光明ノ神子

 ある朝の事うなだれている光を友美は、玄関で見送っていた。
「行きたくない……出張嫌だ……」
 光の手には、キャリーケースが。
 友美は、そんな光をみて、苦笑いを浮かべていた。
「学会に呼ばれたんだから行かなくちゃね!!」
「……そうだよね……」
 光は、背筋を伸ばす。
「友美連絡してね!? 何時でもしてね!!??」
 友美は、そこまでの事だろうかと思いながら、頷く。
「いってらっしゃい」 
「いってきます……」
 哀愁を漂わせながら、光は、名残惜しそうに家を出ていった。
 友美は、そんな夫を見送ると仕事をはじめた。 

「一泊の出張であんなのって光転勤とかになったら死ぬんじゃない??」
 キーボードの打つ音が響くなか、白野威は、お気に入りの座布団に座りながは、呟く。  
 友美は、マグカップを手持ち、珈琲を飲むと言った。
「まぁ毎日連絡が凄いことになりそうね」
「友美ついていく??」
「ついていかない」 
 子供達の事もあるので、光は、一人で行くことになるだろう。しかし今のところ光の働き方では、転勤などないが。
 あったとしても個人院を開業するくらいだ。
「今日は、ゆっくり出来るし少し羽伸ばすわ」
「光居ないぶんスッキリだしね」
 さていつも友美友美と凄い夫が居ないぶんスッキリ出来るだろうと友美は、この時思っていた。
「友美晩御飯どうするのさ」
「そうね……野菜炒めとかどう??」
「おっ!! いいね」  
 後で材料を確認し、螢を幼稚園に迎えに行くとき買い物もしなければ、友美は、そう思いながら、再びパソコンを触りはじめた。
 しばらく作業をしていると着信が。
 友美は、画面を確認すると、電話に出た。
「光」
「友美」
 声色は、普通だ。友美は、ほっと胸を撫で下ろした。
「これから学会なんだ……」
「午後から登壇するって言ってたもんね」
「エネルギーちょうだい!!」
 友美は、困った顔をすると、白野威を見る。すると白野威がニヤリと笑った。
 この笑みからするに友美が頭に浮かんでいることをしなければ、ならないようだ。
「……光大好き」 
 頬を赤く染め、友美は、言うと、電話の向こうでは、光が光っていた。エネルギーがチャージできて。
「ありがとう!! 頑張ってくる!!」
「頑張れ」
 電話が切れ、友美は、スマホをこたつの上に置くと、横になった。
 広がる天井をみながら、友美は、ぼーと眺める。
「今日は……お疲れさま言えないのか……」
 朝は、平気だと思っていたが、案外そうでもないようだ。
「私弱くなった……」
 友美は、ぽつりと呟く。昔は、平気だったのに光と数日はなれるくらい。
「友美それは、弱くなったんじゃないよ」
「白野威……」
「それだけ光が大切ってことさ。素直にそう想えるようになってよかった」
 どこか嬉しそうな白野威をみて、友美は、体を起こした。
「そりゃあれだけ、好き好き言われてたら、嫌でも愛着が湧くわ」
「愛着ねぇー」
 ニヤリとわらう白野威に友美は、不機嫌な顔をしいう。
「今日は、おやつ抜き!!」
 友美の言葉に白野威が唖然とし、泣きそうな、顔をするなか、友美は、作業を再開した。
 何処かに嬉しそうな顔をしながら。

 登壇を終え光は、学会の後の飲み会に誘われていた。
「栗花落さんどうです??」
「……遠慮しておきます」
 光は、学会にめったに姿を見せない。基本登壇の誘いがあっても断り、行くとしても、日帰りで帰ってこれ、なおかつこれは、勉強になると思ったものに参加している。
 今回は、校長の顔もあり渋々引き受けたが、飲み会なんて面倒な物は、ごめんだ。
(飲み会なんて神子達の飲み会だけでいい……全員なんやかんや豪酒で面倒じゃないからな……)
 光は、とりあえず微笑みながらも、飲み会の誘いを断り続け、荷物を片付けると、スーツケースを押し、ホテルへと向かった。
「まさか旧姓で呼ばれるとは……確かあいつ肩書き的には、偉いみたいだったが……後ろに付いてるものを見る限り関わらない方がいいな……」
