fate(槍弓)
初めて男に突っ込まれるってのはどんな気持ちだ、アーチャー。
男の下卑た質問は、けれどどこかアーチャーに不適切な変化が起きていないかと慮る気配があった。それこそアーチャーを苛立たせるものだと知らずに。汗をかいた腕で顔を覆ったまま吐き捨てる。
「最悪に決まっている。……は、自分が初めての男だと信じこめる頭は、しあわせっ……だな」
はぁ、と吐息交じりで応じる。下半身がじくじくとした痛みに支配されて冷静に思考できない。
「どっからどうみても初めてのくせして無理してんじゃねえよ……んなこと言うなら、ひどくするぞ」
ああ良いともしてみたまえよ、と言いかけて思わず舌の端を噛んだ。小さな痛みに震えると身体全体がびくつき、ありえぬ場所で食んでいる男を締め上げてしまった。
「あ、ぁ……」
腰が痺れる。頭上の男の熱い息が何度も、私の肩のそばで繰り返される。覆いかぶさりながら、キャスターは接合部に近い白い下生えをざらりと撫でた。接している部分は互いの精液と潤滑油でどろどろになっている。力を込めすぎているせいで今にも攣ってしまいそうな褐色の脚を、引き締まった白い腕で支えてキャスターは笑った。ぎしぎしと支給品のベッドが悲鳴を上げる。
「いいからっ……動いて、しまえ……。この、しつこいっ、な……」
軋む腰と背骨に押し殺せぬ呻きがでる。キャスターはどこを触っても熱かった。粘膜で接しているところも、耐えられず白い肩を掴んでも。だがそれはキャスターも同じらしい。
「熱いなオマエ……大丈夫かよ、ああ……」
たまんねえな、気持ちがよすぎると囁いて、その晩キャスターは幾度も私の中に種を撒いた。偶然が重なっただけの一晩は、そのまま終わってしまうはずだった。互いに平然とした顔のまま、何事もなく。
***
憮然とした顔を隠そうと思うたびに、力の制御が効かなくなる。エネミーの退治なら何体でもこなせてしまえそうだった。マスターにぽつりとそうこぼすと、いやちょっと今の貴方だとなあと躱された。それならば適当な仕事でもしようと働いていたのに、包丁で食材を通り越してまな板を真っ二つにしたところでブーディカに食堂の厨房を追い出された。そうだ窓がくすんでいたと窓ふきをしていたら硝子に罅が入ってしまったことは反省しよう。
傍でぼんやりと私を観察していた幼女が言う。
「いっしょに解体、する?」
ああしようか、特にあの青い髪をして槍だか杖だかをふるうふざけた男がいいかもしれないな、と思っていた言葉は勝手に漏れ出ていたらしい。
「その人だと、おかあさんに、おこられちゃう……」
とりあえずそれ、なおしておいた方がいいよ、と幼女は罅の入った硝子を指差す。修理はお手の物だ安心したまえと、魔力回路を起動させる感覚を身体で思い出す寸前でまた、あの男の顔がちらついた。
「……あぁ、やっぱりおこられちゃうよ」
爆発的な音と共に、硝子に刻まれた蜘蛛の巣状の罅は先程よりも一層広がりをみせていた。
「……で、なにをそんなに怒ってんだよテメエ」
目を閉じた後、アーチャーは意識して威圧的に、自室の出入口で質問を放った男を睨みつける。
「貴様と話すことなどない。さっさと退きたまえ。その薄汚い左足をレールの上からどかすだけでいいんだ、子供にもできる」
「なにをカッカとしてるんだか……とりあえず部屋の中へ入らせろよ、これじゃ話も出来ねえ」
「貴様と話すことなどないと何度言わせれば理解できるんだ」
忌々しそうに吐き捨てると、キャスターは深々とため息をついた。アーチャーは苛立った頭のまま、男を入室させるまいと警戒していた。そのとき視界の端で、ちらりと誰かの気配を捉える。廊下の先の小さな物音。
「――っ!ぐっ……」
