fate(槍弓)

 かわいらしい顔をしていない自覚くらいある。頭にはしたなく血を上らせ、眉間にしわを刻み、目は固く閉じている。さぞ嫌そうな表情をしているのだろうと思う。
 けれどそれが好いのだとこの男は言う。言葉を借りると「すげえそそる」らしい。相変わらず変な趣味をしている男だ。女性のような丸みのある体でもなく、色気を漂わすわけでもない。こんな筋肉質で無愛想な男のどこに欲情するのか不思議で仕方ないが、相手が嘘をついていないことは己が一番よく知っている。事実、エミヤが今咥内に納めているランサーのペニスは、銜えられて萎えるどころかよりいっそういきり立ち、喉の奥に捻じ込んではずるりと出ていくたびに興奮の度合いが増していく様子だった。エミヤが奉仕している姿がそれに拍車をかけているのか、ランサーは荒い手つきでエミヤの後頭部を掴み、性器を深々と銜えこんでいる口元をよく見せろと無言でせがむ。
 涎にまみれた口を上下させながら目を細く開け、ベッドに浅く腰かけているランサーの表情を上目遣いで窺う。その途端食らいつくような視線がエミヤに突き刺さった。白い肌を欲で赤く染めた男は口元をいやらしく歪める。
「集中しろよ、アーチャー」
 エミヤの後頭部を掴んでいた大きな手を、汗ばむ白髪の中へ差し込みわしゃわしゃと掻き乱す。ちゅぱ、と音を立ててランサー自身から口を離すと、糸引く唾液がたらりと下に落ちた。
「そんなことをされたら余計集中できん、たわけめ」
手の甲でべたつく口元を拭った。ランサーはアーチャーの細やかな反論を受け流し
「なあ、口づけたいから立てよ」
と、命令だか懇願だか判別できない口調で言いながらエミヤの頭を撫でる。エミヤはランサーの、苦みのある先走りが舌の上に未だ残っているのを感じながら立ち上がった。ベッドへ腰かけているランサーの上へ屈みこむ。
舌を差し出すと、向こうの舌が待ちきれないと言わんばかりに勢いよく絡みついてきた。水音がたち、互いのなまぬるい唾液が交わる。ランサーは気にした様子もなく、エミヤを両腕で抱き深く口をあわせてくる。大概大雑把な男だ。
 ランサーはエミヤの舌を吸いながら、まわした両手で服の下にある尻を揉んでくる。その度に、エミヤは男に与えられる快感を思い出して腰をじんと痺れさせ、背筋を粟立てる。
「はっ……、あっ」
 思わずうめき声がでた。下肢に服を着たままでいるせいでエミヤのはりつめた中心は窮屈になり、早く自由になって更に愛されたいと終わりなく訴えかける。ぐちぐちと音をたて重なる唇から快感が生まれ、背骨を走り腰を重くする。溜まる欲に耐えきれず顔を背け息をしようとしてもランサーは許してくれない。あまりのもどかしさにたまらず、ランサーの太腿を挟むようにベッドへ膝をつき、身体の中心で盛り上がっている部分を露骨に擦りつけた。しつこくエミヤの舌を追うランサーが含み笑いをする。
 宙に浮いていた手がランサーの性器へ導かれる。言葉もなく、エミヤはたらたらと滴を零す鈴口を固い掌で包み、竿の部分をぬめりと共に上下する。ランサーの腹筋が快感でピクリと震えた。袋がきゅう、と縮む。ランサーに教え込まれた通りに昂りを愛し、先端の口を指先でぐじぐじと弄る。
「先にいくか、ランサー」
ランサーの耳元で荒い息と混じりあった問を発すると、青い髪の男は赤味と熱を帯びた褐色の耳の縁へ噛りつき、低く「あァ」と答えた。ランサーは歯を立てた痕の残る耳へ、じっとりと舌を這わせる。エミヤはぴりぴりと痛む耳元で水音を立てられ、まるで己の脳髄までこの男に侵されているようだ、と思った。
 ランサーは興奮し汗ばむエミヤの首筋、鎖骨を噛んでは痕を残し、空いた両手で胸の突起をぐにぐに押しつぶす。
その度にエミヤの身体の奥はむずがゆい熱をはらみ、じれったさに腰を揺らす。目を閉じて、男を果てさせることだけに集中しようとした。全体を己の内でしぼる時のようにねっとりと締め、血管の浮き上がった芯をやわやわと刺激する。時折反り返るものから片手を離し、袋を揉んでやる。
 ランサーが乱暴な手つきでアーチャーの後頭部を掴み、食らいつくようなキスをした。しなやかな筋肉に覆われた柔軟な身体が動きを止め、やがて弛緩する。エミヤの右手がぬるつく液体で汚された。
 はぁはぁと荒い息で互いに相手へむしゃぶりつく。苦しくなるまで口をあわせていると、唾液がきりなく顎をつたう。ランサーの太腿の上に乗ったままのエミヤは上気した顔で口を離し、ランサーを見下ろしながら口周りをなめ、汗の滲む顔を左手で拭った。
 吐き出してさっぱりとした表情のランサーがエミヤの腰をぐっと引き寄せ、力任せに両掌で布の上から尻を揉む。手を回し「今度は俺の番な」と、服の下でぎちぎちに張りつめ布を押し上げているエミヤ自身を撫でる。
文句があるはずもなく、ランサーの眼前で褐色の右手にこびりつく白い液体を、赤く湿った舌でぺちゃり、とこれ見よがしに舐め上げてやる。
 体温が上がり気怠い身体でランサーに寄りかかると、骨ばった白い手がエミヤの背骨をひとつひとつ確かめていくような動きでゆるりと辿る。ランサーの青い髪へ鼻先を突っこみ顔を埋めると、慣れた男の汗と太陽の匂いがした。すっかり陶酔し夢中でふんふんと息を吸っていると、男は「くすぐってぇ」と笑い、それじゃ動けねえじゃねえか、とエミヤの尻を軽く叩いた。
「ランサ……」
ァ、と声が出た。ランサーの中指が服の上からエミヤの尻のスリットを往復し、くい、と秘所の上で力をこめる。じくりとエミヤの腹の中が疼いた。
「欲しいか、ここに、……アーチャー?」
 男の分かりやすい挑発に思わず喉を鳴らしてしまった。羞恥に染まったままランサーの耳元へ唇を寄せ、服を脱がせてくれ、と言おうと口を開いた。

