光明ノ神子にかわり代理審神者勤めます

 仲秋の名月とは、平安時代に中国から伝わったもされ、はじめは、貴族の楽しみだった。
 それが江戸時代に庶民に伝わり、収穫時気と重なるならこそ、収穫の喜び感謝を表す行事に変わったらしい。
 縁側に腰かけ、正雪は、月を見上げていた。目の前には、台の上に光忠が作った月見団子が、三宝に乗せられ、そのとなりには、月ノ宮近くのすすきの原で取ってきたすすきがいけられていた。
「ふむ……」
「正雪どうした??」
 日本酒とグラスを持ち、やってきた国広は、何か難しいかおをしている正雪に問う。
「国広。そもそも高天ヶ原で月に供え物をしたところで、意味があるのか??」
 高天ヶ原には、ツクヨミがおり、そのまま彼女に贈った方が早いともいえる。
 正雪は、不思議そうに団子を見るなか、国広は、縁側に腰掛けいう。
「まぁこれは、お月見を楽しむ一種のものだ。それにツクヨミ様には、すでに贈っている。そのお返しがこの団子だ」
 正雪は、驚いた。
「なんと……」
 それこそただ月を愛でるための必要要素として置かれているだけでは、ないか。
「ふむ……」
「それにそこまで難しく考えなくていいだろ」
「だが……本来月見とは、五穀豊穣や健康、幸福を願い、月に団子を供えるもの」
「そうだな」
「ならば……」
「なら食べればいいだろ。そもそも月見をして騒いで、その後は、これは、食べられるのが人々の中での月見だ」
 昔からこうして現代まで月見は、されてきた。
 正雪は、頷く。
「確かに」
「正雪酒は、いける口か??」
「一応は」
 国広は、グラスに濁り酒をそそいだ。
「そら」
「いただきます」
 正雪は、グラスを手に持つと、飲む。するととても甘かった。しかし優しく懐かしい甘さだ。
「国広これは……」
「甘酒だ」
「なに?」
「男まみれのここで酒なんて飲ませられるか」
 国広の言葉に正雪は、不服そうだ。
「私が酒に弱いみたいでは、ないか!!」
「弱くなくても、酔えば隙は、出るからな」
 本当に国広は、過保護だなと思いながら、彼のもつグラスを見ると、同じものが。
「国広も甘酒……」
「酒は、明日に差し障る。なら甘酒の方が疲労回復になるからな」
 確かに日頃の彼の仕事量を見ると納得できた。
「他の者達のようにこういう時くらい飲んでも……」
「生憎俺は、静かに飲むのが好きなんだ。あんなに騒がしいのは、困る」
 今屋敷の他の場所では、楽しくお月見を皆がしている。
 正雪も顔をだし、しばらく参加していたが、皆の酔いがまわりだしたので、ここへ避難してきた。そして宴には、国広は、参加していなかったのだ。
「だから参加していなかったのか」
「はじめの頃に顔は、出したぞ」
 国広は、そういうと、月を見る。
「月は、どの時代でも変わらないな」
 正雪は、目を伏せると静かにいった。
「そうだな……」
 月を見ているとあることを思い出してしまう。
 少し悲しげな顔をする正雪を見て、国広は、優しく笑うと、頭を撫でた。
「あんたにとってあの時は、忘れられない可惜夜だったのか??」
 正雪は、温かく大きな手にほっとし呟いた。
「私にとっては、そのような夜では、なかった。初恋の光と信じた……相手の本性を知った夜だから……」
「しかしその光が眩かったと??」
「はじめは、そう思った。だが、あれは、覚悟を決め、戦に挑み、焦っていた私にとっては……光だったのかもしれない……自分の理想を押し付けるための……」
「押し付けるか……」
「あぁ」
 正雪は、静かにそういうと、国広は、言う。
「ならこれから正雪にとっての可惜夜を見つければいいってことか……」
「国広殿……」
