学校仮入学編

 気づけばこの生活も今日で終わりだ。
 制服に袖をとおし、正雪は、鏡の前で気合いをいれた。
「私にとっては、ある意味……普通……を体験できたいい時だったのかな……」
 しかしその普通は、あくまでも自分基準だ。
 さて最終日も楽しく過ごせたらいいな。正雪は、荷物を持つと、部屋をでた。

 教室につくと皆レポートが出来ていないと騒いでいた。
「幸さん!!」
「夏殿」
 席に着くと、夏は、血相をかいて、やってきた。
「レポート出来てる!?」
「一応」
 夏は、驚いた顔をすると、迫ってきた。
「見せてー!!!!」
「むっ!?」
「どうもまとめられなくて!! お願い!!」
 このままでは、彼女は、貸してしまうだろう。長義は、レポートを取り出そうとした、正雪の手を押さえる。
「ここで借りれば将来審神者として大丈夫なのか??」
「それは……」
「俺としては、そのような主は、嫌だが」
 夏は、頷く。
「幸さんありがとう!! 私頑張るわ!!」
「あぁ……」
 夏が席に戻り急いでレポートの続きを始めた。
「長義殿先程のは……」
「審神者とは、本来刀剣達がいるといえど一人で色々対処しなければならないんだ。これくらいの事でへこたれてたら困る」
「確かに」
「それにそのレポート審神者の資格発行に必須だから他人のを借りた時点で、そいつは、落とされる」
 長義の口ぶりとしてほんとうなのだろう。しかし生徒には、あえて教えていない事のようだ。
「しかし……私は、国広殿や姫の力を……借りた……」
「校内じゃないだろ??」
「なるほど」
 これもまた審神者としての、戦略性が試されているのか。
 正雪は、ならばしかたがないと教師が来るまでレポートの確認をすることにした。 
 担任が教室にくると、朝礼が始まり、レポートの提出もされた。
 レポートの提出をおえ、干からびている者がいるなか、担任が話した。
「本丸の見学も終え、あとは、審神者の国家試験のみになった。あと少しだから頑張ろう」
 生徒達の顔がいっきにキリッとなる。やはり皆審神者になるためにここへ入ってきたのだ。歴史を守るために。
 自分よりも意思の高い生徒達に正雪は、少しばかり悔しかった。
 自分は、もっと知りたいという理由でここへきたから。
「そして幸さんは、今日で仮入学が終わります」
 皆が一斉に正雪を見るなか、彼女は、微笑むことしかできなかった。
「先生もしかして試験だからですか??」
「そっか……仮入学だと試験受けれないから……」
 仲良くなってきていたのもあったので皆は、卒業までいられると思っていたようだ。
「幸さんは、そもそも試験を受けなくてもいいんだ」
 担任は、あえてそう言うと、皆驚いた顔をしていた。
 なにより正雪も。長義を見ると彼は、溜め息をこぼしていた。
「それここで言うことか??」
 長義の低い声に担任は、少し顔色が悪くなる。
「長義殿!!」
「まったく」
 長義をなだめる正雪だが皆の視線がさらにいたい。
「幸さんどういうこと??」
「私も……さっぱり……」
 正雪にもこればかりは、分からないのである。
 担任は、やはり口にすべきじゃなかったと後悔するなか、長義が話をした。
「詮索するな。場合によっては、この場にいる者達の首が飛ぶぞ」
 皆は、なら聞きませんと聞くのをやめた。
「物騒すぎでは!?」
「これくらいでちょうどいいだろ」
 確かにいいのかもしれないが他にやりようがあるだろうと正雪は、思った。
 担任が話をし、授業が始まった。
 正雪は、最後の授業だとどの授業も心残りなく受け、昼休みは、すぐにきた。
「幸さん少しいい??」
 皆が昼を食べるなか、夏は、正雪の所に。正雪は、頷くと、二人は、中庭に。
「聞きたいことがあるの」
「聞きたいこととは??」
 夏は、思い詰めた顔をしていたが、しばらくして言った。
「幸さんもしかして……あの組織の……出身??」
 正雪は、背筋が凍り付いた。間違いない夏は、確信をもって聞いてきている。
 嘘は、つきたくない。友達には。
 正雪は、結界をはる。
「結界!?」
「聞かれては、困るゆえ、音消しようだ」
 正雪は、微笑むと真面目な顔をし話し出した。
「あぁ。貴殿の思っているとおりだ」
 夏は、目を見開く。
「私は、間違いなく神子姫様の本丸の者」
 政府では、忌み嫌われ、恐れられている本丸。その存在は、データからは、消されていても噂として今も残っている。
 夏は、正雪を迎えにきた女性を思い出す。身震いするほどの気配を持っていた。だからこそ数々の偉業を残せたともいえる。
「夏殿??」
 顔をうつむいたままの夏を心配そうに正雪は、見た。
 夏は、顔を上げたが、その顔は、泣いていた。
「傷つけてしまっただろうか……その……」
