代理審神者

 朝餉を食べ終え、部屋にて、正雪は、更に会談にむけ、必要な資料を頭にいれていた。
「へぇー友美がいってたのって君のことか~」 
 聞きなれない声が聞こえ、正雪は、部屋の入り口を見ると、いなれない小さな男の子が立っていた。
「子供??」
 少年は、ほほを膨らますという。
「俺は、子供じゃない!!」 
「なら……短剣か??」
 ここ数日で正雪は、学んだことがある。刀剣男士の容姿は、その刀剣が何なのかで大まかにきまる。  
 小さい男なら短剣かと正雪は、思っていたが、部屋を訪ねてきた国広のお陰で、それが間違いだと証明された。
「蛍……」
「久しぶり国広!!」
 国広は、驚いた顔をし、立っているので、正雪は、眉を潜めた。 
「国広殿まさか……政府の関係者か??」
「いや」
 国広は、失礼といい部屋にはいると正雪の前に座る。 
「あいつは、蛍丸」
 蛍丸というなに聞き覚えがある。正雪は、確かにと思い出すと、はっとした顔になる。
「阿蘇にある宝剣では……だがあれは……大太刀で……」
「蛍丸だけは、例外だ」
 蛍は、頷くと、正雪の前に。
「友美がいってた代理ねぇー」
「その……私に何か……」
「なにもないよ。ただ……友美も物好きだなと思って」
 蛍は、意味ありげにいうと続けた。 
「物好き……」
「気にしないで!! 俺もその物好きに拾われた一つだから!!」
 国広は、蛍の頭をこつく。
「蛍の場合押し掛けだ」
「確かに!!」
 蛍は、楽しげに笑ういう。ここに蛍がいるということは、たぶん彼も会談に参加するのだろう。
「国広教えて今のこの組織の状況」
 蛍に国広は、頷くと、正雪も交えて、改めて、今の状況整理をした。
「なるほど。とうとうあの刀剣達をね」
「その……政府に連れていっていいのか??」
 正雪も事前に話を聞いていたとは、いえ、やはり少し心配になる。 
 異質というだけで馴染むのは、とても大変になる。偏見などがあるからだ。
「問題ない」
「ならいいんだが」  
 国広が言いきるのだから大丈夫だろう。
 正雪は、そう思うと、更に会議を続け、会議が終わったあと蛍に話しかけられた。
「正雪」
「どうしたその……蛍丸殿」
「俺のことは、蛍でいいよ。この組織う一振蛍丸いるから」
「なら蛍殿と……」
「オッケー!! これ友美から預かってきたよ!!」
 蛍は、桐木の箱を正雪に渡した。
「これは……」
「お守りというか目印かな!!」
 箱を開けると、中から繊細な細工がされた六花と星の耳飾りと簪が。
「俺達は、太陽と狼の紋章なのに……」
「国広そもそも契約が違うから」
 蛍と国広の会話を聞きながら、正雪は、聞いた。
「それは……」
「俺と姫はあくまでも太陽神の神子と刀剣という契約なんだ。蛍は、あんたと一緒の契約だが」
「そうそう!! それは、友美の力に由来するものと正雪の名前からたその証しになったんだと思うよー」
 主のことで知らないことがまだまだありそうだ。
 正雪は、ひとまず簪だけつけた。
「耳飾りは、これがあるから……」
「それでいいと思う。友美も一応耳飾りつけとくっていってたから」
 こんな貴重なものをとりあえずと渡す主に国広は、ため息を漏らした。
「……姫」
「まぁ国広の気持ちも分かるよー。俺だって同じこと言ったもん!!」
「でもいいのいいの!!ってつけたんだろ姫は」
「当たり!! 友美って術やら神子の仕事やら、力のコントロールは、丁寧にやるのに、それい外がすごく大雑把だからねぇー」
「だから苦労させられるんだが」
 正雪は、確かにと頷く。
「ねぇもうそろそろ時間だよね!!」
「そうだな」
 国広と蛍が立ち上がり、正雪も深く息を吐くと、木綿の面をつけ、立ち上がった。
「では、国広殿、蛍殿此度は、よろしくお頼み申し上げる」
「それは、こちらの台詞だ」
「正雪は、座ってたらいいから!!」
「それは、少し問題では……」
「蛍が怒るよりましだな」
「俺怒らないもん!!」
「そうか」
 国広は、蛍にそっけなくいうと、部屋を出た。
 蛍も続けて、歩きだし、正雪も続く。
 大丈夫。生前のようにやれば問題ない。
「……幕府に士官を決め……家綱様に……会った時のようだ……」 
 ふとあの時に賜った二振りの刀剣は、今どうなっているのかと気になった。しかしこの世界と自分の生きた世界は、違う。
 今になり、気になるのもおかしな話かと思った。
