代理審神者

 この不思議な本丸にきて、二日目。朝から与えられた部屋で着替えを済ませ、正雪は、道場にやって来ていた。
 身体の鍛練には、道場で鍛練をまずしよう。そう思いたち、やって来たがすでに先客がいた。
「オラオラ!!」
「首落ちて死ね!!」
 物騒な言葉が聞こえ、正雪は、思わず歩みを止めた。
「あんた、代理主じゃねぇーか!!」
 そんな彼女の背後から声が聞こえ、ふりかえると、兼定がいた。
「貴殿は……」
「俺は、カッコよくてつよーい和泉守兼定だ」
「兼定殿……」 
 彼も稽古し来たのかと正雪が思っていると、兼定は、なにか言いたげに正雪を見下ろしていた。
「あんたも稽古か??」
「あぁ……素振りでもしようかと……」
「素振りねぇ……なら試合をしようじゃねぇか」
「えっ??」
「あんた一応武士だろ??」
「あぁ……」
 由井家に預けられ、武士として育てられ、刀の心得は、あるが相手は、刀剣の付喪神だ。
 正雪は、自分が相手にはたしてなるのかと考えていたが、兼定に手をつかまれた。
「国広もこれは、怒らないだろ!! ほらいくぞ!!」
「えっ!? ちょっと!!」
 やはり軽い。だからといって甘くみていい相手じゃない。
 あの主が代理としてよこした人材だ。ある程度の強さがなければここへは、寄越さないだろう。
 兼定は、道場に入ると、安定と清光が兼定に引っ張られてきた正雪をみて、顔を青ざめた。
「兼さんなにしてるの!!」
「国広に怒られるよそれ」
「そんなこと……」
 ないといいかけた時、兼定の頭になんと、刀の鞘がクリンヒットし、兼定は、床に顔面から倒れた。
「兼定殿!?」
「ほらー」
「言わんこっちゃない」
 鞘が飛んできた方を正雪は、見たが、そこには、美しい日本庭園が広がるのみ。
「何処から……」
「たぶん自室からだよ。代理主」
 安定は、兼定を部屋のすみに運びがら言う。
「この本丸で一番女性扱いに五月蝿いの国広だからねぇ」
 清光は、そう言うと刀の鞘を部屋はしに置いた。
「国広殿は、そんなに……」
「まぁ色々あってねこの本丸も」
「そうそう。代理主は、会うか分からないけど」
 手拭いで汗を拭い安定と清光は、言う。
「で代理主は、どうしてここに??」
「剣の鍛練をと……」
 安定に正雪は、答えると、木刀を清光から渡された。
「なら相手してくれる??」
「何時も清光とやってるから飽きてきてるしねぇ……」
 正雪は、頷くと、指定の位置へ。 
 清光も木刀をかまえると、しばらく沈黙が落ちた。
 爽やかな朝の風が道場に吹くなか、先に動いたのは、正雪だった。
 身軽なのは、けっしてふりでは、ない。筋力がなくとま、俊敏さでそれをカバーすることが出来る。
 正雪の剣は、まさにそうであった。
 清光は、打ち込まれた木刀を木刀で受け止めたが、次の瞬間には、胴に剣筋が入ってきていた。
「おっと!! 代理主なかなか!!」
「清光殿こそ!!」
 女性だからと甘くみては、いけないと、主からいたいほど痛感させられた。
 鈍い木刀が打ち合う音が響くなか、安定は、清光と正雪の試合を息をのみ見ていた。
「安定さん」
「石切丸さん」
 石切丸がどうやら、木刀の打ち合う音をききやって来たらしい。
 正雪と清光の試合をみておーと声が漏れた。
「これは、なかなか……」
「代理主凄いよね」
「これは、皆から試合を申し込まれそうだね」
 気迫溢れる試合を繰り広げる清光と正雪しかし次の瞬間木刀が宙をまい落ちた。
「そこまで!!」
 木刀の落としたのは、なんと清光だった。
まさか木刀を手から振り落とされとは、清光は、満足げな顔をすると手を差し出した。
「ありがとう代理主」
 正雪は、その手をとると、頷く。
「こちらこそ」
 試合が終わり、正雪が持ってきていた手拭いで汗を拭いたとき、寝ていた兼定が、目を覚ました。
「兼さん起きたんだね」
