後日談

 家の電話がなった。 
「ごめんとって!!」
 書庫から主の声が聞こえ、たまたま近くにいたので正雪は、電話を恐る恐るとった。
 当世には、色々と便利なものがある。しかし使いこなせるかは、別だ。
 正雪は、緊張した面持ちで声を発した。
「はい……」
「もしもし!! マスター!!」
 電話の向こうの人物は、元気な声で言った。
「マスター??」
「あれ?? マスターじゃないのね??」
「あぁ……」
「てことは、新しい式神さん?? それとも神子かしら……」
「えーとー私は……」
 正雪が声を出そうとしたとき、電話の向こうの人物は、言った。
「マスターに久々に、帰るとだけ伝えてくれるかしら??」
「へ??」
「では、じゃね!!」
 電話は、切られ、プープーと言う音だけが虚しく響いていた。
 受話器を正雪は、置くと、とぼとぼと書庫に。
「薬研でここが」
「なるほど」
 今主は、薬研のレポート製作の手伝いをしていた。正雪がやって来るのに気づいた友美は、彼女の様子が変なので驚く。
「正雪??」
「姫その……電話の相手なのだが……」
「誰だった??」
「分からぬ……聞く前に……久々に帰るからと……伝言を賜り……切れてしまった……」
「久々って姫なんか心当たりあるか??」
 友美は、しばらく悩む。
「正雪その時マスターって言われた??」
「あぁ」
 友美は、微笑むと言う。
「マリーね!!」
 マリーとは、正雪も聞き覚えがある名前だ。
「あいつが帰ってくるのか!!」
「薬研みたいね。本当に久々だわ……何処にいたのやら……」
 友美は、楽しげに笑う。
「マリーとは……確かライダークラスのサーヴァントだったかな??」
「そう!! マリー・アントワネット。百合の王妃にして時代に翻弄された悲しい人とも言えるわね」
 友美は、立ち上がると、一冊の本を取り出した。 
「正雪知りたかったらこれを読むといいわ」
「ありがとう」
 確かにどんな人物なのか気になっていた。友美には、自分の考えが分かるのだろうか。
 薬研の隣に座り主と彼がレポートをする隣で早速本を読み出した。
「姫これで完了かな??」
「いいと思うわ」  
 レポートも終わり、お茶にしようと友美は、立ち上がったとき、嗚咽が耳に入った。
「正雪!?」
「姫ティッシュ!!」
「はい!! 薬研!!」
 正雪が、本を読みながら、号泣していたのだ。
 薬研は、ティッシュで正雪の涙を拭うと彼女は、ハッとした顔をした。
「泣いてる……??」
「没入してたのね」
「こりゃそうとうだな……」
 友美と薬研が苦笑いをするなか、正雪は、頬を赤く染めた。
「その……ありがとうそれと……すまない……」
 本を閉じ正雪は、立ち上がると、本を戻した。
「姫あれは、まことか??」
「フランス革命の事は、まぁ大筋は、本当ね」
 正雪は、椅子に座る。
「……私なら耐えられる気がしない……」
「自分の寿命から大義のために邪道だろうが、手段選ばなかったあんたが言うかそれ」
 薬研の一言で、正雪がガーンとショックを受け固まる。
「薬研地雷踏んでるわよ」
「すまん」
「よい……うむ……」
「まぁやるのとやられるのでは、その……覚悟が。マリーの場合は、歴史の流れと言えどやられた方だし……」
 友美は、困ったように笑いながら言う。
「うむ……」
「きつい話よね」
「まぁそうか」
「そうそう」
 友美は、そういうと立ち上がる。
「とりあえずお茶いれてくるわね!!」
 そして書庫を出ていく。
 正雪は、立ち上がる。
「外の空気を吸ってくる……」
「分かった」
 玄関から外に出ると正雪は、深呼吸した。
「やはりこの世界は、争いが絶えぬのだな……」
 人とは、そういう生き物なのだろう。そうと分かっていてもやはり争いのない世界を夢見る。
 自分は、やはり人では、ないからこそそう思うのだろうか。
 そう考えていたとき、聞き覚えのある声が。
「マスター!!」
 インターフォンの音が聞こえ、ふりかえると可憐な女性が立っていた。キャリケースを持って。
 正雪は、驚いた顔をしみていると薬研がドアを開けた。
「マリーじゃねぇか!!」
「薬研久しぶりね!! マスターは、いるかしら??」
「あぁ」 
 この人物がマリー・アントワネット。正雪は、可憐な少女に正雪は、見とれていると彼女と目があった。
「貴方は……」
「由井正雪だ。お見知りおきを……」
 マリーは、ぱっと明るい顔に。
「先程の電話の!! 私は、マリーよ!!
