…それに私がフロイド君たちが人魚だって忘れてたことも悪いんだし…」
「水の中で、呼吸できる魔法薬の効果が切れたんですよ!!」
私が声を荒らげるとジャックもそれに賛同した。
ジャック「本当ですよ。精霊がいなかったら今頃どうなっていたことか…。」
そうジャックが言うと、またグリムが泣き出した。
グ「ううっ、エリーゼ~~!無理やり連れてってゴメンなんだゾ~」
珍しくグリムが素直に謝っている。
ジャック「グリムなんて、この部屋にエリーゼさんが運ばれた時も、エリーゼさんが起きたときもずっと泣きっぱなしですよ。今もだが…」
エリーゼ「…心配かけたわね。グリム君。もう大丈夫だから。」
そうエリーゼさんが声をかけると、さらに泣き出すグリム。ここまで泣いてるのは初めて見た気が…。だが、鼻水をエリーゼさんの服に着けるのはやめてほしい。絶対私ならいやだが、エリーゼさんはそんなこと気にする素振りなくグリムを撫で続ける。やっぱり、エリーゼさんは聖母なのかもしれない・・と思っていたとき、レオナ先輩がグリムを無理矢理エリーゼさんから引き離し、エリーゼさんの隣に座る。そして、エリーゼさんの頭を優しくなでると、口を開けた。
レ「は、バカすぎんだろ。それに、エリーゼをこんな目に合わせやがって。・・・ガルル」
エリーゼ「魔法薬が切れたのはこの子たちのせいではありませんから、もう怒らないでください。レオナさんの怒った顔は見たくないですよ。」
そうエリーゼさんが言うと、怒ったような声を出すのをやめたレオナ先輩。その様子は大きな猫のようだ。そんなこと言ったら明日の朝日が拝めなくなるので言うのはやめた。引きはがされたグリムは泣きべそをかきながらレオナ先輩に言い放つ。
グ「うう~、ずびっずび、オメーがさっさと行動を起こせっつったんだゾ!」
レ「フン。誰も馬鹿正直に海に行け、なんて言ってねえよ。時間は有限。頭を使って価値のある使い方をしろって言ってやったんだ。水中で人魚と真っ向勝負するなんざ、どう足掻いても勝ち目がねえ。わざわざ食われにいくようなもんだ。」
ジャック「…あの、もしかしてレオナ先輩たちはあの双子が人魚だって知ってたんスか?」
レ「まあな。」
ラ「オレは去年の夏、水泳の合同授業でフロイド君が元の姿になってるところ見たことあるけど…。あれに水中で追いかけられたら一巻の終わり感あるッスね。」
ジャック「だったら先に教えておいてくださいよ!」
レ「事前の情報収集なしで勝手に飛び込んでいったのはお前らだろ?聞かれりゃ、懇切丁寧に教えてやったさ。」
ラ「そうそう。行動を起こす前はもっと用心深くならなきゃ。シシシッ!向こう見ずなヤツは、サバンナじゃすぐ飢えちまうッスよ。」
この2人絶対あの事件のこと反省してない!
グ「ぐぬぬ・・ずびっ。相変わらず意地が悪いヤツらなんだゾ!」
レ「…だが、他の草食動物ならまだしも、教師の端くれのお前に手を出すとは思わなかったがな。」
そういうと目を細め、エリーゼさんの頭をまた撫でる。いつも私たちに見せるのとは全く異なる優しい手つき…。それだけエリーゼさんのことを大切に思ってるってことだよね。
ジャック「アズールのヤツ、最初から邪魔するつもりで契約を持ち掛けたってことか?」
レ「当たり前だろーが。」
ラ「リーチ兄弟はアズール君の手下で、契約者から担保と代償をきっちり取り立てることで有名ッス。契約の達成条件をクリアできないよう邪魔をしてくるって噂もね。」
グ「なんて卑怯なヤツらなんだゾ!ううっ・・・。コイツが負けたら、オレ様ずっとアズールにこき使われちまうのか?」
「オンボロ寮が取られちゃったらどうしよう。」
エリーゼ「大丈夫よ、ユウ。成功するわ。でも、何とかあなた達の手助けをしてあげたいけど…記念館へもう一度行くのは難しそうね。」
エリーゼさんの言葉はやはり安心感がある。
レ「・・・。」
ラ「レオナさん?」
レ「アズールのユニーク魔法は『黄金の契約書』。『特別な契約書にサインを取り付ければその対象から能力を1つ取り上げられる』しかも、契約違反が生じた場合、違反者はアズールに絶対服従状態にされちまうって話だ。」
あのレオナ先輩が情報を!?エリーゼさんも驚いたような表情をしている。
