学校仮入学編

 本丸研修には、必ず初期刀を同行させること。この一文が正雪を悩ませていた。
「姫どうすれば……」
 呑気に縁側に座り、お茶をのむ友美に正雪は、相談していた。
「長義連れていけば??」
「しかしそうなると……先方に……色々不審がられるかと……」
 ようかんを食べ友美は、確かにと納得していた。
「確かに。でも長義方が国広よりましよ??」
 確かにそうなのだが。正雪は、悩んでいると長義がやって来た。
「姫少し相談がある」
 珍しいこともあるものだなと友美は、思いつつ言った。
「なにかしら??」
「正雪さんの本丸見学の件だ」
「長義もか」
「なら正雪さんも??」
 友美の後ろに正座し座っている正雪を長義は、みて言うと彼女は、頷いた。
「あぁ」
「なら姫話が早い。俺を同行者からはずし、国広君にしてくれないか??」
「長義の考えは、分かるけど、うちの国広よ??」
 あえてうちの国広と言ったのには、理由があるのだろう。
 長義は、この件に関しては、主は、ひくきがないと分かった。
「無理か……」
「普通の卑屈な写し君!! ならともかくねぇー」
 今ここに国広がいれば、五月蝿いと言われそうだが、彼は、今天照の所だ。
 友美は、皮肉を込めいうと、長義もこれにさ、思わず笑った。
「それ他の山姥切国広と俺の前では、いうなよ??」
「分かってるわよ。とりあえず同行者の件は、長義以外には、無理よ」
 正雪と長義は、しかたがないと、今回は、諦めることにした。
「姫他の本丸の審神者に怪しまれないだろうか……」
「まぁ大丈夫よ。それにその見学先の本丸に関しては、調べてあるから」
 仕事の早い友美に正雪と長義は、驚いた。
「とりあえず無難なところね」
「というと??」
 長義の問いに友美は、指を鳴らすと、彼の手元に資料が。
 長義は、目を通すと、頷いた。
「見事に平均的だな」
「まぁブラック見せるわけにも、精鋭本丸を見せるわけにもいかないからねー」  
 でも友美は、この時なにかひかかっていた。平凡なわりになにか変と。しかしあえて言わなかった。この時は。
 友美は、微笑むと言った。
「正雪楽しんできなさいな。滅多にないことだから」
 正雪は、頷く。
「あぁ」
 これが終われば学舎に通う日々も終わる。そう考えると少し寂しい。
「姫……審神者になれば……他と交流などは、出来るのかな??」
 長義は、目を伏せ、友美は、少し寂しそうに呟いた。
「場合によるわ。現世で働きながら、学生をしながら、審神者をやってる人もいれば、専任でやっている人もいる。それに派遣される所にもよる。でも専任で審神者をやっている人は、基本会議や会合がない限り、本丸から出ることは、少ないわ。そうなると交流は、難しいかも」
 正雪は、寂しそうに微笑むと言った。
「そうか」
「正雪さんのいるクラスは、後少しで本試験で卒業になるからね」
「あぁ。私は、そこにいない……少し寂しいな……」
 友美は、優しく正雪の頭を撫でた。
「姫……」
「正雪大丈夫!! 会いたいと思えば会えるから!!」
 頷く正雪を見ながら、友美は、少し切ない顔をしていた。
「私の……えごが……原因なら……ごめんね……」
「姫??」
 友美は、微笑むと立ち上がり、その場を離れた。
「長義殿先ほど姫は……」
「俺には、分からないが……」
 友美にしか見えていないものがある。そしてそれを理解できるものは、光以外いない。 
 たぶん友美は、正雪のなにかをみて、思うところがあったのだろう。
「気になるなら聞け。正雪さんは、得意だろ??」
「そんなことないが……」
「俺や国広には、ずかずか聞いてくるのに??」 
 正雪は、ほほを膨らますも言った。
「長義殿意地悪だ……」
「俺は、もとからこんなのだ」
「国広殿に言ってくる。長義殿が私を虐めると」
 正雪は、立ち上がると恐ろしいことを言って去っていこうとするので、さすがの長義もまずいと、慌てて、正雪にいった。
「……すまない」
 正雪は、微笑むと言った。
「こちらこそ。国広殿には、言わないでおこう……」
「たのむ。あいつと喧嘩をするにしてもけっこう疲れるんだ」
「確かに国広殿、長義殿と喧嘩をするとき、何時もまったく相手にしてないから……」
「そう。無駄に疲れるだけだからな」
 だからこそ無用な争いは、しないに限る。
 長義は、困ったように言うと正雪は、笑った。
