後日談

「おはぎか??」
 台所で茹で小豆と炊かれた餅米を見ながら、正雪は、首をかしげていた。
「今日のお茶請けにね!!」
 そういえば今日は、会議があると国広が今朝言っていたことを正雪は、思い出す。
 何時ものように屋敷を訪れ、彼女は、真っ先に国広の所へ行く。その時に彼は、言っていた。
「軍部会議があるから。すまんがあんたをあまり守れない。何があるか分からないから、光忠の所に居てくれ」
 と。この組織の刀剣男士達は、基本優しいが、鯰尾藤四郎と鶴丸国永の二振が少し悪好きなのだ。
 鶴丸国永と彼だけの時は、正雪を孫のように可愛がるが、鯰尾と絡むとなると、悪戯に全力をかけてくる。その事もあり、標的にならぬよう国広が何時も牽制をしている。
「了解した。でも会議に私がでなくてもいいのか?? その……代理をする時も少なからずあるし……」
「まぁ大丈夫だろ。それに今回は、天照が絡む会議だ。オモヒカネ殿やその他高天ヶ原の神々が出てくるから、あんたがいると事件になりかねない」
「というと……」
「基本高天ヶ原の神々は、ナカツクニの神、人、あやかしがここに入ることを嫌うからな」
 正雪は、驚いた顔をしたが、ふにおちたところもあった。
「なるほど……」
「すまないが、光忠の所で菓子でも食べててくれ」
 国広は、そういうと執務室をでていったが、正雪は、何故菓子なのかと考えた。とりあえず光忠の所に行くと答えは、目の前にあった。
「正雪さんは、半殺しと皆殺しどっちがいいかな??」
 一瞬物騒だなと思ったが、駿府に居たこともある正雪は、すぐにおはぎの事と理解できた。
「半殺しでは、米の存在感があっていいが……皆殺しも捨てがたい……」
「小豆は、こし餡にするつもりなんだけど……」
「ふむ。なら半殺しでどうだろうか。米粒の存在があり、食間としてもいいと思う」
「ならそうしようかな」
「私も手伝っていいか??」
「もちろん!!」
 念のためにも持った来ていた割烹着に腕を正雪は、通すと、光忠の指示のもと、おはぎ作りをはじめた。
「あつ!!」
「きおつけてね!!」
「うむ……」
 やはり料理とは、難しい。生前もしたことは、あっても女給に任せていたところもある。
 なにより食に関しては、とんと薄い正雪にとっては、どれも新鮮なものと言える。
「……出来た」
「なかなか綺麗だね」
 初心者にしては、綺麗に丸められた。もしかすりと手先が器用なのかもしれない。
「正雪さんもしかして手先が器用なのかな??」
「私は、武骨とのゆえ……それほどでは、ない……これも手習い程度のもの……」
「手習いって凄く綺麗だからこんなことないよ!!」
「そうなのか??」
「そうだよ!!」
 嬉しそうに笑った正雪をみて、光忠は、後で何か特別に菓子を作って上げようと心に決めた。
 餅米を丸め、あんこで包み出来上がったおはぎ。
 正雪は、お重に入れられるおはぎを見ていると、光忠に言われた。
「後で食べよう!!」
「そんなに物欲しそうにみえただろうか……」
「女の子は、甘いものが好きだからね!!」
 正雪は、恥ずかしそうに頬を染めると、目を伏せた。
「さて会議室に持っていこうかな」
「私も共に……」
 手伝えることは、したいと正雪は、思い言うと、光忠は、悩ましげな顔に。
「うーん」
 その格好だと人としてばれてしまうかもしれない。ならどかすべきか。
 この時光忠は、あることを思い付いた。
「そうだ!!」
「む??」
「正雪さんちょっといいかな??」
 正雪は、光忠のあつに頷くことしか出来なかった。その後別室に連れていかれ、着替えさせられた。
「光忠殿これは……」
「屋敷に仕えるメイドさんってところかな!! これならあやしまれないよ!!」
 上等もの、浅葱色の着物に、白いエプロンを着けた正雪は、困った顔をしていた。
「うむ……」
「女性ものの着物姿も凄く可愛いね!! 旦那君がよく我慢できてるねぇ……」
 光は、無類の可愛いもの好きで、正雪の可愛さに気づいてるはずだ。それなのに可愛い格好をさせないのは、何故だろうか。
「光殿には……その……私が着やすいものおと……」
「正雪さんの意思尊重ということか……光君がコーデしたら、もっと可愛くなると僕は、思うなぁ……」
「さようか……」
 ますます光という人物が正雪は、分からなくなってきた。
