光明ノ神子2

 ここは、あやかしたちで賑わうカクリヨの横丁だ。
「夏音本当に友美が??」
 布面をした楸は、赤提灯に灯され、隣にいる夏音に問う。
「はい。楸さんとここへいって欲しいと……」
 夏音は、何か神妙な顔をしいう。
「どうやら、人肉が出回ってるとか」
「人肉!?」
 またとんでもないものを夏音の担当に友美は、したなと思ってしまった。
「人のふしんな死亡報告は、無かったはずだが……」
「しかし神隠しは、増えてます」
「神隠しか……」
 隠されてしまえば、行方不明として処理されるのが人の世だ。しかしその裏には、様々なことが絡み合っている。
「たぶん人の肉をさばき、売るために狩られてるんでしょうね」
「年代は??」
「今は、中肉ちゅうぜいの男性が多めです」
「差しが入ってるとかいわないよね??」
「たぶん油っぽくて柔らかいのかと。人の肉は、それでもボサボサで美味しくないですから」
 夏音の発言に楸は、驚愕した。
「まさか……食べたことあるのかい??」
 夏音は、失礼なとい顔に。
「ありません!!」
「ならよかった」
 しかし友美がわざわざ夏音を選んだ理由が分からない。
 夏音は、神子のなかでも順位九位と低い。なのに何故危険なことをと、楸は、思っていた。
「夏音友美に何かお願いしたのかい??」
「それは、試し切りしたいから、切れる相手を寄越せって言ったからだと」
 理由は、すぐに分かってしまった。
「なので、友美もこの件なら、容赦なくやれると私にふったんだと思います!!」
 このうえなく、瞳を純粋に煌めかせる夏音に、楸は、ゾッとしていた。
 これこそ、時代が違えば、人切りになっているのでは、と思いながら。
「楸さんそんなことしません!!」
「心を詠まないでくれ」
「流れてきたんです!!」
 夏音は、更にいった。胸に手を当てて。
「私にもポリシーがあるんです!! 霊は、切っても手応えがありません!! 人は、鬼になってないと切りません!! そうなると、あやかしが1番手っ取り早いんです!!」
 鼻息を荒らし夏音は、いうが、楸は、疑いの眼差しで見ていた。
「なんですか!! その目は!!」
「前回祓い屋を切ろうとしてたよね??」
 先日また祓い屋が要らぬ事件を起こし、夏音と楸は、たまたま手が空いていた為、対処のために現地に出向いたが。
 夏音は、目をギラギラとさせ、切ろうとしていた。祓い屋を。
「それは、祓い屋だから!!」
 神子の悪い癖だが、祓い屋を人間扱いしてない。
 神子と祓い屋は、どうしても折が悪く、互いに注視している相手だ。
 神子の中でも祓い屋を人として見てるものも居るが、夏音のような捉え方をしているものが多いのも事実だ。
「友美が聞いたらあきれるよ」
「友美みたく、害虫扱いして捕まえませんよ」
 珊瑚から聞いた事を思い出し、楸は、言う。
「友美の場合は、作戦だろうね」
「だとしてもですよ」
 夏音からすれば、友美より自分は、ましだと思っている。
 しかし事実は、夏音の方が危険で、友美ですら、呆れ気味だ。モアとセットで。
「楸さんここでしょうか??」
 話しながら、歩いていると薄暗い路地の入り口に。
 微かに人間の血肉の特有の香りがしてくる。
 楸は、思わず鼻をつまんだ。
「夏音平気なのかい??」
「はい。私は、前世でも罪人の遺体で試し切りとかしてましたから……」 
 楸は、初めて聞くことに驚いていた。
「夏音……」
「人は、殺してません。あくまでも遺体でですから……それもあってまさか現世でも鍛冶職人の家に生まれるとは、思いませんでした……」
 これもまた縁というものなのだろう。それがあったから、一閃に会い神子になれたともいえるが。
「楸さん行きましょう」
「あぁ」
「最悪の場合全てを灰に」
 鋭い光を宿し、夏音は、いうと、携えていた打刀にふれた。
「何時でも抜刀できるようにか……」
「楸さん。私が抜いたら、離れてください」
 これは、きっちり、守らなければ楸も切られて死ぬ。
 楸は、頷くと、そのまま夏音と路地に。
