日常編1

 何時も屋敷に来るとゾクッとする場所がある。
「また……でも何故だろうか……」
 妖しい気配がしないのに。何故かこの部屋の前だけいつも背筋が悪寒を感じる。
 正雪は、首をかしげ台所に。
「光世ちゃん??」
 正雪が通りすぎて、しばらくしたのち、友美がやって来た。
 部屋を覗くと部屋の隅に大典太光世が。
「姫」
「何故そんな隅に?? まさか暖かくなってきて漆黒の悪魔が出た!?」
 色々想像する主に光世は、言う。
「俺は、病やあやかしも切る刀……あいつも近寄れば切れる……」
「そっか!!」
 友美は、楽しげに笑う。
「でなんで隅っこにいるの?? 今日は、お天気もいいのに、そのままだとキノコ生えちゃうわ」
 確かにそうなのだが、光世は、ため息をこぼした。
「あんたの連れてきた代理だ……」
「がどうしたの??」
「この前を通る度に怯えた顔をしているんだ」
 友美は、首をかしげる光世となんの関係があるのかと。
「光世ちゃんと関係あるのそれ」
 光世は、真顔になる。そうだったこの主力が強すぎるため、光世の霊力など紙切れみたいなものだったと。
「はぁ……姫に話をしていると俺の悩みなど馬鹿らしな……」
「なにそれ」
 友美は、ほほを膨らませた。
「私これでも主なんですが!?」
「……知ってる」
「なら話してくれてもいいじゃない!! そりゃここには、ソハヤノツルギと前田いないけど!!」
 光世は、しばらくプリプリ怒ってる主を黙ってみていた。
「で!! 光世ちゃんもしかして……霊力で怖がらせてると思って部屋の隅に??」
 ようやく友美は、気づいたらしくハッとした顔になる。
 光世は、頷くと友美は、じっと彼をみた。
「うーん光世ちゃん怖いかな……イザナミの方が怖いわよ??」
「姫黄泉の宰神と俺を一緒にするな」
「まぁ霊刀と死の女神は、逆だしねー」
 友美は、笑うと、腕を組む。
「うーんもう◯◯しないと出れない部屋に入れちゃう?? 光世ちゃんと正雪を」
 光世は、この時脳裏に国広の顔が浮かんだ。それこそ、閉じ込められたら最後国広が恐ろしい形相で壁をぶち壊し、正雪だけ助け出すだろう。
「国永のようにはなりたくないぞ」
「木に吊り下げられのが??」
「先日は、滝に吊り下げられてたぞ」
 友美は、想像しわらった。
「それ面白い。ふふふ」
「姫笑うところか??」
「私はね!!」
 友美は、目を細めると続けた。
「よし!! なら霊力調整してみる??」
「というと??」
「抑えて、気配としてあまりでないようにするの!!」
 ということで友美は、光世を連れやってきたのは。屋敷近くの滝だった。
 唖然と滝を見る光世に友美は、手渡す。白装束を。
「え??」
「心頭滅却よ!!」
「姫それ絶対に違うだろ!! この場合は、精神統一だ!!」
「あらそう?? とりあえず空っぽにして集中すれば出来るわ!!」
 主の強引さには、何時もながら、なにも言えない。光世は、とりあえず着替え、滝にうたれるこのにした。
 確かになにも考えず自分と向き合うことで霊力の流れがさらに分かりやすくなる。
 この前制御し気配を小さくすればと考え、さらに集中し始めたとき、隣から声だ。
「あっ!! ハンバーグ!!」
 友美の声に光世は、驚き落ちた。滝壺に。
「何がハンバーグだ!!」
 座っていた岩に登り、光世は、友美に突っ込む。
「今日の食べたいものよ!! 光に聞かれたとき、思い付かなくて、滝ぎょうしたら、頭に浮かんだの!! やっぱり精神統一って大切ね!!」
 確かに大切かもしれないが、なぜそこで、ハンバーグなのか。
 光世には、理解できなかった。友美は、式に伝言を頼むと、スッキリした顔に。
「今なら世界征服出来そう!!」
「あんたなら普通でも出来るだろ。その気になれば」
「そうかしら??」
