グラブル(フェルラガ)
天体観測室を横切り、ラガッツォは天文台の四階にあるフェルディナンドの部屋の扉をノックした。しばし耳を澄ますも、部屋の中から応答はない。
どうやら出かけているようだ、中で待とうとラガッツォは扉を開ける。ふと、フェルディナンドがまとっている香水の香りがふわりと漂った。
彼の私室は、綺麗に片付けられている。応接用の机とソファ、本棚、クローゼットとベッド。ナビスの議長として各地を転々としている彼にとって、ここもまた仮住まいのひとつにすぎない。簡素な住まいになるのは必然だった。
ラガッツォはソファを素通りし、ためらいなくベッドに腰かけた。横になりながら、手にしていた本を広げる。今日街の図書館へ行って借りてきたばかりの本だ。
ラガッツォは本越しに、ベッドの傍にある本棚を見やった。そこには星にまつわる本がぎっしりと並んでいる。天体、宇宙、星座、占星術――。
幼い頃、ラガッツォは意味も分からないのに、それらの本を読んでくれとフェルディナンドにねだった。彼は嫌な顔もせずに、穏やかな声で読み聞かせてくれたものだ。彼の体温と声に包まれていると、いつの間にか眠りに落ちていく。あの時は、ラガッツォにとって人生で最上の時だった。
借りてきた本へ目を走らせるも、疲れから瞼が重くなる。ラガッツォは無意識のうちに本を置くと、シーツにくるまった。フェルディナンドの匂いに包まれる。ラガッツォは深く息を吐き、眠りの世界に落ちていった。
頬をくすぐる感触に、目を覚ます。
何度か瞬きすると、白い服が目に入った。
フェルディナンドがベッドに腰かけ、ラガッツォを撫でていた。刺青の入った指先がラガッツォの頬から顎を辿る。
「なんだよ……起こせよ」
「いや、随分と気持ちよさそうに寝ていたからね。邪魔をするのはかわいそうだと思ったんだよ」
ラガッツォは寝顔を見られていた恥ずかしさを誤魔化すように上半身を起こし、大きくのびをした。
「ああ、よく寝た」
「そうかい。それはよかった」
ラガッツォはベッドの上で胡坐をかき、ハァ、としばし放心した。
「おや、また本を借りてきたのかい。今度は何を借りてきたのかな?」
「ちょ、……勝手に見るなよ! アンタには教えねェ」
「ああ、ラガッツォが反抗期を迎えている。パパは嬉しいよ。でもちょっと寂しいな」
「寒ィこと言うんじゃねえよ。そもそも俺がここにきたのは――」
「報告、だろう。いいよ、聞かせてくれ」
フェルディナンドがラガッツォの前髪を梳きながら微笑む。ラガッツォは彼の振る舞いによって焦げつく胸のうちの感情を無視し、任務の報告を始めた。
窓の外には満天の星が広がっている。空の片隅で一筋、星が落ちた。誰にもみられることなく、星は過ぎ去った。
どうやら出かけているようだ、中で待とうとラガッツォは扉を開ける。ふと、フェルディナンドがまとっている香水の香りがふわりと漂った。
彼の私室は、綺麗に片付けられている。応接用の机とソファ、本棚、クローゼットとベッド。ナビスの議長として各地を転々としている彼にとって、ここもまた仮住まいのひとつにすぎない。簡素な住まいになるのは必然だった。
ラガッツォはソファを素通りし、ためらいなくベッドに腰かけた。横になりながら、手にしていた本を広げる。今日街の図書館へ行って借りてきたばかりの本だ。
ラガッツォは本越しに、ベッドの傍にある本棚を見やった。そこには星にまつわる本がぎっしりと並んでいる。天体、宇宙、星座、占星術――。
幼い頃、ラガッツォは意味も分からないのに、それらの本を読んでくれとフェルディナンドにねだった。彼は嫌な顔もせずに、穏やかな声で読み聞かせてくれたものだ。彼の体温と声に包まれていると、いつの間にか眠りに落ちていく。あの時は、ラガッツォにとって人生で最上の時だった。
借りてきた本へ目を走らせるも、疲れから瞼が重くなる。ラガッツォは無意識のうちに本を置くと、シーツにくるまった。フェルディナンドの匂いに包まれる。ラガッツォは深く息を吐き、眠りの世界に落ちていった。
頬をくすぐる感触に、目を覚ます。
何度か瞬きすると、白い服が目に入った。
フェルディナンドがベッドに腰かけ、ラガッツォを撫でていた。刺青の入った指先がラガッツォの頬から顎を辿る。
「なんだよ……起こせよ」
「いや、随分と気持ちよさそうに寝ていたからね。邪魔をするのはかわいそうだと思ったんだよ」
ラガッツォは寝顔を見られていた恥ずかしさを誤魔化すように上半身を起こし、大きくのびをした。
「ああ、よく寝た」
「そうかい。それはよかった」
ラガッツォはベッドの上で胡坐をかき、ハァ、としばし放心した。
「おや、また本を借りてきたのかい。今度は何を借りてきたのかな?」
「ちょ、……勝手に見るなよ! アンタには教えねェ」
「ああ、ラガッツォが反抗期を迎えている。パパは嬉しいよ。でもちょっと寂しいな」
「寒ィこと言うんじゃねえよ。そもそも俺がここにきたのは――」
「報告、だろう。いいよ、聞かせてくれ」
フェルディナンドがラガッツォの前髪を梳きながら微笑む。ラガッツォは彼の振る舞いによって焦げつく胸のうちの感情を無視し、任務の報告を始めた。
窓の外には満天の星が広がっている。空の片隅で一筋、星が落ちた。誰にもみられることなく、星は過ぎ去った。