「能ある鷹は爪を隠すというが……光殿に関しては、まったく分からない……」
「光君は、優しくて強い人かな!!」
「強い人……」
「姫を止められる唯一の存在だしね……その時点で実力は、計り知れないよ」
 やはり分からないなと正雪は、思いながら、色々思い出していた。
「さて行こうか!!」
「了承した」
 お重とティーセットを乗せたカートを押しながら、光忠と正雪は、会議室に。
 ノックをし、入ると、ちょうど休憩中だった。
 中には、清浄な空気がみち、見る限り神々しい者達が集っている。
 国広と目が合いホッとしたのもつかのま。正雪と光忠は、いそいそとかく席におはぎを運びと茶を運び、会議室をでた。
「緊張した……」
「そりゃあれだけの神々が揃ってたらね」
 光忠は、そういうとカートを押し歩き出す。正雪も歩き出したとき、会議室の扉が開いた。
「そこの女性少し待って!!」
 ふりかえると和服のゆるふらなボブヘアの女性がたっていた。
 彼女は、正雪の所へ来ると、じっと着物を見る。
「その着物どこで……」
「借りたもので……」
「そうだったんですね」
 女性は、ホッとすると微笑む。
「友美に対価として渡したものを貴女が着ていて少し驚いたんです。ごめんなさい」
「姫を知っている……??」
「はい。私は、霞ノ神子です。今回は、神として会議に出てるんですけどね」
「霞ノ神子といえば、薬問屋の勇音さんかい??」
 光忠も驚いた顔をしているところを見ると、彼らも初対面だったようだ。
「はい」
「まさかここで……」
「私は、生まれも育ちも高天ヶ原ですから。今は、ナカツクニに住んでますけど」
 正雪が不思議そうに勇音を見ていると彼女と目があった。
「また会えると思います。その時は、よろしくお願いいたしますね」
 勇音は、そういうと頭を下げ部屋に戻っていった。
「正雪さんすごいよ!!」
「なにが……」
「他の神子に会えることじたい珍しい事なんだ!!」
 そうなのかと正雪は、思いながら会議室を見ていた。
「……生前は、神になど会えなかったのに……今になり会えるとは、不思議なことだな」
「そうかもね」
 光忠と正雪は、台所に戻ると、片付けをした。
「正雪さん食べたいものあるかい??」
「甘味でだろうか??」
「そう!!」
 正雪は、ふと主の顔が思い浮かんだ。
「いちご大福……をお願いしても??」
「あんこも残ってるしいいね!!」
 光忠は、そういうと今度は、白玉粉を出してきて、作り出し、正雪も割烹着をきて、手伝った。 
「いちご大福といえば、小豆か色いんげんかで分かれるよね!!」
「確か普通のあんこか白餡かだっただろうか」
「そう!! 僕は、普通のあんこを使うけど、旦那君は、白餡なんだよね!!」
 正雪は、そういえばと思い出していた。
「光殿のこだわりだろか」
「かもしれないね」
 どうやら光忠も聞いたことがないらしい。白玉粉で作った皮に、あんこと苺を包んでいく。
 全て包み終えると、美味しそうな苺大福ができた。
 後片付けをし、緑茶を入れると、光忠と正雪は、椅子に座り、食べはじめた。
「うまい」
「それは、よかった」
 いちご大福と緑茶のハーモニーは、なかなかいい。 
 正雪は、美味しそうにいちご大福を食べると、ハッとする。
「おはぎを忘れていた……」
「正雪さんお菓子の事になると食事の時より色々気づくね!!」
「そういえば……」
 おはぎも光忠は、出すという。
「好きなものがあるのは、いいことだよ!!」
「うむ……だが最近その……体重が……」
「それは、いいことだよ!! 元から細すぎるからね!!」
「蛍殿にも言われた……」
「蛍君は、はっきり言うからね」
「かもしれぬ」
 おはぎといちご大福に舌鼓を打っていると、台所に誰かきた。
「光忠」
 やって来たのは、どうやら会議の終わった国広だった。
「国広君お疲れさま!!」
「ありがとう」
「で会議の方は、どうだった??」
「つつがなく終わった。それと天照大神からあの女中を私専属にして!! と言われたが、断っておいた」
 光忠は、まさかの効果に少し苦笑い。
「天照様……あはは……」
「本当に可愛いものに目がない。困った総氏神だ」
 話を聞いていた正雪は、少しでも役に立てるならと申し出ようとしたが、国広に睨まれる。