「石切丸……そうだ!! 代理主は!?」
 慌てておきる兼定に石切丸は、苦笑いしつつもいった。
「先程清光さんと試合をし終えたところだ。凄い気迫を感じられた試合だったよ」
 兼定は、悔しそうな顔をすると正雪のところへ。
「代理主次は、俺と練習試合だ!!」
 正雪は、少し疲れているが問題ないと判断し、せっかくの申し込みを受けようとしたが、今度は、兼定の首根っこを掴む人物が。
 兼定は、その人物の殺気を感じる顔を青ざめた。
「国広……」
「そんなに試合をしたいなら俺が相手になってる」
「えっ!!??」
 正雪は、目の前で起こる光景に困惑していると、安定と清光に手招きされた。
「正雪さんこっち!!」
「危ないから!!」
「分かった」
 正雪は、道場の隅でちょこんと座ったとたん、国広と兼定の練習試合が始まったが、兼定は、瞬殺された。
 ガタンとおちる木刀と座り込む兼定。
 国広は、涼しげな顔で兼定を見下ろすと、すぐに正雪に目を向けた。
「正雪」
 低き声でなを呼ばれ、正雪に緊張感が走る。
「国広殿……」
 正雪の、前に国広は、来ると、腰を下ろした。
「湯浴みしてこい」
「うむ??」
 まさかの言葉に正雪は、少し驚く。
「確かに代理主汗だく……」
「正雪さん俺達も後で汗流しにいくからはやく行ってきて」
「なら言葉に甘えて……」
 正雪は、そう言うと立ち上がり、道場を後にした。
「……そんなに臭いだろうか」
 確かに汗は、かいたが、拭けばいいだけでは、正雪は、思った。
 とりあえず部屋に戻り、着替えを持つと、湯浴みをしに、風呂へ。
 この屋敷には、男女別に風呂があり、正雪は、昨夜案内された女湯にきた。
 皆がいる区画から何故か離れたところにある女湯。正雪は、その事を少しは、不思議に思っていた。
 風呂場に行く廊下は、さらに別の区画へと繋がっているようで昨晩案内してくれた清麿があちらは、行かない方だいいとだけ教えてくれた。
 着物を脱ぎ、浴室に入る。ここは、室内と露天に風呂があり、どちらも温泉だ。
 作り物豪華で正雪は、正直少し居心地が悪かった。
「……これは、豪華すぎるな……」
 将軍家ならこれも普通なのかもしれないと、思いつつも汗を流し、体を洗い終え、今回は、露天の方に行こうと、露天風呂に行く扉を開けたとき、なんと先客が露天風呂に使っていた。
 美しい黒髪にアメジストの瞳。そしてなにより気配からしてただ者では、ないと分かる。
 気配に圧倒され、正雪は、立ち尽くしていると、女性は、正雪をみて、パッと明るい顔に。
 露天風呂から出ると、なんと正雪に抱きついた。
「はっ!!??」
「貴女が由井正雪ちゃんねーー!!!!!!」
 突然の出来事に正雪は、驚くが、女性は、おかまいなしに、正雪の頭を撫でる。
「本当に可愛いー!!!!」
「あの……」
「ごめんなさい!! ついつい」
 女性は、正雪から離れると、湯船に浸かり直した。
「貴女は……」
 とりあえず深呼吸し、己を落ち着かせると、正雪は、きいた。
「私は、天照よ」
「天照……天照!?」
 まさかの日輪の神との遭遇に正雪は、頭を下げたが、天照は、その反応に困ってしまった。
「日ノ本の神に失礼なことを」
「頭あげて!! 失礼なことをしたのは、私の方よ!!」
「ですが……」
「いいから!! とりあえず浸かって!!」
 言われたとおりに、正雪かけゆをし、露天風呂に浸かる。
「落ち着いた??」
「少しは……」
 生前は、思いもしなかった。自分が天照大神と出会い同じ湯に浸かるなんて。
「今回は、ありがとう!! 友美から話しは、聞いてるわ」
「姫から……」
 主の上司なのだから話を聞いていてもおかしくは、ない。
 やはり神子とは、凄いなと思っていると、天照は、なにか言いたげだ。 
「ちなみに……私は、友美の育ての親なの……上司では、ないわ」
「うむ!?」
「友美の上司は、傍らに寝てた狼……」