 友美と契約したとき携えていた二振りは、現物かといわれれば難しい代物だ。
「……残ってるといいが」
 純白の刀剣。残っていたとしても錆びているかもしれかい。それでもいい、もう一度目にしたいと彼女は、思った。
「何が??」
「蛍殿なにもない」
「そっか」
 そんなことよりも今は、目の前の会談に集中しなくては。  
 気を引き締め、正雪は、屋敷の玄関へと向かった。

 今回の会談を申し込んできたのは、あの不思議な元本丸からだった。
 ときより各本丸にて出現する刀剣女士。本丸によっては、そのまま刀剣男士と同じように過ごす場合もあるが全てがそうとは、いかない。
 本丸によっては、折られることもあれば、恥辱を受けることある。
「今回は、数年前に潰された本丸の刀剣の引き渡しがメインだ」
 スーツを着た男は、そういうと、隣にいた女性は確認した。
「でも何故今……」
「うちの部署にいる山姥切国広が申し出たからだ」
 最近配属された小竜と共にやってきた刀剣女士の山姥切国広。
 彼女は、どうやらその本丸の出身らしく、全てを調べたうえで仲間を政府へと迎えることを決めたらしい。
「しかし……見つからないと思ったら……あの本丸に保護されていたとは……」
 男は、顔を青ざめため息をこぼす。
「すごく嫌そうですね??」
「当たり前だろ!! あの元本丸の刀剣は、他とは、違いすぎるんだ!!」
「違うというと……」
「そもそも力の質量も違うし、なにより……神性が強くもなっているんだ。なにせ政府がお手上げのブラック本丸を壊滅でき、浄化までできるやつらだからな」
「なら政府に属してもらえば……」
「そんなことできる相手じゃないから、こうなってるんだ。もしそんなことしてみろ。恐ろしいことになる」
 現に恐ろしいことになったことが何度もある。にっこり微笑み全てを破壊し尽くす女の顔が今でもはっきり思い出せる。
「いいか!! 絶対に余計なことをいうな!! さもないと今度は、命がないぞ」 
「はい」
 女性は頷くと、地図に指定された場所に。そこには、小さな社が。
 男は、その社に降れると、開かれた。一時的な門が。
「いくぞ」
 女性は頷くと、男と共に、門をくぐった。そしてやって来たのは、尊厳な佇まいの門がある屋敷だった。
 お邪魔しますといい、中には入ると、美しい日本庭園が広がっている。 
 屋敷の入り口につくと、噂の刀剣男士が待っていた。
「山姥切国広……蛍丸……」
「彼らは」
「この組織のナンバーワンだ」
 男性は、深呼吸し玄関に入る。
「この度は、時間を割いてくれてありがとう」
 国広がそういうと、男性は、微笑む。
「いえ」
「主が待っているこちらへ」
 そして中にはいるように促され、女性と男性は、靴を脱ぐと、なかに。
 国広に案内され来たのは、玄関から近い客間。
 中にはいると部屋の奥の上座に和服ドレスの女性がいた。
「此度は、ご足労感謝する」
 正雪は、頭を下げるという。なんとか打ち合わせ通り出来た。 
 政府の職員が正雪の目の前に座ると、国広と蛍も茶と菓子を出すと正雪の両隣に腰を下ろす。
「では、早速本題だが、刀剣女士に関してそちらで保護してもらえるということでいいだろうか??」 
 正雪の問いに男性は、頷く。
「えぇ。ですがその前に確認が」
 男性は、怪訝そうにきく。
「何故今になり申し出てきたのです??」
 正雪は、国広の方に視線をむけると、国広は、大丈夫と話し出した。
「それは、そちらに引き渡せる状況じゃなかったからだ。こちらが保護したときには、骨喰、鯰尾、両刀剣は、精神的にも肉体的にも深刻だった」
「……だから回復に年月がいったと」 
 国広は、資料をだし、言った。
「これが証明書だ」
 男は、確認すると間違いは、なかった。
「確かに……」
「こちらとしては、政府には、二振の身の安全と前本丸で受けたようなことを二度とさせないと約束して欲しい」
 国広の瞳に鋭い光と冷たさが。正雪でも分かる。彼とであって日が浅いが、国広は、この件に関してそうとう怒りがこみ上げえていると。
「……本当に約束してよねーじゃないと……そっちは、大切な刀剣を失うことになる」   
 蛍も圧をかけるようにいうと、女性が反論した。
「何故そこまでのことを!! それに貴方になにが出来るの!!」 
 蛍も冷たい目になり、それを見た男性は、慌てて女性に言った。