「二度と姫に会えなくなるぞ??」
「うむ!?」
「正雪さん僕もおすすめは、しないかな……天照様って色々大変だから……」
「女中をするなら白野威様の方がよほどましだ。あの方は、基本ずぼらだが、天照大神より確りしてる」
「まぁ姫見てると思うよねー」
 白野威の事を思い出し、正雪も確かにと思えた。
「私は、あまり話したことがない……白野威様とは……」
「話す機会なんて何時でもあるさ」
 この声はと二振と一人は、視線を下げると狼が座っていた。
「白野威様!?」
「いちご大福とおはぎおくれー」
 国広達は、ポカーンとしてしまった。
「まさか……それだけのためにここへ来たのか!!?? 白野威様!!」
 国広は、驚き聞くと、白野威は、頷く。
「当たり前さ!! 食のためならなんのその!!」
「白野威様らしいね!!」
「そうなのか……」
 天照の方が神らしいく見えるが、国広達からすれば白野威の方がいいらしい。 
 不思議そうに白野威を正雪は、見ていると、気づけば目の前に白野威がいた。
「む!?」
「じー」
「何でしょう……」
「いちご大福ー」 
 正雪は、いちご大福を白野威にあげると、彼女は、満足そうに食べた。
「小豆のあんこもいいねぇー」
「……あんたあまり正雪を困らせないでくれ」
「困らせてないさ。天照と一緒にするなつうのー」
 白野威は、そういうと、正雪の足元に座った。
 ふわふわの毛が足にあたり、正雪は、撫でたいと思ってしまった。
「少しならいいよ」
「かたじけない!!」
 白野威の頭を撫でるとその毛並みのよさに思わず顔がほころぶ。
「正雪さんいいなぁ……」
「光忠は、撫ですぎて禁止と言われてたな」
「そう!! 白野威様本当に気持ちいいから……」
 光忠のうらやましそうな視線に正雪は、少し申し訳なさそうな顔に。
「自業自得さ。気にしなくていいよー正雪」
「うむ……」
 だとしても気になる。正雪は、困った顔をすると、白野威は、立ち上がった。
「おはぎ!!」
「分かったよ白野威様」
 光忠は、おはぎをつめたパックを袋にいれ、白野威に渡すと、白野威は、人の姿に。
「いちご大福とおはぎあとそこの女中貰っていくから!!」
「えっ!!??」
「うむ!!??」
 ひょいと担がれ、正雪が困惑してる間に白野威は、いちご大福、おはぎそして正雪を持ち、走り去ってしまった。
「なぁ!!」
「国広君追いかけるかい!!」
「いや……あの方となら安心だが……本当に神らしくない……」
「本当だね」
 だからこそ、白野威は、親しみやすいとも言える。なにより、あれが彼女のスタンスだ。
 二匹の狐が正雪の荷物をもって走りぬける。
「姫の式神だ……」
「まさか裏で姫が??」
「わからん」
 真意を知るのは、白野威だけだ。
 国広と光忠が次来たときに、正雪に話を聞こうと話していた頃、正雪は、花畑に来ていた。
「ここは……」
「ある神の作った花畑さ」
 白野威は、正雪のとなりに座り、おはぎを食べながら言った。
「ほい」
「ありがとうございます」
 差し出され、おはぎを正雪は、取ると、食べた。
「なぜ私を……」
「天照襲来しそうだったからさ。あいつ可愛いものには、目がなくて、神域に閉じ込めそうだしねぇー」
「……姫の式なのに??」
「関係ないよ。私は、そんな趣味ないから知らんけど~」
 白野威は、いちご大福を食べる。
「白野威様その……」
「なに」
「その……」
「そういえば友美が正雪のその姿みたいって言ってたよ」
「姫が??」
「気が向いたらでいいから見てせやってよ。似合ってるし」
「ありがとうございます」
 白野威は、いちご大福も食べ終えると、寝転ぶ。
「白野威様!?」
「気にしない~気にしない~」
 しばらくすると白野威は、寝てしまった。
 正雪は、よくないと思いつつも横になると、広がる青い空と心地のよい風に、気持ちよさを感じた。
「これは……なかなか……」
 本当に神らしくない神。しかし正雪も天照よりも白野威の方が仲良くなれそうな気がした。
「……少しくらいならいいかな」
 帰るにも白野威に何とかしてもらわなくてはいけない。
 正雪は、目蓋を閉じると昼寝をはじめた。心地よい風、暖かな日差しを感じながら。

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