日常編1
正雪は、逃げていた。
「正雪さーん!!」
声が聞こえ、見を小さくし物陰に隠れていると、足音が。
「あんた……」
顔を上げるといたのは、大倶利伽羅だ。
「大倶利伽羅殿……」
「加州か」
「あぁ」
顔色の悪い正雪をみて、何かを察すると大倶利伽羅は、正雪を隠すように立った。
「大倶利伽羅ー正雪さん知らない??」
訪ねてきた清光に大倶利伽羅は、答える。
「知らん」
「そっかーせっかく、可愛くしようと思ったのに……」
メイクを手伝ってから、清光は、常々思っていたことがある。
正雪は、着飾ればもっと可愛くなると。そして本日道場で手合わせした後、お願いしたところ、逃げられたのだ。凄い勢いで。
「しかたがない。国広に聞いてくるかー」
清光は、そういうと去っていき、しばらくして、大倶利伽羅は、正雪の前から退いた。
「ありがとう……大倶利伽羅殿……」
「いや」
大倶利伽羅は、短く答えると、凄い勢いで去っていった。そしてやって来たのは。
「正雪!! 伽羅ちゃん知らない??」
友美だった。
正雪は、そういえば大倶利伽羅は、友美が苦手だったなと思い出す。
「私は、存ぜぬ」
「そっかーあっちね」
なんと大倶利伽羅が逃げた方に友美は、言ったしまった。なぜ分かるのか。友美には、なにかセンサーでもついているのだろうか。
清光に見つからぬように隠れて移動していると、今度は、宗近とであった。
「娘では、ないか」
「宗近殿……」
「なぜ隠れているのだ??」
「その……」
また清光の声が聞こえ、正雪は、アワアワする。
宗近は、なにかを察すると彼女を隠した。着物の袖を使い。
「三日月正雪さん知らない??」
「今しがたあったが、慌てていたようだったぞ」
「そっか……本当にどこにいったのかな……試したい紅があるのに……」
清光は、そう呟きながら、去っていくと、宗近は、着物の袖を退けた。
「正雪も大変だな」
「ありがとう宗近殿……」
「嫌いなのか?? 加州が」
「嫌いというよりも……苦手……かな……」
「そうか。正雪と違い、あやつは、愛されるためには、着飾らなければならないと思っているからな」
「それは……」
気になる単語に正雪は、問う。宗近は、意味ありげに微笑むと言った。
「沖田総司の愛刀は、二振。気になるのなら聞けばいいと思うぞ」
「沖田総司……」
「そうだ。さらに詳しく聞くのなら姫に。知っているからな」
宗近は、そういうと歩いていった。これは、ヒントだなと正雪は、国広の執務室に。すると大倶利伽羅がいた。
「国広どうにかならんのか」
「ならん。諦めろ」
深刻そうな大倶利伽羅の背後には、天井がら、だらんと落ちる黒髪が。その黒髪の主は、大倶利伽羅の肩に手を置いた。
「伽羅ちゃんみーつけた……」
横を見ると、髪の隙間から覗目。大倶利伽羅は、顔を青くすると叫ぶ。そしめそれをたまたま見てしまった正雪も。
「うわぁー!!!!!」
執務室に叫び声が響くなか、国広は、そ知らぬ顔をしていた。
「あら伽羅ちゃん腰抜かしてる……」
「姫あれは、ホラーだぞ」
「あらそう?? 国広!!」
友美は、お茶目にわらうと、へたりこむ正雪を見つけ、驚く。
「正雪!!??」
慌てて正雪の所へ行くと、友美は、彼女を横抱きに。
「姫……」
「ごめんなさい!! ついつい……伽羅ちゃんを驚かせようと……国永の知識を借りたのがあだになったわ」
大倶利伽羅は、立ち上がると、後で鶴丸を殴ると決めた。
「姫……」
「伽羅ちゃん!!」
正雪を長椅子に座らせると、友美は、大倶利伽羅に向き合った。
「ごめんなさい!!」
「え??」
「驚かせてしまったわよね。私は、伽羅ちゃんと仲良くなりたくて……伊達の刀だった、貞ちゃん、光忠、国永に知恵を借りたの……」
「あいつらに……」
「そう!! そのこれを渡したくて……」
友美は、袋を大倶利伽羅に差し出し、彼は、受け取ると中を見る。なかには、ずんだ餅が。
「仙台といえば!! だから!! その……要らないのなら……捨ててくれてもいいから!!」
大倶利伽羅は、溜め息をつく。
「捨てるか……」
「食べるのね!!」
「……あぁ」
「よかったわ!! 伽羅ちゃん!!」
本当に騒がしい主だなと大倶利伽羅は、思ったが、これで少しでも主のストーキングがましになるのならいいと思った。