アーチャーの油断をキャスターは見逃さなかった。躊躇いのない回し蹴りがアーチャーの腹に炸裂し、勢いよく部屋の奥まで投げ飛ばされる。ぷしゅうと間抜けな音を立ててドアが閉まり、自動ロックがかかった。部屋の中には当然のような顔をして、キャスターが仁王立ちしアーチャーを見下ろしている。
「……っ、はっ」
無造作に部屋を横断し、屈みこんでごほごほと噎せるアーチャーの白髪をゆるりと触り、キャスターは呆れた調子で呟いた。
「んなに嫌だったならもっと抵抗しておけよ。オレだってそんな無理言ってなかっただろ。……いや、言った……?そこまで言ってねえよな?」
アーチャーは蹴られた痛みに呻きながら、思わず下腹を手で押さえた。忌々しい、と唇を曲げる。
「……貴様の下劣な精神に吐き気がする」
キャスターは鼻先で白けたように笑った。
「あんなもん勢いじゃねえか。よくよく考えりゃ自分が嫌だったってだけのことを他人に押しつけんなよ」
そうではなくて、と言うか否か迷ってアーチャーは口を閉ざした。顔を俯けたまま、再び熱く疼く下腹を撫でる。
「それともなんだ、見境なく周りに八つ当たりするほど気持ちよかったか」
ンな訳ねえよな、と平坦な調子で続いた言葉にアーチャーは身体を震わせた。
「……図星かよ」
「違うに決まっている!」
ただ、私は。
「……裏切られた気分だっただけだ」
キャスターは首を傾げ、裏切りってなにがだよと、きょとんとした表情で言った。アーチャーは冷たい床に座りこんだまま、鋭い視線を上に飛ばす。キャスターはアーチャーと目線を合わせようと、床に屈んだ。
「オマエさんの言いたいことがよく理解できないんだが、もうちょっと丁寧に会話してくれないもんかね」
「君がしたことだろう」
「だから何がだよ、それをはっきりしろってんだよ」
「……痣だ」
「痣?」
オレそんな酷く殴ったか?と問いかける男の頭を、アーチャーは思わず叩いた。
「あ、あんな場所に徴を残したのは貴様だろう!」
キャスターは叩かれた頭の角度のまましばらく沈黙し
「……あー、なんかわかったぞ、あー……オマエ、ああ」
ああー……となんとも言い難い響きの声を発し、キャスターは固まった。
「行為、行為自体は合意だったさ。双方の合意に基づいていた。そこは私も認めよう、だがキャスター、貴様にな」
アーチャーは縺れる舌を懸命に動かし、唾を飲み込んで呻いた。
「こんな痕を残される覚えはないぞ。まるで君に所有されてでもいるような」
「いや、違う、待ってくれそれは違う」
「なにが違うというんだ、霊体になっても消えないからたまったものではない。こんなっ……」
キャスターは唸りながら頭を振り
「ちょっと見せてみろアーチャー、それ」
どこだ、ときっぱり訊ねた。
「……嫌だ」
「見てみないと話にならんだろう」
「なる、このたわけ」
「ああもう、じゃあオレが見せればいいんだろったく」
オマエにも出たんならよっぽど相性が良かったんだな、と呆れた調子で言いながらキャスターはするりと立ち上がり、被っていたローブを床に落とした。そのままアーチャーに背をむけ、躊躇いなく腰布を解き、中に着ていた上半身の服を腹からめくりあげる。
「キャスター、……君、それは」
アーチャーは予想外の光景に絶句し、息することを忘れた。
赤く血のような色をした筋が、キャスターの白く引き締まった筋肉質な背中を支配している。腰の部分に幅をもって細かく刻まれた紋様は複雑に絡み、そのまま背骨を伝い、まるで大樹の幹のような形をしてキャスターの背に刻みつけられていた。その下の骨さえ透けて見えそうな、艶めく徴。
「随分派手に出たと思ったんだ。風呂で言われるまで気づかなかったけどな……見えねえんだ、オレからはな」
鏡で見ようと思ったら首を捻ったんだよ、なんかまだ首の筋が痛えんだよなあ、とキャスターはぼやいた。
