学校仮入学編

 実技の手入れをするということで、その前に演練もすることになった。
 くじで決められた生徒同士が己の刀剣男士を使い、闘う。
 手入れの実技の前には、何時もあることらしく生徒達と刀剣男士達も慣れた様子だった。一組を除いて。
「蜂須賀!!」
 グハッと声を出し、宙を舞う蜂須賀虎徹。そんな彼をみて唖然とする生徒。
 この生徒は、先ほどヤジをとばしてきた男子だった。
 演練だというのに手加減がない。生徒は、忌々しそうに目の前の刀剣男士をみた。
「手加減ぐらいしろ!!」 
 冷たい眼差しで、山姥切長義は、言った。
「お前達が手加減は、しなくていいと言ったんだが??」
「だとしてもだ!!」
「言の葉に責任を持たず、戯言を申すか」  
 男子は、正雪を苛立ちを隠さずにみる。そして彼女のところまで来ると拳を振り上げ殴ろうとしたが、次の瞬間飛ばされていた。
「ぐは!!」
 拳が顎に入り、見えたのは、冷たい瞳をした女のみ。男子は、そのまま地面に倒れこんだ。
「主ナイス」
「え??」
 正雪は、はっとし、己の手をみた。
「……もしや……もしやなのだが……私は、こいつに……一撃いれた??」
 生徒そして教師と刀剣達が、自覚なかったのかと唖然とするなか、長義は、いった。
「見事に顎にね」
「むっ!!?? 折れてないか!!??」
 鼻血をだしのびる男子に正雪は、顔を青ざめた。
「医務室に!!」
「別にそのままでいいだろう」
「よくない!!」
「幸さんとりあえずここにいなさい。私が医務室に連れていきますから、あと演練が終わった生徒から手入れの実技を!!」
 教師は、そういうと生徒達は、手入れ部屋に。そして蜂須賀もそちらへ行き、男子は、教師に担がれた。
「やりすぎです」
「すみません……」
「ですがこれは、私の落ち度でもある。早く動けずすみません」
 教師は、そういい残すとその場を去っていった。
「あいつ政府でもお偉方の息子みたいだったからな」
 正雪は、顔を青ざめると、固まった。
「私粛清されないか!?」
「心配しなくても大丈夫だ」
「ならいいのだが……」
 もしそうなったら大変なことになるだろう。政府が。
「主とりあえず皆のところへいこう」
「あぁ……しかし……」
 正雪は、長義をみる。彼は、全く怪我をしていない。
「怪我をしておらぬが……」
「だが蜂須賀をやる手があるだろ??」
「主の代わりに……」
「そう。今回限りだが」
 次からは、手加減してやるとは、思ってない長義だが、あの馬鹿は、今後手を上げては、来ないだろう。
「では早くせねば!!」
 正雪は、皆のところへ慌てて長義と向かうと、蜂須賀の所へ。
「先ほどは、すまなかった!! その手入れをさしてくれまいか??」
 主に一撃くわえた女人。蜂須賀は、警戒しながらもいった。
「わかった」
「かたじけない。蜂須賀殿」
 正雪は、蜂須賀に礼をいうと、長義に教えてもらいながら、手入れを始めたが。
「部屋に資材をいれ……霊力をそそぎ……終わり……だと??」
 あっさりしすぎててビックリした。正雪は、表示された時間をみてさらに驚く。
「こんなにも早くなおるのか……人よりもはやい……さすが付喪神だ……」
 周りの生徒達が正雪の反応に新鮮さを感じた。先ほどまで威勢よく指揮をしていた正雪からは、想像が出来なかったからだ。
「幸さん手入れするのはじめてなの??」 
 夏に話しかけられ正雪は、頷く。
「あぁ。私の居る所は、皆強い。手入れ部屋があまり使われないから、見たこともなかった」
 正雪と夏の会話からマジかと周りがざわつく。そして他にも本丸出身なら場合によっては、そうだろうという会話も聞こえた。
「……私は、そんなに凄い者では、ないのにな……」
 彼らにとって本丸出身というだけで、エリートのようにみえるのだろうが、正雪は、違う。
