日常編1

 正直い言おう。行きずらい。正雪は、まさに今その状況だった。
「姫……やはり私は、行かぬほうが……」
 主の手をひかれ、正雪は、通いなれた通路を通っていた。
「ダメ!! 確かに正雪増殖事件で行きにくいのは、分かるけど!!」
「うむ……」
「それに……皆気にしてないわ。あれくらい……」
「姫……」
「本丸吹っ飛ばした私よりましだから!!」
「吹っ飛ばした!?」
 なぜそうなったのか経緯を聞きたいところだったが、屋敷の門に着いた。
 鳥居を抜け、中に入ると、静かすぎる。
「姫おかしくないか??」
 正雪がそういったとき、パーンと音がなった。
 驚き目を閉じた。開いたら見慣れた面子が。
「正雪さんおかえりー!!」
「鯰尾殿……」
「待っていた」
「骨喰、正雪さんが休んでた三日間凄くそわそわしてたんだよー このまま来なくなったらとか言ってた!!」
「兄弟うるさい」
 骨喰と鯰尾の会話を聞きながら、正雪は、少し安心した顔をしていた。
「回復したんだな正雪」
「ありがとう国広殿」
 骨喰と鯰尾の後ろにいた国広は、そういうと微笑むが彼と会うのは、昨日ぶりだ。
 術の反動で正雪は、あの事件から三日間大事をとって休んだ。
 その間国広は、理由をつけては、友美のところへ来て、正雪の様子を見て帰るということをしていた。
「ヘイヘイ~付き合っちゃえよ!!」
 友美が面白がりながら、国広にいうと、国広は、溜め息を着く。
「俺は、姫の傑作だ。後にも先にも姫にしかついていかん」
「いい忠義で!! 気に入った!!」
 友美は、微笑む。確かに主と国広の関係では、その言葉がいいだろう。
「姫もフラグ折るよなぁー」
「そもそもフラグか?? 兄弟」
「確かに」
「もしフラグだったら、旦那と戦うことになるな……」
「げっ……」
 鯰尾が顔を青ざめるなか、正雪は、視線に気づいた。
「一期殿……??」
 しかし彼は、とくになにもいわずに、去っていった。
 それに印象がまるで違う。一期一振は、人当たりのいい爽やかな青年という印象だ。しかし彼は、何処か冷たく人と関わらないという印象だった。
「あのものは、いったい……」
 鯰尾そして国広と友美が屋敷にかに入ったあと、骨喰は、正雪に話しかけた。
「正雪」
「骨喰殿」
「これから皆に会いに行くのだろ??」
「そのつもりだが……」
「ならその後でいい書庫に来てくれ」
「承知した」 
 いったいなんだろうか。去っていく骨喰を見送り、その後正雪は、皆に挨拶をしに行った。
 三日間しか休んでないのにみなして寂しかったと凄く、なおかつはぐまでしてこようとするやからもいた。
「次郎我々は、力が強いんです。少しは、考えなさい」
「えっ!? 兄貴!! でもさ!!」
「でももくそもありません」
 正雪は、苦笑いしていると、そこに大倶利伽羅が。
「連れてくぞ」
「はいお願いします」
 はぐしようとして、止められた次郎を太郎が、連れていき、正雪を大倶利伽羅がつれていくことでその場は、収まった。
「ありがとう大倶利伽羅殿」
「……あぁ」
「その……こちらよければ……」
 正雪は、大倶利伽羅に柚もなかを渡すと頭を下げ去っていった。
「……本当に律儀なやつだな」
 さてあとで茶うけとしてもらおう。大倶利伽羅は、柚もなかを片付け内番に。
 その頃正雪は、書庫に来ていた。
「骨喰殿」
「正雪」
「その……なんの用だろうか……」
「あることについて話しておこうと思ってな」
「あること……」
 書庫にある椅子に座ると、骨喰が茶を出してくれた。
「よかったこれも」
「ありがとう」
 書庫にが出した柚もなかを茶うけにし、骨喰は、自分の茶もいれると彼女の向かいに座った。
「骨喰殿そのあることとは」
「今朝あんたが見た一さんについてだ」
「一さん??」
「この組織には、同一種の刀剣が複数いる場合がある」
「蛍丸殿とその一さんとやらがそれと??」
「そうだ」