「確かに」
 その後も正雪は、長義と少し話すと、彼と分かれた。そして彼の言うととおりにすることにした。

 ついつい言ってしまった。友美は、溜め息をつきながら、縁側で二胡を奏でていた。
 ふと思った。確かに契約で正雪を転生させた。しかし他にやりようがあったのでは、ないかと。
「姫」
 落ち着いた凛とした声が聞こえ、友美は、そちらを見ると、正雪がお盆を持ち、立っていた。
「となりいいかな??」
「もちろん」
 正雪は、お盆を縁側に置くと、腰かけた。
「氷菓だ。姫もよければ」
「ありがとう」
 二胡を友美は、片付けると、お盆に載せられたかき氷を食べた。
「夏といえばこれよねー!!!!」
「本当に。でも当世では、こうも簡単に食べられるとは……」
「江戸だと富士山の麓に確か氷室を作っていて、将軍に献上させるほどの高級品だったわよね」
「姫の言うとおりだ。なのに今では、冷凍庫で簡単に作れる」
「でも天然氷は、今も高級品よ。かき氷にしたとき滑らかな氷になるとかで、新雪のように口のなかでとけるんですって」
 江戸と変わらない物もあるのだなと、正雪は、思いながらも自分の知らない歴史の事を学びたいと思った。
「正雪……」
「なんだろうか」
 友美は、呟く。
「改めて聞くけど、貴女は、なにも分からずいきなり、転生させられて、ここに連れてこられ、代理でも審神者にされて……私の事を……恨んでない??」
 正雪は、言った。きっぱりと。
「まったく!! それにここに連れてきた理由も今なら分かる。もし姫が生前の私との約束を守り、人として普通に産まれていればさぞ苦労すると思うから」
 あまりにもあっさり言われ、友美は、きょとんとしてしまった。
「そんなにあっさり言うの!!??」
「むろん!! それに私の魂では、畜生を抜けられていたかも分からぬ。姫の介入があったとしても異質な存在として、人として産まれようとも修羅を生き、生き地獄を味わっていたとおもう」
 ある意味純粋無垢だから成長するのが早い。友美は、笑った。
「さすが!! 神様に囲まれている分、まっすぐに業を消して成長してるわね!! しかも早く!!」
「む??」
「正雪知らないだろうけど、純粋無垢な者は、染まりやすいの。だから、貴女が黒に染まればそっちにすごく成長してたかもしれないわ」
 正雪は、顔を青ざめた。
「それは、嫌なのだが!!??」
「そうね!! だからよかったと思ったのよ」
 細く弱々しく何時消えてもおかしくないほど白く横たわる娘。
 彼女を見たとき、思ってしまった。幸せになって欲しいと。
 だからこそ気まぐれに手を指し伸ばしてしまった。その剣を頂戴と声をかけて。
「私の気まぐれも少しは、役に立ったのね……」
「私に声をかけたことだろうか??」
「えぇ」
 正雪は、言った。微笑みながら。
「姫は、気まぐれと言うが、案外そうでは、ないかもしれない」
「そうかしら」
「なんとなくなのだが……最期の私の願いが姫に聞こえ……巡りあえたと思うのだ……」
 あくまでもどうするかは、友美しだいだったともいえるが、正雪は、そう思いたかった。
「それも一理あるわね!! そうしておきましょう!!」
「そうだな」
 二人は、微笑み合うとかき氷を食べた。
「正雪今のその心は、間違いなく創られたものじゃない。貴女自身のもの……それだけは、忘れないで」
 正雪は、目を伏せる。
「分かっているとも。今の私は、生前と違うのだから」
 友美は、目を細めると正雪を撫でた。
「本当に成長したわね……」
「姫その……」
「なに??」
「少し恥ずかしいのだが……」
 友美は微笑むと手を離した。
「ならどうやって正雪を褒めようかしら」
「むぅ!?」
 友美が本気で悩みはじめた。友美しかり、国広しかり何故すぐに褒めようとするのか。
 正雪は、たいしたことをしてないのにと思いながら、かき氷を食べた。
「今日は、これくらいにしとこうかしら」
「たのむ……」
「分かったわ」
 友美は、目を細めるとかき氷を食べた。出会いには、必ず別れがある。だがそれは、悲しいばかりでは、ない。 
 正雪は、今回の件でそれを改めて知ることになるだろう。
 恥ずかしく無言でかき氷を食べる正雪をみて、友美は、笑った。優しく慈愛に満ちた顔をして。
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