「姫の隠密行為は、やはりなかなかのようだな」
「国広そりゃ気配の遮断ならお任せあれ!! よ」
大倶利伽羅は、驚く。そりゃ、気配なく突然表れるのだから。
「せめて気配はけさないでくれ……」
「伽羅ちゃん逃げるもの!!」
「……あんた」
「とりあえずこれからも伽羅ちゃんにアタックするから!!」
「……既婚者がなにいってる」
「大倶利伽羅殿たぶん仲良くなるために姫は、言っていると……」
「だとしたもだ正雪」
「伽羅ちゃん覚悟しておいてね!?」
大倶利伽羅は、部屋から出ていくときに言った。
「光忠や貞が一緒なら茶くらいは、付き合う」
そして彼は、出ていったが、友美は、嬉しそうに笑い、国広を見た。
「国広!!」
「大倶利伽羅の根負けだろうな」
「ふふふふ。私の執念深さは、凄いんだから!!」
「そこは、しつこさか、諦めの悪さだろ姫」
「まぁそうね!!」
ナチュラルにボケるなと国広は、思いながら、立ち上がる。そして正雪の隣に腰かけた。
「あんた大丈夫か?? 茶でもいるか??」
正雪は、国広に頷くと、彼は、すぐに茶をいれ、出した。
湯呑みをもち、正雪は、飲むと少し落ち着いた。
「……うむ」
あきらかに元気のない正雪に友美と国広は、顔を見合わせた。
「姫、ナカツクニで何かあったのか??」
「家では、普通だったわ……屋敷に来てからよ……」
「ここに来てから……」
国広は、先ほど来た清光のことを思い出していた。
「もしかして清光と何かあったのか??」
正雪は、頷く。
「清光と……あー正雪清光の苦手だものね」
しかし先日まで清光とは、上手くやっていた正雪。何があったのだろうか。
「……清光殿に……爪紅を……塗らせてほしいと……」
「爪紅……あーネイルか!!」
「清光のやつは、何時もやってるからな」
「私もやらせてほしいと頼まれて、モデルになったことあったわ」
友美は、楽しげに笑うが、正雪は、対照的にくらい顔に。
「姫先ほど、宗近殿から姫に聞けと助言を……」
「あら宗近が??」
友美は、珍しいこともあるものだと思いつつ話を聞いた。
「で何のことかしら??」
「沖田総司……という御仁についてだ」
友美は、腕を組む。
「総司か」
「姫知り合いなのか?? あんた」
「将来知り合いになるって感じね。でどうしたの??」
「その御仁とは、その……武士なのか??」
友美は、長椅子に座ると言った。
「えぇ武士よ。正雪が生きた時代から二百年程後の幕末に生きた天才剣士。新選組という自警団に所属した青年で、一番隊隊長にして、大和守安定と加州清光のもと主」
宗近の、言葉を思い出し、正雪は、ハッとした。
「大和守安定殿……」
「なるほど。宗近は、安定に話を聞けって言ったわけか」
「であえて、姫に答えを言わせたと」
「たぶんね」
宗近は、見透かしているくせに自分で正解は、言わずヒントだけ与える事が多い。
友美は、困ったじじいだなと思いながら、国広に話をした。
「国広安定を」
「分かった」
国広は、紙の式神を飛ばした。
「正雪ここで、待っていましょう。安定来ると思うから」
「姫……」
「清光は、来ないわ。ここそういう部屋だから」
それは、どういう事かと正雪は、思いながら、待っていると安定がやってきた。
やれやれという様子で。
「国広ここに清光来れないように結界はったでしょう!?」
「やったのは、姫だ」
安定は、友美を見るとこれは、しかたがないと納得していた。
「姫」
「安定ありがとう。少しいいかしら」
「もちろん」
安定は、友美のとなりに腰かける。
「正雪さんもいたんだね」
「あぁ。安定殿その……」
「もしかして姫じゃなくて、用があるのは、正雪さん??」
「……そうだ」
安定も思い当たる節があるらしく、呆れた顔に。
「清光の事だよね??」
「安定知ってたの??」
「姫あいつ正雪さんをみかけるたびにもっと綺麗になるのにって凄くてさ……」
安定にとっては、メイクやファッションの事などどうでもいいが、清光にとっては、違う。
「なるほど……」
「その安定殿それは……」
「たぶん清光は、もっと綺麗に可愛くなれば正雪さんは、いいと思ったんだよ」
「それは、なぜ……」
「清光は……コンプレックスがあるから……」
「というと……」
安定は、困ったように笑う。
「あいつ可愛く、綺麗にしてないと主に捨てられると思ってるんだ。沖田くんは、そんなこと、言ってなったのに……」