 先ほどの男性のことを思い出しながら身震いを光は、していた。
 あえて普段は、抑えている「神目」をつけておいて正解だ。
 「神目」とは、神がもつ目のことで人には、見えない物が見え、霊感とは、また別のものだ。
 神の位により見えるものは、変わってくるが、光の持つものは、最高位の物になってる。
 普段からこれを入れっぱなしにしている友美の凄さに光は、改めて気づかされた。
 色々な物が見え、頭の処理が追い付かなくなってくる。
 光ですら、少し頭のなかが散らかり出したと思ったほどだ。
「とりあえず「神目」は、元に戻したから……ホテルについたら休もう……」 
 少し寝れば頭もスッキリするだろう、光は、そう思い足早にホテルへ。
 チェックインを済ますと、部屋に行き、すぐに、荷物の整理をはじめた。
「これは??」
 スーツケースを開けるの中に光が知らないものが一つ。
 光は、それを手に取ると首をかしげた。
「ワンコのぬいぐるみ……」
 ワンコのぬいぐるみの下には、手紙が。
 光は、手紙を読み筆跡で誰かすぐに分かった。
 目を細めると呟く。
「友美……」
 妻からの手紙には、項記されていた。
『光へ 
 旅の間私だと思ってワンコを一緒に連れ歩いてください。友美』
 微かに沈丁花の香りもする。
 光は、目頭が熱くなり、ぬいぐるみをスーツケースの中にしまうと、着替えもせず、スーツのままベットに倒れた。
「……友美に会いたい……友美に呆れられたいし……笑顔を見たいし……優しく声をかけてほしい……あと子供たちと遊びたい……」
 自分でも驚くほど、家族を愛していると光は、この時思っていた。
「光スマホ鳴ってる」
 水郷に頭をつつかれ、光は、からだを起こすと、スマホを見た。
「……柊麗なにをやってるんだ!!??」
 家族を恋しいと思う時間は、あっという間におわり、今度は、光は、冷や汗を流していた。 
 送られてきた写真には、柊麗が河童にグラサンをかけているところだった。
 送られてきた写真を見て光は、不安になっていると今度は、電話が。
「もしもし」
「パパ河童の胡瓜どこにあるの??」
 娘の声色からしてとくに問題は、起こってなさそうだ。
「胡瓜なら冷蔵庫だよ」
「ありがとう!!」
 なにがあったのか聞こうとしたときには、電話が切れていた。
 光は、溜め息をつくと、スマホをサイドテーブルの上に置いた。
「柊麗らしいか……」
 しかし説明をしてほしいともいえる。 家が恋しい。光は、そう思いながら、学会の資料を確認することにした。
「メール??」
 光は、来ていたメールを確認すると思わず笑ってしまった。
「河童の件柊麗と胡瓜の取り合いをして、河童が負けたから罰ゲームにグラサンをかけていたのか」
 メールは、友美からだった。写真付きでその写真は、仲直りした柊麗と河童の写真が送られてしていた。
「はやく帰りたい……」
 光は、寂しそうな顔をすると、明日のためにと気合いを入れ、明日の資料に目を通しはじめた。

 夜になり、友美は、忙しそうにキッチンにいた。
 料理をしている間、子供たちが風呂を洗ってくれたり、洗濯物を畳んでくれたり手伝ってくれた。
「ありがとう!!」 
「どういたしまして!!」
 双子が率先してお手伝いをするので、つられて妹と弟もお手伝いをはじめる。
 光の日頃の奮闘がここで成果を出しているのかと友美は、実感していた。
「ママ」
 作り終えた野菜炒めを、皿に盛っていると遊李がキッチンに。
「どうしたの??」
「パパ明日には、帰ってくるんだよね??」
「そうよ」
 寂しいのだろうかと友美が思ったとき、珍しく遊李がニヤリと悪人の笑みを浮かべる。
「ククク……ならこれ食べれるね……」
 棚の奥から遊李が出してきたのは、高級は缶。ふたを開けると中には、ゴーフレットが。
「そこ確か……パパの大好きなところの……」
