光明ノ神子

 まさか光が倒れるとは。友美は、キッチンで塩入の麦茶を入れながら、ため息を漏らしていた。
「光のやつ風邪??」
「みたい白野威」
 キッチンに顔だけだしている白野威に友美は、言うと、麦茶をペットボトルにつめる。
「まぁおとといから体だるいっていってたからねぇ……」
 こと始まりは、神子としての役目でずぶ濡れになった事だろう。
 その日から少し体がだるいと光は、口にもらしていた。
「確かに」
「とりあえず朝からご飯は、保存しようとしてたけど、しっかり食べてくれたし、水分もとってるから薬のんで寝たら治ると思うわ」
「ならいいけど」
 水郷も朝から日向ぼっこをしに、出てきているところを見ると、そこまで重症では、ないようだ。
「さてと」
 友美は、麦茶の入ったペットボトルと先程切った桃をお盆にのせると、キッチンを離れ、和室へ。
「光桃食べる??」
 襖を開けると、友美の目の前には、驚きの光景が。
「うぅ……」
 唸ってる光と彼の上には、なんと、マスクをつけた螢と柊麗が。
「ママ食べる!!」
「僕も!!」
 友美は、はっと我に返ると言った。
「これは、パパの!! 二人には、あとで切ってあげるから!!」
 柊麗と螢は、顔を見合わすと、なんととんでもないことを言った。
「なら上から退かないわ!!」
「そうだ!! そうだ!!」
「風邪移るから駄目よ!!」
 こりゃ困ったことになった。どことなく、光は、すでに諦め、遠い目をしていた。
「分かったわ。なら二人で食べなさい」
 友美は、お盆をあえて、リビングにある炬燵の上に置くと、柊麗と螢は、父の上から退いて、リビングに出ていった。
「はい光麦茶」
 麦茶だけ、寝ている光の枕元に置くと、彼は、だるい体を起こした。
「ありがとう……」
 ペットボトルを手に取るとさっそく光は、麦茶を飲んだ。
「柊麗達気づくと上に乗ってるんだ……」
「あの子達なりに心配してるのよ」
 光は、笑う友美にこいつは、分かってないという顔をしていた。
「心配してるのか、おもちゃにしてるのか分からないぞ……さっきなんて、見事に本のタワーをパパの上に作れるか!! とかやってたから……」
「光基礎にされたの!?」
「そう」
 まさかの出来事に友美は、完全に父で遊んでいたのかとこのとき思った。
「でも心配してると思うわ……普通だとそんなことしないし……」
「だといいけど」
 光は、ため息をつくと、横になる。
「桃切ってくるわね」
「……うん」
 立ち上がると友美は、早速桃を切りにキッチンへ。切り終えると、皿に盛り付け、和室へ行くと、今度は、螢が寝ていふ光の前髪をちょんまげにしていた。
「あら……」
「お母さんどうかな??」
「なかなか上手ね!! でもお父さん今ごほんごほんだから、やめてあげてね」
 光は、全力で首をたてに振ると、螢は、頷く。
「ごめんなさい」
「大丈夫よ。ねぇ光!!」
「うん……」
 友美は、枕元に皿を置くと、螢が膝の上に乗ってきた。
「お母さん!!」
「なに??」
「絵本!!」
 息子からの珍しいお願いに友美は、嬉しそうに微笑む。
「どれ読む??」
「これ!!」
 しかし螢がリクエストしたのは。
「こいつがおれのあたまにうんちしたやつか!!」
 うんちをしたのは、だれだった。
 息子は、楽しそうに聞いていふるが、聞かされている光は、少しばかり不満だった。
「お母さん次これ!!」
「螢これ専門書……」
「これ!!」
 友美は、困った顔をしていたが、とりあえず音読を始めたが、すごく眠くなってきた。
「お母さんありがとう!!」
「いえいえ……」
 満足し、螢は、和室を出ていったが、友美は、すぐにあくびをした。
「光……って寝てる……」
 しかめっ面で寝ている光に友美は、笑うと思う。夢の中でもまだ専門書を読んでいるのかも知れないと。
「さてと」
 用事をしよう。友美は、立ち上がると、和室を出た。

