日常編2

 凝視しては、ダメと分かりつつも見てしまった。
 物陰でいちゃついている刀剣男士二振。正雪は、なにをしているのかとふと見たとき、熱い接吻をしているのが目に入ってしまった。
 思わず頬を染め、うつむくと、頭から布が。
「いちゃつくなら他でやれまったく」
 国広の呆れま声が聞こえると同時に彼に手を引かれた。
「この場を離れるぞ」
 正雪は、頷くと、国広は、少しだけ歩き、やって来たのは、公園だった。
「ありがとう国広殿」
 よろず屋に買い出しに来ただけなのにとんだものを目にしてしまった。
 正雪は、ベンチに腰かけると布を頭から取り、綺麗に畳んだ。
「国広殿」
「ありがとう」
 畳んだ布を受けとると、国広は、布を鞄に片付けた。
「国広殿……その……男士どうしで恋仲になることは、よくあるのか……??」
 国広は、正雪の隣に座る。
「よくあるな」
 江戸の世も男性同士の恋は、よくあった。女性の人工が少なかったのもあったが、男社会の中では、友が愛へと変わり、恋仲になる事も多かったようだ。
「ふむ……なら江戸の世と似たようなものか……」
「日本は、戦場に女性は、連れていかず、武将の性処理を若い男がやっていたりしたからな。本丸も男所帯だから恋仲になるやらかも多いようだ」
「なるほど」
 なら国広は、どうなのだろう。
「国広殿には、おらぬのか??」
 国広は、横目で正雪を見るという。
「俺は、そんなもん興味ない。姫から惚気話しを聞かされてうんざりしてる」
 主の惚気話を聞きすぎた結果国広は、恋など今のところどうでもよくなってしまったのだ。
「そうか」
「あんたは、どうなんだ??」
 正雪は、目を伏せると切なく微笑む。
「私のような者など誰も惚れぬさ」
 自分が綺麗ならともかく。違う。正雪は、己の両手を見ながらいう。
「己の悲願のため……私は、この手を汚してきた……このようなもの……誰も好きになどならぬ……」
 国広は、溜め息をつくと、正雪の頭を撫でる。
「なら何故姫は、黄泉にかけあい、あんたを人に転生させたんだ??」
「国広殿……」
 正雪の言葉を借り、国広は、いう。
「天然自然に産まれた命……じゃないと正雪は、いうが、俺からすればどちらも同じに思うぞ」
「うむ……」
「それに姫がて正雪に施したことは、それだけの徳と価値がないとしないことだ。だからそのような言い方をするな」
 本当に優しい神に正雪は、微笑む。
「ありがとう国広殿」
「俺は事実を言ったまで。それにあんたでそれなら俺達刀剣なんて、どれだけ汚れてるんだか」
 昔は、武器として人を切り、美術品になったと思ったら、今度は、人の形を与えられ戦争にて、自ら刃をふるっている。
 刀として仕事をしているが、正雪の言い方からすれば自分達も汚れていることになるだろう。魂が。
「そんなことない!! 国広殿達は……」
「なら正雪もだ。だから汚いなんて思わないでくれ」
 国広は、年押しして言うと、正雪は、こくりと頷く。そしてよくよく辺りを見渡すとあきらかに深い仲の刀剣と審神者達が居た。
「国広殿もしや……もしやなのだが……」
「場違いなところに俺達来たな」
「やはりか!?」
 ここに居るもの達は、恋仲だろう。
 正雪は、困った顔をすると国広は、まるで害虫を見るような目で見ていた。
「ロケットランチャーで吹っ飛ばしてやりたい気分だ……」
「蛍殿も川に全員突き落としたいとそういえば言っていたような……」
 国広は、心のなかで蛍が居ればよかったと思った。この場に。なら好きに暴れられるのにと。
「チッ……蛍のやつ少しは、帰ってこい……」
 なんだろう。もし蛍と国広が揃ったら笑顔で恋人達を吹っ飛ばし、この公園が無に帰しそうだ。
「国広殿それは、駄目だからな!?」
「そうか……」
 国広は、残念そうにいうと正雪は、呆れた顔をした。
「国広殿は、花より団子か」
「そうだな」
 国広は、そういうと切なく微笑む。
「今なら姫の言っていたことが分かる気がする」
「というと??」
「姫は、人と神の恋に関してあまりヨシとしていないんだ」
 正雪は、何故友美がそのように思っているのか少し分かった気がした。生前の自分がまさにそうだったとも言える。
「時……か……」
「あぁ。神は、数百年生きることなんてざらだからな。人の生は、短すぎる……」
「残された方は、その後と悲しみと共に生きるか……」
「そうだ。姫いわく美しい記憶と共に生きるのならともかく、悲しみから闇に落ちられるのが一番困るとな」
「だからこそ神と人の恋は、認めないか……」
 正雪は、せつなげに笑う。
「さすれば生前の私は、恋などせぬ方がいいと姫なら思うかもしれぬ」
「それに関して聞いてみたことがある」
 昔国広は、聞いた。生の短い生き物が人に恋するのは、いけないことかと。
 友美は、切なく笑うといった。
「恋は、していいの。誰かを愛することは、とても素敵なことだもの。でもその後残された方、もしくは、残した方が悲しみにくれるのが私は、嫌い」
 友美は、この時ある神を思い出していた。桜の木下泣き続けていた神を。
 彼女が立ち直れたのは、そこから三百年ほど過ぎた明治の頃だったのだから。
「なら悲しみにくれなければいいのか??」
「そうね。でも神も人も大切な者をなくして悲しむのは、当たり前なの。だからその後前を向いて生きてくれるのなら私は、恋に関しては、いいと思うわ」
 国広は、この時の友美と顔を今でも鮮明に覚えている。慈愛に満ちたとても美しい顔をしていたから。  
