fate(槍弓以外)
衛宮邸が静かだ。いつものこれか、と働かぬ頭で思う。広々とした武家屋敷には誰もいない。正確には一人を除いて誰もいない。ここはどこの、いつの家なのだろうなと考えるが、虚ろなものを確かな現実につなげることはできないのだ。
子供はいつも縁側に少し足を投げ出して寝入っている。身体の上半分は屋内の影に覆われ、更に赤い髪が目元を隠している。あどけのない表情で、すうすうと寝息を立てている。私はその姿を数え切れぬほど見下ろしてきた。屋敷の中で孤独に寝入る、かつての自分と同じ姿をしている存在。寝ている限り害はないと放っておいていた。
いつからか、一点だけ気になるところがあった。右足の、足先の、親指の爪が割れているのだ。それを目にするたびに、背筋が逆立つ。もどかしさに苛立つ。見ないふりをしていても視線が吸い寄せられる。どうせ寝ているのだからと、どうせこの身体の支配者など決まっていないと、引き出しから金属製の爪切りを出す。その行為も、もう慣れ切っていた。右足の踵を掴み、そっと刃を入れる。ありがたいことに罅は白い部分にしか入っていないのだ。パチン、パチンと丁寧に伸びた爪を切り落とし、やすりに入れ替えて端からまんべんなく角を取っていく。
ん、んん、とここで少年は意識を取り戻し、
「あれ、……皆は?さくら……?」
と夢うつつに呟く。
「……案ずるな」
その声に少年は安堵し、再び深い眠りに入っていく。ついでだからと、他の爪も削っていく。整えていく。
パチン、パチンと音だけが、幻を揺蕩う家の中に漂っていく。
子供はいつも縁側に少し足を投げ出して寝入っている。身体の上半分は屋内の影に覆われ、更に赤い髪が目元を隠している。あどけのない表情で、すうすうと寝息を立てている。私はその姿を数え切れぬほど見下ろしてきた。屋敷の中で孤独に寝入る、かつての自分と同じ姿をしている存在。寝ている限り害はないと放っておいていた。
いつからか、一点だけ気になるところがあった。右足の、足先の、親指の爪が割れているのだ。それを目にするたびに、背筋が逆立つ。もどかしさに苛立つ。見ないふりをしていても視線が吸い寄せられる。どうせ寝ているのだからと、どうせこの身体の支配者など決まっていないと、引き出しから金属製の爪切りを出す。その行為も、もう慣れ切っていた。右足の踵を掴み、そっと刃を入れる。ありがたいことに罅は白い部分にしか入っていないのだ。パチン、パチンと丁寧に伸びた爪を切り落とし、やすりに入れ替えて端からまんべんなく角を取っていく。
ん、んん、とここで少年は意識を取り戻し、
「あれ、……皆は?さくら……?」
と夢うつつに呟く。
「……案ずるな」
その声に少年は安堵し、再び深い眠りに入っていく。ついでだからと、他の爪も削っていく。整えていく。
パチン、パチンと音だけが、幻を揺蕩う家の中に漂っていく。