「何故そう思ったのだ??」
「正雪さんは、四代将軍の時代の人だから知らないのも当たり前か。六代加州清光という刀工事態が身分として非人だった」
「……なんと」
「六代清光は、他にも乞食清光、非人清光……といわれていた。非人小屋で、清光は、打たれたんだ。それもあって川の下の子って言うし、可愛く、綺麗にしたないとダメだと思ってる……」
刀剣とは、その逸話が形を作る重要な部分になる。
正雪は、目を伏せる。そんな悲しい過去があったなんてと。
「私もあの制度は、おかしいと思っていた……人に身分の差等ないというのに……」
江戸幕府制定時より身分制度は、あった。そしてそれは、正雪自身も身をもって知っていることだ。
農民たちの不満を押さえるためだけに作られた底辺の身分えたと非人。
彼等がいったい何をしたというのだろう。ある日突然決められた身分のせいで普通に生きていた人たちが人として扱われなくなったのだから。
「正雪さんは、優しいね。でもそれが歴史なんだ……俺たちが守る……」
「そうだな」
「うん。そしてもう一つ。清光は、沖田くんと池田屋にいき……壊れて戻ってきた……直せないほどに……そして捨てられたんだ……それもあって余計に清光は、主に捨てられないように身なりに固執してるんだ……後歪んでるとも言えるかな……」
友美は、分かっていた正雪が何故清光を苦手というのか。清光の歪んだ狂気と正雪の嫌いとするものが一致していたからだ。しかし彼女には、聞いてほしかった。清光の成り立ちを。
「正雪……どう?? これが、刀剣加州清光のお話よ」
正雪は、衝撃的は話を聞き目を伏せる。
「……とても辛いと思う……だが私は……どうも清光殿が苦手だ……」
「正雪……」
「彼の歪みが……丑御前に通ずるものがあるからだろう……」
「丑御前かー確かに!!」
安定は、困ったように笑う。
「……ヤンデレね」
友美は、一人納得するなか、国広も確かにと思った。
「だが……仲良くしたいとは、思う……いつまでも逃げるわけにも行かぬからか……」
本当に真っ直ぐだなと友美、安定、国広は、思った。
「因みに姫は、清光のことどう思ってる??」
「コンプレックスの塊拗らせ隠れメンヘラ男ね」
バッサリ言われ、国広は、思わず吹き出しかけ、安定は、呆れた顔をし、正雪もこれはさすがに言いすぎと思った。
「国広よりたち悪いわよ!!」
「俺と比べるな!!」
思わぬ攻撃に国広は、突っ込む。
「確かに!! とりあえず清光って普段は、好青年!! って感じなんだけだ、中から感じるのがとてもこう……劣等感って感じかのよね……」
「劣等感……」
正雪は、ひらめいた。しかし出来るかは、分からない案だ。
「姫私に考えがある」
「といいますと??」
安定そして国広にも聞こえるように正雪は、話をした。確かに妙案だが出来るかは、正雪の語彙力しだいだ。
「うーんもう画家モードでいく??」
「姫そこであの日本画家をだすな」
「ありだと思うけど……あの饒舌と口説きは、なかなかの効果よ?? たぶん清光恥ずかしすぎて死ぬわ」
正雪と安定は、気になり、友美から詳しく話を聞いたが、困った顔をした。
「それ私に出来るのか!?」
「清光……をとめるのならいいかも??」
「だとしてもだ!!」
しかしやらねば、清光との関係は、よくならない。正雪は、はらを決めた。やってやると。
「姫もう少し教えてくれぬか??」
「もちろん!!」
更に友美から話を聞き、正雪は、頬を赤く染めながらアワアワしていた。このようなきてれつ変人が本当にいるのかと思いながら。
正雪を探し回るが、まったく気配がない。安定の気配も消えている。
どうやら予想どうり、国広の執務室にいるようだ。
あの部屋、特殊で国広が指定をすれば入れる者を規制することができる。
いったい何の話をしているのか。清光は、嫌な考えが頭に浮かぶが、すぐに消した。
「清光殿!!」
声がし、振り返ると正雪が仁王門していた。清光の本体をもって。
「それ俺の本体!!??」
「返してほしくば、付き合ってもらうぞ!!」
正雪は、こんなので上手くいくのかと内心不安だった。安定いわく上手くいくとの事だが。
「え!!??」
訳が分からん。まさか本当に考えてしまった結末になるのだろうか。