 慌てる正雪に夏言った。
「違うの……ようやく……手がかりが掴めたと思って……」
「手がかり??」
 夏は、頷く。
「私の姉は、審神者だった。でその姉は、数年前に亡くなった……」
「なんと……」
「でも姉は、最期家族で看取れた。その時に聞いたの姉を助けてくれた審神者の事を」
 夏の姉は、最期に改めてお礼を言いたかったと言っていた。
 姉亡きあと夏は、色々調べたが、情報は、でてこず噂だけを頼りに調査をしていた。
 そして数年ぶりに新たな噂がでたのだ。政府にある組織から刀剣が受け渡されたと。
 夏は、この時決心した。審神者になることを。その時には、学校にもう在学しており、審神者になってから本格的に探そうと思っていた矢先不思議は仮入学の学生が来た。
「どうしてもその人に会いたくて私は、審神者になることを決めた。そうすると会えると思ったから」
「でその者は、先日私を連れ帰った女性だったと」
 夏は、頷く。
「まさか幸さんが会わせてくれるとは、思わなかった」
 しかしあの時は、お礼を言えずに終わってしまった。 
「幸さん。私貴女のいる所に研修へ行けるように頑張る!!」
 正雪は、切なく笑うと言った。
「それは、出来ぬだろう……」
「え??」
「うちは、そもそも本丸では、ない。あくまでも政府とは、業務提携をしているのみと聞く。審神者の研修先には、ならぬだろう」
 夏は、ショックを受けた。しかし彼女がやりたいことをするには、また会わなくては、ならない神子に。
「私は、姉のように……腐敗した……本丸に派遣されて……死ぬ審神者をなくしたいの……でもそれには、浄化の術を身に付けないといけない……でもそれは、ここで学べない……こんのすけも教えてくれないと思う……だから……」
 正雪は、夏に近づくと、優しく彼女の頭を撫でた。
「貴殿のその想い。とても美しい……」
「幸さん……」
「その願いが叶うことを願っている。私もまだ半人前。夏殿に何かを教えることは、出来ないが、願うことは、できる」
 初日から思っていたが、正雪は、とても優しい。
 夏は、頷く。
「清光にもそんな事って言われたけど頑張る!!」
「あぁ」
 昼休憩が終わるチャイムがなり、正雪と夏は、慌てて教室に戻った。
 その後昼からの講義を受け、あっという間に終わりとなった。
 帰りの会になり、正雪は、教卓にたっていた。
「短い間であったがとても有意義な経験をした。皆本当にありがとう。審神者になれることを私は、祈っている。機会があればまた会おう」
 この中の何人が審神者になり生き残るか正雪には、分からない。だがあえてさよならは、言わなかった。
 皆が拍手をするなか、夏は、違った。
 皆との分かれも済ませ、最後に職員室に向かおうと正雪は、した時、夏に声をかけられた。
「幸さん!!」
 正雪は、ふりかえる。
「夏殿??」
「その……幸さん……審神者なんだよね??」
 正雪は、一瞬目を見開いたが、すぐに目を伏せると言った。
「あぁ」
 代理では、あるが審神者であることは、間違いないだろう。
 長義を見ると彼も頷いていた。
「そっか……」
「しかし私は、まだ半人前。だからこうして学びにきた」
 正雪は、微笑む。
「私の名は、由井正雪だ」
 ここでは、真名を名乗ることは、禁じられている。しかし正雪は、もう生徒では、ない。
「正雪さん……」
「そうだ。これで私の事も貴殿は、調べられるだろう」
 正雪は、そういうと歩きだした。
「では、夏殿」
 長義と共に職員室にいき、最後の手続きをし、礼をいうと正雪は、学校を後にした。
「正雪さんよかったのか??」
「無論。それに夏殿には、必要かと思って」
 何となくだがそう感じていた。これが彼女の望むものには、必要だと。
「しかし、これで学生も終わりか……」
「少し名残惜しいのかな??」
「むろん。楽しかったから。それに普通を味わえた……」
 普通ならば、寺子屋に通い、知識を学びそして一定の年歴になれば、嫁ぐ。
 江戸では、それが普通だったといえる。しかし自分は、その普通を歩んでこなかった。
 普通がいいとは、思わない。だが、一度その時代にあった普通を体験してみたかった。
「普通か……」
「変だろうか……」
「いや」
 長義は、そういうと正雪をみた。
「じゃ帰ろう」
「そうだな」
 こうして帰路に着き、無事に屋敷に着いたが、正雪と長義は、手を洗い終えると、何故か清光と安定にそのまま食堂につれていかれた。
「おつかれさまー!!!」
 クラッカーの音が響き、正雪は、驚く。
「これは……」
「正雪さんお疲れさまパーティーだよ!!」
 光忠は、そういうと、更に鯰尾が話す。
「すごく頑張ってたから!! ちょっとしたサプライズ!!」
 正雪は、微笑む。
「ありがとう」
