学校仮入学編

 六月に入ったある日、正雪は、屋敷の庭の花の水やりをしていた。
 蛇口を捻り、ホース使えばこんなにも楽に花に水がやれるとは、江戸の世では、考えられない程だ。
「よし!! これで終わりだな……」 
 白い花を咲かせるクチナシと青い美しい紫陽花。この時期ならでは、の彩りとも言えよう。
「正雪さん今日は、学校違いますの??」
 声をかけられ、ふりかえると国行が気だるげにたっていた。
「今日は、休みだ」
「そうやったんやな」
 国行とこうして話すのは、始めてかもしれない。
 ホースを片付け、蛇口を閉めると正雪は、頷く。
「あぁ。国行殿は??」
「自分は、これから花を摘みにな」
「花を??」
 この屋敷は、何時も四季折々の花がたくさん咲く。
 なのに花を摘みにいくとは、どうしてだろうか。
「国行殿花なら屋敷に咲いているのでは??」
「そうなんやけどな……ここのを取ると、国広にしめられるんや……」
「なんと……」
「それに主はん……いや天照はんに、花をと思てな……」
「私も共に行っていいだろうか??」
 キラキラとした瞳とこの感じ、国俊と蛍丸のようだ。これは、ダメと言ったところで、着いてくるだろう。
 国行は、微笑む。
「どうせあかん言うても着いてくるやろ??」 
「うっ……」
 正雪の反応からして、図星だったようだ。
「ええよ」
「国行殿!!」
「でもちゃんと国広には、言うんやで」
「あいわかった!!」
「じゃ支度できたら、玄関で」
 正雪は、頷くと、国行は、何処かに。
 中に入り、急いで、支度をし、国広の執務室に。
「国広殿!!」
 何時ものように飛び込んできた正雪に、国広は、少しは、おとなしく入ってこれないのかと思った。
「なんだ」
「国行殿と花を摘みに行ってくる」
「国行とか……」
 国広は、椅子から立ち上がる。
「あいつは、保護者だからあんたを安心して任せられるな。もし何かあったらこれを使え」
 国広は、正雪に巾着に入ったチョコを渡した。
「チョコ??」
「賄賂だ」
「賄賂!?」
 山吹色に輝く饅頭では、なくチョコ。正雪は、これが賄賂になるのかと半信半疑に思いながら、頷くと、玄関に。
「国広に言ってきた?? 正雪さん」
「先ほど」
 待っていた国行に正雪は、言うと、彼は、正雪の持つ巾着に目が。
「それもしや、賄賂??」
「何故それを……」
「長年のかんや。これで今回は、少し楽になるわ」
 花を摘みに行くだけでそんなに大変なのだろうか。
 確かにここは、神々が住まうち。やはりナカツクニと違うのかと、正雪は、考えていると、言われた。
「そんなに大変ちゃうで……」
「そうか……」
 本当に分かりやすい人だなと国行は、思いながら、歩き出した。
「ほな行きまひょ」
「分かった」
 国行が先に歩きだし、正雪は、その後ろを歩き出した。