本体を質にされ、清光は、おとなしくしたがった。
そしてやって来たのは、国広の執務室だった。
「国広殿借りるぞ!!」
「好きにしろ」
これは、友美の作戦だ。国広なら対処できるからと万が一のときに正雪を守るために。
向かい合い長椅子に腰かける。正雪と清光。緊張した空気が流れるなか、正雪は、清光の本体を鞘から抜いた。
「正雪さん!?」
「あぁ……なんという美しさ……」
「え??」
正雪は、息を吐くと言い始めた。
「この月のような美しい刀身。これが神が作った傑作の中の傑作!! 誠に美しい!!」
「えっ!!??」
「フツヌシが作りあげたこの優美な曲線!! あーなんて見ていて惚れ惚れするのか!!」
「正雪さん!!??」
うっとりと刀身を見られ、恥ずかしい清光だが、それよりも正雪が壊れたと思った。
「国広とめて!!」
しかし国広は、反応しない。よく見ると耳にイヤホンが。
「この美には、アメノウヅメですら嫉妬するほどだろう……誠に月光のような輝きと、美しい水面のような波紋……なんと……」
「正雪さんストープ!!」
清光の制止など聞こえていない。その後も正雪は、誉め続けた。凄い勢いで。
清光は、とうとう茹で蛸のように顔を真っ赤に。
「生まれなど関係ない。貴殿は、とても美しく愛らしい優しい刀剣だ」
正雪は、そう締め括ると、鞘に刃を納め、そして清光に返した。
「正雪さん……」
「私は、生前より武骨者。着飾るということには、とーんと疎い。だがそんな私でも貴殿は、とても美しく、努力家と分かる。清光殿」
本体を受け取り、清光は、そっけなく言った。
「そう……」
「その……なので私自身が着飾るのは、ちょっと……」
「分かったよ。俺ももうあんたを可愛くしたいとか思わないよ」
「清光殿……」
「こんな凄いことされたくないし……」
心がもたない。色々と。
「凄い事??」
「まさか自覚なし??」
「む??」
本当に自覚なしなのかと清光は、恐ろしくなった。
その後も清光と正雪は、楽しく会話が弾みむ。しばらくして、清光が去っていくと、正雪は、顔が真っ赤に。
「うぬぬぬ……」
その後近くにあったクッションに顔を押し当てた。
「もう無理だ!!!!!」
「凄かったからな」
「国広殿聞いてたのか!!??」
「あぁ」
聞かれてると分かったのなら少しは、抑えたのに。
正雪は、恥ずかしさから顔を隠すと、かたっと音が。
「お疲れ様正雪」
主の声に正雪は、顔を上げると、大倶利伽羅も向かいに座っていた。
「これでもくえ」
「ずんだ餅……」
「あら。ふふふふ」
「ありがとう」
体を起こし、主がいれてくれた茶とずんだ餅を食べると、少し落ち着いた。
「姫私は、再現できていただろうか……」
友美は、頷く。
「すごく……まさかうっとりと惚れているような目まで見れるとは……さすが演技派!!」
「姫~!!???」
「あんたがあんなことが出来るとはな」
「大倶利伽羅殿!!??」
やはりまだ恥ずかしい。そして見られていたことも。アワアワする正雪を見ながら、国広は、あることが懸念だった。
「姫正雪の所に誉めてほしいやからが集まらないか??」
友美の笑顔が凍り付いた。そして正雪の動きも止まった。
「ありえそう……」
「それだけは、ごめんこうむる!!!! あれは、私の精神にも大きな負担が~!!!!」
「負担だったのか。俺の事は、よく言ってくるくせに」
「それとこれは、話が別だー!!!!」
正雪が体を丸くし、唸るなか、友美は、これは、これで可愛いと思い、大倶利伽羅は、溜め息をつく。
国広は、こりゃまた一騒動ありそうだと胃が痛くなった。
「姫胃薬」
「分かったよ」
「うぬぬぬ……ぬ……私は……なんという手段を……」
胃薬を友美は、国広に渡すと、微笑む。
「国広誉められてるのね」
「あんたの傑作だから当たり前だろ??」
「まぁそうね」
これは、しばらく丸くなってそうだ。友美と国広は、そう思いながら、微笑み、大倶利伽羅は、ずんだ餅を食べた。
その後清光がこれを広めた結果組織で誉めあいブームが広まり、ある意味大変なことになった。
「皆画家モード再現してるわねー」
「姫本家を連れてきたらどうだ??」
「無理無理」
「うぬぬぬ……恥ずかしい……」
正雪は、皆が自分を真似しているとしり、更に恥ずかしくなった。誉めると言うのもなかなか難しいと思いながら。
