日常編2

 暑い。正秀は、そう思っていた。蔓に足首を取られ、今は、逆さに吊られ、宙ぶらりん状態だ。
 頭に血がのぼる。確か人の体は、この状態でもってニ、三時間だ。
 いくら付喪神といえ影響は、間違いなく出る。
「うぅ……逆さ吊りにされ……刀剣破損……なんて……間抜けなことになりたくない……」
 しかし自分は、今まさにその状況になろうとしている。
 誰か助けてくれと思ったとい、正秀は、気づいた、結界が解かれたことに。そして次の瞬間凄い衝撃を感じた。
「うわぁぁぁぁー!!!!!!」
 蔦のお陰で、遠心力がかかり、回る、揺れる。
 気持ち悪いそう思ったとき、見えた。友美が雑草に蹴りを入れているのを。
「おらぁ!!!!」
 雑草は、大きな巨体が仇になり、避けれず、友美の蹴りを受ける。そして正秀は、また激しく揺れた。
「光!!」
 見えた。友美は、光に声をかけると、友美よりはるか後ろで、光は、弓矢を構えた。
 そして照準を合わせ矢を射る。矢は、真っ直ぐに翔ぶ。雑草に辺りかけ、消えた。
「消えた……」
 清麿がそう呟いたとき、矢は、表れ、正秀を射貫いた。
 射貫かれた正秀は、驚く暇もなく、消えた。
「水心子!!」
 まさか彼は、死んだのか。清麿は、そう思い思わず叫ぶと、念頭で声が。
「狼狽えるな!! 清麿殿!!!」
 正雪の声に清麿は、集中する。
「ありがとう正雪さん」
「今は、姫と光殿を信じよう」
 正雪も狼狽えかけた。だが見えた。国広が顔色ひとつ変えずに結界を強めているのが。
 彼がそうなら大丈夫。そう言い聞かせ、正雪も結界の維持に集中することが出来た。
 結界が更に強くなったのを友美は、感じ、光が狙いやすいように、雑草に蹴りをいれていく。
「それ!!!」
 雑草は、友美に蔓を向けるが、友美は、軽く避ける。
 大きい図体に俊敏に動く彼女は、鬱陶しい存在だ。
 友美は、雑草の体を足場に、高く跳び上がると、更に蹴りを入れた。
「見せろ!!!!!」
 雑草は、蹴りに負け倒れるが、他の雑草が襲いに。
 友美は、空中で器用に避けると、地面に。
そしてまた走り回る。
「あそこか……」
 走りながら、状況を把握し、友美は、光に送っていた雑草達の力の源を。
 弓矢を構え、光は、目に力を集中させた。
(目が霞む……痛い……やはり……この体では、限界が……)
 友美のように力を行使しない理由は、器の違いにあった。
 友美は、必然的に天之御中主神の血筋に産まれた。そのお陰で、力を行使しても耐えられる器を持つ。しかし光は、違う。
 彼は、ある契りにより、異界に産まれることになった。この世界の者だとしても。
 そのお陰で器は、普通の人間だ。いくら神子となり器が強化されようとも限界がある。
「くっ……」
 眩む視界に光は、眉間に力を込め耐える。
 照準を合わせ、矢を放とうとしたとき、また意識が遠退いた。
「変われ。俺がやろう」
 光は、消え行く意識の中声の主に頼むといい意識を手放した。
 声の主は、困ったように笑う。
「これまた凄いな……」
 靡く長い青みを帯びた銀髪が動いた。
 放たれた矢は、射貫いた。雑草の力の元を。
 暴れる雑草の攻撃を避けながら、友美は、光を見た。
 友美は、切なく瞳を揺らす。
「……ごめん」
 そう呟くと友美は、その場をなれる。しかしその時見つけてしまった。
 まだある雑草の力の元が。さすがにもう頼めない。彼には。
 友美は、いざというときは、全て直す。そう覚悟を決め、蒼く美しい光を帯びた弓矢を出した。
 その光景を見ていた国広、清麿、正雪は、その弓矢から放たれる力の気配に動けなかった。
「あれは……太古の神秘……か??」
「何あれ……」
「姫……」
 国広だけが何かを察していた。そして遠くからそれを見ていた声の主は、目を見開いていた。
「……夢珠よ……それを使うか……」
 意味ありげに声の主は、言うと、微笑む。
「大切なものを守るために戦う姫は、ほんに美しい」
 声の主がそういうなか、友美は、弓矢を構える。
 この畑は、もとは、ツクヨミが耕していた。その事が盲点だったといえる。ツクヨミの豊穣の力がこもっている。そして光明の力。
 そのどちらも雑草が取り込んでいたら。コアが二つになっているのも必然だ。
「これを出さなくてもいいけど……三貴神の二柱の力を消そうとするとこれくらいじゃないと……」
 照準を合わせ、射る。矢は、全てを破壊し、射貫いた。雑草の力の元を。
 雑草は、光に包まれ、消えた。そしてポン!と音と共に正秀が出てきた。
「 僕は……」
 気づけば畑に戻ってきている。そう思ったとき、飛び付かれた清麿に。
「水心子!! よかった!!!」
 正秀は、驚いたかおをしたが、清麿を抱き締める。
「心配をかけた……すまない……」
「でも無事でよかった……」
 正秀は、国広と正雪にも気づく。
「国広殿、正雪殿ありがとう」