瞬間、静かな欲に満ちていた部屋を、ノックの音が切り裂く。びくり、と身体が敵を迎え撃つ体勢となって、反射的に扉を振り返る。ランサーとエミヤが同時に同じ動きをしたことを面白がる余裕はなかった。
 ノックは遠慮がちに、規則正しく何度か続いた。ランサーは案外警戒心が強く、寝台は入り口の死角になる場所に置かれている。だがそれを知っていてもなお、エミヤは言いようのない不安を抱いた。
 ランサーは顔をしかめ、苦虫を噛み潰したような表情のまま、ぼさぼさの頭をかきむしって下の服をずるずると履き、入口へ大きく歩いていく。ランサーの部屋を丁寧な態度で訪れる存在など数えるほどしかいない。
 案の定、エミヤの耳にマスターの声が届いた。マシュ嬢も傍らにいるようだ。
女性達の訪れであるにも関わらず、ランサーは色を滲ませたあらわな恰好を隠そうともせずに、低い声で何事か短く会話した。扉を閉め、鍵を下ろす音がする。ひょい、と顔を出したランサーは大袈裟にしかめっ面を作り、降参だと両手を上げた。
「よりにもよって今すぐの緊急なんだと。……悪いな」
「知っていたさ」
 冷静に言ったつもりだったが、先程まで散々煽られたせいで舌は上手く回ってくれなかった。けれど理性は第三者の登場によって我に返り、芯を持ったままの中心が恥ずかしいと訴えかける。上掛けににそれとなく丸まり
「そんなことだろうと思っていた」
と低い声で呟き、吐息をこぼした。ランサーが履いたばかりの服を脱いで投げ捨てる。男の裸をよくよく見ると、アーチャーが悪戯に噛んでいた痕がくっきりと肩口に残っていた。頭痛におそわれ布団へ深くもぐりこみ、額をシーツに擦りつけた。そんなエミヤに構わず、ランサーは部屋の中でごそごそと動き回る。
 エミヤがじっとりとした表情の顔を上げると、戦闘用の武装を纏ったランサーが気まぐれに槍を出しては消し、手を動かした後に寝台で丸まるエミヤへ近づく。
「なに隠れてんだ。見えねえじゃねえか」
 そういってエミヤの赤味が差した頬を撫で、額に落ちる白髪をかき上げる。身をかがめ、名残惜し気に額へ口づけ、そのまま互いの口を重ねた。
「悪ィ」
俺だけがいい思いをして、とでも続けかねない言葉へ、エミヤは平静を装って答える。
「構わないさ」
「おまえ、俺が帰ってくるまで待ってろよ。……足りねえ」
 唇を重ねたまま吐息で喋りあう。ランサーは聞きとれるかとれないかの掠れた声で、「お前に突っ込みてぇ」とあけすけな物言いをした。
「馬鹿者。いつ帰ってくるかも分からないのに待っていられるか。そんな言葉は殊勝な女性にでも取っておけ。……私だって、暇ではないのだから」
 かわいくねえ奴。重ねたままの唇でランサーは呟く。今更だろう、とエミヤは静かに告げ音を立てて唇を離した。そのあとをランサーが追い、噛みつく。そのままエミヤの白髪へ顔を埋め、じゃあな、と言い残して身を起こし部屋から出ていった。
 徐々に遠ざかる足音に耳をすませながら、ぽすん、とランサーの匂いが染みこむ寝台へ倒れこんだ。気が一気に緩み、ふわぁ、と欠伸がでる。性的な欲求さえ遠ざかれば、実は酷く眠かった。しばらくマスターと行動を共にし、あちらこちらへ飛んでは戦い、マスターに怪我ひとつさせないため、ぴりぴりとした緊張を常に抱きながら守っていた。正確な時間こそ思い出せないが、比較的長い時間拘束され、ランサーとの逢瀬でさえなんだかんだと久しぶりだったほどなのだ。いくらサーヴァントといえども、酷使されれば休みたくもなる。
 だが。
 自室に戻ればいくらでも休めるものを、わざわざこの男の部屋へ赴くのだから我ながら業が深い、と再び欠伸した。まあ、互いに待ち望んでいたのだから仕方がない。休息を求める本能が身体を泥のように重くし、瞼を強制的に下げさせる。マスターはまた、出ていくのか。
……私でさえこれほど疲れ果てているのに。……眠い。ランサー……。
……もどかしい。熱だけを煽るだけ煽られて。
 せめて、自分の部屋に戻らないと、なにを言われるか……、あぁ、と薄れゆく意識が白く染まり、やがてこらえきれずに全てが暗闇に沈んでいく。


