蛍と正雪の京都旅

 初夏の風を感じ季節正雪は、鴨川沿いにいた。
「姫からまさか蛍殿に付き合ってくれと言われるとは……」
 事の始まりは、数日前に蛍から頼まれ、その後友美から頼まれたのである。
「蛍殿が仕事で京都に??」
「私がついていきたいけど、ゴールデンウィークは、子供達が休みだし……」
 巷は、ゴールデンウィークだ。友美は、さすがに子供達よりも蛍を優先するわけには、行かなかった。
「正雪どうかな?? って!! 京都行ったことないでしょう??」
 確かに生前でも都には、行ったことは、ないがこうも突然言われるとどうするべきかと悩む。
「うむ……」
「蛍しっかりしてるから大丈夫だろうけど、ほら、外見は、子供だし……正雪お願い!!」
 ここまで言われては、断れないと正雪は、引き受けた。
 三条河原町付近の鴨川沿いで景色を正雪は、眺める。そういえば昔ここは、処刑に使われていたばしょだったような。
 蛍といえばこの近くの飲食店の写真を撮りに行っており、共に行こうと行ったのだが断られた。
「正雪は、観光しててか……」
 観光しててと言われてもまったく土地勘のない彼女からすれば難しいものである。
「よし……辺りをみてまわるか……」
 蛍からは、何かあれば電話が来ることになっている。一先ず近くにある本能寺から見に行ってみることにした。
 徒歩でなれないスマホを使いながら、地図をみて移動し、やって来た。
 ビルの間にあり、思ったよりも大きい寺に正雪は、驚いた。
「確か……本能寺の変で燃えたあとに建てられたもの……だっただろうか……」
 境内にはにり、まずは、本堂に挨拶をすると、扉が開いていることに気づいた。
 靴を脱ぎ、恐る恐るなかに入ると人がいて安心した。 
 本堂の空いているところに座り、仏像をみる。
「見事……」
 素晴らしい御本尊だ。じっとみているといつの間にやら隣に人が。
「若い方が珍しい……」
「そうでしょうか……」
「えぇ」
 その人は、すぐに去っていったが、そんなにも珍しいのだろうかも正雪は、思った。
 本堂を出るとなにやら展示会をしている。刀剣と目に入り、行ってみることに。
 チケットをかい、なかに入ると以外にも人がいた。
「女性が多い……」
 ゆっくりと刀剣をみていると隣ではしゃいでいる女性を見つけた。
 あの筒は、なんだろうか。女性のてには、小さな筒が。
 不審がられないように、みていると、女性は、みていた刀身の波紋を。
「観察するための……」
 刀身に表れる波紋は、唯一無二のものともいえる。正雪自身その素晴らしさは、知っている。
 この時代にも刀身は、愛されているのだなと思いながら、刀剣をみてまわり、建物を出た時、スマホが鳴った。
 一瞬体をビクッとさせ、おそるおそる出た。
「もしもし……」
「正雪終わったよー!! 今何処??」
 元気は蛍の声に正雪は、安心するという。
「本能寺だ」
「本能寺ね!! そっち行くからまってて!!」
「あぁ」
 通話を終え、正雪は、ゆっくりまた境内をさんさくした。 
 風に揺れる木の葉、本能寺の守り神と言われると火伏せの銀杏を見ていると、蛍がやって来た。
「おっきい~」
「蛍殿」
「正雪お待たせ!! ねぇこれ銀杏??」
「らしい。火伏せ銀杏といい、天明8年の火災のさい、この木から水が出たとか……そのお陰だ火災にこの寺は、巻き込まれずにすんだそうだ」
「だから火伏せ銀杏ねぇ!!」
 蛍は、自分より若いのに凄いなと思いながら、銀杏を見上げる。
「蛍殿その……勤めの方は……」
「終わったよ!! あそこ店主が女性でさ、色々悪いものも見えたし、だから正雪と別行動にしたんだ!! 理由話すの遅くなってごめん!!」
「そうだったのか……」
「刀剣の展示やってるんだー」
 本当に自由な蛍といると、余計なことを考える暇がない。
「蛍殿興味があるのか??」
「別にいいよ。刀剣は、友美の家の納戸で見れるし!! なにより俺自身刀剣だし」