 これは、話がはやいかもしれない。骨喰は、ある報告書を見せながら、話をした。
「これは……」
「ある本丸の襲撃に関しての物だ」
 正雪は、書類に目をとおし驚く。その本丸とは、この組織が出来上がるきっかけとなった友美が審神者をしていた本丸だったのだから。
 書類を読み進め、正雪は、さらに驚いた。友美が首謀者である刀剣を引き取り、今現在も存命ということだった。
「もしや……この、首謀者が一期一振……」
「そうだ。で今朝見かけた一さんだ」
 正雪は、驚きのあまり言葉がでなかった。友美は、必要と考えた場合敵にも手を差し伸べる。たぶん一は、その必要があったからだろう。
「あんたもこれから一さんに会う可能性があるからな」
「もしや……私が狙われた……事件でも……」
「彼は、出陣してる」
 まさかのまさかに正雪は、目を伏せた。
「ありがとう骨喰殿」
「いいや。あんたは、優しい。だからこそ、事前に話しておかなければ傷つくと思った」
「……優しいか」
 はたしてそう言えるのだろうか。己の願いのためならば他者も厭わず、非道なことに手を染めた自分が。
 骨喰は、暗い顔になった正雪を見ながら、言った。
「正雪」
「なんだ??」
「今のあんたは、何処にいる」
「ここ……」
「ここは、何処だ??」
「高天ヶ原……」
「ならそれが証拠だ」
 光の言葉を思い出していた。ホムンクルスとは、いわば畜生といえる。でも今正雪は、人だ。という言葉が。
 仏教的には、自分は、畜生の、世界では、無く人の世界に生まれられた。それだけの罪が消えているからこそ、そうなのだ。
 骨喰は、その事を伝えたいのだろう。不器用な彼なりに。
「……ありがとう骨喰殿」
「俺は、兄弟のように伝えられないが、あんたが分かったのならよかった」
 そんか会話をしていると気配を感じ書庫の入り口をみても誰もいなかった。
「では、私は、これで」
「あぁ」
 正雪は、書庫を後にし、国広の執務室に向かっていた。先程から背後に気配を感じるが、敵意は、無い。
「先程から……なにようだろうか……」
 彼女には、珍しく冷たい眼差しで気配のするほうに問いかける。
 しばらくして、襖の後ろか、一が出てきた。
「貴女でもそのような顔を出きるのですね。純粋無垢な代理殿」
 皆とは、ちがう棘のある冷たい言葉。正雪は、彼がなぜこうなってしまったのか。まずは、そこを探ろうと思った。
「とくに用などありません。先日の滑稽な様からどうなったかと思っただけです」
 しかしこれは、なかなか手強そうだ。すでに彼と自分の間に見えない壁がある。
 彼女もまた親しくない者とは、壁を作るほうだがそれでも分かる。その壁がとても厚いことを。
「……貴殿は、本当に神らしい方のようだ」
 友美からここに来る前に聞いたこと。神は、すべて優しいわけでは、無く基本冷酷だ。その事を正雪は、思い出していた。
「神らしいと……??」
「あぁ。神は、基本冷酷と聞く」
「ほう」
「私のおごりが貴殿の気に触ってしまったのなら、謝ろう。誠に申し訳ない」
 正雪は頭を下げると、一は、彼女の予想外の行動に固まっていた。予想外だからだ。
 だから彼女は、あの神の目に入り、今ここにいる。『主』とは、違い。
「頭など簡単に下げないでください」
 正雪は、顔を上げると目を見開いた。一が切なく辛い顔をしていたからだ。
「一殿……??」
「私が貴方を斬る可能性もあるのですよ??」
「……そのような顔をし斬れるとは、思えぬ。私は、これでも武士だ。そのくらい分かるつもりだ」
「……そうですか」
 一は、そういうと去っていってしまった。
 残された正雪は、何故彼があんなことを言ったのか気になった。しかし追いかけない方がいいと思い、身体の向きを変えると、執務室に。
 執務室につくと、国広と友美がなにか話していた。
「国広皆にお休みをあげたいの!!」
「それは、妙案だな。とりあえずこの日から組織の公休を利用して連休にするか??」
「それいいわね!!」