***


太陽の子が明るく笑っている。屈託のない眩しい笑顔が、周囲へ幸せを降り注いでいる。
太陽の子に暗い影が落ちる。翳りが見える。鉄くさい血の臭いを放っている。

映像が雑じる。コラージュのように混線している。夢ではない。どの断片も、きっといつか誰かが見た光景。きっといつか真実存在していた感情。現実の乱反射にすぎぬ幻影の中心に男がいる。躊躇うエミヤを見て、男は笑った。笑いながらなにか言う。聞こえないから近づいた。男はなにかを語りかける。
こんな幸せが許されるのだろうか。この”私”に?
目の前の男はエミヤの問いに首を傾げ、そのまま目を細め惜しげもなく白い歯を輝かせるだけだった。答えなど必要ないのだと、私も答える必要などないのだと、形もわからぬままなにかがすとんと腑に落ちる。
男がエミヤを抱きしめ、軽々と抱き上げた。
白い光と温もりが全身を包む。太陽をふんだんに浴びた獣の毛皮に埋まっている心地に、泣きだしそうなくらい胸が締めつけられる。

これがいつか誰かが私に言った、愛というものなのかもしれなかった。

 ランサーがするりと下がる。手を伸ばすと後ろから圧しかかられる。
手をばたつかせ、再び正面から抱いてほしいともがく。しかし、君に抱きしめられるのはともかく、纏わりつかれるのは暑苦しいんだ。手を後ろに払い除けると前に回り込む。全くすばしっこい犬だ。言うことを聞け、と威嚇すると不満げに口をとがらせて両手でエミヤにぶら下がる。果てのない皮肉を吐く唇を塞がれる。悪戯に噛みつかれる。暑い、と足を蹴り上げた。熱が少しだけ遠ざかる。
 はぁ、と熱のこもる息が出た。本当に熱を発しているのは実は私なのかもしれない。男が後ろからするりと首筋へ顔を埋める。愛しい男の残り香がいつまでもエミヤの周りに漂っている。耐えきれず顔を枕に擦りつけた。性器が苦しいほど張りつめている。たまらず手を伸ばした。ランサーはいつも少しひんやりとした白い手でエミヤを包む。敏感なところにはあまり触ってくれない。 
”お前は意外と堪え性がねえからな”と耳元で囁くのだ。
実際、その湿った声と吹きかけられる息にぞくぞくと全身を悦ばせているのだから手に負えない。服の下へ手を差しこむと、待ちかねていたとでもいうように肉棒がふるりと下着からとびでる。掌で擦ると背筋に電流が走り、全身の骨が瓦解するほどの快楽がエミヤを侵食する。
 でも足りない。
 欲に忠実な身体が全身を仰け反らせながら叫ぶ。足りない、足りない、足りない。後ろにランサーを銜えこみたい。何も考えられぬ強さで揺さぶってほしい。ランサーの指が奥を探る感触を思い出すと、腰の奥が疼き、性器からは先走りが零れる。ランサーに教えこまれた快楽に対し、エミヤの身体はどこまでも素直だ。
「あぁっ……!」
両手が欲望の開放だけを目指す。ランサーに口づけたい。口が寂しいと唇をかむ。「ランサ」ぁ、と息を吐いた。ああ、あぁと身を夢中でよじる。

