学校仮入学編

 ここは、どこだろう。ふわふわと水のなかをたゆたうように、意識が流されている。
 どこかに掴まらなければ。そう思ったとき、目の前に一本の糸が。
 正雪は、糸をつかむと、引き上げられた感覚になった。
 瞼を開けると、見慣れぬ天井が。視線を動かすと絹の髪が見えた。
「姫……??」
 言葉を発すると、友美は、安心した顔をする。
「よかったわ……」
「私は、確か学校に……」
「えぇ。倒れる前に連れ帰ってきたの」
 正雪は、ようやく動くようになってきた脳をフル回転させ、色々考えた。
 顔を青ざめ飛び起きると、友美に聞いた。
「姫私は、どれだけ寝ていた!?」
「えーと三時間ほど」
「えっ?? 三時間……」
 思ったより寝ていなくてホッとした。
「よかった……だか夏殿に心配を……」
 彼女は、大丈夫だろうか。正雪は、目を伏せ心配していると、友美がいった。
「あの子なかなか面白いわね」
「というと……」
「血筋的にね!!」
 友美は、意味ありげにいう。何かある絶対に正雪は、そう思った。
「姫長義殿は」
「戻ってきてるわ。一先ず政府に報告は、してきたって。まぁあとは、あちらが、何とかするでしょう」
 自分が寝ている間に全て終わっていた。あとは、課題の提出と最後の登校だけ。
 正雪は、最後の最後にこうなるなんてとため息をこぼした。
「はぁ……」
「正雪??」
「顔を突っ込まなければよかった……」
 友美は、笑うといった。
「正義感強いのに無理よ」
「うむ……」
「でも今回の件は、よくやったわ。もしかすると大変なことになっていたかもしれかいから」
「というと……」
 友美は、冷たい水をコップにいれながら、話す。
「あの審神者。なかなか劣等感を抱えていたみたい。同期は、すごい人達ばかりなのに、自分は、って。それに政府からも認められず、長義を派遣してもらえなかった。その事もあって彼女は、あやかしを本丸に率いれ、力にしようとしたみたい。まぁ騙されて結局最後は、乗っ取られ、裏切られ、長義にあやかしは、伐られたけど」
 コップを正雪に差し出すと、彼女は、受け取り、飲む。
「私の方が依代としていいとか……いっていたが……」 
「まぁそれもあってるわね」
 正雪は、溜め息をつくといった。
「劣等感か……」
「人とは、そういう生き物だから。神ですら、劣等感、あるんだからこれが普通」
 友美は、微笑むと正雪の頬に触れた。 
「もう大丈夫そうね」 
 安心したように友美は、いうと立ち上がった。
「姫その……」
「どちらでもいいわ。でも刀剣達に顔は、出して上げて。もう皆心配して、ここまで押し掛けようとしてたから」
「そうか」
「えぇ」
 友美は、そういうと部屋をでていき、正雪は、布団から起きた。
 畳、片付けると、体は、あきらかに軽くなっていた。
「とりあえず誰か来る前に着替えなければ」
 浴衣から着物に着替えると部屋のすみにある荷物を開けた。
「レポート作成もしないと……」
 そう呟いたとき、声が。
「いいかい??」
 この声はとどうぞと声を変えると、襖が開いた。
「長義殿」
 長義は、安心した顔をすると言った。
「姫から目覚めたと聞いた。よかった」
「心配をかけすまない」
 正雪は、頭を下げると、長義は、少し戸惑った。
「そこまでのことじゃないだろ!!」
「しかし……私は、神に……迷惑を……」
「かけてない!! むしろ大事になる前にとめたんだ!!」
 正雪は、目を伏せると言った。
「と言っても結局私は、この様……」
 正雪は、分かっていない。どれ程すごいことをしたのか。
 長義は、苛立ちを感じながらも抑えて話した。
「あの状況を変えられるのは、正雪さんくらいだった」
 正雪は、驚いた顔をした。
「審神者の霊力ならばそのくらい……」
「できるわけがない。審神者といえど、あの中であのあやかしを誘きだし、対処できる実力があったのは、正雪さんくらいだ」
「そうなのか?? 皆霊力が強いと……」
「霊力の強さと使えるかは、別だ。ここに来てから君は、息をするように霊力より上の力を扱っている。だからこそできる芸当だ。あの短期間で」
 正雪は、驚く。まさか自分がそのようにして力を使っていたなんて。
「長義殿……」
「少しは、これで自覚できたか?? あの時何を君は、したのか」
 正雪は、頷く。あの時長義が留目をさせたのも正雪だったから。
 少しは、力になれていたのならよかった。正雪は、そう思い微笑むと、長義は、更に話した。
「これ政府から預かってきた」
「ありがとう」
 差し出された文を受け取り、確認した。いったい自分になにようかと思いつつ中身をみると、そこには、貴女やらやってくれると思っていました。ありがとうと。綴られていた。
「えっ??」
「たぶん姫とあのじじいは、知っていたんだろう。こうなることを」
 長義は、気に食わなさそうにいった。
「その御仁とは??」
「今の政府のトップだ。鶴丸国永を近侍としている」
 正雪は、ある初老の男性の顔が浮かんだ。
「まさか……」
「正雪さんの事は、相手も知っているから、会ったことは、あるだろう」
「見事に……」
「これであの事案も動くだろうな」
 長義としては、それが動くことは、喜ばしいことだ。
「事案とは??」