「確かに」
 楽しげに蛍は、笑うとカメラをかまえた。
「正雪銀杏の近くにたって!!」
「分かった」
 言われた通りに銀杏の近くにたつと、シャッターの音が。
「よし!! 可愛く撮れたね!!」
「そうか……」
「そうだよ!! ねぇ!! この後どうする??」
「蛍殿の予定は??」
「俺は、とりあえず1日目は、終わり!!」
「うーん」
「そうだ!! 銀閣行こうよ!!」
「銀閣とは……足利義政公が建てたという……東山慈照寺かな……??」
「そう!! あそこの庭がいいんだ!! バス乗れば間に合うしはやくはやく!!」
「蛍殿!?」
 寺の境内から出ると、蛍と正雪さ、頭を下げたが、その後蛍に手を引かれ、正雪は、走る。
 バス停につくと、バスに乗り、乗り継ぎ銀閣寺にやって来た。
「ここが……」
「東山は、昔から別荘地だったからね!!」
「雰囲気が落ちいているな」
 寺に入るにも今は、入場料がいるのかと正雪は、驚きつつも庭を見る対価ならそんなものかとも思った。
 日本らしい落ち着きのある詫びがある庭は、彼女にとって馴染みのあるものだ。
 隣から異国の言語が聞こえ、驚くがここが素晴らしきからこそなのだろうと彼女は、思った。
「南蛮の者も来ているのだな……」
「日本は、外国人からすれば、来たい国らしいしね!!」
「そうか」
「正雪どうしたの??」
 何故か外国人をみている正雪の顔が暗い。まさか過去に何かあったのかと蛍は、不安になるが、正雪の目には、別の者が見えていた。
「蛍殿……あれを切れるか??」
「あれ??」
 蛍は、スイッチを切り替えると黒い者か見えた。
 あれが原因かと蛍は、正雪の顔色が優れない理由が分かりいった。
「切れるけど放置が一番。それと正雪自分の中のスイッチ切り替えてみて??」
「スイッチ……」
 集中し、探してみると確かにスイッチがある。それを切り替えてみると、黒いものが見えなくなった。
「少し楽になった??」
「少しだけ……」
「よかった」
 散策路のはしりより、正雪の、顔色がよくなるのを待つ。
「蛍殿……すまない……」
「こればかりは、しかたがないよ。悪いのは、あの黒いやつを連れてたやつ。海外って日本よりどろどろだから多いんだよねぇー」
「どろどろ……」
「そうそう」
 詳しいことは、あえて蛍は、いわなかった。正雪の顔色がよくなり、蛍たちは、また散策をはじめた。
 美しい庭をみて、ほっと心を落ち着かせる。
「綺麗だ」
「だね!!」  
 蛍は、写真を撮り、時々正雪も撮りながら、銀閣寺をみてまわった。
「蛍殿もう宿に行くか??」
「そうだね!! でも晩御飯どうする??」
「うむ……」
 宿で朝御飯は、出されるが夜は、でない。さてどうすべきか。
 悩みながら、歩いていると、蛍があるものを見つけた。
「正雪牛丼にしよう!!」
「牛丼!?」
 蛍は、また正雪の手をひくと、牛丼屋に。カウンターに座ると、牛丼を、頼み、くると、早速食べた。
「蛍殿……これ……旅行としてどうなのだろうか……」
「安くすむしいいじゃん!! それに京都は、和食っていうけど、地元民は、洋食とパンばかりだし!! いいのいいの!!」
「なんと……確かにパン屋が多いとは、思ったが……」
「明日美味しいパン屋行く??」
「もちろん」
「なら朝から千家の方にいって、パン買ってそこから下鴨神社かなぁ」
「千家とは、千利休殿が発足したとされる……」
「そう!! そこから子供達が色々あって裏千家、表千家、武者小路千家とか分かれてるんだ!! で明日は、その千家に呼ばれてるから行くってわけ」
 牛丼を食べ蛍は、いうが、正雪は、驚いて口が閉じなかった。
「千家に呼ばれるということは、とても凄いことでは……」
「たぶん凄いけど、俺にとっては、仕事だから」
「蛍殿まさか……付喪神と明かして……」
「あかしてないよ。それにいったところで戯言って思われるのがおち!! あくまでもカメラの仕事では、栗花落蛍だから!!」