 そういえば主のそばには、狼が何時もいたが、あちらの方なのかと正雪は、驚いた。しかしそうなると色々つじつまが合わなくなってくる。
「……となると、姫は、誰のつかいなんだ……」
「友美は、間違いなく日輪の神天照のつかいよ。でも二代目の私では、なく正真正銘天照のね」
「……となると、天照が二柱いることに」
「それであってるわ。色々あって二柱いるから。でも私は、あくまも臨時の天照だったのだけど、初代様が戻りたくないと……なので私が二代目として今に至るわ」
 初耳な事が多すぎて、正雪は、主に色々先に話してくれと心のなかで叫んでいた。
「さて私は、もうあがるわね。あとでまたお茶しましょう正雪ちゃん」
 天照は、そういうと正雪に挨拶をし、風呂を出ていった。
「……ここが豪華な理由……も分かったが……あの廊下の先は、天照様の住居……ということは、ここは、……高天ヶ原だったのか……」
 正雪は、色々不思議に思っていたことが一気に解決し、頭が追い付かなくなっていた。
「一先ず姫に会わなくては」
 正雪は、そう言うと、風呂から出て、着替えたのち、国広のところへ。
「国広殿!!」
 部屋にやってきた正雪に驚きもせず、国広は、彼女が話し出すのを待った。
「ここからその出てもいいか??」
「当たり前だろ。ここは、監獄じゃない」
「その……ナカツクニに行っても……」
「問題ない。姫に会うなら姫にこれを渡してくれ」
 国広は、もしかすると、予感していたのかもしれない。正雪の行動を。
 文まで渡され、正雪は、困惑していた。
「国広殿その……」
「朝餉は、食べていくんだろ??」
「一応……」
「なら昼までに帰ってくるか??」
「話の流れ次第では」
 いったい国広は、なにを確認しているのか。この流れでは、自分を追い出すことも出きるのに。
 正雪は、そんなことを考えていると、国広は、いった。
「姫は、あんたが、思ってる人物じゃない。基本説明を省く癖があるが、それは、姫なりの優しさだ」
「……優しさ」 
「さわる神に祟りなし。知らない方がそいつが力を出せると思ったら、姫は、話さないし、話した方がいいと判断したら、話す」
「そうなのか」
「正雪が何を確認しに戻るかは、分からないが、少なくとも姫のことを知るいい機会だ。俺は、ここで待っている。あんたが、辛くして悲しい思いをしたら、俺にいえ。姫に説教するから」
 正雪は、分かりにくいが、国広の優しさに心があたたかくなった。
 目を伏せ頷くと、いった。 
「ありがとう」 
 朝餉を食べ、何故か光忠に弁当をもたらせ正雪は、主のもとに向かった。

 パソコンを開きら仕事をしていると友美は、ある気配に気付き、リビングの入り口をみた。
 総髪の武士がたっていたので、友美は、微笑む。
「おかえりなさい正雪」
「ただいま帰りました姫」
 緊張した面持ちの正雪に友美は、彼女の持っている物の話をふることにした。
「それもしかして光忠のお弁当??」
 正雪は、頷くと、友美は、嬉しそうにお弁当の入った風呂敷を正雪の手からとり、ダイニングテーブルにのせた。 
「正雪私に聞きたいことがあるのよね」
 友美は、パソコンの電源を落とすと、正雪に言う。
 主についてまだまだ謎が多い。だが正雪は、はじめから感じていたことがあった。それは、友美は、全てを見通しているということだ。
 今回も正雪の口から聞きたいと話しやすいようにふってくれたのだろう。
 正雪は、友美の前に座ると緊張した面持ちで話を始めた。
「姫私が……体を持っているというのは、本当なのか……??」
 友美は、静かに頷く。
「えぇ」
「なら姫天照大神が二柱居ることや、高天ヶ原に私を送り出したことも……」
「全て偽りないわ」 
 全て本当だった。さらに正雪は、友美に問う。
「……なら何故私に体を与えた。魔力で偽りとは、いえ肉体を作れる私に……」