 直ぐにパーティーが始まり、皆が楽しむなか、正雪は、キョロキョロと辺りを見ていた。
「国広ならさっきまでいたが」
「長義殿……」
 国広は、いつもこのような宴のときは、少しだけ参加して、姿を消す。もしかすると苦手はのだろうか。賑やかな場所が。
「国広殿は、宴が苦手なのだろうか……」
「苦手というより、空気を壊さないためにというべきだろうな」
 なんとも切ないと正雪は、思ったとい、声が。
「厠に行っていただけだ。アホ長義」
 食堂の入り口を見ると国広があきれた顔をして立っていた。
「アホは、余計だ!!」
「正雪に冗談が通じないことくらい分かってるだろ」
 正雪は、ポカーンとしてしまった。まさかの冗談だったとは。
「長義殿!!」
 正雪は、長義を睨むが、彼は、笑っていた。
「少しくらいいいだろ??」
「……姫に報告する」
「なぁ!?」
 正雪は、知っている。長義は、友美に怒られることがとてつもなく弱点だと。
「それだけは、勘弁してくれ!!」
「知らぬ」
 へそを曲げた正雪は、プイッと長義にした。
「すまない正雪さんだから……」
「知らぬ」
 正雪は、立ち上がると食堂を出ていった。
「はぁ……」
「長義お疲れさま」
「……ありがとう国広」
 さてさてこれは、どうなるのやら国広は、まぁ友美なら笑って終わらせそうだと思いつつ、長義を励ましていた。
 食堂をでた正雪は、とくにあてもなく屋敷を歩いていた。
 食事もあれ以上は、今は、入らないと判断し、腹ごなしに歩くことにした。
「綺麗な月……」 
 優しく光る月と何処からか聞こえてくる二胡の音色。
 正雪は、音を頼りに歩くといた。縁側に腰掛け、楽器を奏でる友美が。
「姫」
「正雪お疲れさま」
 二胡の演奏を友美は、やめると微笑む。
「あれ?? 宴は??」
「一度抜けてきた」
「そう」
「姫は、参加しないのか??」
「私がいると愚痴れないかと思ってねー」 
 宴とは、楽しく憂さ晴らしをする場所でもある。
「なるほど」
「楽しかったみたいでなにより」
「姫……」
「また話し聞かせてね!!」
 正雪は、頷くと、話を始めた。自分が経験したことを話すのは、やはり楽しい。
 友美は、ただ話しに耳を傾けそして微笑む。
「あのこ夏というのね……」
「あぁ。そういえば姫が彼女の姉を助けたとか……」
 友美の瞳孔が一瞬小さくなったが、彼女は、直ぐに目を伏せた。
「そう」
「姫??」
「正雪には、話しておくわ。たぶんそのお姉さんって一の元主よ」
「なんと……」
「まぁ彼女と一が会うことは、ないでしょうけど」
 これもまた縁なのだろう。 
「姫その……夏殿が貴女に改めて会いたいと言っていた」
 友美は、面倒そうにいう。
「えーもういいじゃん」
「姫」
「へいへい。仕事は、しますよー」
 友美は、立ち上がる。
「まったく困った事になったわね」
「姫それ、どういう……」
 友美は、微笑む。
「あと少ししたら分かるわ」
 この笑みは、またなにか見たな。正雪は、そう思いながら、主を見ていた。
「姫ちゃんここにいたー!!!!」
 この声はと廊下を見ると次郎が。
「姫ちゃん飲み比べするよ!!」
「次郎殿さすがにそれは……」
 健康に悪いと正雪は、止めようとしたが、友美は、ひとみをきらめかせていた。
「お酒ー!!!!」
「友美!?」
 思わず名前で友美を呼んでしまった。その後友美は、二胡を片付け、持つと、次郎と食堂に、正雪も慌てて着いていくと、すぐに飲み比べが始まったが。
「もう……次郎ちゃん……駄目……」
 あっさり次郎は、負けてしまった。太郎に運ばれる次郎を横目に友美は、まだ飲む。
「う~ん美味しい~次誰が相手してくれる??」
 刀剣男士たちは、口を揃えいった。
「相手しません!!」
 友美は、微笑む。
「よし!! いい子達ね!!」
 何故皆がこういったが、そもそも飲み比べで勝てる相手がいないからだ。
「姫……もしや……酒に強い??」
「あぁ正雪。姫ととことん飲み比べで勝負できるのは、旦那くらいだ」
 国広の言葉に正雪は、呆然としていた。
「……ますます光殿が分からない」
「まぁそれが旦那だ」
 美味しそうに日本酒を飲む友美。そんな彼女を見ながら、これは、主めっちゃ飲むなと皆は、思った。 
「よし!! 飲んだし、光におつまみ作ってもらおーと!!」
 友美は、じゃあねというと帰ってしまった。
「正雪は、帰らないのか??」
「パーティーが終わるま、では、いるかな」
「そうか」
 楽しそうな刀剣達を見て、正雪は、微笑む。そんな彼女を見て国広も優しく微笑む。そしてパーティーは、もう少し続くのであった。楽しそうな声と共に。
 

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