学校仮入学編

 ある夏の暑い日国広は、団扇片手に仕事をしていた。
「国広ー!!!!!」
 執務室に主が疾風迅雷で表れ、書類が舞った。
 国広は、眉間に皺を寄せ、書類を拾う。
「暑すぎる!!」
「あんたも十分暑いが??」
 書類を拾い終え、国広は、言う。
「失礼な!! どこが!?」
「勢いがありすぎるんだ」
 書類を飛ばしたことに気づいた友美は、これは、もしわけないと頭を下げた。
「ごめん……」
「気づいたのならいい」
「手伝うわね!!」
「あぁ」
 友美が手伝ってくれるのならもう終わりと言える。 
 国広が少し説明しただけだ友美は、全て把握し、あっというまに本日の仕事は、終わった。
「相変わらずはやいな」
「私の強みは、これくらいだから!!」
「それ言われたら世の中の大半のやつが屑になるから言うな」
「そんなに!?」
 友美は、そんなことないと思ったが、国広の神妙な顔を見て言うのをやめた。
「分かったわ……」
「でなんだいきなりあんな勢いで来て」
 友美は、忘れていたと話をした。
「ここ沈むから」
 国広は、持っていた団扇を落とした。呆然としながら。
 沈むとなると水没しか思い付かない。まさかこの主がそんなことをするだろうか。
 いやするのが友美という人物だ。
「まさか……沈めると??」
「暑いしね!! 大丈夫よ!! 農作物とかは、大丈夫なようにしとくから!!」
 友美は、簡単にいうがそう簡単なことでは、ない。
 国広は、更に聞こうとしたとき、友美が指を鳴らした。
 その瞬間ゴゴゴと音がし、まさかと執務室のそとを見ると、そこは、水の世界だった。
「なぁ!?」
「屋敷の濡れたらいけないところは、きっちり空間で濡れないようにしてるから大丈夫!!」
 そう。この主は、いつもこうだった。国広は、相変わらずの友美の力の強さに呆れながらも感心してしまった。
「姫まさか夏の間やるきか??」
「さすがにしないわ。とりあえず今日は、一日だけよ」
 試運転というやつのようだ。
 友美は、立ち上がるという。
「泳ぐことも出来るから国広も休みなさいな」
 さて色々見てまわろうかと友美が思ったとき、執務室に凄い足音が近づいてきていた。
「国広殿ー!!!!!!」
 この声はと友美と国広は、顔を見つめ合う。
「伝えるの……忘れてたわ……」
「一番伝えとかないといかんだろ」
 執務室の前でぜはぁぜはぁ肩で息をし、正雪は、血相のかいた顔でいった。
「屋敷が水の中に!!!!」
 溜め息をつく国広と申し訳なさそうな友美に正雪は、首をかしげた。
「緊急事態では……」
「普通ならんな。犯人は、姫だ」
「むっ!?」
「暑いし水の中なら、涼しいかと……事前に言わなくてごめんなさい!!」
 正雪は、安心したのかホッとした顔をしていたが、彼女は、それよりも友美の力の強大さに驚いていた。
 やはり底知れない。だからこそ怖いというよりもその力をコントロールしている友美に感心してしまった。
「そうだったのか」
「とりあえず泳ぎたかったら泳いでねー!!」
 友美は、そういうとそそくさとその場を離れようとしたが、掴まれた。国広に肩を。
「姫。皆に説明をしろ」
「えーとー一応したけど……」
「一応??」
 国広を連れ、友美は、やってきたのは、屋敷の玄関にある掲示板だった。
 そこには、2日前の日付で、張り紙が。
「確かに」
「でしょう!! だからそんなに騒ぎになってないもの!!」
 皆が見ていたが疑問が残るが友美は、ここは、言い張ることにした。
「……何となくだが、こんな騒ぎは、姫しか起こさないから皆が慣れてしまってるとも思うが」
「痛いところつくな」
 友美は、国広にそういったとき慌ただし足音が。
「姫これは、どういうことか!!」
「突然屋敷が水の中に……」
 この組織だと新参ものの二振りがやって来た。
「姫」
「みたいね……」
 国広のいうとおりのようだ。
 友美は、国広に合図をすると、彼は、刀剣達を呼びに。
「正秀、清麿後で話すから高御座に集まってくれる??」
「分かった」
 清麿と正秀と共に高御座のある部屋にいくと、しばらくして皆集まった。
「皆様今回集まってもらったのは、屋敷が沈んだ件です!!」
 友美は、そういうと続けた。
「あまりにも暑いので、涼をかねて、屋敷を水の中に沈めてみました!! とりあえず本日一日試しということで、好きに過ごしてください!! 泳いだりもできます!!」