「正雪さーん!!」
声が聞こえ、見を小さくし物陰に隠れていると、足音が。
「あんた……」
顔を上げるといたのは、大倶利伽羅だ。
「大倶利伽羅殿……」
「加州か」
「あぁ」
顔色の悪い正雪をみて、何かを察すると大倶利伽羅は、正雪を隠すように立った。
「大倶利伽羅ー正雪さん知らない??」
訪ねてきた清光に大倶利伽羅は、答える。
「知らん」
「そっかーせっかく、可愛くしようと思ったのに……」
メイクを手伝ってから、清光は、常々思っていたことがある。
正雪は、着飾ればもっと可愛くなると。そして本日道場で手合わせした後、お願いしたところ、逃げられたのだ。凄い勢いで。
「しかたがない。国広に聞いてくるかー」
清光は、そういうと去っていき、しばらくして、大倶利伽羅は、正雪の前から退いた。
「ありがとう……大倶利伽羅殿……」
「いや」
大倶利伽羅は、短く答えると、凄い勢いで去っていった。そしてやって来たのは。
「正雪!! 伽羅ちゃん知らない??」
友美だった。
正雪は、そういえば大倶利伽羅は、友美が苦手だったなと思い出す。
「私は、存ぜぬ」
「そっかーあっちね」
なんと大倶利伽羅が逃げた方に友美は、言ったしまった。なぜ分かるのか。友美には、なにかセンサーでもついているのだろうか。
清光に見つからぬように隠れて移動していると、今度は、宗近とであった。
「娘では、ないか」
「宗近殿……」
「なぜ隠れているのだ??」
「その……」
また清光の声が聞こえ、正雪は、アワアワする。
宗近は、なにかを察すると彼女を隠した。着物の袖を使い。
「三日月正雪さん知らない??」
「今しがたあったが、慌てていたようだったぞ」
「そっか……本当にどこにいったのかな……試したい紅があるのに……」
清光は、そう呟きながら、去っていくと、宗近は、着物の袖を退けた。
「正雪も大変だな」
「ありがとう宗近殿……」
「嫌いなのか?? 加州が」
「嫌いというよりも……苦手……かな……」
「そうか。正雪と違い、あやつは、愛されるためには、着飾らなければならないと思っているからな」
「それは……」
気になる単語に正雪は、問う。宗近は、意味ありげに微笑むと言った。
「沖田総司の愛刀は、二振。気になるのなら聞けばいいと思うぞ」
「沖田総司……」
「そうだ。さらに詳しく聞くのなら姫に。知っているからな」
宗近は、そういうと歩いていった。これは、ヒントだなと正雪は、国広の執務室に。すると大倶利伽羅がいた。
「国広どうにかならんのか」
「ならん。諦めろ」
深刻そうな大倶利伽羅の背後には、天井がら、だらんと落ちる黒髪が。その黒髪の主は、大倶利伽羅の肩に手を置いた。
「伽羅ちゃんみーつけた……」
横を見ると、髪の隙間から覗目。大倶利伽羅は、顔を青くすると叫ぶ。そしめそれをたまたま見てしまった正雪も。
「うわぁー!!!!!」
執務室に叫び声が響くなか、国広は、そ知らぬ顔をしていた。
「あら伽羅ちゃん腰抜かしてる……」
「姫あれは、ホラーだぞ」
「あらそう?? 国広!!」
友美は、お茶目にわらうと、へたりこむ正雪を見つけ、驚く。
「正雪!!??」
慌てて正雪の所へ行くと、友美は、彼女を横抱きに。
「姫……」
「ごめんなさい!! ついつい……伽羅ちゃんを驚かせようと……国永の知識を借りたのがあだになったわ」
大倶利伽羅は、立ち上がると、後で鶴丸を殴ると決めた。
「姫……」
「伽羅ちゃん!!」
正雪を長椅子に座らせると、友美は、大倶利伽羅に向き合った。
「ごめんなさい!!」
「え??」
「驚かせてしまったわよね。私は、伽羅ちゃんと仲良くなりたくて……伊達の刀だった、貞ちゃん、光忠、国永に知恵を借りたの……」
「あいつらに……」
「そう!! そのこれを渡したくて……」
友美は、袋を大倶利伽羅に差し出し、彼は、受け取ると中を見る。なかには、ずんだ餅が。
「仙台といえば!! だから!! その……要らないのなら……捨ててくれてもいいから!!」
大倶利伽羅は、溜め息をつく。
「捨てるか……」
「食べるのね!!」
「……あぁ」
「よかったわ!! 伽羅ちゃん!!」
本当に騒がしい主だなと大倶利伽羅は、思ったが、これで少しでも主のストーキングがましになるのならいいと思った。
「姫の隠密行為は、やはりなかなかのようだな」
