後日談

 寂しそうな顔をしている代理をみるとこちらも悲しくなる。
 正雪のとなりに腰を下ろした国永は、寂しそうな横顔をみていった。
「国広ならじきに帰ってくるぞ」
「うむ……」
 本日国広は、珍しく出陣しており、なおかつ光忠までいないので、正雪は、すこしばかり寂しさを感じていた。
「こりゃ困ったな……」
 とりあえず持っていた飴を国永は、正雪にすすめた。
「ほら」
「国永殿かたじけない」
 飴を貰い口にいれた瞬間何が口の中で弾け、正雪は、驚いた。
 正直痛いと感じたとき、ゴゴゴゴと恐ろしい気配を感じた。
「ほらここへ出せ」
 差し出されたティッシュを受けとり、正雪は、飴を口から出した。
「国広……出陣は??」
 青ざめる国永の視線の先には、出陣から帰ってきた国広がたっていた。
 国永を見下した冷酷な眼差しのまま国広は、柄に手をかけると抜刀した。
「さて……赤く染まって貰おうか……」
「国広落ち着けー!!!」
「なら何故正雪が涙目なんだ??」
 正雪は、アワアワしながら、国広にいう。
「国広殿!! 国永殿は、私をはげまそうとしてくれただけで……」
「……だからって弾ける飴をなにも言わずにあげるか!!」
「それは、驚きを……」
「正雪で求めるな!! 覚悟は、出来てるだろうな??」
 国永は、顔を青ざめると、走り出したが、その後を国広がおい、見事に国永の悲鳴が屋敷に響いた。
「やっぱりやってた」
 出陣していた安定達も帰還し、木に吊り下げられている国永をみながら、いう。
「助けてくれ~安定!!」
「僕国広に目つけられたくないからやめとく」
「なんだそれは!!」
 吊り下げられている国永を心配そうに見ていると正雪。
 安定は、彼女を見ておもう。あの時の国広は、色々ヤバかったと。
「正雪さん」
「安定殿。おかえりなさい」
「今帰りました!!」
 安定から見ても正雪は、儚く頼りのない雰囲気を感じる。しかしその真は、とても強いと彼は、知っている。
「正雪さんその……」
「なんだろうか……」
「国広の事を……」
 困らせないであげてと安定がいいかけたとき、国広が正雪の背後にいた。
「安定なんだ??」
「いえ……」
 安定は、この時思う国広には、とんでもないセンサーでもあるのでは、ないかと。
 正雪が驚かされたり、悲しいと感じてしまうようなことが起こるとき、必ず国広があらわれるのだ。
「安定殿??」
「なにもないよ!! とりあえず国広には、きおつけて!!」
 としかいえない。去っていく安定をみながら、正雪は、首をかしげるが、国広は、ため息をこぼす。
「まったく組織で起こる事件を未然に防いでるだけなんだが……」
「確かにそれは、大切な事だ国広殿」
 国広は、正雪を見ながらおもう。その事件の大半は、正雪関係なのだがと。
「あんたも色々自覚して欲しいものだな」
「む??」
「とりあえず国永は、あのまま吊るしとく。どうせ抜け出せるからな」
 プラプラ揺れている国永は、放置し、国広は、執務室に戻った。
 正雪は、国永のところへ行くと、木に登り縄をはずした。
「ぐへ!!」
「すまない!! その……」
「気にするな正雪……助けてくれてありがとう」
「私に出来ることは、これくらいだから……」
 正雪は、木から降りようとしたとき、ふとバランスを崩しなんと落ちた。 
 なんとか着足したが足に激痛が走る。
「くっ……」
 なんとか心配させまいと、声を出すのを我慢し、た。
「正雪大丈夫か??」
「平気だ……」
「ならいいが……」
 国永は、心配そうにしつつも本人が大丈夫というならそれを信じることにした。
「なら俺は、行くからな」
「分かった」
 国永が屋敷の中に入ると、正雪は、走る激痛に顔を歪める。 
 神経を魔術で冷やし鈍くしたお陰で、国永と居るときは、なんとか平然を装えた。
 草履と足袋を脱ぎ、確認すると右足首が腫れていた。
「……冷やし手当てすればいけるか」
 足袋と草履をはき、魔術で、患部を冷やすと神経に鈍らせ、立ち上がった。
「処置をしなくては……」
 右足を庇い、痛みに耐えながら、正雪は、屋敷の中に。
 草履を脱ぎ、下駄箱に片付け用としたとき、ひょいと誰かに草履を持ち上げられた。
「国広殿……」
「無理は、しなくていい」
「うむ……」
 国広は、草履を下駄箱にしまうと、正雪を横抱きにした。
「国広殿!?」
「国永を助けるのは、いい。だが足を怪我するくらいなら登るな」
「すまない……」
 運ばれながら、正雪は、目を伏せる。
「その手当てをするにも……」
 国広の執務室につくと、正雪は、長椅子に座らされた。
 国広は、救急箱を持つと、机の上におき、そして膝をつく。
「少し痛いだろうが我慢しろ。あと帰ったら旦那に診察してもらえいいな」
「分かった」 
 国広は、湿布を貼ると、包帯とテーピングをつかい、足首を固定した。
「その……かたじけない……私のために……」
 国広は、救急箱を片付けると、正雪の隣に座る。そして彼女の頭を撫でた。
「成長したな」
「成長??」
「すぐ治るから放置をするわけでもなく、しっかりと治療しようと思っていたからだ。それに処置も出来るやつに聞くつもりだったんだろ??」
「それはそうだが……」
「よかった。正雪がそうなったくれて」
 国広がそう言ったとき、慌ただしく国永が来た。両手に薬品を抱えて。