 本当によくわらう主に光世は、悩みなどうでもよくなっていた。しかし時々こうして滝にうたれるのは、いいかもしれない。己を見つめ直す時間として。
「姫ー!!!!」
 遠くから友美を呼ぶ声が聞こえ、友美は、どうしたのかと思う。
 濡れたままの姿で声のする方に行くと、一期が。
「姫!?」
「なに?? 一期!!」 
 濡れた白装束姿の友美に一期は、視線をそらす。
「透けてないけど??」
「それでも色々問題です!! 早く着替えてください!!」
「本当に初ねーこういう子は、ゆっくりと楽しいことを教えたいものね」
 妖しげに笑う友美に一期は、身震いした。
「姫!!」
「ハイハイ」
 とりあえず滝にうたれる光世をみて、友美は、見えないところで着替えると、一期のところに。
「これでいい??」
「はい」
 一期は、ほっとすりという。
「国広殿なら伝言が」
「なに??」
「屋敷にあやかしが潜入してないかと……ある部屋の前で代理殿が悪寒がすると……」
 友美は、微笑む。
「光世よ。それ」
「光世殿!?」
 友美は、困ったようにわらった。
「光世どうやら正雪が来たら、怖がらせるかもって緊張しちゃうみたいなの。それで霊力が普段よりも漏れるというか……威圧感が出てしまうみたいで……」
「なるほど……確かに代理殿は時より小動物のようだと思うことが……」
「例えば」
 一期は、少し悩むといった。
「兎ですな」
「やっぱり??」
「はい」
 友美も時々思うときがある。正雪は、兎だなと。よかった。一期もそう思うことがあると知れて。
「そう言うことならもう代理殿に会わせてみてはいかがでしょう??」
「もうそれしかないわよね」
「はい」
「滝ぎょうで自信もついたかもしれないし……」
 友美は、しばらく考えると決めた。
「よし!! お見合いよ!!」
「姫そこは、茶会かと」
「国広も光世なら認める!!」
「姫が認めませんよね!?」
 友美は、一期を見てお茶目に笑った。
「さすが!! 大阪にいただけ、突っ込み鋭い!! 今は、天皇家にいるけど!!」
「これでも突っ込みは、お任せを……では、なく、姫ボケないでください」
「うふふ」
 友美が楽しげに笑うなか、一期は、自由な主に少し困った顔をした。
「姫では、光忠殿に菓子の準備をお願いして参ります」
「ありがとう!!」
 一期は、そういうと戻っていた。友美も光世のところに戻ると、彼は、静かに滝にうたれていた。
「光世ちゃんーもうそろそろ帰りましょう!!」
 主の声に光世は、瞳を開けると、立ち上がり、主の元に。
「姫少しは、抑えられているか??」
 友美は、頷く。
「大丈夫!! 帰ったらお茶会しましょう!!」
「茶会?」
「そう!! 行こうぜー光世ちゃん!!」
 友美は、そういうと歩きだし、光世も慌てて着替え、友美のあとを追い屋敷に戻った。

 屋敷にある美しい苔むした庭を眺められる和室。そこに友美は、いた。
 帰ってきてから光忠のところへ行き、共にお菓子を作り、作り終えると茶会のセッティングの為にここへ来た。
「姫これ……」
「変かしら??」
 光忠が苦笑い浮かべるのも分かる。友美自身何故こうなったか知りたいくらいだった。
「誰かの誕生日パーティーかな?? って……」
「やっぱり!? クラッカーは、要らないもよね……花もつけすぎたかしら……」
 とりあえず飾りは、外すことにし、花だけにした。
「結局和室には、掛け軸と、生け花ね……」
 友美的には、華やかでいいだろうと思ったが、やはり和室には、無理があったようだ。
「姫張り切ってるね」
「そりゃ光世ちゃんの為ですから!!」
 天下五剣の一振にしてその由来から蔵にしまわれていた大典太光世。
 友美は、それが彼の歴史であり、逸話だと知りつつも何処か悲しいと思った。
 せめてここにいる間だけでも楽しく過ごして欲しい。その想いから動いているが。見事に空回りしてそうである。