「そう!! パパ居ると、食べられないから!!」
 友美は、息子の切実な顔を見て思わず苦笑いを浮かべる。
「パパそれ買うくらいの稼ぎは、あるから大丈夫よ?? 隠れて食べなくても……」
 遊李は、なにも分かってないという感じでいう。
「ママあまい!!」
「そうなの??」
「そうだよ!! あのパパだよ!? いいなぁーって欲しそうな顔をしてこっちが、少し分けないといけないようになるんだから!!」
 友美は、息子のいってることが分かり、困った顔をしていた。
「あの顔は、けっこう武器よね……」
「でしょう!? だから今日は、いつもより食べるの!!」
「分かったわ」
 友美は、その時あることをおもいつく。
「遊李」
「なにママ」
「後で夜のティータイムに付き合ってくれない??」
 遊李は、缶を片付けながら、頷く。
「いいよ」
「ありがとう!! そのゴーフレットは、あとでハーブティーのお供にするといいと思うわ」
「だね!!」
 遊李は、母にまさかあげなくては、いけないのかと思ったが、友美は、そんな息子の気持ちが分かったのか言う。
「ママは、ママでスイーツあるから大丈夫よ!! 遊李は、ゆっくり味わってね!!」
「ありがとう」
 安心したように遊李は、笑うとお皿に盛られた野菜炒めをもってリビングに消えていった。
「本当に頼もしいわね」
 友美は、たのしげに微笑むと、残りの用事を片付け、食卓に。
 皆が揃うと食事をし、食事を終えると、後片付けをしたのち、夜のティータイムのためのじゅんびをはじめた。
「パーティーは、これでいいわね」
 夕飯の時に多数決をとってよかった。
 オレンジのパーティーをいれながら、友美は、スイーツの準備をしていると子供たちがもどってきた。
 それぞれお菓子の缶を持って。
「皆お菓子の缶を……」
「お母さんだって今日しかチャンスないや??」
「パパいないもの!!」
「そう!!」
 どうやら、榎麟、柊麗、螢も遊李と同じような悩みがあったようだ。
 友美は、光には、悪いが、時々家から居なくなってもらうのもありかと本気で思った。
「さすがに可哀想ね……」
 もしそうなると、皆は、パパが嫌いなのか……としょぼんとしてそうである。
「お母さん笑ってる……」
 榎麟が顔をひきつり言うので、友美は、はっと我に返った。
「いけない……お父さんいじめる算段してたわ……」
「ママらしいわ!!」
 柊麗に言われたくないと思ったが、光からすれば、友美がいるから柊麗がよくいたずらをしてくるようになったと言われそうだ。
 柊麗は、外見は、光の遺伝子が強いが内面は、友美の遺伝子が強いようだ。
「とりあえずお父さんをいじるのは、本人にするとして、今は、ティータイムを楽しみましょう!!」
 この時誰も父をいじるという母に突っ込みをいれなかった。
「白野威も食べる?? ケーキ」
 子供たちに混じり、座っている白野威に友美は、聞くと頷く。
「はいこれ」
 白野威の前にケーキを出すと、子供たちが羨ましそうにケーキを見ていた。
「ママ手作りの……」
「シャインマスカットのケーキ……」
「皆のもあるから食べよう」
 子供たちの前にも出すと、子供たちは、嬉しそうに食べはじめた。
「美味しい!!」
「それは、よかった」
「ねぇ友美」
「なに白野威」
「光の分は??」
 友美は、苦笑いを浮かべる。
「賞味期限も考えて作ってないわ。なにより光のより美味しくないかもだしね」
「そりゃしゃない」
 遊李は、ケーキを食べながは、思う。母の手作りケーキも美味しいのにと。
「ママの凄く美味しいよ」
「ありがとう遊李」
 確かに美味しいかもしれない。友美は、そう思いながらケーキを食べる頃、光は、スマホをみて溜め息をついていた。
「まったく連絡ない……まさか忘れられてる……」
 友美からの連絡を首を長くして待っているがまったく来なくてふてくされていた。
「もうこっちから送る!!」 