「国広!! これ使えないか!! 正雪の怪我に!!」
 どうやら国永は、正雪の怪我に気付いていたらしく、あの後薬を取りに行っていたようだ。
 国広は、確認するという。
「これ整腸剤だな。こっちは、風邪薬……」
「ならこれは!?」
「ロキソニンか……これなら使えるだろ」
「だが国広ロキソニンは、キツいだろ??」
「胃も荒れるし、場合によっては、粘液べんがでるかもしれないしな……」
「なら石切丸に頼んで祈祷するか!?」
 アワアワしている国永となにやら悩んでいる国広に正雪は、ポカーンとしていた。
「それより薬のめるのか?? たまが大きくないだろうか……」
「なら国広ゼリーで包むか?? 短刀が薬飲む時にしてるみたいにさ!!」
「だな」
 なにやら凄いことになってきた。正雪は、国広の服を引っ張りいった。
「それくらい、飲める!!」
「飲み込めないと苦いぞ??」
「大丈夫だ」
「なら甘いもの食べてからだな」
「甘いもの??」
「よし!! 光坊に言ってくる!!」
 国永がいなくなり、しばらくして光忠と戻ってくると、光忠は、心配そうに正雪を見ていた。
「正雪さん足痛くない??」
「……少しだけ痛むが問題ない」
「これは……鶴さん僕いっぱいマドレーヌ持ってきたから!!」
 ドンと机の上に置かれたマドレーヌに正雪は、きょとんとしてしまった。
「うむ??」
「正雪さんほら、食べて!!」
「かたじけない……」
 なんだろう。皆が変な方向に突っ走っている気がする。
 マドレーヌを一つ食べ終え、満足していると、光忠は、心配そうに見ていた。
「もしかして食欲が……」
「光忠殿ある」
「ならいいんだけど!! もっといるかい?? 次は、クッキーかな??」
 正雪は、状況が理解できず、一先ず顔を横にふると、光忠は、悲しそうに微笑む。
「そっか……」
「光坊クッキーなら俺が食べるぞ!!」
「鶴さんは、マドレーヌで我慢して!! 僕は、正雪さんに聞いてるんだ!!」
 マドレーヌを食べる国広をみながら、困った顔を正雪は、してしまった。
「うむ……私が原因で……」
「あんたは、原因じゃないだろ」
 国広は、そう言うが彼の手には、半分に割られたマドレーヌが。
 一つを正雪の口元に持っていくと、彼女は、反射的に食べてしまった。
「む!?」
「……なるほど」
 もう少し食べさせなければと国広も思っていたようだ。
 まずいこのままだと、正雪がそう思ったとき、執務室に光が。
「旦那!?」
「患者を保護しに来た」
 光は、そう言うとそのまえにといい、国広達を席座させ、説教をする。
「まったく!! 過保護もほどほどにしろ!!」
 説教された三振は、すみませんというと、説教は、終わった。
「光殿その私にも……責任が……」
「正雪には、ないぞ。問題は、国広達の心配性だ」
「旦那正雪は、けっこう危なっかしぞ」
「国広分かるがそれでも限度がある!!」
 光忠は、台所に国永は、用事をしに執務室を離れ、今は、光と国広そして正雪だけがいた。
「……次から気をつける」
「そうか」
 しかし光は、知っている。それがなかなか難しいことを。
「さて正雪足を診るぞ」
「承った」
 光は、そういうと足を診察し、きっちり手当てをする。
「捻挫だな」
「そうだったか」
「国広の手当ては、あれでよかった」
 国広は、ホッとした顔をすると、正雪も少し安心した。
「ありがとう光殿」
「いえいえ」
 光は、微笑むと、立ち上がる。
「じゃ俺は、これで」
「旦那連れて帰らないのか??」
 光は、あきれたかおをする。
「連れ帰ったら国広落ち込むだろ??」
「え??」
「なぁ!?」
 光は、そういうと帰っていった。
 正雪は、信じられないと言う顔で国広をみた。すると、彼は、ほほを赤く染め、視線をそらした。
「そんなに見るな!!」
「国広殿……貴殿は、きれいだな……」
「きれいって言うな!!」
「その心がという意味なのだが……」
「五月蝿い!! とりあえずあんたは、そこに座って休んでろ!!」
 国広は、そう言うと仕事をまたしだし、正雪は、ちょこんと座っとくことにした。
 マドレーヌを食べながら、正雪は思う、普段しっかりし、頼りがいのある国広でも取り乱すことがあるのだと。
「これは……ある意味可愛いというやつ……??」
「可愛いのは、正雪の方だが??」
 不意に一撃くらわされ、正雪は、アワアワし、顔を伏せた。
「国広殿!! それは!!」
「事実だろ。姫は、別としてあんたもなかなかきれいだし、愛らしさがあると俺は、思う」
 顔を赤くし、長椅子で小さくなる正雪を見てかれは、笑う。
 国広は、すこしばかり仕返しをしたのだ。
「うぬ……」
「とりあえずカフェラテをいれてやるからそれでも飲んでてくれ」
 甘いカフェラテをいれられ正雪は、飲みながら、思う。もしかして国広は、相当過保護なのでは、ないかと。
「分からぬ……」
「味がか?? ふむ……亜鉛は、どこにあったか……」
「味は、分かるから亜鉛は、要らん!!」
「そうか」
 国広は、また仕事を始めたが、正雪は、自分は、そんなに過保護にされるような者では、ないと思いながら、甘いカフェラテを飲むのであった。少し苦味もあり、今の彼女の心情を表すかのような味もしながら。
 
 
  
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