「光忠……光世ちゃんにうさみみつけようかしら……」
「光世さん……強面だからなぁ……」
「確かに」
 ならやめておくか。友美は、諦めた。
「なら豚??」
「何故に豚??」
「正雪好きかなぁ~と」
「それは、宮本伊織殿ピグレットだからね!?」
「確かに」
 もういっそうのこと連れてくるかと考えたが、先日国広がピグレットを連れてきた結果、江戸の町が消えかけ、大変な騒動になった。
「剪定された世界でも……さすがにまずいか……」
「姫対ヤマトタケルになりそうだね……」
「私勝てるわよ!!」
 友美なら間違いなく勝てるだろうだそれで江戸町どころか、剪定された世界が消えては、もともこもない。
「姫世界を消すきかい??」
「……まぁ脆いわね他より」
 友美は、さらに悩む。
「もう着ぐるみ着せる!?」
「それだともともこもないよ!?」
「確かに」
 しかたがないあの強面は、そのままにしておこう。
「光世ちゃんイケメンだしいけるわよね!?」
「たぶんね」
「伽羅ちゃんも強面イケメンだし!!」
 光忠は、大倶利伽羅が友美の中では、光世と同じとしり、笑ってしまった。
「伽羅ちゃんそれ知ったら少し驚きそうだ」
「伽羅ちゃんただのツンデレだもの!! あれは、懐にはいればなかなか優しいタイプ!!」
「でも姫逃げられてるけどね」
「本当よ!! 今日も伽羅ちゃんに声かけたら馴れ合うつもりは、ないって逃げられたもの。まぁそのあと追いかけまわして、お菓子あげたけど」
 その時の大倶利伽羅の呆れと恐怖の混じった顔は、少し面白かったが。
「また追いかけないと」
 これは楽しんでいる光忠は、そう分かり、大倶利伽羅を不憫に思った。
 そんな話をしていると一期がやって来た。
「姫したくのほうは」
「お菓子もお茶もオッケーよ!!」
「ならよかった」
「じゃ僕は、夕飯のしたくがあるから」
「ありがとう光忠!!」
 光忠が入れ替りで部屋を出ていき、友美は、立ち上がる。
「よし!! 光世ちゃんと正雪連れてこないと!!」
「その事なのですが……」
「一期どうしたの??」
 一期の後ろからみえる青緑がかったライトグレーの髪。
 友美は、そっと後ろを覗くと目があった正雪と。
「姫その……」
「おっ!! 来てたのね!! なら後は、光世ちゃんだけか!!」
「となりますな」
「ありがとう一期。なら連れてくるからゆっくりしててねー」
 友美は、そういうと和室を出ていった。
「一期殿その光世ちゃんとは……まさか私と姫以外に女人がいるのか??」
「いえ。女性は、代理殿と姫だけです」
「なら……」
「大典太光世殿です」
 正雪は、驚いた顔をした。
「天下五剣のか!?」
「はい。彼は、普段集合時も部屋の隅か声が聞こえる廊下に居ますので、代理殿は、知らなかったのですね」
「なぜそんなところに……」
「彼の物語に理由があるようで。私も詳しくは……ただ霊力が高いとされ、霊刀として蔵にしまわれていたからだとか」
「なるほど……確かにそうだな……病やあやかしも切るという程のものと聞いた事がある……」
「えぇ。ひとまず我々は、待っていましょう姫が戻ってくるのを」
「そうだな」
 まさかこうして豊臣家の刀と話すときが来るとは。
 正雪は、座布団に座ると一期と他愛もない話をし、その頃、友美は、光世の首根っこを掴み引きずっていた。
「姫やはり無理だ!!」
「いいから!! もう男なら腹くくれ!!!」
 前田とソハヤノツルギがいればもっと光世も動くのだろう。
 友美は、無い物ねだりをしてもしかたがないとそのまま連れていき、そして和室に戻った。
「姫まさか引きずってきたのですか!?」
「そうよ」
 和室に戻ってきた友美の姿に一期は、驚き、正雪は、固まっていた。
「なんと強引な」
「一期みたいに社交的ならともかく光世ちゃん照れ屋さんだから!!」