 以上と締め括ったが刀剣達は、静かだった。
「やっぱり姫でしたか」
「兄貴と話していたとおりだねー」
 太郎と次郎は、そう言うと皆頷く。
「姫その虎さん達と泳いでも??」
「もちろん!! 呼吸も水中で出来るしね!!」
「ありがとうございます!!」
「そうなると色々出来るな!!」
 国永は、そう言うと部屋を飛び出していき、他の刀剣達も話しながら、部屋をでていった。
 大倶利伽羅、正秀、清麿以外は。
 彼らは、驚きのあまり固まっていた。
「伽羅ちゃん理解不能ってかんじね」
「そりゃ姫理解が追い付かないよ……」
「そうだ姫」
 清麿と正秀までこういうとは、友美は、自分は、規格外なのだなと改めて思いつつ正雪を見ると彼女も頷いていた。
「国広私……悲しくて天岩戸に籠りそうよ……」
「籠ったところですぐ出てくるのが姫だろ。ストレス発散!! サンドバッグどこ!? って」
 友美は、初期刀にもう少し優しくしろと思いつつ国広を睨む。
「そんな顔してもあんたがおとなしく出来ないことは、よく知ってるからな」
「もう!! 少しくらい違うといってよ!!」
「それは、難しいだろう」
 確かにそうだ。友美は、溜め息をつくといった。
「とりあえず解散!! 楽しんでね!!」
 友美は、そういうと部屋を出ていき、国広と正雪も出ていった。
「清麿……とりあえず……」
「試してみようか」
 ものは、試しと清麿と正秀は、さっそく水の中に行くことにした。
 大倶利伽羅は、国永にその後連れ去られた。

 半信半疑だったが、後藤や信濃が水中で楽しく泳いでいたり、会話しているのを見ていると、正雪も試したくなってきていた。
「本当にこのままでいけるのだろうか……」
 衣を身につけたままでは、普通水の中で身動きをとるのは、難しくなる。それが溺れる原因になることもある。
 正雪は、水中に入れる通路の前でじっと考えていると声をかけられた。
「正雪行かないのか??」
 ふりかえると居たのは、骨喰だった。
「骨喰殿は??」
「俺もまだ悩んでいる。兄弟は、一兄や他の兄弟とすでに中だ」
「そうなのか」
 こうして涼を楽しみ、優しい太陽の光を見ているのもまた一興だ。
 正雪は、目を伏せていると目の前になにか見えた。
 視線をあげると友美が手を振っていた。水中で。
「姫」
 友美は、通路まで泳ぐと、中に。
「ほら!! 大丈夫!!」
 友美の漢服の袖は、確かに乾いていた。
「しかし……」 
 友美は、微笑むと正雪の手をつかみなんと、水中にダイブした。
 ひんやりと冷たい水が頬に。思わず目をつぶり、体が水中に飲み込まれたと分かると、正雪は、恐る恐る目を開けた。
「ほら大丈夫でしょう??」
 呼吸は、普通にできる。ふと上を見上げるの美しい光が差し込んでいた。
 水に住む生き物は、このような光景を見ていたのか。
 優しい水の音と光。知らなかった美しい光景に胸を打たれた。
「……とてもきれいだ」
「でしょう?? ここは、池に近いかもしれないわ。海だともっと違うように見えるかもね」
「海……」
 海の中には、どのような世界が広がっているのだろうか。
 考えただけでワクワクする。
「姫見てみたい……海も……」
「機会があればね!!」
 友美は、そういうと正雪の手を離し、屋敷の中へと戻った。
「骨喰殿」
 友美と入れ替わりに骨喰が今度は、泳いできた。
 水面を見上げると彼は、いった。
「闇のなかの光とは、こうなのだろうか」
 記憶がない。寂しいという感覚の中、希望の光は、水面にさす日差しのような物なのだろうか。
 改めて骨喰は、考えていた。
「私には、分からない。だがそうだと信じたい」
 生前の自分と今の自分。どちらをふりかえってもその答えは、分からない。 
 他者の願望を己の意思とし駆け抜けた生前。そして今は、己のい願望を探し、駆け抜けている。
 正雪は、ふと思った。誰かのためにと走っている姿は、確かに他者からすれば光に見える。
 だが本人は、どうなのだろうか。はたしてそれで何か残るのだろうか。
「正雪……」
「骨喰殿……私は、師の願望を叶えるために走ってきた。やはりそれは、間違っていたのだろうか」
 ぽつりと漏れた言葉には、何処か寂しさと後悔が滲みまるで骨喰に間違っていないといって欲しいように聞こえた。
「分からない。俺には、そのような想いは、ない」
「そうか」
「だがそれが間違っていないとは、分かる。それがあんたを形作ってきたものだから」