 路地に入り、しばらく歩いていると、ろこりと目の前に首が転がってきた。
「っ……」
 楸は、顔を歪めるが、夏音は、平然とその首を見下ろしていた。
「絶命してまだ少ししかたってない……」
 夏音のオパールのような瞳が美しく輝く。
 神子中には、特殊な目を持つものがいるが、夏音は、それにある。
 夏音の目は、時の判断が出きるらしい。
「夏音目で見たのかい??」
「はい。まだ色が鮮やかですから」
 たぶんこの先が屠畜場のような場所なのかも知れない。
「しかし何故首が……」
「人の首くらいあやかしなら転がっててもなんとも思いませんから」
 落ちていた所で気にしないか、ひろい喰らうまで。
 夏音は、首を無視して、先へ進み、楸も進むと、でた。
 怪しい薄暗い灯りに灯され、辺りから血の匂いがしてくる店が並ぶ場所に。
 ござの上に置かれた肉や臓物は、間違いなく人の物。
 首や足、手なども並べられ目玉もくりぬかれ、瓶の中に詰められていた。
 正直これは、見れたものじゃない。
 楸が吐き気がし、戻しかけるのをなんとか堪える。
「これは……容赦いらない……」
 これは、まずいと、楸は、夏音に背を向けると、来た道を走る。
 楸がある程度離れたのを確認すると、夏音は、目に意識を集中させた。
 あやかしが全て、百体その中でも繋がりのあるものは、やく八割。残り二割もそれぞれに繋がりがある。
 その繋がりを1本の線とし、夏音は、刀に手をかけた。
「御前ナニモノ……」
 とあやかしが話しかけに来たとき、夏音は、抜いた。
 鈍く光る鋼は、的確にあやかしの心臓を斬り、その途端その心臓を核に、線を伝い。
 夏音が打刀に付いた血を払い、鞘に納めた途端辺りから血飛沫がふいた。
「終わりっと!! なかなかの切れ味!!」
 離れたところで見ていた楸は、相変わらずの夏音の技に感心したが、それよりも。
「何時もながら、終わると地獄絵図」
 と呟いていた。
「夏音」
「楸さん分かりました!!」
 夏音は、軽い足取りで、るんるんと楸の所に。
 楸は、夏音が来ると手を息で吹き掛け、扇でそれを扇ぐと、それは、火になり、不浄な物を全てもやしつくした。
「ありがとうございます」
「それは、いいが……遺体も燃えたか……」
 燃える首を見て、楸は、目を伏せる。せめてからだの一部だけでも家族のところに返せたら。
 しかしそれら、かなわない話だ。
「彼らもまたそういう存在なんでしょうか……」
「かもしれないね。私にも分からないが」
 夏音は、隣にたつ楸の顔を見た。  
 凄く辛そうな顔の楸。彼は、本当に優しい。だからこそ、神子の中でも三位という順位にいられるのかもしれない。
 力を求めても強くなれるのは、ある程度まで。それよりも上に行くためには、想いも必要になる。
 楸は、まさにそうだ。力よりも想いが強くここまで登り詰めた。
 前世で神子でもなく、現世で人として生まれ、大学生の頃に神に認められ神子になり。
「楸さんは、やっぱり凄いな……」
「いきなりどうしたんだい!?」
 驚く楸に、夏音は、笑う。
「なんとなくです!! それよりお腹空いた~!! せっかくですし、ラーメン食べに行きましょう!!」
 楸は、マイペースな夏音に苦笑い。
「あの後でよくラーメンって……」
「楸さん無理そうやら、やめときます??」
「お腹空いたし、お供するよ」
「では、レッツゴー!!」
 夏音は、そういうと歩きだし、楸もそれについて行く。
「私は、楸さんのようには、なれませんから……」
「夏音??」
「なにもありません!!」
 そう。自分は、楸のように優しくもなれない。出来ることといえば、人のなかに紛れ生きることくらい。
 生まれる時代がもし、幕末などなら、自分は、満たされていたのだろうか。
 夏音は、そう思いながら、歩くのであった。
 少しばかり、飢えた獣のような目をしながら。
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