蛍と正雪の京都旅

 障子の隙間から清らかな朝の陽射しが差し込む。
 布団のなかでモゴモゴしながら、蛍は、体を起こした。
「正雪おは……」
 ようといいかけたとき、隣の布団が畳まれていることに気づいた。
 一瞬真っ白になった頭だが、蛍は、飛び起きる急いで着替える。
「もう!! まだ六時なのに何処にいったの!!」
 そういいながら、部屋を飛び出すと、正雪がいた。
 眠そうな顔をして、エレベーターホールにある自動販売機でお茶を買っていた。
「うむ……」
「正雪!!」
 慌ただし蛍にどうしたのかと彼女は、思いながら、ペコリと頭を下げた。
「おはよう……蛍殿……」
「おはよう……ってその格好でどこいくの……」
「お茶を買った……」
 ガコンと音がし、正雪へ、ペットボトルを自動販売機から取る。
 ペットボトルを開けお茶を飲んだ。
「ペットボトルのお茶は……微妙だな……」
 その時何かがガサッと座る、音がした。
 エレベーターホールに置かれている椅子に蛍は、座り込む。
「もう……よかった……心配させないで!!」
「むう??」 
 正雪は、そんなに心配する事だろうかと思った。
「その……申し訳ない……」
「せめて、部屋のそとに出るときは、浴衣じゃなくて、着替えて!! 寝巻きの浴衣のままだと、色々不安だから!!」
「分かった……」
 まだ眠そうな顔をしている正雪を蛍は、手をひき、部屋に戻った。
 彼女が着替えているあいだ、部屋の外でまち、着替え終えると部屋の中にはいった。
「蛍殿ありがとう」
「いいよ。それより目覚めた??」
「あぁ」
「なら朝御飯行こう!!」
「そうだな」
 部屋から出ると朝食を食べに宿にあるレストランに。
 朝は、軽食のバイキングとなっており、蛍は、はりきっていた。
「さて!! 食べるよー!!!」
「蛍殿その……この場合好きなだけ取ればいいのか??」
「そうだよ!! 正雪もこの方が気がねしなくていいでしょう??」
「そうだな。ありがとう」
 蛍がこの宿に決めた理由がまさにこれだった。バイキングなら彼女も気楽だろうと。
 好きなものをとり、席に着くと、蛍は、正雪の皿を見て驚く。
「ご飯と、おみおつけだけ!?」
「一先ず……」
「もっと食べないと!!」
「朝は、あまり入らないゆえ……」
「だとしても!! とりあえず果物と魚取ってくるから!! ステイ!!」
 正雪は、蛍の勢いにまけ、頷くと、とりあえず止まった。耳を澄ませると飛び交う異国の言葉にある魔術師を思い出した。
 彼女は、よくこの国の言葉を話せたものだと。
「ドロテア殿は、すごいな……」
「ドロテアって誰」
 戻ってした蛍の持っているさらには、漬物と焼き魚とリンゴが乗っていた。
「はい」
「ありがとう」
 蛍は、席に着くと聞き直す。
「ドロテアって??」 
「ドロテア殿は、魔術師で……」
「もしかしてマスターだったの??」
「あぁ」
 ご飯を食べ、正雪は、うなづく。
「盈月に参加するため南蛮からやって来た魔術師だった」
「わざわざすごいね……日本語も話せたんでしょう??」
「あぁ」
「やっぱり魔術師の家系は、お金持ちが多いのかもね」
「それは、わかりかねるがそうかもしれない」
 もし彼女と南蛮に行っていたらどうなっていたのだろう。そのもしそうなったとしても、その前に自分は、この世を去ったが。
 そんなことを考えていると蛍にいわれた。
「正雪冷めるよ」
「……すまぬ」
 確かに冷めるよりもあたたかい方が美味しい。
「過去を振り返るなとは、いわないけど、盈月に関しては、あまり振り返らない方がいいと思う」
「蛍殿……」
「俺魔術師っていうのが好きじゃないんだ」
「えっ?!」
 なら自分は、どうなるのかと正雪が思うと、蛍は、続けた。
