日常編2

 由井正雪。その名を調べても徳川家四代将軍家綱の時代に幕府転覆を企ては下手人としか情報は、でてこなかった。
 逸話では、武田信玄の生まれ変わりなどと言われていたりするが、詳しいことは、あまり出てこない。 
 政府のパソコンの前で夏は、途方にくれていた。
「でてこない……幸さん……本当に由井正雪なのかな……」
 しかし彼女の性格的に偽りを言うことは、少ないだろう。
 夏は、ならと幸という人物で検索したが、出てきたのは、学校に仮入学したときのデータのみ。
「これ……」
 外部提携先組織と備考欄に書かれていた。
「主また調べてるんだ」
「加州……」
 珈琲を持ってやってきた加州に夏は、言う。
「なんとしてでも調べないと……」
「こんなことしてるから、研修先も決まらず一人ここに居ることになってるのに??」
 そう。試験が終わり、合否も出た今。夏は、正式に審神者となった。
 普通ならば研修先の本丸で決まった期間研修受けたのちわ自分の本丸を持つのが普通だ。特例をのぞけば。
「それは……」
 しかし自分の求める審神者は、普通とは、違う。特殊な審神者だ。
 政府にもその特殊な役回りをしていた審神者は、データとして最低限の形でしか残っていないあの本丸だけ。
 諦めるわけには、いかない。なんとしてでも探して、その元審神者に近づかなくては。
「加州からみたらおかしいかもしれないけど、私には、これが今必要だから」
 加州に呆れられても問題は、ない。夏は、またパソコンに向かうと調べられ情報を調べ始めた。
 しかし情報は、出てこず、次の予定もあるし、今日は、ここまでにしようとパソコンのある資料室をでた。
「主も物好きだね」
「だと思う」
 加州との仲は、悪くないが、彼からすれば夏の行動は、理解しがたいものらしい。
 加州との仲も学生の頃のようになりたいなと考えながら、夏は、政府のなかを歩いているの、目の前に長い銀髪が見えた。
「清麿殿これでいいのかな??」
 聞き覚えのある声に、夏は、声のする方を見ると、総髪の和服姿の中性的な人が話をしていた。
「主それでいいよ」
「ありがとう。にしてもまさか……証明書とやらが……なかったとは……」
 江戸の世でも確かに身元を特定するものと言われると手形があった。だがしっかり身分は、証明できるかといわれればいささか不安な要素もある。
 潘にも一応戸籍は、あったがそれでもきっちりしていたかといわれればそうでもない。
 正雪は、未来でも身分証は、必ずとしてあるわけでは、ないとこの時知った。
「まぁ、政府もここまで戦いが長引くとも思ってなかっただろうし。なにより審神者の免許なんて作る予定もなかったのかもね」
「ならどのように審神者としての身分を以前は、証明していたのだ??」
「霊力の気配とか?? なにより刀剣男士を連れ歩いてる一般人なんて基本いないからね」
「なるほど」
 刀を帯刀していれば武家という江戸時代のような大まかな判断だったのかもしれない。
「とりあえずこれで申請すれば免許証は、出るから。何かあっても問題ないはずだよ」
「ありがとう清麿殿」
 友美と光も先日色々言っていたような。たぶんこの申請をするために色々話し合っていたのだろう。
「姫意外にきっちりしているところもある」
「そういえば姫と旦那の申請してたもんね。まぁ本丸運営してなくても資格としての証明書は、いるからかな」
「なるほど。しなければ無免許とやらか」
「そうみたい」
 文句が言えないのなら確かに言えるように筋を通すのもまた義なのだろう。
 正雪は、受付に書類を出すと、担当者が書類を確認し、すぐに申請は、通った。
「思ったより早かった」
「だね。この後どうする??」
 清麿は、せっかく出てきたのだし、何処かに正雪を連れていきたいと考えていた。
「花屋に寄っても??」
「花屋にかい??」
「あぁ。国行殿からせっかくなら見てきて、良いもの買ってきてくれと頼まれた」
「なるほどね」