 夕方になり、友美は、ご飯を作っていた。今日は、冷やし中華と嬉しそうに支度をしていると、和室の方から雄叫びが。
「ふぎゃー!!!!!」
 友美は、持っていた皿を落としかけたが、落とさずにすむとほっとした。
「この声は……光??」
 先程子供たちが和室へ入っていっていたが、まさかそれと関係があるのだろうか。
 襖があき、出てきたのは、満身創痍の光だった。友美は、そんな、彼を見て思わず笑ってしまった。
「お父さんにげんとって!!」
「パパ実験中だよ!!」
「I am 病人!!」
 双子にてを掴まれ、和室に連れ戻されようとしている光。
 その顔は、スゴくケバい事になっていた。たぶんメイクの練習に付き合わされているのだろう。
 ただ寝ていただけなのに。
「ふふふふ」
「友美どうにかしてくれー!!!」
 友美は、確かにこれは、と思い、注意をしようとしたとき、なにやら、目の前にあらわれた。
「蔦!?」 
「ふぎゅ!!」
 なんと蔦が降ってきたのである。食器をシンクに置くと、友美は、蔦を受け止めたが、その隙に、双子に光は、和室に連れ込まれてしまっていた。
「柊麗に……転送されてしまった……」
「見事に出し抜かれたわ……」
 蔦の頭を友美は、撫でると、床に下ろした。
「蔦バナナ食べる??」
「貰う」
 冷蔵庫からバナナを取りだし、蔦に渡すと手を洗い友美は、また料理を始めた。
「よし!! 冷やし中華完成!!」
 皿に綺麗に盛り付け、友美は、シンクの上にならぶ冷やし中華をみる。
 我ながらなかなか美味しそうだ。
「さて。みんな呼んでこようー」
 友美がそういいキッチンからリビングに来たとき、和室の襖が開いた。
「お母さん夕飯できた??」
「出来たわよ榎麟」
「ありがとう!!」
 榎麟が手を洗いにキッチンに。他の子供たちも和室から次々出てくるなか、中には、倒れている光が。
「あら」
「友美……お風呂先入ってくる……」
「わかしといてよかったわ」
 全身化粧品により、凄いことになっている光。お風呂に入るセットをもち、光は、お風呂に。
 友美は、その姿を見ながら、笑っていた。
「さぁ!! みんな先に食べちゃお!!」
「はぁーい!!」
 光をまっていてもいいがここは、もう食べてしまおう。
 友美たちは、いただきますと手を合わすと、冷やし中華を食べ始め、食べ終わる頃、光が出てきた。
「……落とすの大変だった」
 少し疲れた顔をした光に友美は、片付けをしながら言う。
「派手にやってたものねー」
 光は、ダイニングテーブルの椅子に座ると頷く。
「もうわえくちゃ……」
「なるほどね!! はい!! 冷やし中華!!」
「ありがとう」
 食欲も出てきたようで、ひと安心。今朝よりも間違いなく食べる勢いがある光に、友美は、笑っていた。
「光愛されてますねー」
 彼の向かいに座り、友美は、いうと、光は、困り顔に。
「愛されてるのか、おもちゃにされてるのかまったく分からないぞ」
「ふふふ確かに」
 しかし友美は、知っている。父が心配だからこそ、子供たちは、父の側に居たということを。
「美味しい」
「それは、よかった!!」
「友美」
「なに??」
 光は、改まった顔をすると、言った。
「今日は、家事やらありがとう……明日からは、普通にするから……」
 友美は、この時にっこり微笑む。しかしその笑みが怖い。  
 光は、顔をひきつると言った。
「あの……」
「なにが明日からは、するから!! よ。家事は、そもそもすべて光さんの役目ですか??」
 さん付けされ、困惑しながら、光は、首を横に振った。
「違います……」
「ならいちいちそんなこと言わない!! 私達は、家事も育児も二人でやるっていうのがモットー!!」
「そうだな……」
「だから光がやりたいのなら、やればいいわ。やりたくないのならやらなくていい。義務感でやるって言われるの私は、嫌よ」
 光は、頷くと、冷やし中華をすべて食べ終えた。
「ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