「政府には、刀剣男士で構成された穢れた本丸の浄化部隊が一応ある。だが数が少ないんだ」
「そんなものは、要らないと??」
「そう。あのじじいは、この事態を打開したくて、機会を狙っていた。姫が動き始めてから政府は、嫌でも考えさせられ事になった。そして今ようやくこの事案を動かすと最後のひとおしが揃った」
「まさか私がそれを押したのか??」
 長義は、頷く。
「あぁ。今しかないと正雪さんには、悪いが相手方を落とすための事例として使わせてもらった」
「そうか」
 自分がもし長義の立場なら同じことをしていた。これでまた審神者と刀剣男士達が明るい未来に進めるのなら喜ばしいことだ。
「正雪さん??」
「私は、まだ審神者や刀剣男士について……あまり知らない。だが幸せになればいいなと……」
 狙われた事もあるからどんな審神者がいるのか少しは、分かっているつまりだ。
 己の欲にまみれた審神者もいれば、普通の審神者もいる。
 そして今回のような劣等感から闇に染まってしまう審神者も。
「刀剣の付喪神に主といわれようとも我々は、しょせん、人。審神者になり、戦いに身をとうじなければならない業を持っているものも幸せになる権利は、ある……それに人は、幸せになるために生きるのであろ??」
 長義は、微笑む。
「らしいな。俺も姫の受け売りだが」
 長義と正雪は、話をし、笑っていると咳払いが。
「長義。私正雪と貴方の婚姻は、認めないからね??」
 恐る恐るふりかえると友美がたっていた。蛍と共に。
「姫何故そうなるんだ!!」
「だって仲良さげだったからよ。親友や相棒は、いいけど、恋愛に発展したら、それこそ、へし折るから」
 蛍も不機嫌な顔をしていた。
「そうだそうだ!! 正雪が欲しかったら俺を倒してからいえ!!」
 蛍は、そういうと正雪に飛び付いた。
「蛍殿……」
「よかった!! 大丈夫そうで!!」
 正雪は、微笑むと頷く。
「姫。蛍と稽古していいか??」
「どうせ負けるからやめときなさい。長義」
 蛍は、見事に長義を挑発したようだ。
「姫その……」
「なに??」
「刀剣男士と審神者の恋とかは、あるのかな??」
 友美は、切なく笑う。
「えぇ。あるわ。でもその全てが幸せとは、限らない」
 今は、こうとだけ友美は、正雪に伝えた。
「そうか……」
「まさか惚れた刀剣いるの!?」
 正雪は、慌てて否定した。
「いない!! それは!!」
 友美は、ホッとしたかおをした。
「よかった~もしそんな者が出来たとしったら、一揆が起きかねないから……」
「一揆!!??」
 友美は、分かりやすいようにそう言った。
「まぁ起きるだろうな。とくに国広君が先陣きって暴動を起こすかな」
 長義は、あきれた顔をしいい、友美は、頷く。
 正雪は、唖然としてしまった。
「もしや……私は、思っているより……」
「皆に好かれてるよ!! 正雪!!」
 蛍は、笑顔でいうと、襖が凄い勢いで倒れた。
 長義が襖を受け止め、壁に立て掛け、友美は、眉間に皺を寄せていた。
「姫!! 正雪に好いたやつが出来たって!?」
「それより正雪さん大丈夫なのか!?」
 国永と貞ちゃんを筆頭に多くの刀剣達がわらわらと集まりなにやら口にしていた。
「えーい!!!! 皆庭に座れ!!!!! 説教だー!!!!!」
「えっ!!!???」
 友美が国永の首根っこをつかみ、そういうと、なんと刀剣男士達をしらすに座らせ、説教が始まってしまった。
「でも姫僕達心配で……」
「だとしても光忠皆でおしかけない!!」
 主に起こられながらも皆は、正雪の姿を見てホッとしていた。
「まったく」
「姫もういい??」
「えぇ。とりあえず正雪も話したい子達は、5分で交代!! 蛍がしっかり見張るから!!」 
「えっ!!!!????」
「友美オッケー」
 これは、ひじょうにまずい。
刀剣男士達がしょぼんとかたを落としおとなしく今回は、帰っていった。
「姫あとで私が行くのは……」
「もちろんいいわよ」
 後で皆のところに顔をだそう。正雪は、そう決めたとき、国広がやってきた。
「あら国広」
「姫この件だが」
 国広は、どうやら仕事の確認のため友美のところへ来たらしい。
 一通り話をすると、彼は、正雪を見て微笑む。
「よかった。頼むからあまり無理は、しないでくれ」
「国広殿……ありがとう」
 国広は、頷くと、さっていった。
「国広……」
「国広なりの優しさね長義」
 本当ならもう少し話したかっただろうが、あえて正雪のことを考えて切り上げたのだろう。
 友美は、成長したなと国広の事を思った。
「本当に私は、思っていたよりも……皆に心配をかけてしまったのだな……」
 それといつの間にやら大切にさせれいた。正雪は、嬉しそうに微笑むと言った。
「では、姫少し行ってくる」
「えぇ。私は、もう少ししたら帰るから」
「なら共に行く」
「分かったわ」
 荷物を持ち、正雪は、部屋をで、皆のところに。
「姫今回の件……」
「長義大丈夫よ。でもうちは、忙しくなるかもね」
 友美は、そういうと、意味ありげに笑った。  
 長義は、その顔を見ながら、今度は、何をする気なんだと主を少しばかり、困った顔をして見るのであった。


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