蛍と正雪の京都旅

 烏丸通今出川から、河原町今出川まで歩いていた。あの後色々話し合った結果、途中でパン屋により歩くことにしたのだ。
「大学とは、やはり広いのだな」
 こんな都会にあるというのにその大きさに驚かされる。
 パンを食べながら歩く正雪は、同志社大学を見ながら、言った。
「明治に開校したからこれだけ大きいのが出来たんだよ!! 今なら条例やらで五月蝿いだろうね」
「条例……もしやこの景観を守るためにか??」
「そう!! 京都は、観光の街だからね」
 歴と今をどちらも両立するには、必要なことなのだろう。
 正雪は、凄いなと思った。
「蛍殿は、食べないのか??」
「俺お腹空いてないし、後でにする」
「そうか」
 パンを食べ終え、正雪は、満足すると、そのまま歩く。そして河原町今出川まで来ると、そこからバスに乗った。
「蛍殿大丈夫か??」
 バスの中は、観光客とキャリーケースでごった返していた。
「正雪が庇ってくれてるから大丈夫だけど……ごめん……」
「私の方が大きいから気にしないで」
 にしても邪魔なキャリーケースだ。
 乗れないと断念した地元民を見ながら、なんとか、下鴨神社にたどり着いた。
 バスを降り、正雪は、のびをすると言った。
「あのキャリーケースとやらも考えものだな……」
「バスに乗せるのは、正直やめてほしいよね。邪魔だし」
「必要なのも分かるが」
「だね」
 そんな話をし、道案内し従い下鴨神社の境内に二人は、入った。 
 鳥居をくぐる前に頭を下げそして中に。その時正雪は、違和感を感じた。
 おかしいこの神社何かがない。先行く蛍の背を見ながら、辺りの人を見渡すが、特に変なこともない。 
 神事が行われているので人も多い。だが何か欠けている。
「なんなのだ……」
 正雪は、蛍の後についていき、彼の分身と合流し、そこから、神事を見学した。しかしその間も違和感は、全く消えなかった。
「凄いね!! 騎射!! 光なら出来るかな??」
「光殿は、弓の腕前が凄いのか??」
「あぁみえて凄いよ!!」
 本当に光のことが分からないと正雪は、思いながら、そのまま神事を見た。
 その後神事が終わると、本殿へ。そこで彼女は、違和感のなぞの答えが分かった。
「……居ない」 
「何が??」
「蛍殿は、感じないのか?? この社に居るべき者がいないと……」
 蛍は、首をかしげながらも切っていたスイッチを入れると何か感じた。 
「げっ……」
「蛍殿!?」
「ここ居心地悪すぎ……あえてスイッチ切ってたから……分からなかったけど……」
「居心地が悪いとは……」
 顔色の悪い蛍を正雪は、抱き上げる。
「俺歩けるよ!!」
「いいから……貴方が……顔色が悪いことじたい……珍しいのだから……」
 本殿の近くにあるベンチに腰かけると正雪は、蛍をとなりに座らせ、持っていた水を差し出した。
「ありがとう……」
「すこし休もう……」
 しばらく休んでいると蛍の顔色がよくなってきた。
「スイッチ切たからかな……」
「蛍殿そのスイッチとは……」
「刀剣男士は、神だけど、人の体を持ってる。だからか、人としてのモードと、付喪神としてのモードを切り替えれるんだ」
「なんと……」
「俺だけかもだけどね。だからあえて京都に来てからは、付喪神モードを切ってたんだけど……ここで確認のためにつけたら色々ゾワッと来ちゃって……」
「今は、切っているからましになってきたと……」
「そういうこと。でも正雪凄いよ!! 気づけたの!!」
「というと??」
 蛍は、小声で正雪に囁いた。正雪は、その言葉を聞いて言葉をうしなかった。
「えっ……」 
「てこと!! 友美が言ってたからあながち間違いじゃないと思う」
 こんなにも尊厳な佇まいの社だが、やはり何事も見かけによらないのだ。
「ここは、人にとっては、観光地だけど、神にとっては……居心地が悪い。変な化け物が入ってないだけましなんだ」
「社にそのようなものが入ることなど……」
「あるんだよねーやっぱり神も疲れるってこと!!」
 蛍は、水を飲むと、立ち上がる。
「正雪行ってみる??」
「どこに??」
 蛍は、微笑む。妖しげに。