 そしてメッセージを送ったが、友美は、スマホの画面をみてそのまま放置した。
「お父さんから??」
「そうよ螢」
 今は、ティータイムの方が大切。あとで返信しようと友美は、思っていた。
 螢は、おもむろにスマホを持つと、メッセージを開き、なにやらうつ。
「……これは、なに」
 そして光の方に届いたのは、ああああー!!!!!というメッセージだった。
「お母さん送ったよ!!」
「螢ありがとう……」
 友美は、螢が見せてきた画面を確認し、困った顔をしていた。
「まぁいっか。光悩ませとこう……」
 光が色々悩んでることなど無視し友美は、子供たちとたのしい時間を凄し、一通り片付けやお風呂を終えると、和室へ入った。
「よし!! 白野威寝るよー」
 と白野威に声をかけたが、すでに寝ていた。これなら大丈夫だろう。
 布団に横になると、友美は、目をとじ、息をするように何処かに魂を飛翔させた。
 
 視界に広がるのは、ホテルの一室。友美は、中にはいると辺りを見渡した。
「光起きてない……」
 メッセージの返信を送るのも面倒だったので離魂してきたが、まさか、光がもう寝てしまっていたなんて。
 しばらく考えたのち、友美は、一度体にもどると、そのまま今度は、夢の中へと向かった。
 術者には、それぞれ得意不得意な術や使える使えない術があったりする。
 友美の場合とくにそう言ったものがまったくない。己の万能さにこういうとき助かると友美は、思いながら、朱色の柱が美しい水上に建つ屋敷のなかを歩いていた。
「光!!」
 ある部屋の前で名を呼び障子を開けると、光が驚いた顔をしていた。
「まさかの夢で登場!? しかしこれは、俺の作り出した……夢だよな……」
 光は、困惑しているなか、友美は、にっこり微笑むと、光の頬を両手で挟み、むにむにした。
「夢ねー」
「本物!?」
「そうよ。分からないなんて光覚えておいてね??」
 意味ありげに友美は、いうが、光は、言いたい、今なら分かるが会ってすぐに判別というのも難しいものだと。
「会っていきなりは、分かるか!!」
「あらそういうものなのね」
 友美は、つまらなさそうな顔をしいう。
「とりあえずあのメッセージ螢がかってに送ったの。なので深い意味は、ないわ」
 光は、まさかそれを言うだけのために夢にまでやって来たのかと思った。
「それだけのために!?」
「誰かしら、いつでも連絡してきてって言ったの。だから夢に来たのだけど……」
 だからと言って夢に出てくるとは、誰も思わないだろう。
 光は、たぶんようやくゆっくり話せる状況になったからこそ友美は、夢に干渉しここへ来たのだと思った。
「友美お疲れさま」
 なにも言わなくても光には、伝わる。
 友美は、光のとなりに座ると言った。
「ありがとう。光もお疲れさま」
 夢だが、見たかった笑みが目の前にある。
 光は、切なく微笑む。
「はやく帰りたい……」
「私だってはやく光に会いたいわ。だから帰ってきてね……はやく」
 友美は、そういうと姿を消してしまった。
 残された光は、手で顔をおおうと溜め息をもらす。
「友美それは、卑怯……」
 生殺しのようなことをしないでくれと光は、思いがら、夢でも愛する人に会えてよかったとふと思うのだった。

 翌日朝から友美は、ワタワタしていた。
子供たちを学校と幼稚園に送り出し、仕事を終わらせ、買い物に、そして今は、キッチンに。
「友美作ってるの??」
 傍らには、興味津々にシンクをみる白野威が。
「光の為にね!! とりあえず帰ってくるの夜だけど余裕もって!!」
 綺麗に出来たと我ながら惚れ惚れする。
 皿にのせるの友美は、それを冷蔵庫に。
側に置いていた小さなケーキは、皿にのせ、白野威にあげた。
「はい白野威!!」
「やった~!! ありがとう!!」
 皿を器用に咥えると、白野威は、リビングに。
 さてこれで終わりとホッと息を吐いたとき、玄関の扉の鍵があくおとがした。
「えっ!?」