「それは、刺青とは別物か?」
「違うな。何がとは言わんが、した時にたまに出るな。しなけりゃそのうち消える」
アーチャーはまじまじとキャスターの背中を見つめ、綺麗なものだなと呟いた。そのままノロノロと顔を両掌に埋め
「最悪だ……」
とひとりごちた。キャスターは上半身裸のままアーチャーに近づき、服の襟元を力加減なく掴みあげる。
「おら、てめえの番だぞ。下腹だろう、さっきからそこを押さえてるからそうだろ、なあ」
よろよろと立ち上がったアーチャーは、力なく拒みながらもキャスターに押し負け、ベッドへの上に押さえつけられた。嫌だ、やめてくれという言葉を無視してキャスターはアーチャーのボトムを下げる。弓兵の足にまとわりつくベルトまで外す必要はなかった。それは筋肉質な下腹部に、深い赤色の曲線で柔らかく繊細な紋様を描いていた。褐色の肌の臍の下から白い下生えを伝い、太ももへ少々はみ出す範囲が全てだった。中心でくたりと力なく横たわる性器までは浸食されていない。
「はー、これはこれは。なあアーチャー、下らねえこと言っていいか」
「もうなんでも勝手にしたまえよ」
「エロい」
あまりの馬鹿々々しさに、キャスターを殴りつけようとする力が十分に湧いて出てこなかった。軽い音を立ててアーチャーの足がシーツに落ちる。
キャスターは無言のままアーチャーの下腹部をじっと見つめ、指先でそっと何度も撫でた。秘所を明るいライトの下で見られている状況に、アーチャーは羞恥心を抱いた。もぞもぞと落ち着きなく腰を動かすが、キャスターに圧し掛かられているせいで満足に身を隠すこともできない。
「キャスター、わかった。君の意図的な行為でないことは理解した。怒ってすまなかった。だからもう……いいだろう。退いてくれ」
冷えた指の背がするするとアーチャーの紋様の筋を辿る。
「オレはな」
無表情にアーチャーを見下ろすキャスターの目が、鮮やかな感情を滲ませる。
「これが出るのは大概相性のいい奴なんだ。ついでにこれ消えるまでしたくてたまらなくなる。疼いて仕方がない、どこがとは言わねえがな。オマエはどうだった、アーチャー」
キャスターはそう告げると、アーチャーの太ももを拘束するベルトに手をかけた。ゆっくりと一つ一つの留め金を外していく。思わず身をよじるアーチャーの中心は、僅かに頭を擡げていた。
「退きたまえよっ……」
「冗談言うなよ。というか、ここで下がる男がいたらその腐抜けた面を拝んでみたいもんだな」
するりと冷たい手が太ももへ差し込まれた。ひくり、と褐色の腹が震える。アーチャーは顔を腕で覆い、歯を食いしばった。ここしばらく、この身から離れなかった熱を思い出す。下腹部はいつも熱で疼き、慰めを求めて仕方がなかった。
「……あぁ」
太ももの次は、上半身の服の下に掌が侵入する。厚い胸板を味わうように撫で、頼りなく膨らむ左の胸の尖りを軽く摘み上げる。ぞわりと背筋が粟立つ。身体を重ねた夜の記憶が、肌に余すところなく刻まれていた。下腹部の徴が熱を発する。
「キャス、ター……」
アーチャーの熱い声に導かれるように、首元へ顔を埋め男は首筋に歯を立てた。男の耳のピアスが褐色の肌にあたり、互いの肌の熱さと金属の冷たさが明確になる。耳たぶを噛み、キャスターは問う。
「聞いてやるよ。なあ、してもいいか。アーチャー、オレに抱かれたいって言えよ」
固く目を瞑り、いやいやとアーチャーは白髪を振った。息を吸いながらのけ反り、キャスターの頭を片手で抱えながらうんざりと告げた。
「……せめて明かりを消してくれないか」
「見えねえな、もったいねえ」
そうぼやきながらも、素直にキャスターは部屋の明かりを消した。アーチャーは両足でキャスターの腰を抱え込みながら、これではまた徴が消えないではないかと思いため息をついた。