 バタンッ、と扉を蹴り開ける音がした。 
「――ッあ゛ァ! ったく、人使いが荒すぎるんだよ野郎! あぁ?アーチャ、」
ー、いたのか、という形の口をしたままランサーは凍り付いた。目があったまま互いの時が止まる。
 涙で潤む目を瞬かせ、これはまだ幻が見せる戯れの一つだろうとエミヤは思った。あっけに取られたままのランサーが身じろぎし、足元のフロアシートをギィ、と鈍い音で擦った。何度瞬きをしても、ランサーが同じ部屋同じ場所で驚いている。頭に上りきった血が徐々に音をたてて下がってくる。数秒後、エミヤは全身に冷水を浴びせられた。
「はッ……!」
エミヤは目を見開き、全身を真っ赤に染めた。あまりの醜態に思考が吹き飛ぶ。思わず跳ね除けていた上掛けを掴み丸くなって汗ばむ裸体を隠した。焼け石に水であると知りながら。
 心臓が早鐘をうち、血液を力強く循環させる。その強さは全身へ痛みを与えるほどだった。
屈辱のあまりかたく布団を掴む手先が震える。なぜ、よりにもよって、ランサーの部屋でこのような愚行に及んだのかと理性がエミヤを苛烈に責めたてる。相手が悪すぎる。寝惚けていたと言い訳したところで、見た光景を忘れてくれる相手かというんだこのくそったれ!
 頭を抱え己を罵る。ついでに、見なかったふりをするどころか、ご丁寧に扉を閉め直し、鍵まで下したランサーへ内心であらゆる罵詈雑言をぶつける。しかしエミヤの思いは叶わず、ランサーは嬉々として寝台に近づいてきた。
「アー・チャー・ーア」
ランサーの声に対し「ケッ」と毒づく。下心が丸出しだぞ貴様。少しは隠してみたらどうだ。
ぎし、と寝台が重みに沈んだ。ランサーが丸まった布団にじわりと体重をかける。
「出てこいよ、アーチャー。ほら……」
白い手がふざけながら布団の内側に侵入する。エミヤは怒りに任せその手の甲を抓った。
「いてっ……! なんだ、八つ当たりすんなよ、手こずらせんな。苛々してんだぞこっちは」
 まあお前のおかげで大分気分がよくなったがな、と男が浮ついた調子で喋る。
ただ待ってるだけじゃなくて、サービス付きだなんてたまんねぇな。いつだって歓迎するぞ俺は。
エミヤは諦めと共にしみじみと思った。
駄目だ。こいつの頭の中は蝶の舞う花畑だ。
 浮かれていたランサーは、頑なな態度のままのエミヤに苦笑し、あまり揶揄うのも悪かろうと愛しい男が丸まる布団を見下ろした。 部屋の明かりをヘッドボードのパネルで落とし、穏やかな声でエミヤを口説く。
「アーチャー、入れてくれよ。……なぁ、続きがしてぇ。昨日の夜の」
欲を滲ませたランサーの声に、エミヤの胸がざわめく。男の侵入を許しても構わないだろうか、とおずおず手の力を抜く。ランサーが静かに布団の中へもぐりこんだ。探し当てたエミヤの顎を片手で掴み、荒々しく口づける。
それはキスというより、飢えた肉食獣が獲物に食らいつく行為そのものだ。
「んっ、はっ、ぁ……あぁ、んぅむっ……!」
 何度も何度も角度を変えて唇を重ね、あふれた唾液を飲み込む。舌を深く絡ませてもまだ足りぬと、互いに劣情を催す身体を猫のように擦りつけあい、腰を抱く。暑苦しい上掛けを、邪魔だとどちらともなく蹴り落とした。
 ランサーがエミヤをかき抱く腕に力をこめ、寝台へ組み敷いた。エミヤは待ち望んだ男の肩口へむしゃぶりつき、歯を立てては痕を残す。ランサーが芯を持つエミヤの性器に手を伸ばすと、エミヤは与えられた冷たい肌の感触にあぁ、と低く声をもらした。無意識のうちに腰を掌へすりつける。
 笑いながら上半身を起こしたランサーは、髪留めをぱちりと外し適当に放り投げた。からからと転がって部屋の隅に消える。長髪をばさりと振って、「どうして欲しい」と問うた。
「昨日の今日だからな。何でも言ってみろよ」
 ぼうっとした頭でエミヤはランサーから発せられた問を考える。紅茶色の肌を朱に染め、がっしりとした腕をランサーに伸ばした。互いの胸と鼓動が重なる。
「……な、か」
と告げる。中にほしい。声に出しきらなくともランサーには十分すぎるほど伝わる。ランサーはエミヤの白髪へ口づけし、サイドテーブルを片手で探る。その間にもエミヤはランサーを追い、飽きることなく互いの艶めかしい唇をむさぼる。ローションの蓋を片手で開け、ぬめる液体をエミヤのなだらかな下腹部へ無造作に撒き散らす。焦らすことなく長い指をエミヤの最奥に滑りこませ、ランサーの訪いを待ちかねてひくつく後孔を探った。

