fate(槍弓)

 はっ、と遠のいた意識が肉体へ再び戻っても、状況は少しも変化していなかった。腹の奥は熱く、硬いものがアーチャーを深々と貫いている。その感触の生々しさに、ぐっと喉が鳴った。ぜいぜいと音を立てる呼吸が身体にこもって響く。空気を必死で貪っている肺はきりなく上下していた。
アーチャーをそこまで追い込んだランサーは、骨太でありながら引き締まっている褐色のなまめかしい腰を両手で抱き、正面からアーチャーの後孔へ差し込んだ肉棒を緩く上下した。性器は硬度を保ち、ぐりぐりと悪戯にアーチャーの弱い部分を押し上げる。
その度に、あっ、ぁ、やめ、とアーチャーの口から拒む声が漏れるが、その言葉とは対照的に、弓兵の肉壁は嬉しそうにランサー自身へねっとりと絡みついてきていた。
「……はっぁ、この、いい加減にしろとっ……!も、ぅ」
「おう、弱音を吐くには早いだろ、アーチャー。っ、まだ付きあえんだろ、へばってんなよ」
「さっさと、いけっ。ば、馬鹿者、めっ……」
ランサーは正面に身を横たえているアーチャーの左足を肩にかけ、交わっている二人の間でわずかに頭を擡げて、たらたらと欲望を零し続けるアーチャーの中心を指で弾いた。
「ぅぐ、あ、やめ、やめろ……っ」
アーチャーは身体を巡り響く快楽に背を反らし、指先で汗と体液で湿るシーツをかいた。足のつま先まで力が入る。
「ここはそうは言っていないみたいだがな」
「――っ!」
二人が身体を重ね始めてから随分と時間がたっていたが、ランサーは一度もアーチャー自身に触れていなかった。そしてアーチャーはランサーに正面から貪られて、男の面前に抱かれている姿の全てを晒しているためか、自身を己の手で慰めるには羞恥が邪魔し、もどかしそうに両手を動かしてはそのままシーツを握りしめている。
「ア、――っ」
ごり、とランサーは腹の奥を突き上げた。アーチャーの後孔は、ほぐす際に十分すぎるほど使ったローションと、ランサーが幾度も中で吐き出した種でぬめり、時折後孔の肉壁とランサーの性器の間をつたってごぽり、と流れ落ちる。その様子を動きを止めたランサーがまじまじと観察していると、アーチャーは赤らむ顔を片手で覆い、嫌がるように腰をひねる。けれどがっちりと腰を掴むランサーの両腕の前では、ささやかすぎる抵抗だった。
ランサーはアーチャーのみせる無意識の姿態に煽られ、長く持ちそうになかった。本能が求めるまま、汗で滑るアーチャーの脚を抱えなおしていきり立つ性器で奥を突き上げては、小さく喘ぐアーチャーの筋肉質な身体に、張りつめた褐色の肌に数え切れないほどキスをする。
二人の身体にはあちらこちらに噛み痕が残り、血を滲ませている箇所さえあった。熱が重く渦巻く腰をアーチャーに音を立てて打ちつけ、揺さぶり、同時に犬歯でアーチャーの胸の尖りに歯を立ててやると
「くぅ、ぁ……」
と半ば叫ぶような声を漏らして身悶えた。
 あ、あ、いっ……らんさァ、もう、あぁ、と最早意味をなさぬアーチャーの喘ぎに誘われ、激しく腰を律動させる。頑強な男の肉壁に、自分自身が包みこまれる感触は例えようもなく心地よく、快楽だけを苦しいほどにランサーへもたらした。
アーチャーの最も深い腹の底で、堪えきれず身体を震わせ精を吐き出した。全身が真っ白になり、何も考えられぬ快感に全てを支配される。同時に、手加減なくこすりあげてやったアーチャーの雄は、身体と共に大きく震え、ランサーの掌にどろりとねばついた白濁を吐き出した。
「ひっ……、あぁ、もう、もう……」
さわるな、さわらないでくれ、と褐色の手がのろりと持ち上がり、ランサーの二の腕を撫でるとやがて力を失い落下した。はあ、はあ、と二人の荒い息遣いだけが狭いアパートの一室に響く。二人の周囲に夜更けの静寂が戻ってくる。