男の下卑た質問は、けれどどこかアーチャーに不適切な変化が起きていないかと慮る気配があった。それこそアーチャーを苛立たせるものだと知らずに。汗をかいた腕で顔を覆ったまま吐き捨てる。
「最悪に決まっている。……は、自分が初めての男だと信じこめる頭は、しあわせっ……だな」
はぁ、と吐息交じりで応じる。下半身がじくじくとした痛みに支配されて冷静に思考できない。
「どっからどうみても初めてのくせして無理してんじゃねえよ……んなこと言うなら、ひどくするぞ」
ああ良いともしてみたまえよ、と言いかけて思わず舌の端を噛んだ。小さな痛みに震えると身体全体がびくつき、ありえぬ場所で食んでいる男を締め上げてしまった。
「あ、ぁ……」
腰が痺れる。頭上の男の熱い息が何度も、私の肩のそばで繰り返される。覆いかぶさりながら、キャスターは接合部に近い白い下生えをざらりと撫でた。接している部分は互いの精液と潤滑油でどろどろになっている。力を込めすぎているせいで今にも攣ってしまいそうな褐色の脚を、引き締まった白い腕で支えてキャスターは笑った。ぎしぎしと支給品のベッドが悲鳴を上げる。
「いいからっ……動いて、しまえ……。この、しつこいっ、な……」
軋む腰と背骨に押し殺せぬ呻きがでる。キャスターはどこを触っても熱かった。粘膜で接しているところも、耐えられず白い肩を掴んでも。だがそれはキャスターも同じらしい。
「熱いなオマエ……大丈夫かよ、ああ……」
たまんねえな、気持ちがよすぎると囁いて、その晩キャスターは幾度も私の中に種を撒いた。偶然が重なっただけの一晩は、そのまま終わってしまうはずだった。互いに平然とした顔のまま、何事もなく。
***
憮然とした顔を隠そうと思うたびに、力の制御が効かなくなる。エネミーの退治なら何体でもこなせてしまえそうだった。マスターにぽつりとそうこぼすと、いやちょっと今の貴方だとなあと躱された。それならば適当な仕事でもしようと働いていたのに、包丁で食材を通り越してまな板を真っ二つにしたところでブーディカに食堂の厨房を追い出された。そうだ窓がくすんでいたと窓ふきをしていたら硝子に罅が入ってしまったことは反省しよう。
傍でぼんやりと私を観察していた幼女が言う。
「いっしょに解体、する?」
ああしようか、特にあの青い髪をして槍だか杖だかをふるうふざけた男がいいかもしれないな、と思っていた言葉は勝手に漏れ出ていたらしい。
「その人だと、おかあさんに、おこられちゃう……」
とりあえずそれ、なおしておいた方がいいよ、と幼女は罅の入った硝子を指差す。修理はお手の物だ安心したまえと、魔力回路を起動させる感覚を身体で思い出す寸前でまた、あの男の顔がちらついた。
「……あぁ、やっぱりおこられちゃうよ」
爆発的な音と共に、硝子に刻まれた蜘蛛の巣状の罅は先程よりも一層広がりをみせていた。
「……で、なにをそんなに怒ってんだよテメエ」
目を閉じた後、アーチャーは意識して威圧的に、自室の出入口で質問を放った男を睨みつける。
「貴様と話すことなどない。さっさと退きたまえ。その薄汚い左足をレールの上からどかすだけでいいんだ、子供にもできる」
「なにをカッカとしてるんだか……とりあえず部屋の中へ入らせろよ、これじゃ話も出来ねえ」
「貴様と話すことなどないと何度言わせれば理解できるんだ」
忌々しそうに吐き捨てると、キャスターは深々とため息をついた。アーチャーは苛立った頭のまま、男を入室させるまいと警戒していた。そのとき視界の端で、ちらりと誰かの気配を捉える。廊下の先の小さな物音。
「――っ!ぐっ……」