「ボケナス同士でいいじゃないか。命のや取りし、最期に神器で貫かれ、ソイツは、悔いなく逝ったんだからあいつは。そんなやつ、忘れて、そう思う日をこれから作れ」
 相変わらずの酷い言いように正雪は、唖然としていた。その上ヤマトタケルまで、ボケナス認定されるとは。
「国広にとってヤマトタケルは、そこまでなのか??」
「そりゃな。あいつ何人妻いたと思ってる。まぁ昔は、一夫多妻なんて普通だが、それでもだ」
 一応相手も神なんですがと正雪は、思ったが国広もまた神なのでこの場合どうなるのかと少し困った。
「正雪俺は、高天ヶ原にいるが、あいつは、ナカツクニだぞ」
「国広そこで、負けず嫌い出さなくてもよかろう……」
「確かにそうだな」
 国広は、甘酒を飲むと言う。
「ちなみに宮本伊織の墓は、北九州にあるそうだ」
「……私とまた縁のある地方ともいえるところに」
「行くなら行ってもいいと思うが、姫が五月蝿そうだ」
「確かに」
 月を見ているとやはりどうしても思い出してしまうなと正雪は、思いながら、国広と話す。
 自分にとってやはり相手の本性がどうであれ、あの想いは、大切なものなのだと改めて思えた。
「……行ったところで、それは、私の知る宮本伊織では、ない」
「そうだな」
「だから行かぬと思う。だが旅で、北九州に行くのは、いいかもしれぬ。博多殿が喜びそうだ」
 正雪は、そういうとそわそわとする。
「国広その……団子は……」
 国広は、立ち上がると三宝を台から下ろし、正雪の隣に置いた。
「ほら」
「いいのかな??」
「やわらかいうちに食べろ」
 国広は縁側に座ると早速食べた。
「この味……旦那の団子だな……」
 正雪は、驚くと食べた。すると中には、甘いカスタードクリームが。
「光忠のだけかと思ったら、旦那のも入っていたのか……」
「もしやツクヨミ様からのお返しが光殿の団子だったとか??」
「ありえるな。旦那の団子は、白野威様とツクヨミ様の好物だから」
 正雪は、また団子を取ると美味しそうに食べた。
「確かにとても美味しい」
「正雪も好きなようだな」
「なかなか。もちろん光忠殿のもうまいが」 
 次に光忠のを食べ、正雪は、言う。
「光忠殿のは、馴染みのある団子。そして光殿のは、ハイカラというやつだな」
「……ハイカラって……令和だと違うぞ??」
「しかし私の知る言の葉で表現しようとするとそうなるのだ」
 確かに江戸の人にとってカスタードクリームは、ハイカラかもしれない。
「たまご酒の砂糖ありともいえそうだが……」
「国広そこは、洒落て言ってくれ。たまご酒といわれたら一気にハイカラ感が無くなるでは、ないか」
 正雪は、そういうと更に団子を食べた。
「うまい」
 ツクヨミからのお返しながら、病魔退散と悪縁断絶、良縁増進のご利益がとてもありそうだ。
「これを食べ、体を強くせねば……今年夏だけで二度も倒れているから……」
「そりゃこの暑さだと倒れるぞ。それに正雪また慣れてないんだから。この時代に」
「だとしてもだ!! 人の体は、弱いから!!」
「まぁ一理あるが……」
「であろ?? ウイルスとやらにも負けてられぬからな!!」
「生前かからなかったのか??」
「流行り病には、強かったゆえ……」
「そうか」
 生前の正雪の体は、どれだけ強かったのかと国広は、聞きたくなってしまったがやめた。たぶん聞くと正雪が、また切ない顔をしてしまう。
 この困った。代理がまだまだ幸せになりますように。
 国広は、楽しげに笑う正雪の顔を見て、笑った。
 月にそんな願いを託しながら。優しくそして温かな笑み浮かべて。

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