 休暇の話か。正雪は、執務室に入ると、国広と友美は、神妙な顔に。
「どうされた。姫、国広殿……」
「正雪何があったの??」
「というと……」
「泣いてるぞ」
 気づかなかった。頬をつたう涙に。正雪は頬に触れ指に触れた涙に驚く。
「何故……」
「ばみちゃんが正雪苛めるわけ無いし……」
「国永は、任務中だし、鯰尾も悪戯は、するが泣かすなんてしない」
 犯人は、誰だろう。友美と国広が真剣に考え出すので、正雪は、心配をかけては、行けないと話をした。
「その……先ほど一殿と……」
 国広と友美の顔色が変わった。
「……なるほど」
「一ねぇ……」
「あの……」
「正雪少し座って」
「あぁ……」
 友美のとなりに座ると、友美は、ハンカチで正雪の涙をぬぐう。
「その……姫……??」
「なにか言われたの??」
「先日の事で滑稽とか言ったんだろ。あいつ」
 国広の予想が当たっていたので正雪は、頷くと、国広は、立ち上がる。
「姫とめるな」
「とめるわよ!! まったく!!」
 友美は、咄嗟に指を鳴らすと、国広の本体を自分のところに術を使い移動させた。
「姫!!」
「国広とりあえず落ち着きなさい」
 国広は、不服そうに座り直した。
「一に関しては、国広熱くなりすぎよ」
「だが……」
 国広がこうなるのも分かる。彼の今までも物言いを考えると怒りが込み上げてくるのは、普通だ。
「一の事を考えるとたぶん心配してるのよ。正雪を」
「……だが物言いがあるだろ」
「姫先ほど骨喰殿から一殿がこの組織の前進である本丸を襲撃した集団の頭と聞いた……それと関係があるのか??」
 友美は、頷く。 
「えぇ。ばみちゃんに聞いてると思うけど、一は間違いなくその集団の頭だったわ」
「あれは、まだ本丸が出来てまなしだったな」
「そんな初期の事なのか……」
 正雪がみてもこの組織の刀剣の数は、少ないとわかる。初期ならもっと少なかっただろう。
 だがその襲撃の掻い潜り彼は、今いる。そうなるとここの実力がどれ程高いか少し分かる。
「そうよ正雪。でも一にも理由があった」
「……思い出しただけで吐き気がするがな」
「国広」
 友美は、この話をすれば国広が暴れそうなのでどうしたものかと悩む。しかし正雪の、事を思うと彼は、居た方がいいとも思った。
「国広話していいわね??」
「あぁ。遅かれ早かれ知ることだろう」
「分かったわ。とりあえず暴れないでね??」
「分かってる」
 主の目をみていると分かる。たぶんこの話しは、自分が聞くには、衝撃が強すぎるのだと。しかし聞かなければ前に進めない。
「姫覚悟は、出来ている」
「……分かったわ。一先ずある本丸の話からしましょう」
 友美は、話をし始めた。
「あるところに審神者に虐げられた刀剣男士が居ました。審神者は、刀剣たちが怪我をしようと治さず、気に入らなければ彼を殺し、時には、仲間同士で、殺し合いをさせ、楽しんでいた」
「……」
 やはり正雪の顔色が悪くなっている。友美は、安心さすように彼女の手を握る。
「そんな悪行は、そのうちばれる。その審神者は、政府により罰せられた。しかし人間不信になり、堕ちかけていた神達は、政府にももうどうにも出来なくなっていた」
「……」
 正雪の顔が歪む。そりゃそうだ。話している友美でも辛いのだから。
「そんなあるときある一人の審神者に白羽の矢が立った。その審神者は、霊力も強い女性だった。そして正義感がつよく、その女性は、引き受けた。ブラック本丸と呼ばれるその環境を変えるために……」
「姫そしてその方は……」
「審神者は、ブラック本丸に着任し、その日襲われたわ……正雪どうなったか予想は、つくかしら……」
 正雪は、さらに顔を青ざめそして身震いした。たぶん命は、とらない。もっとむごいことをする。そして女ならされることといえば。
「……強姦か」
「えぇ。霊力も強かったから、余計にね。人間への腹いせ。そして政府からすれば生け贄ということ。そしてその審神者の連れていた刀剣男士は、必死に彼女を守ろうとした。でも守れず、彼女は、毎日犯され、壊れた」