アーチャーの油断をキャスターは見逃さなかった。躊躇いのない回し蹴りがアーチャーの腹に炸裂し、勢いよく部屋の奥まで投げ飛ばされる。ぷしゅうと間抜けな音を立ててドアが閉まり、自動ロックがかかった。部屋の中には当然のような顔をして、キャスターが仁王立ちしアーチャーを見下ろしている。
「……っ、はっ」
無造作に部屋を横断し、屈みこんでごほごほと噎せるアーチャーの白髪をゆるりと触り、キャスターは呆れた調子で呟いた。
「んなに嫌だったならもっと抵抗しておけよ。オレだってそんな無理言ってなかっただろ。……いや、言った……?そこまで言ってねえよな?」
アーチャーは蹴られた痛みに呻きながら、思わず下腹を手で押さえた。忌々しい、と唇を曲げる。
「……貴様の下劣な精神に吐き気がする」
キャスターは鼻先で白けたように笑った。
「あんなもん勢いじゃねえか。よくよく考えりゃ自分が嫌だったってだけのことを他人に押しつけんなよ」
そうではなくて、と言うか否か迷ってアーチャーは口を閉ざした。顔を俯けたまま、再び熱く疼く下腹を撫でる。
「それともなんだ、見境なく周りに八つ当たりするほど気持ちよかったか」
ンな訳ねえよな、と平坦な調子で続いた言葉にアーチャーは身体を震わせた。
「……図星かよ」
「違うに決まっている!」
ただ、私は。
「……裏切られた気分だっただけだ」
キャスターは首を傾げ、裏切りってなにがだよと、きょとんとした表情で言った。アーチャーは冷たい床に座りこんだまま、鋭い視線を上に飛ばす。キャスターはアーチャーと目線を合わせようと、床に屈んだ。
「オマエさんの言いたいことがよく理解できないんだが、もうちょっと丁寧に会話してくれないもんかね」
「君がしたことだろう」
「だから何がだよ、それをはっきりしろってんだよ」
「……痣だ」
「痣?」
オレそんな酷く殴ったか?と問いかける男の頭を、アーチャーは思わず叩いた。
「あ、あんな場所に徴を残したのは貴様だろう!」
キャスターは叩かれた頭の角度のまましばらく沈黙し
「……あー、なんかわかったぞ、あー……オマエ、ああ」
ああー……となんとも言い難い響きの声を発し、キャスターは固まった。
「行為、行為自体は合意だったさ。双方の合意に基づいていた。そこは私も認めよう、だがキャスター、貴様にな」
アーチャーは縺れる舌を懸命に動かし、唾を飲み込んで呻いた。
「こんな痕を残される覚えはないぞ。まるで君に所有されてでもいるような」
「いや、違う、待ってくれそれは違う」
「なにが違うというんだ、霊体になっても消えないからたまったものではない。こんなっ……」
キャスターは唸りながら頭を振り
「ちょっと見せてみろアーチャー、それ」
どこだ、ときっぱり訊ねた。
「……嫌だ」
「見てみないと話にならんだろう」
「なる、このたわけ」
「ああもう、じゃあオレが見せればいいんだろったく」
オマエにも出たんならよっぽど相性が良かったんだな、と呆れた調子で言いながらキャスターはするりと立ち上がり、被っていたローブを床に落とした。そのままアーチャーに背をむけ、躊躇いなく腰布を解き、中に着ていた上半身の服を腹からめくりあげる。
「キャスター、……君、それは」
アーチャーは予想外の光景に絶句し、息することを忘れた。
赤く血のような色をした筋が、キャスターの白く引き締まった筋肉質な背中を支配している。腰の部分に幅をもって細かく刻まれた紋様は複雑に絡み、そのまま背骨を伝い、まるで大樹の幹のような形をしてキャスターの背に刻みつけられていた。その下の骨さえ透けて見えそうな、艶めく徴。
「随分派手に出たと思ったんだ。風呂で言われるまで気づかなかったけどな……見えねえんだ、オレからはな」
鏡で見ようと思ったら首を捻ったんだよ、なんかまだ首の筋が痛えんだよなあ、とキャスターはぼやいた。
「それは、刺青とは別物か?」
