後日談

 庭に飾られている笹が夜風に揺れている。
七夕は、奈良時代に伝来し、平安時代には、神事として宮中には、あり、もとは、大陸の文化だ。
 織姫に裁縫の上達を願う神事としての側面もある。
 縁側に腰かけ、正雪は、団扇であおぎながら、風に揺れる短冊を見ていた。
「願いか……」
 揺れる短冊には、刀剣達の願いが綴られている。
 お菓子をいっぱい欲しいという可愛いものから、人妻に会いたいというおかしなものまで。 
「正雪」
 名を呼ばれ、正雪は、声のする方を見ると、国広が珍しく浴衣を着ていた。
「国広殿が和装!?」
「そんなに驚くことか……」
 国広は、呆れた顔をし、正雪の隣に腰を下ろした。
「そういうあんたも珍しく女性物の浴衣じゃないか」
 藍色の美しい浴衣の正雪に国広は、言う。
「似合ってる」
「ありがとう……」
 まさか褒められるとは、正雪は、恥ずかしそうに頬を染めた。
「ここからだと天の川がきれいに見えるんだな」 
「そうだ」
 他の刀剣達は、皆灯籠流しを見に、出かけてしまい、今この屋敷には、国広と帰ってきていた薬研しかいない。
「国広!! 正雪!! スイカ食わないか??」
 薬研が切ったスイカを乗せたお盆をを持ち、やって来た。
 彼もまた珍しく浴衣だ。
「いただこう」
「ありがとう薬研」
 薬研は、お盆を縁側に置くと、国広の隣に座った。
「これは、すごい。綺麗に見えるな!!」
 空に広がる天の川をみて、その美しさに薬研は、歓喜した。
「だろ?? 私も今しがた見つけ見ていたのだ」
「そうなのか」 
 まさかこうして天の川を見る日が来るなんて思っていなかった。
 正雪は、こういうのといいものだかと思ったとき、隣から声が。
「薬研でかすぎだろ。スイカ」
 国広は、大きなスイカを持ち、いった。 正雪もあまりの大きさに目が点に。 
「もしや……半玉??」
「ほらでかい方がいっぱい食べれるだろ??」
 薬研は、ニカッと笑うと半玉のスイカをスプーンでほじくり食べ始めた。
「やっぱり夏といえばスイカだよな!!」
「だとしてもでかすぎだ……」
 国広は、立ち上がる。
「国広殿??」
「包丁持ってくる」 
 国広は、そういうとしばらくして包丁とまな板をもって戻ってきた。
 慣れたてつきでスイカを半分にきり、均等になるように切った。
「国広にしては、珍しいなその切り方……」
「薬研そもそも正雪が半玉も食べれると思うか??」
 どうやら盲点だったらしい。薬研は、ハッとしていた。
「確かに」
「ほらこれなら好きなだけ食べれるだろ?? 残りは、俺と薬研で食べるから」
 国広の気遣いに正雪は、ありがたいと思った。
「ありがとう国広殿」
 スイカを一つ正雪は、取ると早速食べ、驚く。
「こんなにも甘いのか!?」
 そんなに驚くことかと国広と薬研は、思ったが思い出す。
「スイカは、確か16世紀……安土桃山時代にポルトガル人が中国人によって持ち込まれたんだよな」
「そうだな。薬研」
「安土桃山時代とは??」
 薬研と国広は、忘れていた。確かにスイカが伝来した少しあと正雪は、産まれたが、そもそもこの歴史の分け方にかんしては、江戸初期には、なかったはずだ。
「日ノ本の今の歴史の時代の分け方の一つだ」
「あの頃は、ころころ元号が変わっていたからな」
「なるほど。国広殿、薬研殿」
 また覚えることが増えたと正雪は、思いながら、スイカを食べた。
「旨い」
「先人の叡知の結晶だな」
「だから俺たちは、こうして旨いスイカを食べれるんだが」
 薬研は、さらにスイカを食べた。そういえば短冊にスイカを食べたいと書かれていたがもしかすると薬研かもしれない。
「国広殿は、短冊に何か書いたのか??」
「一応な」
 国広の短冊を見るのに正雪は、立ち上がると、見つけた。
「仕事が減りますようにと……唐揚げを食べたい!?」