「謝れ!!」
「何故ですが!! こんな脅しをされて!!」
「……あの蛍丸は、本霊だ!!」 
 女性は、驚いた顔をすると、蛍は、にっこり張り付いた笑みをしていた。
「そうだよー 俺は、全ての蛍丸の大本。その気になれば蛍丸全てを消せる。そうなると困るのは、そっちだし、悲しむ審神者も増える……これくらいのこと約束できるよね??」
 蛍の声が更に低くなり、正雪は、驚いた。思わず国広の方を見ると彼は、少しあきれた顔をしていた。
「もちろんだ」
 男性は、そういうと、国広は、更に資料を彼らに見せた。そこには、誓約書が。
「ならここにサインを」
「あぁ」
 男性は、誓約書を確認するとサインをした。
「確かに」
 国広は、誓約書をその場でコピーすると相手もに渡し、原本を正雪に渡した。
「主確認を」
「問題ない」
 確認した書類をファイルに挟むと、その後国広は、立ち上がる。
「では、引き渡しを」
「分かった」
 国広に続き、職員二人も部屋をでていった。
「私も立ち会った方が……」
「正雪は、見ない方がいいと思う」
 蛍は、切ない顔をしいう。
「それは……」
「女の子が見るには、少し刺激が強すぎるってこと。それに友美が正雪は、感受性豊かで、ショック受けるからって」
「しかし……この件に関わったからには、最後まで見届けなくては」
 蛍は、ため息をつく。
「なら遠目からね」
「かたじけない」
 正雪と蛍が玄関にいくと、門の所で職員二人と国広そして見慣れない二人の女性がいた。
 一人は、立っていたがもう一人は、車椅子に座り、素顔を隠していた。
「……何故顔を……」
「前の主から足の骨を折られて、立てなくさせられて顔まで深い傷を負わされたから……その上強姦されてたんだ……」
 正雪は、ショックを受けるその場に座り込む。
「えっ……何故そのようなことを……」
「だから見ない方がいいって言ったのに」
 蛍は、あきれたようにいうと、正雪の隣に腰を下ろした。
「人間って鬼にもなれるから、その、主は、生きて鬼になってたの」
「……そうか」
「刀剣達も二振りを見捨てざるえなかったらしいし」
「それほどの地獄にいたと……」
「そう」
 考えただけで身の毛がよだち、苛立ちがわいてくる。
 だからこそ、彼女は、求めた世の中の平和を。
「私は、彼女達の力になれただろうか……」
「それは、なれたと思う」
 ふの顔を上げるの藤色の髪の刀剣がこちらに頭を下げていた。
 正雪もさげかえすと、彼らは、その屋敷を出ていった。
「終わったぞ」
 しばらくして国広は、玄関に戻ってきたが、座り込む正雪をみて慌てる。 
「どうした」
「その……少しショックを受けただけだ……」
「そうか」
 国広は、なんと正雪を横抱きにすると、歩き出す。
「国広殿!?」
「あんたに何かあったら、姫に顔向けできるか。その簪は、姫からあんたを守れって意味でもあるんだ」
 ひょんなことから契約した主。しかし正雪が思ってるよりも主は、自分のことを思ってくれている。
 正雪は、目を伏せる。
「……姫は、そのように」
「姫は、刀剣もホムンクルスも替えがきくとは、考えないご仁だ」
 だからこそ、自分を大切にしろとうるさくいわれる。
「だから自ら傷つくようなものになるべく近寄るな」
 正雪は、頷くと、国広は、彼女の部屋についた。
 執務室についた。おいてある長椅子に彼女を降ろす。
「さすがに男が女の部屋に入るわけにもいかないからな」
「かたじけない」
「しばらく休め。着替えもするだろうから俺は、出る」
 国広は、そういうと、何処かに去っていってしまった。
 蛍も後をついてこなかったようだ。静かな部屋で正雪は、準備していた着物をとりだし、着替える。 
 着なれた袴と着物姿は、落ち着くと思いながら、下品かとおもいつつも、長椅子に横になった。
「いくら平和に見えてもまだ……この世界は、あしきことで溢れているのだな……」
 そう呟くと知らぬまに、彼女は、眠ってしまっていた。
 
 心地のよい弦楽器の音がする。正雪は、眠そうに目蓋を開けると、布が擦れる音が聞こえた。
「お疲れさま」
 聞きなれた声に正雪は、慌てておきると頭を下げた。
「姫」
「いいからそれは!!」
 顔を上げると友美が苦笑いをしていた。どうやら寝ている間に来ていたようだ。
「国広殿は……」
「正雪が寝てたから隣で仕事してるわ」