 正雪は、そのまま由井正雪として当世でも生きている。時々歴史の偉人と同じ名前と言われることもあるがその度に彼女は、とりあえず笑うことにしている。
 蛍は、そのように名乗っているのかとはじめて知り、正雪は、綺麗な名だなと思っていた。
「綺麗だな」
「ありがとう!! 俺も氏があればよかったんだけどねー ほら明石国行と、愛染国俊とかさ!! でも俺は、蛍丸だから。この時代だと変だから」
「そういえば……氏を皆がつけるようになったのは、何時からなのだろうか……」
「明治から」
「なるほど」
 まだまだ知らないことばかりだと正雪は、思いがら、食べるがひとつ問題が。
「うむ……」
「並みでも多かった??」
「みごとに……」
 蛍は、器を持つと、言う。
「後は、俺が食べるよ。でも半分食べれたじゃん!! 凄い!!」
「そのようなことで……その……」
 正雪は、ほほを赤く染めるが、蛍からすれば凄いことである。
 正雪は、友美と契約した当初は、本当に食べなかった。厳密には、食べられなかった。それをみていた蛍からすれば本当によかったと思っている。
「人って食べないと死ぬからさぁー本当に!!」
「それは、そうだろうが……」
「俺と初めてあったころの正雪の食べる量なんてそれこそ、いつほねかわすじえもん、にかるかハラハラする量だったんだから!!」
「そんなに……」
「そんなに!! だからほっとしてるんだよ!! 俺は!! もし食べられなくて倒れたらそれこそ、大変なんだから!!」
 痩せた人間は、本当に地獄絵図にでてくるほがほけ、骨と皮だけになり、目の窪みも分かるものになる。それこそ、生きた餓死寸前の者といえるほどに。
 本当にあれは、見るものによっては、恐怖を感じるだろう。
「蛍殿の……」
「俺は、国広程正雪の生前について知らないけどさ」
 正雪は、驚く。
「蛍殿のそれは、どういうことだろうか……」
「国広一回、過去に戻って正雪の生前を見てきたんだってー」
「それ私が国広殿とあっている可能性が!?」
「たぶんないと思う。打刀は、隠密行動もある程度は、出きるし」
 国広は、何かとよく調べあげている印象があったが、まさかここまでしているとは。
「私は、凄い……神と日頃からいるのだな……」
「でも俺の方が凄いよ!!」
「かもしれぬ」
 蛍と楽しく話をし、蛍が食べ終えると、牛丼屋を後にした。
 夜の鴨川沿いを歩きながら、正雪は、そういえばとあることを思い出した。
「蛍殿」
「なに??」
「昼間四条河原町から三条河原町の間に二人組の人達が土手に座っていたのだがあれは……」
「もしかしてあれ??」
 蛍の指差す先には、土手に座っている二人組が。
「そう」
「あれは、恋仲のやつら」
 蛍は、つまらなさそうに言う。
「なんでかこの辺りは、こういうのがわんさかいるんだよねぇー。写真撮るのに邪魔で何度か全員川に落とそうかとしたけど、やめた」
「物騒な……」 
「恋仲のやつらほど邪魔なやつは、いないよ!! イチャイチャするにしても場所選べ!!」
「姫と光殿にもいえるのでは……」
「友美は場所選んでる!!」
 蛍は、そういうと、土手の空いてにる場所に座った。
「正雪はやく!!」 
 蛍の隣に腰を正雪は、下ろすと、川を見た。
 夜風の冷たい風が頬にあたり気持ちがいい。
「正雪こっち向いて!!」
 蛍に呼ばれ、そちらを向くと、シャッター音がなった。
「なかなかいい感じ!!」
「蛍殿……」
「俺何気ない幸せを切り取るのが好きなんだ!! だからこうした自然体の写真が撮るの好き」
 蛍は、撮った写真を正雪に見せた。
「なかなかいいでしょう??」
「私……笑っていたのか……」
「今日は、楽しそうに笑ってるよ!! 正雪!!」
 確かにはじめてみるものばかりでワクワクしていた。
 正雪は、微笑む。
「新鮮なものばかりで楽しいかな……」