 清麿と仲良く話すその人物の声にも覚えがあった。
 夏は、邪魔をしては、いけないと隠れて見ていた。
「主不審者だよ」
「加州しー!!」
 話しかけようか悩んでいるといつの間にやらその人物達は、居なくなっていた。
「うそ!?」
 辺りを見渡してももういない。夏は、肩を落とし、本来の用事へと戻った。呆れた加州と共に。

 政府の建物を後にし、正雪と清麿は、花屋に来ていた。
「夏の花が多いね」
「そうなのか??」
「そうだよ」
 正雪にとっては、見慣れない花でも清麿が、そういうのならそうなのだろう。
 さてどの花を買って帰ろうか。国行から予算は、貰っており、出てくるとき国広からもお小遣いを渡された。
「正雪さんの財布……」
 正雪が取り出した小銭入れは、兎のがま口財布だった。
「先日一殿と国広殿から貰ったゆえ……使おうかと……」
 一が選ぶにしては、やわらかく、国広が選ぶにしては、可愛い。
 二振で選んだのなら納得がいくと清麿は、思った。
「とても可愛いと思う!!」
「ありがとう」
 正雪は、嬉しそうに微笑むと、花を選び始めた。
「やはりひまわりかな……」
「夏といえばだし、明るいしね!!」
「あぁ」
 ひまわりを選び次にリンドウが目にはいった。
「リンドウか」 
「リンドウにするかい??」
「落ち着きのある、まるで清麿殿のような花だなと思って」
 清麿は、一瞬驚く。決してそんなことないと思いながらも彼は、言った。
「ありがとう」
 リンドウも正雪は、えらぶとあとは、百合を選びそして会計に。
「合計5000円です」
 正雪は、この時レジをうつ青年を見て、固まった。
「どうされました??」
「主大丈夫??」
 我に返り、正雪は、頷くと、代金を支払い花を受け取った。
「ありがとう」
「いえ」
 花屋を後にし、正雪は、言った。
「清麿殿彼は、刀剣男士では!?」
「そうだよ。福島光忠だったかな」
 正雪は、見たこともない刀剣士のはずが、なんとなくあの空気感に見覚えがあった。
「福島光忠の刀剣は、今どうなっているんだ??」
「確か……行方不明と聞いたけど……彼は、政府の科学力もあって顕現させれたみたいだ」
 何故正雪は、そんなことを聞くのだろうか。清麿は、そう思いながら、花を持ち直した。
「でも主凄い買ったね」
「あの広い屋敷には、これでも足りないけど」
「確かに」
 さてどういけるかは、国行に任せよう。花を持ち清麿と話をしていると、また視線を感じた。
「清麿殿もしやつけられている??」
 清麿は、鋭い光を瞳に宿すと言った。
「かもしれない」
 さてどう巻こうかと考えたとき、正雪は、ふと目にはいった。
「夏殿??」
 人影は、恐る恐る動き、物陰から出てきた。
「幸さんその……」
「貴殿が着けていたのか。なにようだ??」
 夏は、正直にはなそうと口を開いた。
「たまたま幸さんを見かけたから……その……本人かと……」
「む??」
 正雪は、清麿を見ると彼は、苦笑いをしていた。
「主その服装だと中性的だから」
「確かに」
 生前は、男装していたのでこればかりは、納得できた。
「夏殿すまない。私から声をかければよかった」
「気にしないで!!」
 夏は、今なら話を聞けるのでは、ないかと思い、言った。
「幸さんその……お話出来ない??」
 正雪は、清麿を見ると彼は、微笑む。
「いいとおもうよ」
「ありがとう清麿殿」
 正雪は、夏に言う。
「少しならば。貴殿も今は、勤めの時間であろう??」
「ありがとう幸さん!!」
 加州も来たので、正雪達は、近所のカフェには入り、商品を注文すると話を始めた。
「幸さんその本当に貴女は、由井正雪なんだよね??」
「あぁ」
「調べてもそのデータがなくて……」
 正雪は、驚いた顔をすると、清麿は、苦笑いをしていた。
「そりゃないと思うよ。うちと政府の契約的にもね」
「そうなのか??」
「政府としては、うちみたいな組織は、増えてほしくないし、うちとしても知られたくないしね」