「それは、貴女に幸せになって欲しいからかしら」
 友美の答えに正雪は、驚いた。
「姫それは……」
「そのままの意味よ。私ね生前に自分のために生きなくて、理想を追い求めた者を見ると思っちゃうの。当たり前の幸せを知って欲しいって」
 正雪は、ヒヤリと背筋に刃を当てられた感覚に襲われた。たぶん友美は、全てを知っている。
 契約したときに知ったのでは、なくその前から、由井正雪の全てを知っている。
「姫……貴女は……私が……」
「知ってるわ。だから余計によ。私ね貴女を創ったやつのこと大嫌いなの」
 友美は、冷たい声色でいうと、正雪をみた。
「だから生前貴女が創造主の想いもあってその意思とともに理想を追い求めたこと。そしてその理想が貴女の願いであり、悲願だったこと……全て知ってるわ。だからこそ、今度は、そんな重荷なしに、人として当たり前の幸せを味わって欲しいと思ったの」
 友美は、そう話したあと続けていった。
「もし違ってたらごめんなさい!! ほら人それぞれ価値観があるもの。あと私は、貴女の追い求めた理想、悲願は、素敵だと思ってるわ」 
 正雪は、目を伏せる。国広が主は、優しいといった理由は、これなのかもしれない。 
「姫……」
「はい」
「貴殿は、もう少し詳しく話をした方がいい」
 友美は、困った顔をするが、正雪は、そんな、主にさらに言った。
「詳しく話してくれないと気付けないこともある!! 例えば姫の気遣いだったり想いだ!!」
「でも、話す必要は……」
「私には、あった!! 正直体を与えられたあげく、あそこに送り込まれたら何を姫は、考えているのかけんとうがつかさなすぎる」
「確かに……」
「あと天照大神の件といい色々規格外で頭の処理が追いつかない」
「それもそうね……」
「だから私には、話して欲しい」
「ごめんなさい。これからは、そうするわね」
 正雪は、微笑むとそういえばと思い出したように懐から文を取り出した。
「これを国広殿から預かってきたんだ」
「国広から」
 友美は、文を受けとり、読むと苦笑いを浮かべる。
「国広にも詳しく説明をしろと怒られたわ……」
「国広殿は、世話焼きなのか??」
「まぁ世話焼きね」
 友美は、そういうと文を片付けた。
「一先ず本丸の件は、国広から説明が全てよ」
 正雪は、頷くが、何故か主からの視線が気になった。
「姫??」
「国広が世話を焼きたくなる気持ち分かるわ……」
 友美は、そう呟くと、正雪を抱き締めた。
「姫!?」
「本当に守りたくなるのよねぇ……」
 友美は、正雪から離れると、言った。
「正雪もう帰ってきなさい!!」
「姫それは……」
「本丸に泊まらないで通って!! 心配なのよ。皆大丈夫だろうけど、横暴なのやら驚きを求めるのがいるから!!」
 任務遂行をやめろと言うことかと思いきや違い少しだけ正雪は、ほっとしていた。
「そうなのか……」
「そうなの!! その辺りも国広とまた打ち合わせね」
 この時国広の姿と友美の姿が重なって見えた。
 なるほど。主により英霊もまた変わるように刀剣も同じようだ。
「ふふふ」
「正雪??」
「いや。姫も世話焼きだなと思って」
 友美は、目を細めると言った。
「そりゃ可愛い正雪の為ですもの」
「なら私も姫の期待に答えなくては」
「……無理しなくていいからね!?」
「分かっているとも」
「本当かしら……」 
 なんだろう。この心配にかる感じは、友美は、文に国広があいつは、心配でならんと、書いていたことを思い出した。 
 これもまた正雪の魅力なのだろうか。そう思いながら、頑張るとはりきる正雪をみて友美は、困ったように笑うのであった。
 本当になにか対策しなくてはこのままでは、鶴丸国永の餌食になってしまうと思いながら。 
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