 アーチャーは呆然とした表情で大の字になって寝そべり、天井を見上げた。胸が上下する息苦しさと後孔からたらりと男の残滓が伝い落ちる感触は、やがて緩やかに収まっていき、息は整い受け止めた男の精は魔力となって身体に吸い込まれていく。
ランサーは全裸のまま布団の上で胡坐をかき、煙草を箱から出して銜え、ライターで火を点した。紫煙が辺りに漂う。
「……はあ、まったく、ろくでもない一日だった」
アーチャーの悪態を宥めようとでもしたいのか、ランサーが伸ばしてきた手をアーチャーは煩わしそうに振り払い、畳の上で皺くちゃに丸まる服を手に取りながら立ち上がった。上だけを羽織り、長い素足を晒しながら台所へ向かう。手櫛で乱れた白髪を撫でつけた。
「かなわない。今日は食事さえろくに摂れなかった」
「……食事なら、さっきまでオレの魔力を十分に食ってたじゃねえか」
じろり、と剣呑な目でランサーを睨みつけたまま、アーチャーはうんざりした様子でなにかをトースターに放り込んだ。
 ランサーは窓の外に広がる真っ暗な闇と、硝子に反射するアーチャーの半裸姿を眺めながら大きく背を伸ばした。うっそりと、床の上に散らかる服とアーチャーの羽織るシャツを比べるように見て
「おい、それオレの服だぞ」
と面倒くさそうな口調で言った。

「それがどうかしたか。今更だ。……いや、言われたら確かに小さいな」
きついな、と言いながらアーチャーは金属製の流し台に手をついてもたれかかっていた。ランサーは「うーん」と両手を再び天に上げると、布団から立ち上がって薄いシーツで身を包んでから、アーチャーに近づいていく。
トースターのタイマーが「ちん」と間抜けな音を立てて、中に入っている食物が焼きあがったことを知らせる。アーチャーは姿勢を変えないまま億劫そうに手を伸ばして、座りもせずに焼けてはいるものの何もつけていない素焼きのトーストを齧りだした。
がっしりとした筋肉のつく褐色の広い背中を、そしてアーチャーの身体の全てを散々貪った後だというのに、ランサーは少し小さい白いシャツに隠された肌を再び暴きたくなり、口の中に欲望が滲みだすのを自覚した。ごくり、と喉が鳴る。
シーツを被る手をアーチャーの腰にゆっくりと這わせ、胸元へ差し込もうとする。すると、アーチャーは面倒くさそうに身をよじり
「うるさい奴だな」
と、トーストを持っていない方の手でランサーを振り払った。
「こらっ、……くそ、パンが落ちるだろうそんなことをしたら。なにがしたいんだ貴様は」
抗うアーチャーから齧りついている食パンをむしり取ることに失敗したランサーへ、アーチャーは背を向けた。
「もうしないぞ。もう十分だ。私は食事がしたいんだ」
ランサーはその言葉に、心持ち拗ねた声で応える。
「別に構わねえよ。……ただ、お前の背中が見たくなったんだ」
ランサーは己に向けられたアーチャーの背に覆いかぶさり、じわりと体重を掛けてみた。アーチャーはランサーに息をあわせながら共にじわりと下がっていき、二人してずぶずぶと床の上へ沈み込んでいく。ランサーを突き放す物言いに反して、アーチャーは後ろから自分自身を抱きこむ男の胸に背をもたれかけるようにし、全てを預けてカリカリと小さく食パンを齧っていく。
ランサーはアーチャーの首筋に鼻を埋め、そのままシャツ越しに肩と、肩甲骨の一部に頬を擦りつけた。シーツを纏う全裸の男と、上に小さなシャツを羽織っただけの男が、一対の置物のように、冷蔵庫が低温で唸る古びた台所に蹲っている。
小麦の焼けた香ばしい匂いが二人を包む。
ランサーは丈夫な肌に覆われたアーチャーの背に頬を擦りつけながら、時折抱く無性にやるせない思いへ、再びその身をひたした。
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