光明ノ神子

 不思議なケーキ屋さんとは、街にひっそりとあるのかもしれない。
 夜珍しく友美が出向く事態がおこり、神子として対処をしていた事案が終わった。
 本当に少しばかりおとなしくしていて欲しいと友美は、思いながら、喧嘩を始めたあやかし双方を還付なきまでに叩き潰し事を片付けた。
 これでしばらくは、おとなしいだろう。盛大な溜め息をつき、白銀の狼のせにのり、空をかけていると、ふとある灯りに惹かれた。
「白野威降りて!!」
「どうしたのさ」
 友美の突然のお願いに白野威は、問う。
「あの灯りが気になるの!!」
 白野威は、眼下に広がる街をみながら、頷くと、灯りのところに降りた。
 オレンジの灯りの正体は、少し不思議な店だった。
 閑静な住宅街の中の普通の家。小さなスペースを家の外に作り、シャッターを下ろせるようになっていた。
 そのなかには、ガチャポンが一台置かれている。
 友美は、白野威から降りると、そのガチャポンの中をみる。
「ケーキ??」
「みたいだね」
 白野威も器用に前足をガチャポンにかけると、中を覗いた。
「一個500円か……」
 どうやら日替わりでケーキが変わっているようだ。
 本日は、フルーツケーキがガチャポンの中に、入っている。
 友美は、白野威と顔を見合わすと笑った。
「買っちゃう??」
「買っちゃおう!!」
 懐から財布と取り出すと、友美は、さっそくガチャポンに500円玉をいれ回した。
 ころんと出てきたガチャに、友美と白野威は、瞳を煌めかせた。
「これ美味しいやつ!!」
「だね……」
 もう1つ買うと、友美は、じっとガチャをみる。
「友美??」
「もう1つ買っとこ」
「あーなるほど」
 何故友美がそう言ったが、白野威は、すぐに察した。
 なんやかんや優しい友美に白野威は、ニヤリと笑う。
「熱々~」
「まぁそこは、正解かな……結婚して十年近くになるのに……ここまで熱々とは、わたしも思わなかったわよ」
 ガチャポンを回し、出てきたガチャを友美は、懐にしまった。
「まぁ私も思わなかったさ」
 白野威は、色々思い出し言うので、友美は、思わず白野威の耳を引っ張る。
「余計なことを思い出さなくていいの!!」
「けち!!」
「なんでそうなるのよ!!」
「だって面白いから!!」 
 友美は、呆れた顔をし溜め息をつくと店を出た。
「まったく」
「帰る??」
「帰る」
 友美は、白野威の背に乗ると白野威は、空へ。
「珈琲珈琲ー」
「美味しいのいれようね」
 歌っている白野威に友美は、そう言うと嬉しそうに白野威は、尻尾をふった。
「さてもう少しだね」
「帰ったらたべるぞ!!」
 といいながら、夜の空を天かけその後帰宅をした。

 キッチンから珈琲のいい香りがリビングに漂う。
 白野威は、その香りをかぎながら、チョーク片手に椅子に座り友美を待っていた。
「白野威が狼の姿で椅子に座ってる!?」
 たまたま和室から出てきた光は、目の前に光景に驚いていた。
「なにさいいだろ別に」
「それは、いいんだけど……」
 白野威は、なにを楽しみにしているのだろうか。
「フォークということは、スイーツ??」
 白野威が体をビクッとさせるなか、光は、予想が的中したと判断した。
「白野威専用スイーツフォーク……ということは、ケーキだなこれは……」
「なんでそこまで分かるのさ!!」
「白野威分かりやすいから」 
 白野威は、とても分かりやすい。やはり位が上がり、仏に近くなるほど神でも素直になるようだ。
 白野威から言わせば、光もそうとう分かりやすい人物だ。
 やはり神子に選定される者は、真っ直ぐで素直なのが取り柄とも言えるのかもしれない。
「お待たせ!!」
 マグカップを持ち、友美がキッチンからリビングにやってきた。
「友美ありがとう!!」
「いえいえ」
 白野威の座っている席にマグカップをおくと、白野威がさっそくガチャンを開け、珈琲とケーキを食べた。
「美味しい!!」
「それは、よかったわ!!」
 友美と白野威の様子を見ながら、光は、見たことのないケーキに興味津々。
 ガチャンに入ったケーキというのもなかなかないだろう。
 光の視線に気づいた白野威は、ニヤリと笑うとケーキを食べる。
「美味しい~」 
 光に見せつけるように。
 白野威の挑発に気づいた光は、呆れた顔をし溜め息をこぼした。
「神って高貴かと思ったらちがうんだよな……」
「私は、高貴じゃないもーん」
 白野威と光の間で火花が散るなか、友美は、その様に笑っていた。
 何年たっても光と白野威の関係性は、変わらないと思いながら。
「光のあるわよ」
 光は、えっと驚いた顔をするとすぐに嬉しそうに笑った。
「友美!!」
 そして友美に抱きつく。
「光暑苦しい……」
「暑苦しくてけっこう!! 友美への想いが伝わるのなら!!」
 友美は、呆れた顔をし思う。本当に天真爛漫なんだからと。
「白野威より光の方が表に出てるのよね……」
「何が??」
「なにも」
 一先ず夫が離れたすきに、友美は、キッチンに行き珈琲とケーキをとってきた。
「はい光」
「ありがとう!!」
 白野威の斜め前に座り、光は、さっそくケーキを食べた。
「フルーツの酸味がいいアクセントに!!」
「美味しい??」
「美味しい」
 光の顔みても分かる。これは、好きそうなケーキだったってことが。
「さて私も食べよう~」
 友美は、自分の分を持ってくると席に着き、ケーキを食べた。
「以外に美味しいわ……また買ってこよう……」
「これお店のなの!?」
「そうなの光。不思議なお店でね。ガチャポンの機械にケーキの入ったカプセルが入っててそこに500円玉をいれて買うの」
「もしかして夜しか開いてないところ??」
「うん」
 光は、スマホを取り出すと、やはりかと呟く。
「ここ??」
 友美は、スマホの画面をみながら頷くと、光は、何故か笑っていた。
「さすが俺の姫」
「何が??」
「このケーキは、特殊な売り方と決まった販売日にしか売らないから売り切れることが多いんだ」
「そうなのね……」
「それを見つけてくるとは。さすが友美!! 俺も今度いこうと思ってたけど買えるか分からないから悩んでたんだよ」
 光は、何時も大袈裟に誉めるなと友美は、思いながらもとりあえず彼が喜んでくれてよかった。
「光大袈裟」
「五月蝿い」
 白野威と光がまたバチバチやりあうなか友美は、ケーキをみながら思った。
 悪縁がまた切れ良縁に恵まれたのだと。
 思わず口角をあげるの何故か白野威と光に見られていた。
「なに??」
「友美が幸せそうなだからさ」
「友美ってちっさな幸せを見つけたとき少しだけ口角をあげて笑うから」
 よく本当に見ているなと光と白野威に思いながら友美は、頬を赤く染める。
「よく本当に見てるわ……」
「そりゃ見てるさ」
「好きな人の事だからね」
 白野威と光は、そう言うと確かにと友美も思った。彼女もまたよく見ているからだ。白野威と光の事を。
「これも幸せね」
「だね」
 友美は、光と顔を見合わせ微笑みあうと白野威もまた嬉しそうに笑っていた。
 ひょんな事から見つけたお店だったが、やはり寄って買ってきてよかった。
 友美は、そう思いながら温かく幸せな夜の一時を過ごす。幸せとは、やはり小さな幸福の積み重ねなのかとしれないと思いながら。
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