 どちらも切実な願いな気がする。唐揚げに関しては、すぐに叶えられそうだが、仕事に関しては。
「国広殿へし切長谷部とやらを……」
「その案は、却下!!」
「長谷部が来ると、国広と衝突するだろうし、なにより姫がいやがりそうだ」
 あの主ラブの刀剣がくれば色々大変なことになりそうだ。
「国広なら清麿や正秀に頼むのさ、どうだ??」
 国広は、凪いだ海のようた静かな瞳でいった。
「すでにやったが、十時間程でねをあげた上進んでなかったんだ」
 薬研は、真顔になるとスイカを食べた。あの忙しい政府出身の刀剣ですらねをあげる量をこいつは、一振でこなしている。その事実に思わず。
「まったく」
「国広殿それ……貴方が凄すぎるのでは……」
「俺は、普通だ。まぁ正雪が手伝ってくれる分の負担は、減ったがな」
「政府とのやり取りは、長義でこの組織の維持と高天ヶ原とのやり取りは、国広担当だもんな……うちの山姥切達は、ある意味社畜コンビだぜ」
「長義は、しらんが俺は、そうだろうな」
 自覚があるのならまだいいのだろう。
「姫に頼めば……」
「正雪、姫がやれば高天ヶ原側の事務が仕事を放棄したくなるレベルになるから駄目だ」
「ちなみに旦那もだな」
 国広と薬研は、そういうと溜め息をこぼした。 
 あの夫婦みかけによらず能ある鷹は爪を隠すというのらしい。
「姫は、分かるが……光殿は……」
「姫いわく使いどころを分かっていないと全てを破綻させる男らしい」
 国広は、そういうとスイカを食べた。
「……光殿は、何者なのだ……」
「水神の遣いだよな国広」
「一応」
 正雪は、一応とは、なにかと聞きたかったが、やめておいた。
「そういえば正雪は、短冊になんて書いたんだ??」
 薬研に聞かれ、正雪は、目を伏せると呟いた。
「これは……私の怨念かもしれぬ……願いにして……彼岸……以前は……悪しきものを全て絶つと書いていたかもしれぬ……」
「とんだ願いだなそれだと……」
 正雪は、苦笑いを浮かべると言った。
「しかし今は、違う。今回は、短冊に世よ平らかであれ、平穏であれと……」
 正雪が薬研と国広に見せた短冊には、確かにそうかかれていた。
 正雪らしい願いに二振は、微笑む。
「もう少し自分の事をかいてもよかったんじゃないのか??」
「そうだぞ」
「薬研殿国広殿しかし……あまりそういうのは、よくないかと……強すぎる願いは、呪いになる……」
 心配そうに正雪は、いうので、国広は、言う。
「あんたらしいな。まぁ正雪の願いは、俺達が叶えてやる事も出来そうだ」
「確かに」
 正雪は、少し驚いた。
「そんなことないと思うが……」
「俺達これでも神様だぜ??」
 薬研は、そういうと立ち上がる。
「ちなみに今は、何を願いたい??」
 正雪は、近い薬研に少し驚きつつ言った。
「……スイカを食べるかな」 
「普通だな」
「薬研あまり正雪を困らせるな」
 国広は、そういうと薬研は、すまんと笑って、座った。
 その後正雪も縁側に腰かけ直し、スイカを食べた。 
「なかなか……」
 スイカを気に入ったのか本当に美味しそうに食べる正雪。
 薬研と国広は、それを見ながら、思った。
「正雪は、普通のやつが幸せと気づいてないことも大切にしたいんだろうな」
「……だろうな薬研。正雪にとって普通の当たり前の事が当たり前じゃなかったからな」
 国広の言葉に薬研も確かにとこのとき思った。
「薬研殿?? 国広殿??」
 見られていると首をかしげる正雪に薬研と国広は、言った。
「気にせずに食べてくれ」
「そうそう!!」
「ふむ」
 正雪は、またスイカを食べ、ご満悦。国広と薬研は、そんな彼女をみた天の川を見るのであった。
 少しでも彼女が幸せになりますようにと願いながら。
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