「この神の居ない社の神が今いるところ」
 これが神のしての蛍の一面なのだろうか。正雪は、目を伏せると言った。
「行ってみたい……だがどうやって??」
「バスだよ!! バス!!」
「そこは、神の力を使ってとか言わないのだな……」
「そこは、普通にだよ!! 普通に!!」
 そこも神らしさが見れたらよかったと正雪は、思ったが、万が一蛍が本気をだし、神域に閉じ込められたら、出られる術は、ない。
「正雪俺神域は、展開しないからね」
「考えを詠むのは、いかがなものか……」
「顔にかいてる」
「己で云うのもなんだが、私は、演技に関しては……多少自信が……」
「作戦として必要ならでしょう。普通のときは、まったくでしょう!!」
「うむ……」
 蛍に言われ、なにも言い返せなかった。
「とりあえずいくよ!! その前に鴨川でお昼にしよう!!」
「そうだな」
 境内を抜け、また鳥居の前で頭を下げ、下鴨神社を後に。
 近くを流れる鴨川の土手に出ると、近くにあったベンチに腰かけ、お昼を食べた。
「蛍殿そのあんぱん……」
「もう!! はい!!」
 少しだけ蛍は、ちぎり、正雪をさしだす。
「私は、物欲しそうな顔をしていたか??」
「凄くしてた。味見どうぞ」
「ありがとう……」
 頬を染め、正雪は、食べると笑った。
「上品な甘味でいい……」
「それは、よかった」
「ならクリームパンを」
 正雪は、お礼にと、クリームパンをちぎると、蛍に差し出した。
「ありがとう」
 受け取り、食べる。
「なかなか」
「よかった」
 仲良く昼食を食べ、食べ終えると、蛍たちは、またバスに乗った。
「上賀茂神社行き……」
「そう。下鴨神社の主宰神の子孫が祀られてるのが上賀茂神社なんだ」
 先程よりもバスの中は、余裕があった。途中で空いた席に蛍を座らせようと正雪は、したが、蛍に断られ、座ることに。
「蛍殿ならここへ」
「正雪!?」
 やはり蛍を立たせるのは、申し訳ないと、正雪は、蛍を膝の上にのせた。
「たてるのに……」
「神を立たせ、私が座っているなど失礼だ」
「そんなことないんだけど……」
 しかし身長、体重的には、正雪の方が大きいのは、間違いない。
 蛍は、しかたがないとおとなしくした。
「蛍殿やはり感覚が違うのか?? その……神の居る社は」 
「違うよ。まぁ正雪は、高天ヶ原によく行くからそれが普通だと思ってるかもだけど。とりあえず行けば分かる」
 確かに肌になじむあの空気の感じ。それは、特別なものと正雪も分かっている。神のいる社は、そのような感じなのだろうか。
 しばらく話していると終電の上賀茂神社についた。
 大きな鳥居が見え、正雪と蛍はまた挨拶をし、中に。そしてそれは、すぐに分かった。
「……温かく……清々しい……」
 優しい風がふき、木が揺れている。この感覚間違いなく先ほどとは、違う。
 蛍を見ると、彼は、笑っていた。
「でしょう??」
「ここでこれなら本殿は……」
「凄いよ」
 今正雪たちがいるのは、芝生の広がる場所だ。
 そこから、二の鳥居まで参道の橋を歩いた。そして二の鳥居の前で頭を下げ中に入りと、空気が変わった。
 更に気持ちよくなった。正雪は、その感覚に驚いていると蛍の顔つきが変わった。
「……ヤバイかも」
「蛍殿……??」
「正雪長くなるかも」
 それは、どう云うことだろうか。正雪がそう思ったとき、女性がこちらを見ているのに気づいた。
「あれは……」
「とりあえず本殿にいこう……」
「あぁ」
 確かに参拝客も多いが、あきらかになにか違う。疎い正雪でも分かるほどに。
 本殿に行き、参拝をしたのち、本殿から離れると、女性がこちらを見ている。
「蛍殿もしや……彼女は、女神……??」
「女神だよ。玉依姫。この神社の祭神のお母さん」
「確か……貴船神社に祀られている……」
「そう。黄色の船に乗って、鞍馬山の奥へやってきたと云うね」
 正雪は、緊張した面持ちをするなか、彼女は、蛍に話しかけた。
「この気配……あの子関係者かしら……」
「うん……知ってるんだ」
「この界隈であの子を知らない方が少ないと思うわ」
 玉依姫は、微笑む。