 骨喰は、そういうとつづけた。
「姫ならケースバイケースというだろう。だが己の夢や希望をもたず他者の願望のみ背よい走り続けるのは、辛いことだ。そんなこと現世では、やらなくていい」
 骨喰は、そういうと微笑む。友美がよく幸せになるために生まれてくる。だからこそ、幸せにならないと。
 自分が不幸になることは、やらない。よく口にしている。
 骨喰もまた同じことを言うのだなと正雪は、思った。
「やはり人と神は、違うのだな」
「そうなのか?? 俺からすれば業の多さは、あれど同じだと思うが」
「その業や悪縁の多さの違いが凄いのだが……」
「そうか」
 骨喰は、頷く。
「俺は、兄弟のところへいく」
「ありがとう。なら私は、戻ることにする」
 骨喰と正雪は、その場で分かれた。
 中に戻り、正雪は、服が濡れていないことにやはり凄いなと思った。
 提出のためのレポート作成もしなくてはと思い、国広の執務室にいくと、彼は、友美と縁側でアイスを食べていた。
「姫、国広殿」
「正雪も食べる??」
 差し出されたカップアイス。正雪は、頷くと、友美のとなりに座り、アイスとスプーンを受け取るとさっそく食べた。
「バニラ味……」
「そう!! コーヒーとバニラアイスは、合うからね!!」
 ブラックコーヒーは、美味しいと感じないが、そのような食べ方もあるのかと正雪は、思っていると国広が友美のとなりでも食べていた。
「コーヒーの苦味がマルイドになるからな」
「なるほど……私も試してみたい……」
 友美と国広は、いった全力で。
「やめとけ」
「正雪には、少しはやいかも??」
 なぜこうなるのか。正雪は、頬を膨らませるといった。
「これでも三十……」
「生前は、だろ」
「む……」
 国広の突っ込みにグサッと正雪は、ダメージをうけ、動きが止まった。
「これだと赤ちゃんにしとくべきだったか……一応色々考慮して大きくしといたけど……」
「姫それは、それで困るからやめてくれ。また皆が仕事放棄して、赤ちゃんの相手をしたがるから」
 確かに螢が赤ちゃんころ、皆が出陣したがらず、大変だったことを友美は、思い出した。
「確かに。でも正雪の赤ちゃん姿も可愛いと思うわよ!! 大人でこんなに可愛いんだから!!」
「姫それだけは、勘弁してほしいな……」
 正雪に言われたらしかたがない。
 友美は、一先ず諦めた。
「ぶー」
「ぶーって口で言うな」
「赤ちゃん可愛いのに!!」
「なら姫達夫婦が……」
「それは、経済的に考えて、厳しいので今は、無理!!」
「そこは、現実的だな」
「当たり前よ!!」
 国広と友美の会話を聞いて、やはりこの刀剣と主の間には、正雪には、計れない計れない絆があるのだなと改めて思った。
「姫と国広殿は、仲がいい」
「正雪と国広も仲いいと思うけど??」
 友美は、そういうと国広は、溜め息をついた。
「正雪は、ほっとくとすぐにどこぞの悪いやつに連れ去られそうだからな」
「確かに」
 反論したいがそれもまた真実のような気がして、正雪は、なにも言えなかった。
「でもそれだけ可愛いってことでしょう?? 国広」
 友美は、国広に聞くと、彼は、あえてなにも言わなかった。
 友美は、意味ありげに微笑む。
「うっ……」
 そして隣で苦しそうな声が聞こえ、友美と国広は、正雪を見ると、彼女は、顔を青ざめていた。
「苦い……アイスとで軽減されているとは、ゆえ……」
 まさかと手元を見るとアイスとブラックコーヒーが。
 友美は、苦笑いし国広は、呆れていた。
「姫しかり正雪しかり、なんでうちは、こうなんだ」
「それだけ好奇心旺盛ってことねー」
「それで片付けるな」
 アイスを食べ、ほっとする正雪を見ながら、国広は、そう言うと友美は、笑っていた。
「……諦めぬ。絶対に克服してやる」
「そしてなんでこうも頑固なんだ……」
「う~んそれこそ、烈士??」
「違うだろそれ絶対に」
 正雪もこればかりは、全力で首を振った。
「姫それは、違うと私も思う……」
「あらそう?? まぁ気にしない気にしないー」
 友美は、楽しげに笑うが、そこ大切な所だろうと国広と正雪は、思った。
 水の中に沈む屋敷もまた美しく楽しいもの。
 国広と友美そして正雪は、その後も話そして楽しい時を過ごすのであった。




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