 想像など出来ない。話を聞いていてもどれだけ過酷か分かる。
 どの時代でも女と分かれば最終的に性的処理に使われる。
「……その、女性は」
「……結論を先にいえば死んだわ」
「なんと酷い……何故……」
「神の相手をさせられた。しかも堕ちた神よ。あやかしといった方がいい。霊力の枯渇と邪気そして病気によって」
 友美は、国広をみると、彼は、あえて耳を押さえていた。聞かぬように。
「でも彼女の最期は、穏やかだった。ある刀剣男士のかけのお陰でね」
「かけ??」
「あえて、強い力を持つ本丸を襲い、ブラック本丸解体そして刀剣の処分と主の救出をしてもらうために」
 正雪は、ここに来てようやく分かった。
「もしや……女性の連れていた刀剣が……一殿??」
「そう。彼は、主を助けるために、そのブラック本丸で皆の統制をとれる立場に成り上がり、そして私をターゲットにし、あえて戦をしかけてきた。そして見事に負けた。でも一は、そのお陰で、主を助けられ、敵討ちも出来た」
 そこまでの覚悟があり、行動を起こせるほどに強い刀剣。だが無理をしてきたともいえる。
「もしや……姫は、一殿のすべてを知り……処分せずに置いたのか?? ここに……」
「えぇ。主も回復する可能性があったから一時的に預かった。でも彼女は、亡くなってしまった……だから一は、今は、この組織の刀剣としているわ。政府に返せば重罪を犯した者として殺されるから」
 あえて解刀といわず、友美は、殺させるといった。その方が分かりやすいと思ったからだ。
「一殿……」
「そして正雪は、元主に似ているのかもしれないわ」
「というと……」
「志が高い。意志も強い。なにより純粋無垢。皆のためならと無茶をするわ。自分をかいりみないわ……」
「うむ……」
「一から、すれば、嫌でも彼女を思い出す。だから元からキツい物言いが、さらにしんざつになるのだと思うの」
「だからと言って言い方は、あるだろ姫」
 国広がもういいだろうと手を耳からはなした。
「だとしてもよ。彼も変わってきてるわ。そりゃあんな地獄にいたら、物言いもキツくなる!!」
「……姫は、甘い」
「長義よりもメンタル弱々だからよ!! 何時壊れてもおかしくない状態で踏ん張ってたんだから!! そこを考えないと!!」
「確かに」
 こればかりは、正雪も頷いた。
「とりあえず国広どうする??」
「一に関しては、粟田口のやつらに任せるしかないだろ。ここにきてあいつが少しずつでも立ち直れてるのは、粟田口のやつらのお陰だからな」
「そうね……」
「姫なら私も……」
「正雪また傷ついてしまうかもしれないわよ??」
「それでも向き合わなければならぬ」
 本当に意志の強い子だ。
 友美は、微笑む。
「分かったわ」
「俺は、あまり賛成しないがな」
「本当に国広過保護すぎ」
「姫にいわれたくない」
 確かにそうかもしれない。友美は、苦笑いを浮かべた。
「とりあえず正雪一に会うなら粟田口を!! とりあえず骨喰、後藤や信濃、博多、毛利辺りなら安心できるわ。包丁は、子供すぎるから……」
「包丁といえば、徳川家にあるとされる……」
「そう!! 短刀よ」
「その……五虎退殿は……」
「五虎退今任務でいないのよ。だからもし今日は、話しかけるならね!!」
 そうなると正雪は、彼に助太刀を頼むことにした。
 立ち上がると正雪は、いう。
「では、いってきます」
「いってらっしゃい」
「念頭してくれたら助けに行く」
「ありがとう」
 正雪は、そして執務室を出ていった。
「姫いいのか??」
「いいのいいの。それに……彼女の生前を考えると……一なんてそれほどの相手じゃないわ」
「……」
 意味ありげに友美は、微笑むと、国広は、複雑な顔をしていた。





 
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