「この娘……なるほど……天照大神が許しているようなら……私に言うことは、ないわ……」
 たぶん天照とは、初代のことだろう。正雪は、目を伏せた。
 やはり自分のあり方は、神にとって異質なのだろうと。
「でももう少し……太った方がいいわ!!」
 玉依姫の発言に正雪は、キョトンとしてしまった。
「む?!」
 蛍も唖然としている。しかし玉依姫は、おかまいなしに、正雪の頭を撫でた。
「友美に食べさせてもらってる!?」
「それは……しっかり……」
「ならいいけど!! あの子食とかには、本当に無頓着で、腹に入れば皆同じって子なんだもの!! そりゃ水郷ノ神子のお陰で変われたけど……もう心配なの!! 眷属には、とても優しい子だけれどやっぱり気になるもの……」
 これは、ただの世話焼きかもしれない。蛍と正雪は、そう思った。
「父上に言ってまた天照大神宛にして何かしら送ろうかしら……でも友美毎回いいお酒を送ってくるし……でもあのお酒美味しいのよね……」
 玉依姫がノーストップで話をするなか、正雪は、神と云うのは、個性があるのだなと思っていた。
「あの……」
「なにかしら??」
 正雪は、困惑しながらも聞いた。
「貴女様は、玉依姫命で……間違いありませんか??」
「そうよ!! 私ったら自己紹介まだだったわね」
「その私は……」
 正雪が名乗ろうとしたとき、玉依姫が言った。
「名は、言わなくていいわ」
「しかし……」
「貴女の事は、知ってるけれど、名乗れば私が貴女を縛ることが出来てしまう……友美がどのように契約をしているかによるけれど。神に手の内をあかすのは、あまりよくないわ」
 正雪の周りの神々は、優しいものばかりだが皆がそうでは、ないと玉依姫は、そういいたいのだろう。
 やはり人と神の掟は、違う。正雪は、目を伏せた。
「ならその……」
「玉依姫様なら雪っていうのならいいよね??」
 蛍のナイスアシストに正雪は、頷く。
「それなら……では、文でもそのように書くとするわ。友美によろしく言っといてね!!」
 玉依姫は、そういうと微笑む。
「新雪のような魂のお嬢さんと阿蘇の宝剣さん」
 蛍を頷くと、玉依姫は、姿を消した。
「正雪よかったね」
「よかったのだろうか……なんとも突然すぎて理解が……」
「確かに」
 主の顔の広さに驚かされたが、それよりも彼女の過去を知り、そっちに驚いたも言える。
 人は、生きて仏にも鬼にもなれる。という主の言葉を正雪は、思い出していた。
「友美は、昔……修羅だったというべきだろうか……」
「かもしれないね。友美は、今もといいそうだけど」
「……私も変われるだろうか」
 蛍は、言った。微笑みながら。
「正雪だいぶ人になってきてるよ!! ホムンクルスじゃなくてね!!」
「蛍殿……」
「だから安心して!! まぁもう少し太ってほしいけど」
「む……」
 これでも体重が増えてヤバイと思っているのにと正雪は、思ったが、やはりもう少し増やさないといけないのかもしれない。
「さてもう少し境内まわって帰ろ!!」
「そうだな」
 蛍と正雪は、美しい境内を見てまわり、その後また一の鳥居に戻った。
 頭を下げ、バス停でバスに乗る。
「座れた!!」
「始発だからな」
「だね!! とりあえず終点まで乗って宿に荷物を取りに行ったら帰ろう!!」
「分かった」
 バスにゆられ、四条河原町まだ戻ってきた。その後宿に行き、荷物を受け取ると、蛍と正雪は、駅に。
「正雪今回は、ありがとう!!」
「こちらこそ、蛍殿」
「また付き合ってね!!」
「いいのか?? 私なんかで……」
「正雪だからいってるの!! 次は、奈良とか大阪もいいかも!!」
「楽しそうだ」
「また京都もありかも??」
「そうだな」
 電車が来て、蛍と正雪は、乗る。席に座ると実感し来た。旅の終わりを。
 またこのような自分を知らないものを見る旅をしたい。正雪は、そう思いながら、微笑む。今回の思い出を思い出しながら。
 電車は、出発し蛍と正雪の京都旅は、幕を閉じたのであった。楽しい思い出と共に。
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