「礼なら姫と旦那に言え」
「そういえば姫と光殿がいない……」
 何処に居るのだろうと正雪が思った頃、少し離れたひらけた林の中に友美は、いた。
「……煌」
 声の主の名を呼ぶと彼は、優しく微笑む。
「友美よ。よくやった」
 友美は、目を伏せる。
「よくやってないわ。光に無理をさせた……」
 知らなかった。光の限界を。でも分かった。彼から流れてくる感情で。
 友美は、切なく瞳を揺らす。
「知ってれば頼まなかった……二本も射ってなんて!!」
 煌は、困ったように笑う。
「男とは、好いた相手には、かっこの悪いところは、見せたくないものだ。光や俺もまさにそうだ。この事は、俺と光が話し合い決めたこと」
 煌は、友美のところまで来ると優しく頭を撫でた。
「だから気にするな友美。それにこの肉体では、神子といえど限度がある。俺が出てくることで本来の器へと俺達は、戻れる」
「煌……」
「だから攻めるな自分を」
「ありがとう……」
 煌は、目を細めるといった。
「それに久しぶりにいいものを見れた」
「いいもの??」
「蒼天ノ弓だ。まさかあの頑固者が友美を認め使わすとは……夢珠ですら……なしえなかった事だぞ??」
 友美は、驚いたかおをする。
「えっ!!??」
「素直にみえたのか??」
「すんなり馴染むというか……」
「それは、友美だからだ。まさか当代というかようやく、天之御中主神が認められるとはな」
 そんなに凄いことなのかと友美は、思いながら、笑う煌を見ていた。
「さて俺は、戻ろう。だが戻れば器ももとに戻る。友美よ光明の秘術を頼むぞ。さすがにこの事は、刀剣やあの娘には、隠さねばならぬ」
「分かったわ」
 煌は、頷くと、戻り、人形のように倒れる光の体を友美は、受け止めるとすぐに光明の秘術を発動させた。
「友美!?」
「あらもう少しキスさせてくれてもよかったじゃない」
 気づいたと思ったら柔らかい物を感じ、光は、一気に意識が覚醒した。
 思わず胸元を確認するとホッと胸を撫で下ろす。
「そこまでしないわ。それに目くらいならキスでもやりすぎなレベルよ??」
「そうだな……」
「見える??」
「はっきりと」
 友美は、安心したように笑う。
「光聞いたわ。体の事……」
「そうか……」
「お願いだから無茶しないで」
 友美は、切ない声色でいうと、光に抱き付いた。
「友美……」
「何があっても私が助けるけど……ハラハラするのは、ごめんよ」
 本当に心配させたんだなと光は、思いながら、友美を優しく抱き締めたとき、視線に気づいた。
「旦那殿!? 姫!? そのすまない!!」
 顔を真っ赤にし目を隠す水心子に。後ろには、呆れる国広と正雪の目を隠し視線をそらす清麿が。
「清麿殿!?」
「正雪さんには、少し早いかな……」
 光は、慌てて離れると、友美もハッとした顔をした。
「えーとーごめんなさい……正秀後で一応手入れしましょう……」
「あぁ姫」
「それと国広、正雪、清麿ありがとう!! 助かったわ!!」
「あぁ……」
「これくらいたいしたことないよ!!」
「正秀殿が無事で何よりだ」
 友美は、気まずそうな顔をし、すぐに水心子と国広を連れ、屋敷に戻った。
 残された光と清麿と正雪は、とりあえず歩くことにした。
「旦那あの弓は……」
 清麿は、気になることを聞くと、光は、気まずそうな顔に。
「秘密だ」
「秘密って……」
「神子にも秘密があるってことだ」
 神子というよりも光個人としてだが、清麿が光の返答に少しふしんげだが正雪は、違った。
 彼女には、思い当たる節があったからだ。しかしこれは、ここで口にすべきでもない。なにより友美のように光が自からうち明けるべき事だからだ。
(間違いなくあの声は……夢珠という者の声……天之御中主神がわざわざ出てきて、少しでいいから、光殿をサポートしてと私しに頼んできたということ……)
 どちらか二柱の神になる。そしてあの弓矢。そうなると神話で扱える神は、二柱。しかし天之御中主神に関係するのは、一柱のみ。
「……光殿貴殿も姫と同じ??」
 光は、正雪の瞳をみて、なにかを察した。
「……」
 光は、はにかむ。それが正雪には、今光が答えられる全てだと思った。
「そうか」
「あぁ」
「え??」 
 清麿は、分からず首をかしげるが、光は、そんな清麿にいう。
「清麿にも正秀に言えないことがあるだろ??」
「それは……」
「そう言うことだ」
 光は、そういうと先歩いていってしまった。
「清麿殿行こう」
「分かったよ」
 本当に友美といい光といい不思議な存在だなと清麿は、思いながら、正雪と話しながら、屋敷へと帰った。その後正秀は、とくに怪我もなく、屋敷には、平穏が訪れ、この事件は、解決したのであった。謎を残しながらも。
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