「そうか……」
「正雪ありがとう。この度は、よくやりました」
 正雪は、微笑む。
「姫の力添えがあったからだ。こちらこそ、ありがとう」
 友美は、微笑むとあるものを正雪に渡した。それを見た正雪は、驚く。
「これは……」
「あなたの生きていた異界へいって探してきたの」
 友美が正雪に渡したのは、彼女が生前使っていた二振の日本刀だった。
「貴女にとって大切なものみたいだしね。あとこれと」
 友美は、兎の置物も正雪に、渡した。
「姫まさか泥棒を……」
「してないわ。きっちり対価を払って生前の貴女が亡くなってから引き取ってきたの」 
 友美は、弱りきったホムンクルスを見て、切ない顔をすると、言葉を話せるうちにと全てを打ち明けた。  
 はじめは、信じられない様子だったが、その、ホムンクルスは、全てを信じてくれた。
「……なら対価として私は、あなたの願いを叶えるわ。それがどういう形になったとしても」
 友美は、ホムンクルスが亡くなったあとその遺品を貰ってきた。処分される前に。
「まさか……私に肉体を与えたのは……」
「生前の貴女が、せめて人とした生きたい。ホムンクルスでは、なく……って言ったからよ。さすがに世の中の悪をただすのは、仏でも無理だから。ならと取引してきたの」
 覚えていないが死に際にそのような取引をしたのは。そんな自分に思わず自嘲してしまった。
「私は、アホだな……」
「まぁ何かしらで感じ取ったのかもね。だからこの兎と日本刀は、主に返すわね」
 正雪は、受けとる。
「姫確かに」
「それと私と由井正雪の取引は、これで終わったわ。貴女が、契約を切り、人として生きることを選ぶなら私は、とめない」
 まさかの友美の発言に正雪は、驚く。
「それは……」
「当世がいいな、すむ場所や生活は、バックアップするし、江戸に戻るのなら送り届けるわ」
 自由に幸せに生きて欲しいと思っているからこそ友美は、このような選択肢を正雪に与えるのだろう。
 正雪は、目を伏せると言う。
「……私は、今のままがいい」
「えっ??」
 友美は、驚いた顔をした。
「国広殿も自由に生きている。姫と契約していても……なら私は、ひとまずそうしたい。まだ貴女に恩を返せてない」
 友美は、微笑む。
「なんとなく分かっていたけど……わかったわ。もし契約を切りたくなったらいってね。何時でもオッケーだから」
 なぜうちの式神たちは、こうも自由になりなさいといっても契約を切らずに残ることを選ぶのか。
 友美は、縁とは、面白いものだと感じていた。
「その……姫……」
「なに??」
「私は、今後……」
「あーそうね……ここに住んでもいいし、……私のおうちでもいいし……一人で当世で暮らしてもいいし……旅にでてもいいわよ!!」
 正雪は、ポカーンとしたのた思わず突っ込む。
「姫それ契約切った場合と変わらない!!
違うといえば江戸に戻るが無くなってるだけじゃないか!!」
「そういえば!! ふふふ」
 友美は、おかしそうに笑う。
「ならうちに住む?? 正雪には、手伝って欲しい事もあるし」
 正雪は、微笑み頷く。
「えっ?? ということは、正雪さんにお菓子を食べえ貰えないのかい!?」
 この声は、と入口を見ると、光忠がマカロンの乗った皿をもち立っていた。
「光忠!?」
「姫!! ここに置いておくことは!!」
「正雪自由にここへこれるわよ??」
「だとしてもだよ!!」
「光忠殿来るからその時にでも食べさせて貰えたら……」
 光忠は、少し落ち込んだがいう。
「オッケー。約束だからね!!」
「うむ……」
「とりあえずマカロンの食べてもらったら??」
「そうだね!! 姫もどうぞ!!」
 どうやら光忠ふくめ刀剣達に正雪は、可愛がられているらしい。
 友美は、マカロンをすすめられ頑張って食べる正雪を見ながら思う。
「確かに分かるわ……」
 光忠がなぜ食べて貰いたいと思うのか。仕草からして可愛いのだ。
「光忠すごく美味しいわ」
「ありがとう姫!!」
 これは、正雪には、頻繁にここへ来てもらわないと大変なことになりそうだ。
 友美は、そう思いながら、マカロンを食べた。
 これから彼女がどのように生き、どのように幸せを見つけるのか。そのことを考えワクワクしながら。
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