よろしくね!!」
 マリーは、正雪の手を取ると、微笑む。こんなにも可憐な百合のような人がいるなんてと正雪は、思いながら、頷く。
「おいなかに入らねぇのか??」
「入るわ!!」
 マリーに手を掴まれたまま正雪も中に。靴を脱ぐとマリーは、凄い勢いでリビングへ。
「マスター!!」
「おかえりマリー!!」
 友美は、そういいつつ困惑していると、正雪を気にした。
「マリーとりあえずはなしてあげて??」
「ごめんなさい!! つい!!」
「大丈夫……」
 ようやく解放された正雪は、そういうと、そのままヨタヨタと椅子に座った。
「マスターこの子サーヴァントでは、ないのね??」
「そうよ」
 マリーは、微笑む。
「本当にマスターは、優しい人……」
 マリーが何故そういったのか友美には、分からなかったが、薬研には、思い当たる節があるらしく頷き、これに関しては、正雪も頷いていた。
「なんで皆で頷くの!?」
「思い当たる節がありすぎてな」
「薬研殿に同意だ姫」
 友美は、困惑していたが、その話で何故か盛り上がっていた。
 とりあえずマリーと正雪が打ち解けたようで安心だ。
 友美は、茶と菓子を用意し、そこから用事をしている間もマリー達は、盛り上がっていた。主の話で。
「でマスターがね!!」
「姫らしいな……」
「そうだな」
 頼むから恥ずかしい話をしないでくれ。今は、友美がワイバーンの肉を食べていたという話をしている。
「しかし……ワイバーンは、旨いのだろうか……」
「確かに気になるな」
「なかなか美味しかったわ!! 鶏肉みたいな感じよ!!」
「ワニに似てるのか」
「ふむ……」
 ワニをなにか分かってないと思われる正雪に友美は、少し可愛いと思いつつ用事をした。
「薬研殿ワニとは??」
「これだ」
 しっかり質問して偉い。友美は、そう思っていたが、正雪の顔が何故か青くなっていた。
「人を喰らう……」
「ワニに襲われることもあるものね!!」
「ワニとは、怖いのだな……」
「まぁこいつら恐竜の時代から生きてるからな」
「そうか」
 ワニを食べたことがある薬研は、やはり強いのかと正雪は、思いながら、話をした。
「でマリーしばらくいるのか?? こっちに」
「日本をまわるつもりよ!! 仕事のこともあるから!!」
「マリー殿は、何をされているのだ??」
「蛍と同じよ!! といっても私は、インフルエンサーとやらだけど」
 また聞きなれぬ横文字に正雪は薬研をみると解説してくれた。
「SNSとやはで情報を発信するものか……」
「そうよ!! だから世界中色々なところに行ってるの!! 私自身色々な世界を見たいから!!」
 マリーは、微笑む。主が自分の意思を尊重してくれているから出来ることだ。
「正雪も同じでしょう??」
「え??」
「確かに同じかもな」
「薬研殿??」
 おなじなのだろうか。しかしよく考えてみると友美は、正雪がやりたいようにさせたくれている。
「確かに同じかな……」
「姫って縛るというより守るために契約を使い、それ以外は、悪いこと以外好きにしていいって感じだからな」
「資金の調達とかも手伝ってくれるしね!! マスター!!」
 友美は、苦笑いを浮かべた。そりゃ好きにやれといい元手がないと無理な話のわけで。
「そもそもマリーも薬研もそこらへん考えて動いてるから私も手伝うのよ」
「よく言うぜ姫」
「本当に!!」
 なら自分がもし何かしたいと言えば手伝ってくれるのだろうか。ふと正雪は、そんなことを考えた。
「姫その……」
「正雪もしたいことがあって世界に出るのなら手伝うわよ?? 私一ヶ所に縛り付けるのは、嫌だから。でも蛍や正宗のようにここがいいっているのも私は、とめない。だって好きでいるんだから」
「姫……ありがとう」
「正雪やりたいことがあるのかしら??」
「今は、まだない……その当世にまだ不馴れゆえ……」
「なるほどね!! ふふふ」
「まぁ国広が黙ってないだろうがな。そうなると俺もつれていけといいそうだ」
 友美は、頷く。なんなら、刀剣全員連れていけといいそうだ。
「うむ!?」
「正雪は、愛されてるのね!! ふふふ」
「愛されて……」
 恋愛では、ない親愛なら当てはまるだろう。
「その……親愛とやらなら」
「素敵ね!!」
「とても」
 正雪とマリーが微笑むなか、薬研は、主を見る。すると彼女もまた笑っていた。
「姫よかったな」
「えぇ薬研」
 そこからまたしばらくみなで話をしたが、子供達が帰ってくる前にマリーは、立ち上がる。
「マスターじゃおいとまするわ」
「分かったわ。また帰ってきなさいな」
「えぇもちろんよ!!」
 正雪と薬研にも挨拶をするとマリーは、またキャリケースをもって外に。そして帰っていった。
「姫マリー殿は、ここには……」
「住んでないわ。色々な書類は、ここに来るようにしてるけど、基本は、ホテル泊まって転々としてるから」
「そうなのか……」
 正雪は、本当に凄い人だなと思いながら、彼女を見送る。
「姫じゃ俺は、螢を迎えにいってくるわ」
「ありがとう薬研!!」
 そして薬研もまた幼稚園に。友美も家のなかには入り、正雪一人だけのこった。
 空を見上げ微笑むと彼女も中に。やはり世の中は、広い。まだまだ知りたいことばかりだと改めて思いながら。 
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