 誰にも聞こえぬように彼女は、呟くと目を伏せた。
「……」
 その様子を長義は、見逃していなかった。奢らないのが正雪のいいところだろう。だが反対に時々己を卑下することもある。
 友美いわく生前の事があるこだろうということだった。
 間違いなく彼女は、成長している。だが長義にとって己を卑下するやからは、彼の逆鱗にふれるともいえる、どこその写しを連想させるからだ。
「主……」
 長義が話しかけようとしたとき、正雪は、長義の方を向いた。
「すまない。貴殿には、少し辛い事をしてしまった……」
「……なぜそう思う」
「己の実力を認めず卑下する者を貴殿は、嫌う。私は、今それをしてしまった。すまない……」
 付喪神でも、己を客観視するのは、難しいが、彼女は、出来ている。
 長義は、困った顔をしいう。
「主わかってるのならいい」
「ありがとう」
 自分は、皆がいるから出来ている。だからこそ、ここで仮とは、いえ学べる権利を得たからには、それを活用したい。
 手入れの実技が終わり、いつのまにか、学校が終わる時間が来た。
 教室に戻り、座学をうけ、帰りの申し送りが終わり、黄昏の空。
 教室に残るものもいれば足早に帰るものもいる。
 正雪は、医務室にいき、謝らなければと立ち上がる。
「あのアホの見舞いか??」
 長義の言い方に正雪は、苦笑いを浮かべた。
「その言いぐさは……」
「さっき様子を見てきたが、親に自分は、被害者と泣きついていたからな」
「そうか」
 とりあえず筋は、通す。正雪は、短く答えると医務室に。ノックをし、中には入ると、男子が忌々しそうに正雪をみた。
「なんだ!!」
「先ほどは、すまなかった。貴殿が死んでいないか見に来た。それだけ吠えられれば問題なさそうだ」
 物言いも腹立つと男子は、思った。そして今ここでこいつが悪者とすればいいきみだと見舞に来ていた親に彼は、いった。
「あいつが犯人です!! お父様!!」
 仕切りの向こうから壮年期の男性が顔を出した。
 男性は、正雪をみて、冷たい眼差しをしたが、後ろにいた長義をみて顔を青ざめた。
「お前とんでもないところに喧嘩をうったのか!!」
「それは、どういう事ですが。そもそもあいつが……山姥切長義を連れているのが悪いんです!!」
 審神者にもなっていない生徒が知らないのも無理は、ない。だが、けっして喧嘩をうっては、いけない相手に息子は、喧嘩をうった。
 あの蒼の飾りがなによりの証拠だ。
「そんなことあるか!! また問題をお前は、起こしたんだな!!」
 父親が味方になると思っていた男子は、予想外の反応に絶望していた。
「なんで……」
 父親と男子の様子から、正雪は、首をかしげ、長義をみると、彼の外套には、先ほどまでなかった組織の証である蒼の飾りが。
「念のためにつけたんだ」
「長義殿……」
「あとあいつらは、少しばかりこれから大変なことになる」
「というと……」
 正雪がそういったとき、医務室に鶴丸国永と品のいい初老の男性がきた。
「来られましたか」
 長義に話しかけられた男性は、微笑む。
「お陰で、見つけられたよ」
「それは、よかったです」
 長義は、頭を下げると、男性は、次に正雪をみた。
「お嬢さんお久しぶりですな」
 誰だと正雪は、思ったが、すぐに思い出した。会議の時にあった男性だと。
「お久しぶりです」
 頭下げ挨拶をすると、男性は、いう。
「貴方のお陰で、悪を見つけられた」
「えっ??」
「姫と長義から凄腕とは、聞いていたが、なかなか」
「ありがとうございます」
「ほほほ。あと好きなだけ学びなされ」
「はい」
 男性は、それだけいうと、蒼白になっていた父親に話しかけた。
「主いこう」
「しかし……」
「あとは、政府の仕事だ。俺達に関係ない」
 確かにそうだ。正雪は、頷くと、長義と医務室を後にし、教室に戻った。