「正雪は、別。生粋の魔術師が嫌いなんだ。たぶん……それにその盈月ってやつろくなものじゃないよね」
「それは……」
「それを求めてまで参加するってことは、例えいい人間だとしてもろくなことを考えてないと思う」
「ドロテア殿は、そのような御仁では、ないと思う」
「だとしてもだよ。根源に至るためならなんでもするのが魔術師ってやつだから。だから暗い顔をするくらいなら考えない方がいい!!」
 蛍が何故いきなりこんなことをいったのか。この時ようやく正雪も気づけた。しかし。
「蛍殿そのろくでもないのに私も入ってるぞ??」
 蛍は、ばつが悪そうな顔にかる。
「ごめん」
「よい。貴方の気遣いは、分かるから」
「辛気臭くなっちゃった!! せっかくの朝御飯なのにー」
「お互い様かな」
「だね」
 このように意見を言えることは、いいことなのかもしれない。
 蛍と正雪は、その後食事を終えると、部屋に戻り、支度をした。
「蛍殿その……着物の方が……いいだろうか」
「いいよ!! とりあえずカジュアル過ぎなかったら」
「分かった」
 なら今の格好で問題ないだろう。
「このジャケットとスカートとやらでいいかな……」
「問題なし!!」
 そういう蛍は、というと、普段よりもすこし固い格好をしていた。
「よし!! なら行こう!!」
「荷物は、置いておいていいのか?? 今日は、帰るのに……」
「旅館の人と交渉してオッケーしてもらえたから大丈夫!! でもフロントまで持っていく必要は、あるけどね」
「そこで預かってくれるのか」
「そうそう!!」
 荷造りし、荷物を持ち、部屋を出るとフロントに。蛍が受付で話しているあいだ、正雪は、荷物を職員に預けた。
「では」
「ありがとうございます」
 荷物を預けると蛍がやって来た。
「さぁ!! 行くよ!!」
「楽しみだな」
「だね!!」
 蛍と正雪は、宿を出ると、地下鉄に乗り、もよりの鞍馬口駅まで。そこから15分程、西に歩くのやって来た。閑静な寺町のなかにたつ千家の建物に。
「お待ちしておりました」
 出てきたスーツの男は、蛍にそういうと、彼もまたその男と話をした。
「こちらは、言っていたアシスタントのお姉さまですか??」
「はい」
「本日は、よろしくお願いいたします」
 挨拶を済ませると中に。茶室に案内された。
 カコンと鹿威しの音が響くなか、蛍は、仕事の話をし、正雪は、隣でそれを聞いていた。
「では、一度点前を体験していただきましょう」
「お姉ちゃんやってみたら??」
 ここでは、姉弟という設定の蛍と正雪。正雪は、頷くが不安だった出来るのかと。
 確かに由井家に預けられてからは、たしなみということで茶道も習ったが、それでも手習い程度のものだ。
 さっそく囲炉裏の近くに座り直し、頭を下げ、茶をたてる。その様子は、手慣れていた。担当している職員も驚く程に。
 茶をたて、茶碗を職員の前に置くと、 頭を下げた。
 彼は、お手前ちょうだいいたしますとい、茶器をてにとり、茶器を回すと飲む。茶碗を置くと、頭を下げた。
「ご経験があったとは」
「武骨ものの手習い程度です」
「それでもですよ」
 蛍も驚いているのでどうやらうまくいったようだ。  
 正雪は、ほっとし、その後今度は、男性がたてたお茶をもらい、やはり茶道の極めている人は、違うと思った。
 蛍もお茶をもらい、飲み、その後は、また仕事を話をしだした。
「では、よろしくお願いいたします」
「分かりました。最後にお庭をみてていただいても??」
「かまいませんよ」
「ありがとうございます。あと撮影もいいですか??」
「えぇ」
 蛍は、職員と話終えると正雪の所へ。
「庭見れるって!!」
「そうか」
 正雪と蛍は、庭を出る
「その蛍殿……下鴨神社の方は……」