 組織と政府どちらもそれぞれの思惑があるようだ。
 夏は、そりゃデータがないのも当たり前だと思った。
「そんな事情がね。あんた達まさか色々ワケアリ??」
 加州の言葉に清麿は、冷たく笑う。
「さぁ?? でも加州が考えてる組織じゃないようちは」
 なんだろう。二振の間に火花がバチバチ散っていた。
「幸さんその……」
「なんだろうか」
「組織について教えてほしいの」
 正雪は、少し迷ったが少しだけ話すことにした。
「分かった。なら手がかりを」
 正雪は、不馴れなタブレットを清麿に教えて貰いながら、操作するとある画面を夏に見せた。
「これこの間の大事件!?」
 記事には、先陣を切った審神者と近侍の源清麿について書かれていた。
「まさか……」
「そのまさかだ」
 正雪は、ミルクティーをのみ言った。
「うちは、そのような窮地に刀剣を派遣することもあるらしい」
「らしいって……」
「私は、あくまでも代理。組織を取り仕切っているのは、近侍ゆえ」
「その近侍凄いな……」
「加州殿も夏殿も会っているが……」
 加州と夏は、ある刀剣が浮かんだ。
「まさか山姥切国広!?」
「あぁ」
 やはりこの反応国広は、どこかおかしいのだと清麿と正雪は、思っていた。 
「国広書類仕事も組織管理も凄いからね……」
「聞いた話によると姫のしごときに耐えられたからという理由だけで今もやってるとか……」
「なにその姫って……もしかして姫鶴??」
「加州そんなことないとおもうけど!?」
 正雪は、どう説明しようかと悩んだとき夏の端末がなった。
 夏は、慌ててでると目を見開き、息をのむ。
「はい」
 通話を終え、正雪は、心配そうに夏にきく。
「なにがあった。私になにか手伝えることは……」
「ありがとう。その研修先が決まったって」
「そうか」
「幸さんありがとう!! 行かないと」
「また」
「またね」
 夏は、そういうと加州を連れ、カフェをでた。
「清麿殿彼女は……」
「大丈夫だとおもうよ」
 清麿が言うのなら問題ないだろう。
 正雪と清麿は、カフェをで帰路に着いた。
 
 呼ばれたのは、政府の職員でも限られた者しか入れない部屋。
 鶴丸が佇む部屋には、初老の男性と不思議な雰囲気の女性がいた。
「久しぶりね」
 夏は、その女性に見覚えがあった。正雪を迎えに来たあの女性だ。
「君の研修先だが、彼女の所に行ってもらうことになったよ」 
 時の政府の最高責任者である初老の男性。夏は、まさかこの人から直接辞令がでるなんて驚いた。しかしそれ程の事を夏は、したいとおもってしまったとも言える。
「はい」
「では、後は、こちらでいいですね??」
「えぇ」
 女性は、そういうと夏を連れ、外に。
「私は、光明ノ神子の友美よ」
 廊下にで、友美は、夏に名乗った。
「私は、夏です」
 友美は、微笑む。
「まなの名乗らないのは、賢い選択ね」
「あの……貴女は、幸さんとはどういう関係なんですか??」 
 失礼と知りつつも夏は、聞くと、友美は、答えた。
「上司かしらね……」
「上司」
「貴女には、うちでしばらく研修を受けて貰うわ」
 友美は、そういうとあるものを夏に渡した。
「木管??」
「簡易の通行手形よ。この申請に時間がかかって辞令が出せなかったの」
 友美は、そういうと言った。
「とりあえず明後日から研修になるわ。担当者に関しては、その時に伝えるわね」
「分かりました」
「夏香さん。楽しみにしてるわ。貴女の頑張りを……そしてその血筋の活かし方を……」
 夏は、目を見開いた。間違いなく目の前の女性は、全て知っている。
「じゃあね。天照の遠縁さん」
 友美は、そういうと去っていった。夏は、ただ佇むことしか出来なかった。
 間違いなく研修先は、一歩間違えると命のないところかもしれないと思いながら。
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