「その後どうするかか……」
「だが悲しみにくれ、生きる気力も失うやつが多いのも確かだ。姫は、そうなるのなら神と人の恋などやめておけと思うらしい。もちろんあやかしと人の恋もだな」
 正雪は、友美らしい考えだなと思いながら、言った。
「姫は、時より年長者のような事をいうな」
「まぁ長く生きてるともいえるしな……肉体は、変えてるが」
「む??」
 国広は、しまったとこの時冷や汗をかいた。余計なことを言ってしまった。
「正雪忘れろ」
「無理なのだが!? そもそも肉体を変えてるとは!? まさか姫は、誰かしらの肉体を使い潰し、長らえているのか!?」
「どこその大巫女みたいなこと姫がするわけないだろ!? それやったら一種の鬼か化物だぞ!?」
「どこその大巫女とは?? もしや…… 私が言ったことを……実行していたやからがおるのか!!??」
 国広は、頷く。真顔で。
「いる。異界は、様々あるからな」
 正雪は、顔を青ざめた。そう考えると恐ろしいなと。
「うむ……」
「姫は、神の眷属とも言えるからな。寿命が長いんだ」
 とりあえずこういっておく嘘では、ないので。
「なるほど」
 とりあえず納得してくれたようで助かった。国広は、ほっと胸を撫で下ろし、頼むからそのまま純粋無垢であってくれと正雪に思った。
「しかし……私もまた神の眷属といわれることがあるがそれは、何故なのだろうか……姫の式だからというが……」
 盲点だったそこは。
「そうかもしれない」
「神々の規則とは、なかなか難しいのだな」
「神だからな」
 とりあえずこれで押し通すしかない。理由は、国広は、知っているが下手に話せば後で友美から怒られる可能性がある。
 本気で怒った友美は、とても怖いので怒らせないのが吉だ。
「国広殿何か私に隠し事をしている??」
「してないぞ」
「そうか」
 なんだろう。普段と変わらないが、なんとなく違う気がする。
 正雪は、不思議そうに国広を見るが、国広は、真顔のまま。
「国広殿誠か??」
「そうだが」
「怪しい……」
 正雪の疑いの眼差しがいたいが、ここで彼女に嫌われるのと友美に怒られるのなら前者を取る。
 国広は、立ち上がる。
「さてたい焼き買いにいくか」
「国広殿食べ物でごまかそうとしておらぬか!?」
「……」
 国広は、しばらく止まったが、そのまま歩きだした。
「国広殿!!?? ちょっと待つのだ!!」
 国広は、待たなかった。
「国広殿~!!!!!」
 正雪は、急いで立ち上がると走り、国広の腕を掴む。
「国広殿!!」
「なぁ!? 離れろ!!」
「離すか!! それよりもどうなのだ!! 姫に関して!!」
「知らぬが仏だ」
「やはり何か隠しているのだな!?」
「……知らん」
「国広殿!!」
 公園に正雪の声が響くなか、国広は、正雪をくっ付けたまま歩き、公園をでた。
 公園にいたカップル達は、本当に仲がいいなと見ていた。
「あの山姥切国広と審神者本当にイチャイチャしてたね」
 あるカップルの審神者の声が聞こえ、国広もは、真顔に。
「……よし。首落としてくるか」
「国広殿それは、駄目だ!!」
 そもそも原因は、くっついて離れない正雪なのだが。
 国広は、まったくこいつが恋人なんてあり得るはずがないだろうと思った。
「この頑固が恋人なんて……世も末だろ……」
 この時ガーンと音が聞こえた気がした。腕にくっついていた正雪がいなくなり、代わりに彼女は、しゃがみこみ、指で地面に円をかき、落ち込んでいた。
「……所詮私は……創られた命……」 
 国広は、めんどくさそうに溜め息をつく。
「すまんかった」
 とりあえず謝ると、国広は、正雪を横抱きに。
「国広殿!?」
「道の真ん中で邪魔だからな」
 さすがに大包平みたく荷のように正雪を担ぐと後で友美と光からしばかれる。
 人前でこれも色々問題がありそうだなと思いつつ、国広は、考えるのを放棄した。
「うぅ……国広殿降ろしてくれても……」
 正雪は、頬を赤く染め気まずそうにいうが、国広は、それを無視した。
「国広殿!!」
「さてたい焼きは、なににするか。とりあえずあんこかチョコ……」
 正雪は、溜め息をつくと思う。国広も十分頑固だと。
「うむ……」
「たい焼きは、不満か??」
「……御座候がよい」
 御座候といわれ、国広は、一瞬なにか分からなかった。
「おうばん焼きか??」
「うむ」
「何故そこだけ関西……」
「知らぬ」
 若干正雪がむくれているが国広は、気にせず歩く。
 他人からみればこの関係は、なかなか面白いかもしれない。
 フラグを無自覚て立てまくる代理とフラグをスルーする近侍。
 しかし国広からすればこの関係が一番正雪とは、しっくり来ると思っていた。
 決して叶うことのない初恋を今も大切にする正雪。それがなんとなく自分とにている気がした。
「月に焦がれる女と星に焦がれる男か……」
「国広殿??」
「なにもない」
 この時正雪は、みた。国広が珍しくどこか切なくしかし優しい顔をしているのを。
 恋などどうでもいいといってたが、もしかすると彼の中には、自分と似たような想いがあるのかもしれない。
 叶わない初恋を大切にしている想いが。  
 せめて国広が悲しい想いをしませんように。正雪は、そう思いながら、国広をみるのであった。
 早く降ろして欲しいなとも思いながら。
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