「大丈夫!! 俺をもう一振派遣してるから!!」
「えっ??」
「今日は、葵祭に関連する神事をやってて、斎王代の御祓やら午前中からあるんだけど、予定被ったから分身作って撮影お願いしてきた!!」
 まさかそんなことが出きるとは。これもまた本霊だからなのだろうか。
「正雪も見たかった??」
「この後行くから、そのときに見れるのなら見たいかな……」
「そっか!!」
 やはり千家の庭は、凄い。木々の木漏れ日を見ながら、正雪は、思った。
「でもなぜ寺町に千家があるのだろうか……」
「その理由は、簡単!! 昔寺院が場所を貸したのが始まりで、そこから資金の多さに物申して買収しまくったからだよ」
「うむ!?」
「今も昔もお金は、凄いってこと!! この土地ももとは、お寺だし」
「財力畏るべし……」
 千家の人にさ、聞こえぬように正雪と蛍は、話をした。そして庭を散策すると、千家を後にした。
「ここが小川通りか~」
 行政により石畳にされ、景観も落ち着きのあるものにされている通り。ここには、千家の家や、寺そして茶器のお店が並んでいた。
「この寺は……」
「ここは、本法寺だよ。長谷川等伯がの描いた佛涅槃図が有名だよねー」
「長谷川等伯の……」
「重要文化財に指定されてるよ!!」
「そうなのか……」
「境内だけでも見てみる??」
「すこしだけ」
 正雪と蛍は仁王門の前で頭を下げると、中に。大きな本堂に見とれながら、境内を見て回ると、歴史を感じる建物を見て正雪と蛍は感激していた。
「凄い……」
「だよね!! 俺もそう思う!!」
 小川通りに戻り、蛍と正雪は、くだる。そして烏丸通の方に向かって歩き出した。
「この文字……揺らいでないか??」
 妙顕寺の前を通ったとき、正雪は、気づいた。
「揺らいでるね!!」
「何故だろうか……」
「伝承によると、日蓮宗の開祖に育てられたお坊さんが、千葉の海で三十五日の修行をしたときに海から出てきた文字がこれだったんだって!! だから揺らいでるらしいよ!!」
「日蓮上人の……ということは、日像上人か??」
「俺もそこまで知らないけど、そうかも?? なんかあと当時の天皇から許可もらって建てたとかなら聞いたことがある!!」
「そうなのか……」
「見ていく??」
「蛍殿時間は、大丈夫か??」
「大丈夫!!」
「なら」
 せっかくだしと立ち寄ると、本法寺よりも大きな本堂に驚く。境内も広く美しい庭がだ。
 本堂に挨拶をし、見てまわると、その前蛍と正雪は、烏丸今出川に出た。
「大きな建物だな……」
「あれは、右のが同志社大学で、左側御所だよ!!」
「御所とは、帝の住まう……」
「そうそう!! といっても今は、住んでないから公園になってるけどね!!」
「それは、凄いな……」
 蛍は、面倒そうになにやら見ている。正雪もそちらを見ると、なにやら、見えたが無視した。
「蛍殿あれ……」
「神の類い。正雪とりあえず行こう!!」
「分かった」
「とりあえず自転車で下鴨神社行こう!!」 
 蛍は、そういうと、正雪が顔を青ざめた。
「蛍殿……自転車とやら私は乗れない……」
 蛍は、キョトンとするとすぐに驚いた顔に。
「なんだって!!??」
「うむ……すまぬ……」
「バスだと面倒だし……」
 蛍は、悩む。
「タクシーは、色々問題あるだろうし……」
 歩くにも遠い。
「馬ならいけるかと!!」
「このご時世に馬が簡単に手に入るわけないでしょう!! 確かに京都には、馬を連れている同心がいるけど!!」
「うむ……」
 しょぼんと萎れている正雪。蛍は、どうするべきかと悩んだのであった。
「蛍殿魔術は……」
「とりあえず保留」
「うむ……」

 
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