「幸さんいた!!」
 教室につくと、夏が凄い勢いで話しかけにきた。
「夏殿」
「ねぇ!! これからお茶しにいかない??」
 長義をみると、かれは、笑っていた。
「少しなら……」
「ありがとう!! 幸さんも寮に帰るんだね??」
「私は、通いだから」
「そっか!! 本丸に住んでるならそうだよね!!」
 正雪は、少し苦笑いを浮かべた。何故本丸出身となってしまったのだろうと。
 嘘は、つきたくないがこの噂を利用しない手は、ない。
「あぁ」
 柔かな笑みを浮かべる正雪。やはり歳が近い友というのもあるのだろう。
 その後学校を後にし、正雪と夏は、近くのカフェにきた。
「私この新作のカフェラテ!!」
「私は、抹茶のこの……フラペチーノ?? とやらを……」 
 主達が注文をするなか、清光は、じっと
長義をみる。
「あんた……微かだけど、特殊な霊力の気配がするんだけど……」
「そういうのもあるだろ」
「へぇー。頼むから主を怪我させないでよね」
「心配しなくても興味ない」
「そう」
 主達が注文を終え、商品をうけとり、席に戻ってきた。
 清光は、季節のスイーツと甘いカフェラテを。そして長義は、いがいにも季節のフルーツを使ったドリンクとドーナツを頼んでいた。
「長義殿がドーナツとは……」
「俺は、こう見えて甘党だから主」
「そうか」
 ドリンクとドーナツを長義の前に正雪は、置くと、席に座った。
「コーヒーのイメージあった」
「個体差だ」
 もくもくとドーナツを食べる長義とそんか彼をみて意味ありげに笑う清光。
 夏は、清光が本体に戻らないことに驚きつつもこうしてお茶できることが嬉しかった。
「清光とこうするのはじめてだね」
「そういえばそうだね」
 何時もは、学校が終われば本体に戻ってしまう。審神者になればいつでもこうして清光と過ごせるのかと、夏は、想像して笑った。
「そういえば幸さんは、何時も刀剣男士が顕現してる状態に慣れてるよね??」
 抹茶フラペチーノをのみ、正雪は、頷く。
「そうだが……」
「どんな感じなの??」
「賑やかであたたかな場所かな」
 私塾をしていた時のような空気ともいえるが、あえてそれは、いわなかった。
「そっかー!! 私もいつか……」
 将来を夢見る若者は、美しい。正雪は、そう思いながらいう。
「今の貴殿は、とても綺麗だ」
「え?!」
「明るい希望をもち、とても生き生きとしている。審神者になっても素敵な本丸を築けるだろう」
 夏は、ほほを赤く染めるという。
「ありがとう!! 幸さん!! 幸さんもだよ!!」
 正雪は、少し驚くが微笑んだ。
「ありがとう」
 正雪と夏は、その後も他愛もない話をした。そしてカフェを出る。
「明日ね!! 幸さん!!」
「あぁ夏殿」
 まだまだ知らないことがある。もうしばらくこの生活は、続く。
 正雪は、夏を見送ると長義をみた。
「長義殿私には、あるのだろうあ……彼女のような夢は……」
「夢は、自分で探すものだ。主なら見つかるだろう。それにいまそのために仮で学校に入ったんだろ??」
 正雪は、ハッとすると微笑んだ。
「そうかもしれない」
 代理とは、いえ、現役の審神者であり、しかしまだまだ知らないこともある。だからこそ、彼女は、仮入学という形でここに来た。
 自分の今の目標に少しでもたどり着くために。
 そうか私は、夢を見つけていたのかもしれない。まだまだ小さく夏のような大きな夢では、ないが、自分にとっては、素敵な夢を。
「帰ろう長義殿」
「わかった主」
 こうして仮入学初日を正雪は、無事に終わらせられた。
 正雪は、ほっと息を吐くと、その後一度屋敷に戻り、皆に挨拶をすると、長義と分かれ、無事に帰路に着いたのであった。
 
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