 友美は、光の皿を片付けると替わりに出してきたのは、見るからに不味そうな色味の薬湯だった。
「これは……」
「今の光に必要な効能のがある薬草を煎じた友美ちゃんスペシャルです!!」
 光は、顔を青ざめ、視線をそらした。友美は、一応薬剤師の資格を持つ。
 なおかつ霊薬などの知識も豊富で、彼女が煎じた薬は、すごい効能がある。
しかし見るからに不味そうなのだ。すごく。
「まさか……ヒキオコシ入れた??」
「いれてないわ。とりあえず河童の甲羅の干物に……麒麟の鬣に……」
 そこからもとんでもない薬材の名、を口にする友美に、光は、唖然としていた。どれもそうとう珍しいものばかりだからだ。
「だから効果抜群!! 体も楽になるはずよ!!」
 確かに楽になるだろうが、光は、目の前の薬湯を見ると、腹を決め、いっきり腹に流し込んだ。
「うっ………」
「良薬口に苦し」
「……分かってる」
 口直しにお茶を更に流し込むと、光は、言った。
「友美もしかして……」
「知ってるわよ。光昨日隠しごとしたでしょう??」
 光は、顔を青ざめると自嘲した。やはり友美に隠し事は、出来ないと思い。
「ごめん」
「謝ることじゃないわ。それに普通なら生きてることすらおかしいもの」
 友美は、昨晩からの光の様子を見て、あることに気づき、全て「見た」。
「まさか黄泉の関連のものを浴びていたなんてね。一部が傷口から体にはいってる。普通なら今ごろ死んでるわ」
 友美は、呆れた顔をした。
「光の力の消耗もこれで納得できたし、私にできることは、黄泉の力をうちに流し込み、黄泉の住人になる因子を破壊、除去、光の力の底上げをすること」
 光は、驚いた顔をしていた。気づかなかったのだ。友美の力の気配にまったく。
 相変わらず友美には、驚かされる。たぶん自分が知らないだけで友美は、他にもできることがあるのだろう。しかも涼しい顔をして。
「友美体の異変は……」
「大丈夫よ。それに白野威のバックアップもあったしね!!」
 そういえば、今白野威がいない。まさかと光は、自分の胸に手を当てる。
「そのまさかよ。今日の晩御飯までに全てを片付けるって昼間に伝えたら、手伝うってね」
 友美がそういったとき、眩しい光が光の中から、表れ、座布団の上でとまると狼の姿に。
「友美お腹すいたー!!!」
 かんこういっぱつの台詞がこれとは、友美は、微笑むという。
「冷やし中華持ってくるわね」
「あいよー」
 白野威も元気そうでなにより、友美がキッチンにいき、光は、白野威に礼を言った。
「白野威ありがとう」
「いいよ。私は、友美に託された、生成の力を光の中で発動させて、安定させてただけだから」
 白野威は、そういうと、友美の持ってきた冷やし中華を食べ始めた。
「水郷は、明日の夜には、戻ると思うからそれまで、用があるときは、家の何処かを探しな。家の中には、いるから」
「わかった」
 たぶん今水郷は、光の中にいることが出来ないほどなのだろう。
 光は、キッチンで桃を剥く友美を見て、立ち上がると、キッチンに。
「友美かして」
「うん」
 友美から桃と包丁を受けとると、光は、慣れた手つきで桃をあっという間に剥いてしまった。
「すごい!!」
 隣で喜ぶ友美に光は、微笑むという。
「ありがとう」
「光全部食べてる??」
「半分貰う」
「分かったわ!!」
 桃を皿に乗せ、友美は、リビングの方に。光は、なぜ桃が今日は、出てきたのは、この時ようやく理解した。
「この、桃友美の力が……だからか……」
 リビングにいくと、光は、椅子に座り、桃を食べた。
 甘い桃に美味しいと彼は、思いながら、にっこり微笑む友美をみる。
 本当に彼女は、凄い。自分には、もったいない人だ。
 彼女に何度惚れ直すのだろう。そんなことを思いながら、愛する人に光は、微笑み返すのであった。
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