ラ「発動条件が難しい魔法ほど、効果は大きいっていうけど…タチ悪いッスよね~。」
レ「取り上げた能力は契約書に封印されていてアズール本人がいつでも使えるらしい。」
ジャック「!!じゃあ、アズールが難易度の高い魔法を何種類も使いこなしていたのは、まさか…。」
ラ「十中八九、契約者から担保として奪った能力でしょーね。」
ジャック「なんて奴だ!なにからなにまでインチキってことじゃねえか!」
ラ「ユニーク魔法自体が超レベル高いんで、全部インチキとも言い切れないッスけど。」
レ「俺も能力を担保に取引したことがないからどういう理屈かはよく知らねえが。」
ジャック「え?それなら、レオナ先輩は何を担保に取引を?」
レ「グルル…なんだっていいだろうが。思い出させるんじゃねえ。…で、だ。その特別な契約書がある限りアイツとの取引は継続する。だからアズールは、言葉巧みに契約を持ち掛け…」
レオナ先輩が何を担保に契約したのか気になる…
ラ「達成不可能な条件でサインをさせる…ってわけッス。」
レ「アズールに勝つ一番の方法は、”契約しない”ってことだな…ハッ。」
グ「ふなあ~…どうしたらいいんだあ…。」
「絶対に負けられないのに…」
エリーゼ「諦めるしかないのかしら…」
珍しくエリーゼさんが弱音を言ったとき、レオナ先輩がエリーゼさんの額をツンと触った。
レ「バーカ。もっと頭を使えよ。自分より強いヤツに勝つために頭があるんだろ。だが、そうだなァ。もし俺がお前らの立場だったら…」
監督生Side
その日の夕方近く、エリーゼさんは目を覚ました。エリーゼさんが目を覚ます前、部屋は混沌とした雰囲気だった。グリムは耳を垂れ下げ、泣き続け、レオナさんは威嚇したような声を抑えつつ、エリーゼさんの側を離れない。それを見るラギー先輩と私とジャック。ジャックの顔は、悔しそうだった。たぶん私もそんな顔をしていたと思う。エースとデュースもさっきまで近くにいた。なんで二人がここにこれたのかはさておき、二人とも青ざめた顔をしていたが、エリーゼさんが優しく声をかけると、少しだけすっきりとした顔で帰っていった。ケイト先輩に情報収集してくれるらしい。たぶん大丈夫だと信じよう。
エリーゼさんが起きて、時間がたった夜、今日何が起こったかレオナさんの部屋で話をした。本当は談話室で話す予定だったのだが、エリーゼさんの体調のことを考えると、歩かせるのは危険だと判断したからだ。エリーゼさんは私のことは気にせず話をしてきてくださいといったけれど、レオナ先輩がかたくなにそれを拒否したし、グリムがエリーゼさんから離れようとしないから、部屋で話をすることになったのだ。
ラ「え?君らマジで珊瑚の海に行ったんスか?それで、エリーゼちゃんが大変な目に…」
エリーゼ「そんなに心配されるようなことでは…それに私がフロイド君たちが人魚だって忘れてたことも悪いんだし…」
「水の中で、呼吸できる魔法薬の効果が切れたんですよ!!」
私が声を荒らげるとジャックもそれに賛同した。
ジャック「本当ですよ。精霊がいなかったら今頃どうなっていたことか…。」
そうジャックが言うと、またグリムが泣き出した。
グ「ううっ、エリーゼ~~!無理やり連れてってゴメンなんだゾ~」
珍しくグリムが素直に謝っている。
ジャック「グリムなんて、この部屋にエリーゼさんが運ばれた時も、エリーゼさんが起きたときもずっと泣きっぱなしですよ。今もだが…」
エリーゼ「…心配かけたわね。グリム君。もう大丈夫だから。」
そうエリーゼさんが声をかけると、さらに泣き出すグリム。ここまで泣いてるのは初めて見た気が…。だが、鼻水をエリーゼさんの服に着けるのはやめてほしい。絶対私ならいやだが、エリーゼさんはそんなこと気にする素振りなくグリムを撫で続ける。やっぱり、エリーゼさんは聖母なのかもしれない・・と思っていたとき、レオナ先輩がグリムを無理矢理エリーゼさんから引き離し、エリーゼさんの隣に座る。そして、エリーゼさんの頭を優しくなでると、口を開けた。
レ「は、バカすぎんだろ。それに、エリーゼをこんな目に合わせやがって。・・・ガルル」
エリーゼ「魔法薬が切れたのはこの子たちのせいではありませんから、もう怒らないでください。レオナさんの怒った顔は見たくないですよ。」