「ならよかった!!」
「蛍殿……」
「明日もあるしもう帰る??」
「もう少しだけ……ここで景色を見たい……いいだろうか??」
「もちろん!!」
 恋人たちの会話を聞きながら、正雪は、想いを馳せた。しかしその想いは、相手に届くことは、ない。
「……もし……別の生き方をしていたら……」
「叶っていたかも?? って??」
 正雪は、少し驚いた。この口ぶり、絶対に蛍は、知っている。
「あぁ……」
「でもさ、場合によってあの時代だと奴隷として売られてたと思う」
「日ノ本の者が……??」
「そう。アフリカ程じゃないとは、いえ日本人の奴隷もしたからね。破れた領民達は、捕虜にされ、ポルトガル人とかに売られてたから。その後マカオだっけ? そこに連れていかれて、さらに世界に売られてたみたい。で売れないものは、中継地点に捨てられたらしいよ」
 正雪は、目を伏せる。
「……そうか」
「場合よっては、だから!! それにこの世界の歴史で、由井正雪は、男でなおかつ幕府に反乱を企てて、最後は、斬首されてるし、宮本伊織は、幕府の重臣として生きてたし……」
 蛍は、切ない顔をしている正雪になにを話そうかと悩んだ。
「とりあえず!! 正雪俺は、やめといた方がいいと思う!! あいつだけは!! ここの世界のあいつならともかく!!」
 蛍は、立ち上がると正雪に言う。力強く。
 正雪は、思わず笑った。
「宮本伊織殿……凄いいわれようだ……」
「まさにそうでしょう。ボケナスだし」
「ふふふ」
「それに愛し合ってる自分と伊織見たんでしょう?? どうだった??」
 正雪は、目を伏せる。
「私の……弱さに少しばかり……腹が立ったかな……」
「そっか」
 蛍は座り直す。
「でもさ男って惚れた女を守る!! のに燃えるからいいんじゃない?? まぁ俺は、強い方がこのみだけど!!」
「強い……まさか姫並みに??」
「理想はね!! でも正雪でもいいと思ってる!!」
 蛍の意外なことが知れ、正雪は、頬を染めた。
「私は、そこまで……」
「強いよ!!」
 蛍は、今だと立ち上がると正雪に飛び付いた。
「蛍殿!?」
「やっと笑った!!」
 正雪は、ハッとしきづく。すこし物思いに更けていたことを。
「せっかく……」
「気にしない!! それにこれだけカップルいたら、失恋経験者は、そうもなる!!」
 蛍は、微笑むと正雪から離れた。
「さて!! もうそろそろ宿に戻ろ!!」
「そうだな」
 正雪も立ち上がるとお尻を払った。
「そういえばと大学も多いのだな京都は」
「学生の街でもあるからね!!」
「いいことだな」
「でも学生多くて困るともいえるけど」
「それは、観光客の方では??」
「確かに!!」
 蛍と正雪は、そんな会話をしたがら、鴨川沿いを歩いた。
「蛍殿その……」
「どうしたの??」
 正雪は、申し訳なさそうに言う。
「お腹が……空いたかも……しれない……」
 蛍は、真顔になると言った。
「パン屋さんに、GO!!!!」
「蛍殿かたじけない!!」
「お腹空いて寝れないと言われるよりまし!!」
 足早に近くのパン屋に、駆け込み、残っているパンを買うと、その足で宿に。そして部屋に戻ると、手を洗い、蛍と正雪は、パンを次は、食べた。
「うまい……」
「それは、よかった」
「フランスパンにソーセージは、なかなかいい……」
「正雪意外にハード系好きだよねー」
「この食感が好きなんだと思う」
「なるほどね!!」
 蛍は、クリームパンを食べながら、向かいに座る、正雪をまたカメラに収めた。
「また!?」
「いいじゃん!! 旅の思い出!!」
 正雪は、目を伏せながら、恥ずかしそうにパンを食べる。 
 さて明日は、どんな旅が待っているのか。心踊らせながら、カメラをかまえている蛍を警戒するのであった。変な自分を撮られないためにも。
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