[
***

 はぁ、と湿った息が漏れた。ぬちぬちとランサーの性器が出入りする音が薄暗い部屋に響く。エミヤの神経を犯すように最奥をついていたランサーは、ぬぐ、と腰を引きエミヤの前立腺をごりごりとえぐった。
「あぁっ……う、ら、ランサー……ぁ」
ぎゅう、とランサーを肉壁で締め上げる。男が喉の奥で唸った。後ろからエミヤを責めたてるランサーを振り向き、上半身を支える力を失った両腕でシーツを掻く。
い、く、と唇を動かした。ランサーは目を細め、エミヤの腰をがっちりと掴む。がつがつと中を突かれ、あ、とエミヤは目を見開いた。
 身体が硬直し、どく、どくと性器から精液が零れる。後ろへの刺激だけでもたらされた緩慢な射精にたまらず重い両腕を上げ、精をたらたらと流す己のペニスを両手で擦った。
う、あ、と半分意識の飛んだ声を発しながら、みちみちと中にいるランサーを締め上げた。エミヤの半開きの口から、涎が一筋流れ落ちる。エミヤは己の性器を握ったまま息を止め、やがて弛緩した。ぴくり、ぴくりと電気が流されているように震える。はーっ、はーっと忙しなく呼吸を繰り返した。ランサーは達して呆然とするエミヤの頬に口づけ、べろりと舐め上げる。
「あぁ……」
 焦点の合わない目でランサーを見上げる。アーチャーの下に敷かれているシーツは、互いの汗と体液でぐっしょりと濡れていた。
「気持ちよさそうだな、アーチャー」
ランサーは口角を上げ、火照るエミヤの脚を抱えなおした。左足だけを持ち上げ、ぐぷ、といきり立つ肉棒を限界まで差し込む。ランサーは己の快楽を追うことに決めたのか、目を軽く伏せ、先程までのエミヤを意地悪く責める動きとは違う速さで何度もエミヤの中を前後する。
良いところをかすめる度にエミヤの後孔はきゅうと締まるが、果ててくたりと力の抜けた身体に新たな熱を生じさせることはなかった。ランサーが腰を強く打ち付け、その度にはしたない音が響く。やがてランサーは動きをとめ、深く眉をよせた。低い呻きと共に、エミヤの腹の中がじわりと濡れる。
「あぁ……っ」
エミヤは息を吐きながら背を反らし、シーツを握りしめた。ランサーはエミヤが中に出されることで精神的な歓びを得ていることを、暗黙的に了知しているようだった。ランサーが汗で身体にはりついた青い髪をかきあげる。
「おい、そんなもんに引っつくくらいなら俺にしろよ」
軽口を叩きながら、ランサーはエミヤの背に覆いかぶさった。首の後ろを犬のように噛む。エミヤは重い腕を回し、窮屈な姿勢のままランサーにキスをねだった。太陽のように輝いていた男が、エミヤを包み込む。機会があれば、寝物語にしてもいいかもしれないとランサーに縋りながら思う。

エミヤが抱いた、この幸せについて。
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