fate(槍弓)

 隙間風が互いの肌を撫でた。埃臭い空間に、甘い肉の香りがまじる。大きな箱には、アーチャーがひとりだけ、密やかに収まっていた。見つけてくれるなとでもいうように、最も奥の端の座席で腕を組み、目を閉じている。
 画面で繰り広げられる物語は中盤に入り、刃と刃が重なり相手を圧倒しようとする鋭い音が、幾度も幾度も大音量で響き渡る。空間を叩き切る刃の軌道をするりと躱しながら、ランサーはアーチャーへ近づいていく。抱えた紙袋が接近する音に反応して、アーチャーは眉根を寄せた。邪魔くさそうに、うるさそうに、頭を少しだけ反らす。
「……他の席の方が広く使えるだろう、近寄るな」
「どうせ見てないなら、オレが近くにいても支障ないんじゃねえの」
「目で捉えることだけが、映画を鑑賞する唯一の方法ではない。あと、無駄にこちらへ立ち入ってくれるな」
「……じゃあこれは不要だったな」
 ランサーはそう言いながら、湯気の立つ、蒸されたばかりの中華まんを紙袋から取り出して、わざとらしくかぶりついてみせた。開けられた紙袋にある、残りの一つを示しながら。鳴り響いていた刃の音はとうに収まり、アーチャーの注意もまた物語から逸れてしまっていた。
 物音なく、アーチャーの横に腰かけ、紙袋を隣の膝の上に放り投げて正面を見た。アーチャーは躊躇いのあと、小さな動きで湯気を立てる白い塊を取り出し、生地に歯を立てた。穏やかな香りに包まれながら、人々のいさかいの物語をなぞる。外は雪、二人は不意に重なった手のひらで、今日の温度を知った。
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