 屋敷からしばらく歩いて、街にきた。高天ヶ原は、神々が住む地であり、天照がおさめている。
 この街は、高天ヶ原の中心であり、とても栄えていた。
 賑やかな神々の声に正雪は、思わずキョロキョロしていると国行に呼ばれた。
「こっちや」
「すまない!!」
 こんな神々の多いところに、国行は、なにようなのだろうか。そして正雪には、一つ心配が。
「国行殿」
「どないしたん」
「私のような……者が……堂々と歩いていていいのか??」
 生前は、ホムンクルスで今は、人の自分には、場違いな所では、ないだろうか。
 なにかしら難癖をつけられても困る。
 不安な顔をする正雪に、国行は、言った。
「問題あらへん。それに自分ら、姫さんの式やさかい、神々からすれば自分らと同じお思ってるんや」
「姫と契約をしているだけで??」
「せや。姫さんは、高天ヶ原では、天照はんより権力があるといえるからな。それにそれだけの者の式神ということは、正雪さん含め、自分らの神格もあがっとる。それだけである程度の神と見てるみたいや」
「なんと……恐ろしい……私はまだ……」
「あくまでも話や。ひとまず気にせんとき。そのままやとこの後いくところで怒られるで??」
「そうなのか??」
「恐ろしい神さん所へいくさかい」
 前を行く国行は、そういうと歩き出すが、正雪は、顔を青ざめていた。
 そんなに恐ろしいとは、まさか祟り神の所だろうか、そんなことを思いながら、国行に着いていくと、彼は、和菓子やに。
「そこの水まんじゅう貰えるやろうか??」
「明石さん!! まかせな!!」
 ここは、どうやら、国行の馴染みの店らしい。
「そこのお嬢ちゃんまさか噂のか??」 
 店主は、正雪に気づくと、国行にきく。
「せや」
「なるほど……ここに来れた理由も分かる気がするな……」
 店主は、そういうと、おまけと饅頭を着けてくれた。
「店主はんこれは……」
「お嬢ちゃんにさ!!」
 正雪は、驚いた顔をしたが、すぐに言った。
「ありがとうございます」
「礼儀も出来てるな!! まぁそうじゃないとここには、入れないか!!」
「せやで。一応高天ヶ原なんやし」
「だな!! 明石さん!!」
「ほなこれで」
「毎度!!」
「ありがとうな店主はん」
 代金を支払い、国行と正雪は、店を後に。
「国行殿先ほどの言葉は、どういうことだ??」
 店を後にした正雪は、気になることがあり、聞いた。
「というと??」
「ここに来れたとか……なんとか……」
 国行は、そういえば話してなかったと話し出した。
「正雪さん仏教は、知っとる??」
「少しは……」
「なら六道は、知ってる??」
「あぁ。輪廻転生による生まれ変わりの世界。地獄、餓鬼、畜生、修羅、人、天とあると……その上が仏だっただろうか……」
「せや。ならここは、その六道で何処になる??」
「天だろ??」
「せやこれで少しは、答えが出たやろ??」
 国行は、あえて答えを言わずに正雪に考えさせる。正雪は、ハッとした顔をしたが、目を伏せな。
「私は、そこまででは……」
「でも今 ここにいる。それが事実や」
「国行殿……」
 自分は、そう思っていなくとも周りからは、そう見えているのは、少しは、成長出来ているのだろう。しかしそうなるとある疑問が。
「英雄ヤマトタケルは??」
「あー古事記にも出てくる……」
「彼は、日ノ本でもなの知れた英雄だ。ならここに来れるのでは!?」
 国行は、さてどう答えたものかと考えていると、声が。
「難しいでしょうね。あいつは、人を殺しすぎている」
 この声はと国行と正雪は、声の主を見るとそこにいたのは、オモヒカネだった。
「オモヒカネさん……」
「私も貴殿方と同じところにいく予定でして。まぁ画竜が分けてくれかは、別ですが」
 オモヒカネの登場に正雪は、思わず固まってしまった。
 高天ヶ原で天照の補佐をし、側近である男神。
「そうやったんですか……」
「えぇ。で先ほどのこの娘の問いですが、ヤマトタケルは、確かに英雄だ。だがやったことは、恐ろしいことでもある」
「しかし……神として奉られているのでは??」
「えぇ。ですがやったことは、侵略と虐殺ともいえますよ」
 オモヒカネは、溜め息をこぼす。
「本当にニギギの子孫は、余計なことをしてくれてますよ」
「しかし彼は、そこまで悪いものでは……」
 オモヒカネは、そういえばと思い出していた。
「貴女会ったことがありましたね。ヤマトタケルに」 
「はい。その時の彼は、確かに自由であったが、そこまで悪い人には……」
「見えなかったと。確かにそうかもしれません。彼は、大和側からすれば英雄ですから。しかし……侵略された東北側からすれば彼を恨むものも多いと思いますよ」
「しかし……」
 正雪は、自分が目をにしたことを信じたかった。
 オモヒカネにも彼女の気持ちは、分かるがそれでもである。
「ここにはおらへんということは、神としてナカツクニにいる場合も??」
「あるでしょうね。天照に聞けば場所くらいは、分かるでしょう。ですが……」
「地獄にいる可能性もある……」
「えぇ」
 地獄だけは、堕ていないで、欲しいと正雪は、この時思ってしまった。
「オモヒカネさん調べられますぅ??」
「国行さん。調べられるが、何をする気だ?? 我々の地からで供物を届けるのは、難しいぞ」
「知れば正雪さんが安心すると思っただけや」
 正雪は、顔を上げ、国行をみた。
「国行殿……」
「まぁ調べてみますが、あまり期待しないでください」
「かたじけないオモヒカネ様」
 オモヒカネは、目を伏せる。
「貴女は、本当に生きにくい人ですね……」
「え??」
「なにもありませんよ。とりあえず行きましょう。雨ノ宮に」
 オモヒカネが歩きだし、国行もついていくので正雪もあるき出した。
「国行殿雨ノ宮とは??」
「ある兄妹の水神の住んでるところや。正雪さんが知ってるんやったら高天ヶ原の女傑かな……」
「女傑!?」
 いったい誰のことなのだろう。まったく覚えがない。
 正雪は、考えながらも国行とオモヒカネについていった。しかしその顔は、何処か憂いを帯びていたのであった。


5/12ページ
スキ