「国広そりゃ気配の遮断ならお任せあれ!! よ」
大倶利伽羅は、驚く。そりゃ、気配なく突然表れるのだから。
「せめて気配はけさないでくれ……」
「伽羅ちゃん逃げるもの!!」
「……あんた」
「とりあえずこれからも伽羅ちゃんにアタックするから!!」
「……既婚者がなにいってる」
「大倶利伽羅殿たぶん仲良くなるために姫は、言っていると……」
「だとしたもだ正雪」
「伽羅ちゃん覚悟しておいてね!?」
大倶利伽羅は、部屋から出ていくときに言った。
「光忠や貞が一緒なら茶くらいは、付き合う」
そして彼は、出ていったが、友美は、嬉しそうに笑い、国広を見た。
「国広!!」
「大倶利伽羅の根負けだろうな」
「ふふふふ。私の執念深さは、凄いんだから!!」
「そこは、しつこさか、諦めの悪さだろ姫」
「まぁそうね!!」
ナチュラルにボケるなと国広は、思いながら、立ち上がる。そして正雪の隣に腰かけた。
「あんた大丈夫か?? 茶でもいるか??」
正雪は、国広に頷くと、彼は、すぐに茶をいれ、出した。
湯呑みをもち、正雪は、飲むと少し落ち着いた。
「……うむ」
あきらかに元気のない正雪に友美と国広は、顔を見合わせた。
「姫、ナカツクニで何かあったのか??」
「家では、普通だったわ……屋敷に来てからよ……」
「ここに来てから……」
国広は、先ほど来た清光のことを思い出していた。
「もしかして清光と何かあったのか??」
正雪は、頷く。
「清光と……あー正雪清光の苦手だものね」
しかし先日まで清光とは、上手くやっていた正雪。何があったのだろうか。
「……清光殿に……爪紅を……塗らせてほしいと……」
「爪紅……あーネイルか!!」
「清光のやつは、何時もやってるからな」
「私もやらせてほしいと頼まれて、モデルになったことあったわ」
友美は、楽しげに笑うが、正雪は、対照的にくらい顔に。
「姫先ほど、宗近殿から姫に聞けと助言を……」
「あら宗近が??」
友美は、珍しいこともあるものだと思いつつ話を聞いた。
「で何のことかしら??」
「沖田総司……という御仁についてだ」
友美は、腕を組む。
「総司か」
「姫知り合いなのか?? あんた」
「将来知り合いになるって感じね。でどうしたの??」
「その御仁とは、その……武士なのか??」
友美は、長椅子に座ると言った。
「えぇ武士よ。正雪が生きた時代から二百年程後の幕末に生きた天才剣士。新選組という自警団に所属した青年で、一番隊隊長にして、大和守安定と加州清光のもと主」
宗近の、言葉を思い出し、正雪は、ハッとした。
「大和守安定殿……」
「なるほど。宗近は、安定に話を聞けって言ったわけか」
「であえて、姫に答えを言わせたと」
「たぶんね」
宗近は、見透かしているくせに自分で正解は、言わずヒントだけ与える事が多い。
友美は、困ったじじいだなと思いながら、国広に話をした。
「国広安定を」
「分かった」
国広は、紙の式神を飛ばした。
「正雪ここで、待っていましょう。安定来ると思うから」
「姫……」
「清光は、来ないわ。ここそういう部屋だから」
それは、どういう事かと正雪は、思いながら、待っていると安定がやってきた。
やれやれという様子で。
「国広ここに清光来れないように結界はったでしょう!?」
「やったのは、姫だ」
安定は、友美を見るとこれは、しかたがないと納得していた。
「姫」
「安定ありがとう。少しいいかしら」
「もちろん」
安定は、友美のとなりに腰かける。
「正雪さんもいたんだね」
「あぁ。安定殿その……」
「もしかして姫じゃなくて、用があるのは、正雪さん??」
「……そうだ」
安定も思い当たる節があるらしく、呆れた顔に。
「清光の事だよね??」
「安定知ってたの??」
「姫あいつ正雪さんをみかけるたびにもっと綺麗になるのにって凄くてさ……」
安定にとっては、メイクやファッションの事などどうでもいいが、清光にとっては、違う。
「なるほど……」
「その安定殿それは……」
「たぶん清光は、もっと綺麗に可愛くなれば正雪さんは、いいと思ったんだよ」
「それは、なぜ……」
「清光は……コンプレックスがあるから……」
「というと……」
安定は、困ったように笑う。
「あいつ可愛く、綺麗にしてないと主に捨てられると思ってるんだ。沖田くんは、そんなこと、言ってなったのに……」