 連れてこられた光世は、一期の次に正雪をみて固まった。そして黒いオーラと共に、凄い威圧感が。
「む!?」
 あまりの威圧に正雪は、顔を青ざめる。
「俺は……」
「光世ちゃんリラックス!!」
 友美は、そういうと光世の口に、クロワッサンをほうりこんだ。
 サクサクとした食感に光世は、思う。
「うまい……」
「よし!! ちょっと落ち着いた??」
「あぁ」
「ならよし!!」
 強引だが相手の事を考えているのが友美だ。正雪も深呼吸をし、自分を落ち着かせ、そんな様子を見ていた一期は、微笑むのみ。
 光世も座布団の上に座ると、友美も席に着く。そして茶会は、始まった。
「姫このみつ豆なかなかですな」
「でしょう!! 頑張って作ったかいあったわ!!」
 一期の友美は、気まずそうに隣を見る。正雪と光世は、うつむき止まっていた。
「姫どうします??」
「うーん」 
 ここに取り出すは、クロワッサン。友美は、あえて、正雪の前に置くと、気づいた彼女は、笑顔になり、取って食べた。
「うまい」
「だろ??」
 光世から話しかけられ、正雪は、頷く。
「とても……」
「光忠が作ったんだろう」
「本当に光忠殿は、凄いな」
 これは、作戦成功か、一期と友美がそう思うなか、正雪は、ゾクッとするある部屋の気配の正体がこの時光世だったと分かった。
 友美は、もしかすると自分で答えを見つけるための手引きとしてこの茶会をひらいたのだろう。
 本当に凄いと主を感心していた。
「その……光世殿……私は……」
「知ってるから言わなくていい。その……俺もあんたを怖がらせてすまん……」
 正雪は、微笑む。
「気にしないでくれ。私も貴殿と気づけなかった。気づけていたら、もっと早くこうして言葉を交えられたのに」
 光世と正雪は、少しずつだが話し始め、友美と一期は、ほっとした。
「よかったですね姫」
「本当に!!」
 しかしホッとしたのもつかのま。
「それ以上言わないでくれ!!」
「何故?? 貴殿は、とても美しく、優しい刀剣と私は……」
 正雪の天性の無自覚のたらしが発動し、光世は、居てもたってもいられなくなっていた。誉められすぎて。こそばゆく。
「分かったから!!」
「なら貴殿のその……本体を見せてもらっても……」
「それは、また、今度だ」
「うむ……」
 しょぼんとする正雪に光世は、良心がうずいたのか、慌てて本体を差し出していた。
「いいのか??」
「あぁ」
「かたじけない」
 鞘から抜いた刃は、とても美しくさすが天下五剣と云われるほどのものだ。
「なんと美しい……このそり、そして波紋が奥ゆかしく……」
「黙ってみてくれないか」
「何故だ?? ここは、言葉にせねば、貴殿に失礼だろ??」
 正雪の言葉にどんどん光世は、ゆでダコに。
「姫止めなくても??」
「正雪の好きなようにさせちゃいましょう」
 これは、完全に楽しんでいるな。友美よ。一期は、主を呆れた顔をしみるが、友美は、そんな一期も楽しんでみていた。
「姫。代理殿に色々教えた方が??」
「いいのよ!! 悪口ならともなく、誉めてるんだから!!」
「まぁそうですが……」
 要らぬ争いの種を作らなければいいが。しかし彼女は、純粋無垢なため大丈夫ともいえるかもしれない。
「姫もういいだろ……」
「光世ちゃん前みて……」
「そうか……ふむ……」
 落ち込む正雪に光世は、もう少し話すことにした。
「姫これ代理殿の作戦では??」
「一期たまたまこうなってるだけよ。光世ちゃん優しいから」
 そうたまたま。しかしこれが天性のたらしという才能もあってだろう。
 楽しげな正雪とあたふたしてる光世。そしてそれをみて笑う一期。これは、親睦が深めたのではと友美は、思いつつお茶をのみ笑うのであった。楽しげに。
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