 まさか強盗かと友美は、思う。そして手に近くに置いてあった太刀をもち、いつでも抜けるようにしながら、リビングのドアの前ではる。
 ドアが開いたと同時に抜刀に太刀を相手の首筋に当てたとき、声がした。
「友美!!」
 友美は、はっとした顔をし、声の主をみるとなんと光だった。
「ごめんなさい!!」
 光は、体のちからを抜くと言う。
「まさか帰ってきたら刃を向けられるとは……」
「だって帰ってくるとは、思わなかったの!! 予定より早すぎるし!!」
 確かに連絡をしなかった光も悪い。
光は、困ったように笑うと言った。
「ビックリさせたくて……とりあえずただいま……」
「おかえり」
 太刀を片付けると友美は、光に抱きついた。
「友美??」
「少し堪能させて」
  光は、優しく微笑むと頷き、友美を抱き締める。
「俺は、寂しかったよ」
「知ってる」
「友美は??」
「そりゃ寂しかったわよ」
 こんなにも優しい光が側にいなかったのだから。
 友美は、光から離れる。
「友美キスは!?」
「それよりもはやく着替えてきて!!」
 おかえりのキスの方が大切では、と光は、思いながらも友美のいうとおりに和室へ行き、服を着替え、リビングに戻ってくると荷物の片付けをしながら、友美を待っていた。
「光お待たせ!!」
 光の目の前に置かれたのは、シャインマスカットのケーキワンホールだった。
 驚いた顔を光は、すると、友美は、微笑む。
「光へのご褒美です!!」
 光は、立ち上がると、友美に抱きついた。
「友美……なんでこんなことを……」
「嫌だった??」
「嬉しすぎて、今にも襲いそうになってる」
 友美は、驚いた顔をすると少しだけ光から離れた。
「襲いそうって……」
「だって寂しかったし……嬉しいし……友美を感じたいし……」
 少ししょげたように言われ、友美は、とりあえず笑った。流石に今は、駄目と訴えながら。
「分かってるよ……子供たちも帰ってくるもん……あとケーキ食べたいもん……」
 光は、拗ねたようにいうと、スマホでケーキの写真を撮り、さっそく食べはじめた。
「美味しい……」
「それは、よかった」
 保存なんて言い出したらまた怒られると光は、味わいながらケーキを食べた。
「ご馳走さまでした」
「お粗末様です!!」
 友美が、お皿を片付ける間光は、洗濯物を洗濯機で洗い、そしてリビングに戻ってきた。
「光珈琲いる??」
「俺がいれるから友美は、座ってて」
 疲れているのでは、と友美は、思ったが、光に任せることにした。
 リビングで待っていると、キッチンからいいかおりが。
 しばらくして光がマグカップをもって戻ってきた。
「はい友美」
「ありがとう」
 マグカップを受け取り、友美は、微笑むと、光は、彼女の隣に座った。
 珈琲の香りを感じながら、友美は、隣にいる光をみて思う。やっぱり隣に彼がいると落ち着くなと。
「友美……」
 何処か思い詰めた顔をしている光。友美は、どうしたのかと心配になる。
「なに??」
 光は、しばらく悩んだのちに言った。
「甘えていい??」
 友美は、思わず笑うと言った。
「もちろん」
 さてどのように甘えてくるのか。友美は、そう思っていると、太ももに心地よい重みが。
「膝枕ね!!」
「ちょっとだけ……しんどくなったらいって……」
 光の頭を友美は、撫でながら頷くと、光は、目を細めた。
 念願だった愛しい人の微笑みと香りそして温もり。
 幸せを噛み締めていると、だんだん眠たくなってきた。
 規則正しい呼吸音が聞こえだし、友美は、目を細める。
「お疲れさま光」
 早く帰ってくるために色々彼も頑張ったに違いない。
 子供たちが帰ってくるまで休ませてあげよう。
 友美は、優しく光の頭を撫でながらなんとなく歌を口ずさんだ。
 その歌声は、優しく温かな物で、愛する人への想いを乗せたような歌声であった。
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