「何故そう思ったのだ??」
「正雪さんは、四代将軍の時代の人だから知らないのも当たり前か。六代加州清光という刀工事態が身分として非人だった」
「……なんと」
「六代清光は、他にも乞食清光、非人清光……といわれていた。非人小屋で、清光は、打たれたんだ。それもあって川の下の子って言うし、可愛く、綺麗にしたないとダメだと思ってる……」
刀剣とは、その逸話が形を作る重要な部分になる。
正雪は、目を伏せる。そんな悲しい過去があったなんてと。
「私もあの制度は、おかしいと思っていた……人に身分の差等ないというのに……」
江戸幕府制定時より身分制度は、あった。そしてそれは、正雪自身も身をもって知っていることだ。
農民たちの不満を押さえるためだけに作られた底辺の身分えたと非人。
彼等がいったい何をしたというのだろう。ある日突然決められた身分のせいで普通に生きていた人たちが人として扱われなくなったのだから。
「正雪さんは、優しいね。でもそれが歴史なんだ……俺たちが守る……」
「そうだな」
「うん。そしてもう一つ。清光は、沖田くんと池田屋にいき……壊れて戻ってきた……直せないほどに……そして捨てられたんだ……それもあって余計に清光は、主に捨てられないように身なりに固執してるんだ……後歪んでるとも言えるかな……」
友美は、分かっていた正雪が何故清光を苦手というのか。清光の歪んだ狂気と正雪の嫌いとするものが一致していたからだ。しかし彼女には、聞いてほしかった。清光の成り立ちを。
「正雪……どう?? これが、刀剣加州清光のお話よ」
正雪は、衝撃的は話を聞き目を伏せる。
「……とても辛いと思う……だが私は……どうも清光殿が苦手だ……」
「正雪……」
「彼の歪みが……丑御前に通ずるものがあるからだろう……」
「丑御前かー確かに!!」
安定は、困ったように笑う。
「……ヤンデレね」
友美は、一人納得するなか、国広も確かにと思った。
「だが……仲良くしたいとは、思う……いつまでも逃げるわけにも行かぬからか……」
本当に真っ直ぐだなと友美、安定、国広は、思った。
「因みに姫は、清光のことどう思ってる??」
「コンプレックスの塊拗らせ隠れメンヘラ男ね」
バッサリ言われ、国広は、思わず吹き出しかけ、安定は、呆れた顔をし、正雪もこれはさすがに言いすぎと思った。
「国広よりたち悪いわよ!!」
「俺と比べるな!!」
思わぬ攻撃に国広は、突っ込む。
「確かに!! とりあえず清光って普段は、好青年!! って感じなんだけだ、中から感じるのがとてもこう……劣等感って感じかのよね……」
「劣等感……」
正雪は、ひらめいた。しかし出来るかは、分からない案だ。
「姫私に考えがある」
「といいますと??」
安定そして国広にも聞こえるように正雪は、話をした。確かに妙案だが出来るかは、正雪の語彙力しだいだ。
「うーんもう画家モードでいく??」
「姫そこであの日本画家をだすな」
「ありだと思うけど……あの饒舌と口説きは、なかなかの効果よ?? たぶん清光恥ずかしすぎて死ぬわ」
正雪と安定は、気になり、友美から詳しく話を聞いたが、困った顔をした。
「それ私に出来るのか!?」
「清光……をとめるのならいいかも??」
「だとしてもだ!!」
しかしやらねば、清光との関係は、よくならない。正雪は、はらを決めた。やってやると。
「姫もう少し教えてくれぬか??」
「もちろん!!」
更に友美から話を聞き、正雪は、頬を赤く染めながらアワアワしていた。このようなきてれつ変人が本当にいるのかと思いながら。
正雪を探し回るが、まったく気配がない。安定の気配も消えている。
どうやら予想どうり、国広の執務室にいるようだ。
あの部屋、特殊で国広が指定をすれば入れる者を規制することができる。
いったい何の話をしているのか。清光は、嫌な考えが頭に浮かぶが、すぐに消した。
「清光殿!!」
声がし、振り返ると正雪が仁王門していた。清光の本体をもって。
「それ俺の本体!!??」
「返してほしくば、付き合ってもらうぞ!!」
正雪は、こんなので上手くいくのかと内心不安だった。安定いわく上手くいくとの事だが。
「え!!??」
訳が分からん。まさか本当に考えてしまった結末になるのだろうか。