そうエリーゼさんが言うと、怒ったような声を出すのをやめたレオナ先輩。その様子は大きな猫のようだ。そんなこと言ったら明日の朝日が拝めなくなるので言うのはやめた。引きはがされたグリムは泣きべそをかきながらレオナ先輩に言い放つ。
グ「うう~、ずびっずび、オメーがさっさと行動を起こせっつったんだゾ!」
レ「フン。誰も馬鹿正直に海に行け、なんて言ってねえよ。時間は有限。頭を使って価値のある使い方をしろって言ってやったんだ。水中で人魚と真っ向勝負するなんざ、どう足掻いても勝ち目がねえ。わざわざ食われにいくようなもんだ。」
ジャック「…あの、もしかしてレオナ先輩たちはあの双子が人魚だって知ってたんスか?」
レ「まあな。」
ラ「オレは去年の夏、水泳の合同授業でフロイド君が元の姿になってるところ見たことあるけど…。あれに水中で追いかけられたら一巻の終わり感あるッスね。」
ジャック「だったら先に教えておいてくださいよ!」
レ「事前の情報収集なしで勝手に飛び込んでいったのはお前らだろ?聞かれりゃ、懇切丁寧に教えてやったさ。」
ラ「そうそう。行動を起こす前はもっと用心深くならなきゃ。シシシッ!向こう見ずなヤツは、サバンナじゃすぐ飢えちまうッスよ。」
この2人絶対あの事件のこと反省してない!
グ「ぐぬぬ・・ずびっ。相変わらず意地が悪いヤツらなんだゾ!」
レ「…だが、他の草食動物ならまだしも、教師の端くれのお前に手を出すとは思わなかったがな。」
そういうと目を細め、エリーゼさんの頭をまた撫でる。いつも私たちに見せるのとは全く異なる優しい手つき…。それだけエリーゼさんのことを大切に思ってるってことだよね。
ジャック「アズールのヤツ、最初から邪魔するつもりで契約を持ち掛けたってことか?」
レ「当たり前だろーが。」
ラ「リーチ兄弟はアズール君の手下で、契約者から担保と代償をきっちり取り立てることで有名ッス。契約の達成条件をクリアできないよう邪魔をしてくるって噂もね。」
グ「なんて卑怯なヤツらなんだゾ!ううっ・・・。コイツが負けたら、オレ様ずっとアズールにこき使われちまうのか?」
「オンボロ寮が取られちゃったらどうしよう。」
エリーゼ「大丈夫よ、ユウ。成功するわ。でも、何とかあなた達の手助けをしてあげたいけど…記念館へもう一度行くのは難しそうね。」
エリーゼさんの言葉はやはり安心感がある。
レ「・・・。」
ラ「レオナさん?」
レ「アズールのユニーク魔法は『黄金の契約書』。『特別な契約書にサインを取り付ければその対象から能力を1つ取り上げられる』しかも、契約違反が生じた場合、違反者はアズールに絶対服従状態にされちまうって話だ。」
あのレオナ先輩が情報を!?エリーゼさんも驚いたような表情をしている。
ラ「発動条件が難しい魔法ほど、効果は大きいっていうけど…タチ悪いッスよね~。」
レ「取り上げた能力は契約書に封印されていてアズール本人がいつでも使えるらしい。」
ジャック「!!じゃあ、アズールが難易度の高い魔法を何種類も使いこなしていたのは、まさか…。」
ラ「十中八九、契約者から担保として奪った能力でしょーね。」
ジャック「なんて奴だ!なにからなにまでインチキってことじゃねえか!」
ラ「ユニーク魔法自体が超レベル高いんで、全部インチキとも言い切れないッスけど。」
レ「俺も能力を担保に取引したことがないからどういう理屈かはよく知らねえが。」
ジャック「え?それなら、レオナ先輩は何を担保に取引を?」
レ「グルル…なんだっていいだろうが。思い出させるんじゃねえ。…で、だ。その特別な契約書がある限りアイツとの取引は継続する。だからアズールは、言葉巧みに契約を持ち掛け…」
レオナ先輩が何を担保に契約したのか気になる…
ラ「達成不可能な条件でサインをさせる…ってわけッス。」
レ「アズールに勝つ一番の方法は、”契約しない”ってことだな…ハッ。」
グ「ふなあ~…どうしたらいいんだあ…。」
「絶対に負けられないのに…」
エリーゼ「諦めるしかないのかしら…」
珍しくエリーゼさんが弱音を言ったとき、レオナ先輩がエリーゼさんの額をツンと触った。
レ「バーカ。もっと頭を使えよ。自分より強いヤツに勝つために頭があるんだろ。だが、そうだなァ。もし俺がお前らの立場だったら…」