「違うな。何がとは言わんが、した時にたまに出るな。しなけりゃそのうち消える」
アーチャーはまじまじとキャスターの背中を見つめ、綺麗なものだなと呟いた。そのままノロノロと顔を両掌に埋め
「最悪だ……」
とひとりごちた。キャスターは上半身裸のままアーチャーに近づき、服の襟元を力加減なく掴みあげる。
「おら、てめえの番だぞ。下腹だろう、さっきからそこを押さえてるからそうだろ、なあ」
よろよろと立ち上がったアーチャーは、力なく拒みながらもキャスターに押し負け、ベッドへの上に押さえつけられた。嫌だ、やめてくれという言葉を無視してキャスターはアーチャーのボトムを下げる。弓兵の足にまとわりつくベルトまで外す必要はなかった。それは筋肉質な下腹部に、深い赤色の曲線で柔らかく繊細な紋様を描いていた。褐色の肌の臍の下から白い下生えを伝い、太ももへ少々はみ出す範囲が全てだった。中心でくたりと力なく横たわる性器までは浸食されていない。
「はー、これはこれは。なあアーチャー、下らねえこと言っていいか」
「もうなんでも勝手にしたまえよ」
「エロい」
あまりの馬鹿々々しさに、キャスターを殴りつけようとする力が十分に湧いて出てこなかった。軽い音を立ててアーチャーの足がシーツに落ちる。
キャスターは無言のままアーチャーの下腹部をじっと見つめ、指先でそっと何度も撫でた。秘所を明るいライトの下で見られている状況に、アーチャーは羞恥心を抱いた。もぞもぞと落ち着きなく腰を動かすが、キャスターに圧し掛かられているせいで満足に身を隠すこともできない。
「キャスター、わかった。君の意図的な行為でないことは理解した。怒ってすまなかった。だからもう……いいだろう。退いてくれ」
冷えた指の背がするするとアーチャーの紋様の筋を辿る。
「オレはな」
無表情にアーチャーを見下ろすキャスターの目が、鮮やかな感情を滲ませる。
「これが出るのは大概相性のいい奴なんだ。ついでにこれ消えるまでしたくてたまらなくなる。疼いて仕方がない、どこがとは言わねえがな。オマエはどうだった、アーチャー」
キャスターはそう告げると、アーチャーの太ももを拘束するベルトに手をかけた。ゆっくりと一つ一つの留め金を外していく。思わず身をよじるアーチャーの中心は、僅かに頭を擡げていた。
「退きたまえよっ……」
「冗談言うなよ。というか、ここで下がる男がいたらその腐抜けた面を拝んでみたいもんだな」
するりと冷たい手が太ももへ差し込まれた。ひくり、と褐色の腹が震える。アーチャーは顔を腕で覆い、歯を食いしばった。ここしばらく、この身から離れなかった熱を思い出す。下腹部はいつも熱で疼き、慰めを求めて仕方がなかった。
「……あぁ」
太ももの次は、上半身の服の下に掌が侵入する。厚い胸板を味わうように撫で、頼りなく膨らむ左の胸の尖りを軽く摘み上げる。ぞわりと背筋が粟立つ。身体を重ねた夜の記憶が、肌に余すところなく刻まれていた。下腹部の徴が熱を発する。
「キャス、ター……」
アーチャーの熱い声に導かれるように、首元へ顔を埋め男は首筋に歯を立てた。男の耳のピアスが褐色の肌にあたり、互いの肌の熱さと金属の冷たさが明確になる。耳たぶを噛み、キャスターは問う。
「聞いてやるよ。なあ、してもいいか。アーチャー、オレに抱かれたいって言えよ」
固く目を瞑り、いやいやとアーチャーは白髪を振った。息を吸いながらのけ反り、キャスターの頭を片手で抱えながらうんざりと告げた。
「……せめて明かりを消してくれないか」
「見えねえな、もったいねえ」
そうぼやきながらも、素直にキャスターは部屋の明かりを消した。アーチャーは両足でキャスターの腰を抱え込みながら、これではまた徴が消えないではないかと思いため息をついた。