本体を質にされ、清光は、おとなしくしたがった。
そしてやって来たのは、国広の執務室だった。
「国広殿借りるぞ!!」
「好きにしろ」
これは、友美の作戦だ。国広なら対処できるからと万が一のときに正雪を守るために。
向かい合い長椅子に腰かける。正雪と清光。緊張した空気が流れるなか、正雪は、清光の本体を鞘から抜いた。
「正雪さん!?」
「あぁ……なんという美しさ……」
「え??」
正雪は、息を吐くと言い始めた。
「この月のような美しい刀身。これが神が作った傑作の中の傑作!! 誠に美しい!!」
「えっ!!??」
「フツヌシが作りあげたこの優美な曲線!! あーなんて見ていて惚れ惚れするのか!!」
「正雪さん!!??」
うっとりと刀身を見られ、恥ずかしい清光だが、それよりも正雪が壊れたと思った。
「国広とめて!!」
しかし国広は、反応しない。よく見ると耳にイヤホンが。
「この美には、アメノウヅメですら嫉妬するほどだろう……誠に月光のような輝きと、美しい水面のような波紋……なんと……」
「正雪さんストープ!!」
清光の制止など聞こえていない。その後も正雪は、誉め続けた。凄い勢いで。
清光は、とうとう茹で蛸のように顔を真っ赤に。
「生まれなど関係ない。貴殿は、とても美しく愛らしい優しい刀剣だ」
正雪は、そう締め括ると、鞘に刃を納め、そして清光に返した。
「正雪さん……」
「私は、生前より武骨者。着飾るということには、とーんと疎い。だがそんな私でも貴殿は、とても美しく、努力家と分かる。清光殿」
本体を受け取り、清光は、そっけなく言った。
「そう……」
「その……なので私自身が着飾るのは、ちょっと……」
「分かったよ。俺ももうあんたを可愛くしたいとか思わないよ」
「清光殿……」
「こんな凄いことされたくないし……」
心がもたない。色々と。
「凄い事??」
「まさか自覚なし??」
「む??」
本当に自覚なしなのかと清光は、恐ろしくなった。
その後も清光と正雪は、楽しく会話が弾みむ。しばらくして、清光が去っていくと、正雪は、顔が真っ赤に。
「うぬぬぬ……」
その後近くにあったクッションに顔を押し当てた。
「もう無理だ!!!!!」
「凄かったからな」
「国広殿聞いてたのか!!??」
「あぁ」
聞かれてると分かったのなら少しは、抑えたのに。
正雪は、恥ずかしさから顔を隠すと、かたっと音が。
「お疲れ様正雪」
主の声に正雪は、顔を上げると、大倶利伽羅も向かいに座っていた。
「これでもくえ」
「ずんだ餅……」
「あら。ふふふふ」
「ありがとう」
体を起こし、主がいれてくれた茶とずんだ餅を食べると、少し落ち着いた。
「姫私は、再現できていただろうか……」
友美は、頷く。
「すごく……まさかうっとりと惚れているような目まで見れるとは……さすが演技派!!」
「姫~!!???」
「あんたがあんなことが出来るとはな」
「大倶利伽羅殿!!??」
やはりまだ恥ずかしい。そして見られていたことも。アワアワする正雪を見ながら、国広は、あることが懸念だった。
「姫正雪の所に誉めてほしいやからが集まらないか??」
友美の笑顔が凍り付いた。そして正雪の動きも止まった。
「ありえそう……」
「それだけは、ごめんこうむる!!!! あれは、私の精神にも大きな負担が~!!!!」
「負担だったのか。俺の事は、よく言ってくるくせに」
「それとこれは、話が別だー!!!!」
正雪が体を丸くし、唸るなか、友美は、これは、これで可愛いと思い、大倶利伽羅は、溜め息をつく。
国広は、こりゃまた一騒動ありそうだと胃が痛くなった。
「姫胃薬」
「分かったよ」
「うぬぬぬ……ぬ……私は……なんという手段を……」
胃薬を友美は、国広に渡すと、微笑む。
「国広誉められてるのね」
「あんたの傑作だから当たり前だろ??」
「まぁそうね」
これは、しばらく丸くなってそうだ。友美と国広は、そう思いながら、微笑み、大倶利伽羅は、ずんだ餅を食べた。
その後清光がこれを広めた結果組織で誉めあいブームが広まり、ある意味大変なことになった。
「皆画家モード再現してるわねー」
「姫本家を連れてきたらどうだ??」
「無理無理」
「うぬぬぬ……恥ずかしい……」
正雪は、皆が自分を真似しているとしり、更に恥ずかしくなった。誉めると言うのもなかなか難しいと思いながら。